2015年 ジャンル別ベスト(ミステリ、国内・海外)


2015年度は217冊でした。もう少し読みたかったのですが、まずまず
というところでしょうか。相変らず、硬い本はあまり読めてないのですが、
時代小説を除いたエンタメは、それなりに充実していました。特に恒川光太
郎と野崎まどとの出会いは、衝撃でした。どちらも、今までに全く読んだこ
とのない、ジャンル分け不能の作家でした。

 

◆国内ミステリ

この一作という作品はなかったが、結構全体にレベルは高かった。5位
までは、文句のない傑作だが、特に柚月の変貌には驚いた。

1、犯人に告ぐ2         雫井脩介 (双葉社) ☆☆☆☆★

 

犯人に告ぐ : 2 闇の蜃気楼

犯人に告ぐ : 2 闇の蜃気楼

 

 


2、王とサーカス         米澤穂信 (創元社) ☆☆☆☆★

 

王とサーカス

王とサーカス

 

 


3、孤狼の血           柚月裕子 (角川書) ☆☆☆☆★

 

孤狼の血

孤狼の血

 

 


4、さよなら神様         麻耶雄嵩 (文春社) ☆☆☆☆★

 

さよなら神様

さよなら神様

 

 


5、赤い博物館          大山誠一郎(文春社) ☆☆☆☆★

 

赤い博物館 (文春e-book)

赤い博物館 (文春e-book)

 

 


6、さよならの手口        若竹七海 (文春文) ☆☆☆☆★

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

 


7、星読島に星は流れた       久住四季 (創元社) ☆☆☆☆

 

 


8、Aではない君と        薬丸 岳 (講談社) ☆☆☆☆

 

Aではない君と

Aではない君と

 

 


  誓 約            薬丸 岳 (幻冬舎) ☆☆☆☆

 

誓約 (幻冬舎単行本)

誓約 (幻冬舎単行本)

 

 


  アノニマス・コール      薬丸 岳 (角川書) ☆☆☆☆

 

アノニマス・コール

アノニマス・コール

 

 


9、影の中の影          月村了衛 (新潮社) ☆☆☆☆

 

影の中の影

影の中の影

 

 


  機龍警察【完全版】      月村了衛 (早川書) ☆☆☆☆

 

 


10、犬の掟            佐々木譲 (新潮社) ☆☆☆☆

 

犬の掟

犬の掟

 

 


11、ビッグデータ・コネクト    藤井太洋 (文春文) ☆☆☆☆

 

ビッグデータ・コネクト (文春文庫)
 

 

 
次、最終陳述           法坂一広 (宝島社) ☆☆☆☆

 

最終陳述

最終陳述

 

 


次、所轄魂            笹本稜平 (徳間書) ☆☆☆☆

 

所轄魂

所轄魂

 

 


次、松谷警部と三鷹の石      平石貴樹 (創元文) ☆☆☆☆

 

松谷警部と三鷹の石 (創元推理文庫)
 

 


  松谷警部と目黒の雨      平石貴樹 (創元文) ☆☆☆☆

 

松谷警部と目黒の雨 (創元推理文庫)
 

 


次、鷹野鍼灸院の事件簿      乾 緑郎 (宝島文) ☆☆☆☆

 

 


次、鍵の掛かった男        有栖川有栖幻冬舎) ☆☆☆☆

 

鍵の掛かった男

鍵の掛かった男

 

 


次、ラストワルツ         柳 広司 (角川書) ☆☆☆☆

 

ラスト・ワルツ

ラスト・ワルツ

 

 


次、雨に泣いてる         真山 仁 (幻冬舎) ☆☆☆☆

 

雨に泣いてる (幻冬舎単行本)

雨に泣いてる (幻冬舎単行本)

 

 


次、SROⅥ 四重人格      富樫倫太郎(中公文) ☆☆☆☆

 

SROVI - 四重人格 (中公文庫)

SROVI - 四重人格 (中公文庫)

 

 


★古典再読
 ・人喰い            笹沢左保 (双葉文) ☆☆☆☆

 

人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)

人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)

 

 


 ・ブラックスワン        山田正紀 (ハル文) ☆☆☆☆

 

ブラックスワン (ハルキ文庫)

ブラックスワン (ハルキ文庫)

 

 


 ・人喰いの時代         山田正紀 (ハル文) ☆☆☆☆

 

人喰いの時代 (ハルキ文庫)

人喰いの時代 (ハルキ文庫)

 

 


◆海外ミステリ

昨年から、海外ミズテリをきちんと読めるようになったことがうれしい。
ただ、トップがクックというのは定番だが、このラストには泣かされた。
また「災厄の町」の再読は、僕にとって事件だった。クイーンがこんな素
晴らしい作家だったとは。(パズラー作家ではなく)


1、サンドリーヌ裁判          トマス・H・クック         (HPM) ☆☆☆☆★

 

サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 


2、悲しみのイレーヌ          ピエール・ルメートル        (文春文) ☆☆☆☆★

 

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

 

 


3、髑髏の檻              ジャック・カーリー         (文春文) ☆☆☆☆★

 

髑髏の檻 (文春文庫)

髑髏の檻 (文春文庫)

 

 


4、ありふれた祈り ウィリアム・ケント・クルーガー (HPM) ☆☆☆☆

 

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 


5、ピルグリム1-3       テリー・ヘイズ (早川文) ☆☆☆☆

 

ピルグリム〔1〕 名前のない男たち

ピルグリム〔1〕 名前のない男たち

 

 


6、希望のかたわれ           メヒティルト・ボルマン       (河出新) ☆☆☆☆

 

希望のかたわれ

希望のかたわれ

 

 


7、声                 アーナルデュル・インドリダソン   (創元社) ☆☆☆☆

 

声

 

 


8、禁忌                フェルディナント・フォン・シーラッハ(創元社) ☆☆☆☆

 

禁忌

禁忌

 

 


9、猟犬                ヨルン・リーエル・ホルスト     (HPM) ☆☆☆☆

 

猟犬

猟犬

 

 

次、ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 ポール・アダム           (創元文) ☆☆☆☆

 

ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 (創元推理文庫)

ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 (創元推理文庫)

 

 


次、あなたは誰?            ヘレン・マクロイ          (ちく文) ☆☆☆☆

 

あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

 

 


次、だれがコマドリを殺したのか?    イーデン・フィルポッツ       (創元文) ☆☆☆☆

 

 


次、悪意の波紋             エルヴェ・コメール         (集英文) ☆☆☆☆

 

悪意の波紋 (集英社文庫)

悪意の波紋 (集英社文庫)

 

 


次、ミンコット荘に死す         レオ・ブルース           (扶桑文) ☆☆☆☆

 

ミンコット荘に死す (扶桑社ミステリー)

ミンコット荘に死す (扶桑社ミステリー)

 

 


★古典再読
 ・災厄の町      エラリイ・クイーン   (早川文) ☆☆☆☆★ 【新訳】

 

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 


 ・九尾の猫      エラリー・クイーン   (早川文) ☆☆☆☆  【新訳】

 

九尾の猫〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

九尾の猫〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 


 ・フォックス家の殺人 エラリイ・クイーン   (早川文) ☆☆☆☆

 

フォックス家の殺人

フォックス家の殺人

 

 

 
 ・緑は危険      クリスチアナ・ブランド (HPM) ☆☆☆☆

 

緑は危険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-1)

緑は危険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-1)

 

 

2015年 ジャンル別ベスト(SF、歴史、小説、NF)

◆SF、ホラー、ファンタジー

ここは、このところ世の中の流れについていけてません。ベスト間違いなし
と言われるケン・リュウの「紙の動物園」途中で挫折しました。テッド・チ
ャンとは、大きな差がある気がするんだけれど。小谷真理が「ヘブンメイカ
ー」を褒めていてうれしかった。これは、傑作です。

まあ、恒川は野崎と並んで、今年一番嵌った作家。ただし、二人ともSFと
言い切るには、ためらう作風だが。

1、ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ   恒川光太郎 (角川書) ☆☆☆☆★

 

 


2、Know                 野崎まど (早川文) ☆☆☆☆★

 

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

 

 


  バビロンⅠ -女-            野崎まど (講談タ) ☆☆☆☆

 

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

 

 


3、天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒト   小川一水 (早川文) ☆☆☆☆

 

 

次、どこの家にも怖いものはいる       三津田信三 (中公社) ☆☆☆☆

 

どこの家にも怖いものはいる

どこの家にも怖いものはいる

 

 


次、薫香のカナピウム            上田早夕里 (文春社) ☆☆☆☆

 

薫香のカナピウム

薫香のカナピウム

 

 


次、WOOL ウール         ヒュー・ハウイー (角川文) ☆☆☆☆

 

ウール 上 (角川文庫)

ウール 上 (角川文庫)

 

 


次、ウェイワード          ブレイク・クラウチ (早川文) ☆☆☆☆

 

ウェイワード―背反者たち― (ハヤカワ文庫NV)

ウェイワード―背反者たち― (ハヤカワ文庫NV)

 

 


★恒川祭り

1、雷の季節の終わりに       恒川光太郎 (角ホ文) ☆☆☆☆★

 

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

 

 


2、竜が最後に帰る場所       恒川光太郎 (講談社) ☆☆☆☆★

 

竜が最後に帰る場所

竜が最後に帰る場所

 

 


3、金色の獣、彼方に向かう     恒川光太郎 (双葉社) ☆☆☆☆★

 

金色の獣、彼方に向かう

金色の獣、彼方に向かう

 

 


4、秋の牢獄            恒川光太郎 (角ホ文) ☆☆☆☆

 

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

 

 


5、草 祭             恒川光太郎 (新潮社) ☆☆☆☆

 

草祭

草祭

 

 


次、南の子供が夜いくところ     恒川光太郎 (角川書) ☆☆☆☆

 

南の子供が夜いくところ

南の子供が夜いくところ

 

 


★最原最早五部作(刊行順)
 ・【映】アムリタ       野崎まど (MW文) ☆☆☆☆

 

 


 ・舞面真面とお面の女     野崎まど (MW文) ☆☆☆☆

 

 


 ・死なない生徒殺人事件    野崎まど (MW文) ☆☆☆☆★

 

 


 ・小説家の作り方       野崎まど (MW文) ☆☆☆★

 

 


 ・パーフェクトフレンド    野崎まど (MW文) ☆☆☆☆

 

 


 ・ 2            野崎まど (MW文) ☆☆☆☆☆

 

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

 

 

 

★古典再読
 ・果てしなき流れの果てに        小松左京 (ハル文) ☆☆☆☆

 

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

 

 


 ・筒井康隆コレクションⅠ 48億の妄想 日下三蔵編(出版芸) ☆☆☆☆

 

 


 ・アフロディーテ            山田正紀 (講談社) ☆☆☆☆★

 

アフロディーテ (1980年)

アフロディーテ (1980年)

 

 


 ・デッド・エンド            山田正紀 (奇想天) ☆☆☆☆★

 

デッド・エンド (1980年)

デッド・エンド (1980年)

 

 


 


◆時代・歴史小説

最後まで努力したのだが、結局こんなさびしい状況となった。「海の翼」
は、歴史小説と呼ぶべきか迷う作品だし。宇江佐もなくなってしまい、
新しいお気に入りを見つけないといけないなあ。

1、海の翼        秋月達郎  (PH文) ☆☆☆☆★

 

海の翼 (PHP文芸文庫)

海の翼 (PHP文芸文庫)

 

 


2.天下人の茶      伊東 潤  (文春社) ☆☆☆☆

 

天下人の茶 (文春e-book)

天下人の茶 (文春e-book)

 

 

次、白頭の人       富樫倫太郎 (潮出版) ☆☆☆☆

 

白頭の人

白頭の人

 

 


次、北条早雲 悪人覚醒編 富樫倫太郎 (中公論) ☆☆☆☆

 

 

北条早雲 - 悪人覚醒篇

北条早雲 - 悪人覚醒篇

 

 

 
◆フィクション

原田マハに嵌った。ただし、彼女の場合も多作で、絵画絡みの作品以外は
はずれも多かったが。桐野の短編集も素晴らしく恐ろしい。

1、ジヴェルニーの食卓       原田マハ (集英社) ☆☆☆☆☆

 

ジヴェルニーの食卓

ジヴェルニーの食卓

 

 


  楽園のカンヴァス        原田マハ (新潮社) ☆☆☆☆★

 

楽園のカンヴァス

楽園のカンヴァス

 

 


  モダン             原田マハ (文春社) ☆☆☆☆

 

モダン

モダン

 

 


  キネマの神様          原田マハ (文春社) ☆☆☆☆

 

キネマの神様

キネマの神様

 

 


2、奴隷小説            桐野夏生 (文春社) ☆☆☆☆★

 

奴隷小説

奴隷小説

 

 


3、下町ロケット2 ガウディ計画  池井戸潤 (小学館) ☆☆☆☆

 

下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

 

 


4、思い出は満たされないまま    乾 緑郎 (集英社) ☆☆☆☆ 

 

思い出は満たされないまま

思い出は満たされないまま

 

 

 


◆ノンフィクション

サントリー絡みの北康利と、キャパ絡みの沢木の一年だった。春日も相変らず
いい仕事をしている。


1、最強のふたり 佐治敬三開高健    北康利    (講談社) ☆☆☆☆★

 

佐治敬三と開高健 最強のふたり

佐治敬三と開高健 最強のふたり

 

 


  やってみなはれ みとくんなはれ   開高健山口瞳(新潮文) ☆☆☆☆

 

やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)

やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)

 

 


  吉田茂 ポピュリズムに背を向けて   北康利    (講談社) ☆☆☆☆

 

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて

 

 


2、役者は一日にしてならず       春日太一   (小学館) ☆☆☆☆★

 

役者は一日にしてならず

役者は一日にしてならず

 

 


3、流星ひとつ             沢木耕太郎  (新潮社) ☆☆☆☆

 

流星ひとつ

流星ひとつ

 

 


  キャパへの追走           沢木耕太郎  (文春社) ☆☆☆☆

 

キャパへの追走

キャパへの追走

 

 


  ゲルダ           イルメ・シャーバー  (祥伝社) ☆☆☆☆

 

ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯

ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯

 

 


4、パナソニック人事抗争史       岩瀬達哉   (講談社) ☆☆☆☆

 

ドキュメント パナソニック人事抗争史

ドキュメント パナソニック人事抗争史

 

 

次、ウルトラマンが泣いている      円谷英明   (講現新) ☆☆☆☆

 

 


次、探訪 名ノンフィクション      後藤正治   (中公社) ☆☆☆☆

 

探訪 名ノンフィクション

探訪 名ノンフィクション

 

 

2015年 ジャンル別ベスト(その他)

◆エッセイ、書評、評論、企画

1は個人的に今年一番面白かった本。ぜひ、続編を。2は村上春樹という存在を
堪能した。3は同い年として、見事にシンクロ。僕がなぜ「東京物語」が好きな
のか、良く解った。

1、ミステリ編集道              新保博久  (本雑誌) ☆☆☆☆☆

 

ミステリ編集道

ミステリ編集道

 

 


2、職業としての小説家            村上春樹  (スイチ) ☆☆☆☆★

 

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

 

 


  ラオスにいったい何があるというんですか? 村上春樹  (文春社) ☆☆☆☆

 

 


3、田舎でロックンロール           奥田英朗  (角川書) ☆☆☆☆★

 

 


4、勝手に!文庫解説             北上次郎  (集英文) ☆☆☆☆

 

勝手に! 文庫解説 (集英社文庫)

勝手に! 文庫解説 (集英社文庫)

 

 


5、エンタテインメントの作り方        貴志祐介  (角川書) ☆☆☆☆

 

 


6、ハヤカワ文庫SF総解説2000      早川書房  (早川書) ☆☆☆☆

 

ハヤカワ文庫SF総解説2000

ハヤカワ文庫SF総解説2000

 

 


7、福岡ハカセの本棚             福岡伸一  (メディ) ☆☆☆☆

 

福岡ハカセの本棚 (メディアファクトリー新書)
 

 


8、この世界はあなたが思うよりはるかに広い  鴻上尚史  (扶桑社) ☆☆☆☆

 

 


  クール・ジャパン             鴻上尚史  (講談現) ☆☆☆☆

 

 

次、幻島はるかなり              紀田順一郎 (松籟社) ☆☆☆☆

 

幻島はるかなり

幻島はるかなり

 

 


次、芸人という生きもの            吉川 潮  (新潮選) ☆☆☆☆

 

芸人という生きもの (新潮選書)

芸人という生きもの (新潮選書)

 

 


次、私の体を通り過ぎていった雑誌たち     坪内祐三  (新潮社) ☆☆☆☆

 

私の体を通り過ぎていった雑誌たち

私の体を通り過ぎていった雑誌たち

 

 


次、完全復刻版「本の雑誌」創刊号-10号BOXセット         ☆☆☆☆

 

完全復刻版「本の雑誌」創刊号〜10号BOXセット【分売不可】

完全復刻版「本の雑誌」創刊号〜10号BOXセット【分売不可】

 

 


★古典再読
 ・地獄の読書録    小林信彦 (集英文) ☆☆☆☆☆

 

地獄の読書録 (集英社文庫)

地獄の読書録 (集英社文庫)

 

 


 ・地獄の観光船    小林信彦 (集英社) ☆☆☆☆

 

地獄の観光船―コラム101 (1981年)
 

 

 
◆政治、経済、歴史

何か同じ人たちの本ばかり読んでいる。危険な感じが。塩野の「ギリシア人の物語」
が間に合わなかったのが残念。

1、日本人の叡智            磯田道史 (新潮新) ☆☆☆☆★

 

日本人の叡智 (新潮新書)

日本人の叡智 (新潮新書)

 

 


2、鄧小平    エズラ・ヴォーゲル 橋爪大三郎 (講現新) ☆☆☆☆

 

トウ小平 (講談社現代新書)

トウ小平 (講談社現代新書)

 

 


3、池上彰の「経済学」講義 歴史編        (角川書) ☆☆☆☆

 

 


4、賢者の戦略         手嶋龍一・佐藤優 (新潮新) ☆☆☆☆

 

賢者の戦略 (新潮新書)

賢者の戦略 (新潮新書)

 

 



次、日本の1/2革命      佐藤賢一池上彰 (集英新) ☆☆☆☆

 

日本の1/2革命 (集英社新書)

日本の1/2革命 (集英社新書)

 

 


次、もう一つの「幕末史」        半藤一利 (三笠書) ☆☆☆☆

 

 


次、勝ち上がりの条件     磯田道史・半藤一利 (ポプ新) ☆☆☆☆

 

 

(032)勝ち上がりの条件 (ポプラ新書)

(032)勝ち上がりの条件 (ポプラ新書)

 

 

◆思想・哲学・社会学

まったくダメ。もっと勉強しないと。

1、コミュニケーションのレッスン       鴻上尚史 (大和書) ☆☆☆☆★

 

コミュニケイションのレッスン

コミュニケイションのレッスン

 

 


2、ナショナリズムは悪なのか         萱野稔人 (NHK) ☆☆☆☆

 

 


3、この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう    池上 彰 (文春社) ☆☆☆☆ 

 

 


  この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」池上 彰 (文春社) ☆☆☆☆

 

 

次、保守問答             中島岳志・西部進 (講談社) ☆☆☆☆

 

保守問答

保守問答

 

 


◆科学

金子隆一、亡くなっていたんですね。今年は進化論をもう少し勉強する予定。

1、大量絶滅がもたらす進化    金子隆一 (サイ新) ☆☆☆☆

 

 

 
◆ビジネス

1は衝撃でした。2は作りは冗長だが、僕の皮膚感覚にぴったりきた。

1、デュアル・ブランド戦略     矢作敏行 (有斐閣) ☆☆☆☆★

 

デュアル・ブランド戦略 -- NB and/or PB

デュアル・ブランド戦略 -- NB and/or PB

 

 


2、若手社員が育たない。      豊田義博 (ちく新) ☆☆☆☆

 

若手社員が育たない。 ――「ゆとり世代」以降の人材育成論 (ちくま新書)

若手社員が育たない。 ――「ゆとり世代」以降の人材育成論 (ちくま新書)

 

 


3、人は、誰もが「多重人格」    田坂広志 (光文新) ☆☆☆☆

 

 


4、リーダーシップの哲学      一條和夫 (東洋経) ☆☆☆☆

 

リーダーシップの哲学

リーダーシップの哲学

 

 


5、マクドナルド 失敗の本質    小川孔輔 (東洋経) ☆☆☆☆

 

マクドナルド 失敗の本質: 賞味期限切れのビジネスモデル
 

 

次、「タレント」の時代       酒井崇男 (講現新) ☆☆☆☆

 

 


次、会計士は見た!         前川修満 (文春社) ☆☆☆☆

 

会計士は見た!

会計士は見た!

 

 

 

 

2015年 12月に読んだ本

 ●7356 驚きの英国史 (エッセイ) コリン・ジョイス (NHK) ☆☆☆★

 

驚きの英国史 (NHK出版新書 380)

驚きの英国史 (NHK出版新書 380)

 

 

実は11月末に読んだのに、所感をつけるのを忘れてしまった本。貴志の「エンタテイ
ンメントの作り方」の所感で、トッチラカッテルと感じたのは、実は本書も含まれる。

もともと「ノルマン・コンクエスト」について書かれた歴史書と思って読みだしたのだ
が、それは一部にすぎず、英国の歴史に関する薀蓄が、脈絡もなく続く。

目当ての「ノルマン・コンクエスト」に関しては、英国人の強烈かつ複雑な意識が、予想以上に解る素晴らしい内容だったけれど、その他は「フォークランド紛争」や「英語問題」以外はちょっとマニアック?(英国人には常識だろうが)で、楽しめなかった。まあ、こっちの知識不足なのだが。

 

●7357 ラオスにいったい何があるというんですか? (エッセイ) 村上春樹 (文春社) ☆☆☆☆

 

 

村上春樹の紀行文と言えば「遠い太鼓」、海外生活のエッセイは「やがて哀しき外国語」オリンピック観戦記「シドニー」、そしてモルトウィスキーの旅「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」等々が思い浮かぶが、それらの続編とも言えるのが本書であり、テーマは再訪とも言える。

というわけで、村上春樹の紀行文集としてはひさびさだったが、今回も堪能した。JALのファーストクラスの機内誌掲載作品がほとんど、というスノッブさ?が反発を呼ぶのか、ネットでは否定意見も多いが、いまどきこれほど素晴らしい文体の紀行文は、そうお目にかかれない。

またボストンやポートランドなどは、僕も行ったことがあり、結構思い入れがあって追想に耽ってしまった(ポートランドで食べたロブスターと、初めて飲んだサミュエルアダムスは今も忘れられない。確か港に係留した帆船がレストランだった)題名が何なのかは、本文で確認ください。

 

 ●7358 悲しみのイレーヌ(ミステリ)ピエール・ルメートル(文春文)☆☆☆☆★

 

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

 

 

週刊文春の年間ベストを、昨年の「その女アレックス」に続いて、本書が連覇した。ち
ょうどそのタイミングで入手したので、早速読んだのだが、間違いなく傑作(個人的に
は、「アレックス」より本書が上)なのに、色んな理由で素直に褒められない、評価が
難しい作品だ。

まずは、良いというか素晴らしい点から。犯人の設定と動機、そしてそれを活用した大胆なプロットトリックには、恐れ入った。「アレックス」のプロットトリックには、あざとさを感じたが、本書のトリックには戦慄を覚えた。そして、そこに通奏低音として流れる、ミステリへの愛、リスペクトも好ましい。

また、「アレックス」でも活躍する、身長145センチの警部カミーユを中心とした、捜査チームやカミーユの家族、等々の人物造形も素晴らしく、マルティンベックを想起していたら、とんでもないところで「ロゼアンナ」が出てきて、驚いてしまった。

そして、今度は悪い方。正直「アレックス」と同じく、本書もあまりにも残虐シーンが多い。そして、本書はアレックス以上にバッドエンディングで、後味が悪い。まあ、これは好みの問題もあるのでこれ以上は言わないでおこう。

問題は次の2点であり、実はこれは著者のせいではなく文春社のせい、というか大きなミスなのである。

まずは、多くの人々が指摘しているが、題名がいけない。本来の題名は「丁寧な仕事」であり、この題名は日本サイドがたぶん「アレックス」に合せてつけたものだが、イレーヌが誰かが解ると(それはすぐ解る)よほど鈍感な読者でないかぎり、結末の悲劇は予想できてしまう。何でこんなバカな題名にしたのか、理解に苦しむ。

そして、もうひとつは刊行順だ。実は本書こそが、著者の処女作にして、カミーユ三部作の第一作であり、「アレックス」は第二作なのだ。たまたま僕はすっかり忘れていたが、そういえば「アレックス」の冒頭で、これまた本書の結末が描かれていたのだ。(読了後に思いだした・・・)これはもう、「アレックス」と本書を続けて(刊行の逆に)読んだ人は、地獄である。

もちろん、この2つは著者とは関係ないので、やはり評価は高くすることにした。ただ、本書のバッドエンディングより、今のところクックの「サンドリーヌ裁判」のハッピーエンドを、今年のベストとしたい。

(しかし、著者のもう一作「天国でまた会おう」は、冒頭の戦闘シーンだけで挫折したが、同じ作者の作品とは思えなかった)

 

 ●7359 墓標なき街 (ミステリ) 逢坂 剛 (集英社) ☆☆☆

 

墓標なき街

墓標なき街

 

 

百舌シリーズ第七作。たぶん全部読んでると思うのだが、本書には過去の作品がうまく
要約されていて、思いだす役には立った。また、TVを一応見たので、美希は真木よう
子、大杉は香川照之に脳内自動変換された。このキャスティングは、良く出来ていると
思う。

ただ、アマゾンでは結構高い評価だが、本書はダメ、期待外れである。いまどきこんな大時代的なトリック(江戸川乱歩京極夏彦)ありえないし、(少し捻ってはいたが)真相はほぼ見当がついてしまう。

大沢にしても、逢坂にしても、最近の作品は本当に荒っぽいというか、雑である。こんな政治家や黒幕もいないし、警察官もこんな無茶な捜査をやるわけがない。公安警察といいながら、内容は怪人二十面相の世界で、嫌になってしまう。

もちろん、ベテランはそれでも読ませてしまう文章の力はあるのが、もはや精緻なミステリを書くことは不可能なのだろうか。逢坂の大傑作は、個人的には98年の「燃える地の果てに」まで遡らなければならない。 

  

●7360 さよならの手口 (ミステリ) 若竹七海 (文春文) ☆☆☆☆★

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

 

葉村晶シリーズ13年目の新作長編ということだが、協会賞をとった「暗い越境」(葉
村シリーズ2編収録)が、イマイチだったうえに、13年前の「悪いうさぎ」も印象が
良くなくて、文庫書下ろしの本書を完全に見逃していたのだが、これは傑作だった。申
し訳ない。

最近はコージーの印象が濃かった著者の、面目を一新する凝りに凝ったミステリだ。文庫だと、本当にお得な感じ。失踪した娘の捜索、というハードボイルド王道の展開が、あれよあれよと、とんでもない方向に転がって、結局4つの殺人事件が絡んでくる、という怒涛のアクロバット展開。

怪我に次ぐ怪我、骨折に次ぐ骨折、に襲われる探偵葉村の不死身の根性には、恐れ入る。(これ、ギャグです)

というわけで、本書は何とあの「SRの会」のベスト1、を獲ったみたいだけれど、正直言うと華が無かったり、論理が美しくなかったり、もするのだが、今回はこの評価としてみた。過去に一度若竹祭りをやって、十冊弱で飽きてしまったのだが、もう一度再開しようという気にはさせられた。(このミスでも、何と四位でした!)

 

 ●7361 海の翼  (歴史小説)  秋月達郎  (PH文) ☆☆☆☆★

 

海の翼 (PHP文芸文庫)

海の翼 (PHP文芸文庫)

 

 

副題:トルコ軍艦エトゥールル号救難秘話。現在公開されている映画「海難1890」
の原作ではないが、あのエトゥールル号事件と、100年後の恩返しの物語。本来なら
NFとすべきかもしれないが、一番面白いのが明治時代のパーツということで、歴史小
説とした。(今年は、歴史小説のベストが作れない渇水状態)

エトゥールル号事件の舞台は、わが故郷紀南の串本=大島町であることは、もちろん知っていたが、単に難破船を漁師が救っただけだと思っていた。

エトゥールル号がこんな重要な船であり、その後天皇の名を受け、二隻の戦艦がトルコにまで行き(しかも、そこにはあの秋山真之が絡み)、トルコの近代化に二人の日本人が絡み、そして、そして、サダムフセインの攻撃から逃げ出す日本人たちのため(日本政府は見捨てたのに)トルコ人たちが、自分たちのための飛行機を当たり前のように譲り、自分たちは自動車で危険な陸路を選択する。

ああ、知らなかった。ひょっとしたら、脚色はあるのかもしれない。しかし、ここはこのトルコの選択を、経済的観点と揶揄した朝日新聞(そして、それはトルコ大使から厳重な抗議を受ける)の愚は犯すまい。

正直、冒頭のシーンから涙が流れた。あまりにも内容が衝撃的で、正直秋月という初めて読む作家の実力は、涙で良く解らない。しかし串本の漁師たちは間違いなく存在したのであり、トルコの恩返しもまた間違いない事実である。

現在のトルコは、残念ながらロシアと対立するもうひとつの独裁国家のイメージが強いが、この本や映画によって、僕のような無知(恩知らず)な日本人が、少しでも減ることを願う。

 

 ●7362 人魚の眠る家 (ミステリ) 東野圭吾 (幻冬舎) ☆☆☆

 

人魚の眠る家

人魚の眠る家

 

 

年間ベストにちっとも絡まないなあ、と思っていたら、それは刊行日(11月)の関係
だったが、正直内容もまた、とてもベストには届かないものであった。(それを見越し
て、敢えて10月には上梓しなかった、というのはうがちすぎか)

人魚=脳死状態の少女のことであり、ここに最新の医学が絡むが、いかにもフランケンシュタイン的で、それを母性の暴走と描きたかったのだろうが、ミステリとしてはちっとも面白くない。

プロローグとエピローグに、気の利いた仕掛けが用意されているが、それだけでは評価できないなあ。東野圭吾も「新参者」以降、これといった傑作がない。難しいところまで来てしまったのかなあ。

 

 ●7363 聖 母 (ミステリ) 秋吉理香子 (双葉社) ☆☆☆★

 

暗黒女子

暗黒女子

 

 

前作「放課後に死者は戻る」とほぼ同じ感想を持った。とにかく、ひっくり返そうとい
う、著者の異常なまでの執念?には敬服する。しかも、そのドロドロの内容とはかけ離
れた、ラノベ的な読みやすい文章も、ここは評価したい。

しかし、読み終えて、やはりこれはやりすぎに思えてきた。本書には、叙述・プロットトリックが二つ仕掛けてある。そのひとつは、これはもう主人公の名前を見ただけで、予想がつくのだが、ふたつめは驚いた。「ユリゴコロ」と同じくらいの、衝撃があった。

しかし、良く良く考えると、このトリックは、破綻しているし、二人の刑事をこれだけ有能に描きながら、この結末はありえない。(これでは、警察が無能すぎる)

というわけで、リアリティーを重視すると、これはやはり評価できない、と今回は勝手に判断してしまった。

まあ、次の作品も読んでみてから、今後のつきあいを決めることにする。オリジナリティーと読みやすい文体は間違いないのだが、トリックのためのトリック、というのはやはりきつい。せめて刑事のパーツを無くせばよかったのだが。

 

●7364 ハヤカワ文庫SF総解説2000 (企画) (早川書) ☆☆☆☆

 

ハヤカワ文庫SF総解説2000

ハヤカワ文庫SF総解説2000

 

 

「サンリオ」のヒットにあやかったのか、今度はハヤカワ文庫です。ただ、この企画ず
っとSFマガジンで連載していて、それを読んでいたので、正直プラスオンがほとんど
ないので、そういう意味では物足りない。

値段の関係もあったのかもしれないが、もっと覆面?座談会的なものも、読みたかった。サンリオは、そこが充実してたんだよね。

まあ、こういう企画は僕らの世代は78年なぜか自由国民社なる出版社から上梓された「世界のSF文学・総解説」に止めを刺す。そこで紹介されたSFを、次々読んでいく本当に幸せな時期があった。(当時の僕の御三家は、ゼラズニイ、シルヴァーバーグ、エリスン、だった)

それに比べると、もはやワクワク感は雲泥の差なのだが、それでもこの全作品の表紙一覧の迫力には、驚かされた。まあ、これまたサンリオの真似なのだが、何せ量が違う。

また、解説の中で表紙絵の作者が明記されているのもうれしい。ゼラズニイ角田純男、シルヴァーバーグは中原脩というのが定番だった。

加藤直之や鶴田一郎、本当に当時のハヤカワ文庫の表紙はかっこよかった。あ、ヴォネガット和田誠も忘れちゃいけない。というわけで、結局あたりさわりのない、この評価とさせてもらった。

 

●7365 ありふれた祈り(ミステリ)ウィリアム・ケント・クルーガー(HPM)☆☆☆☆

 

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

正直、ジェファーソン・パーカーの「サイレント・ジョー」やランズデールの「ボトムス」のような、米国大田舎少年ビルディングロマンス、には食傷気味。あのジョン・ハートですら、最近の作品は正にそれで面白くない。

しかし本書は、各種年末ベストでかなり高い評価を受けており、気乗りせずに読みだしたのだが、結論から言うと傑作だった。

確かにこの本も米国の田舎(ただし、ミネソタだからかなり北で、普通なら黒人が演じる部分は、インディアンとなる)が舞台の少年の物語だが、ここにはクックの抒情性があり、派手な部分はほとんどないが、しっとりとした良い小説に仕上がっている。

ミステリとしては複雑な謎ではないのだが、ある少年が●●であることが、わかったとたん、すべてのネガとポジが入れ替わる、という構成も良く出来ている。

そして、意識的かもしれないが、本書のプロットは映画「スタンドバイミー」と相似であり、プロローグとエピローグが見事にリンクし、物語はふたを閉じる。本書は傑作である。

 

 ●7365 間違いだらけのビジネス戦略 (ビジネス) 山田修 (プレス)☆☆☆

 

間違いだらけのビジネス戦略

間違いだらけのビジネス戦略

 

 

読みだしてすぐ気づいたのだが、この人ブログで本書のようなコラムを連載しており、それを抜粋してまとめた、ある意味安易な本。

僕は著者のコラムを大塚家具の騒動の時、かなり読んでいたのだが、結局著者は父親が勝つ、と断言しながら、娘が勝った後は、平気で父親の戦略ミスと書いていて、ちょっとなあ、と思ったことを思いだしたら、何と本書は臆面もなくその記事が3本並んでいて、価値観の違いに唖然となった。

著者はコンサルらしいが、僕なら頼まない。「マックもひどいがモスはもっとひどい」だとかなかなか面白い着眼点もあるのだが、いかんせんこの分量では、新聞やビジネス書で仕入れたネタを自分流に解釈したのすぎず、まあネットのコラムで読む分には腹も立たないが、こうやって一冊の本として読むと、その底の浅さは隠せない。

特にP&Gと花王や、イオンとセブン、等々われわれの得意分野の記事は、その浅さに愕然としてしまう出来。

 

 ●7366 会計士は見た! (ビジネス) 前川修満 (文春社) ☆☆☆☆
 
会計士は見た!

会計士は見た!

 

 

これまたビジネスゴシップ帳、とでも言いたくなる装丁だが、会計士というところがミソで、結構面白く読んでしまった。

ただ、最初は会計の勉強=教科書に使えるかな?と思って読みだしたのだが、特殊な事例が多くてちょっと無理みたい。本書でもまた大塚家具の事件が大きくとりあげられるが、内容は変わらないが、決算書から具体的な数値を持ってくると、確かに説得力は高い。これは、使えるかも。

あとゴーンがリストラをしながら、残った従業員の給料は絶対に下げなかった(むしろ上がった)という話も、はっとさせられたし、コジマ(これも前著で取り上げられている)との比較が痛々しい。

そして、本書の白眉はソニーの決算分析で、ここで描かれる金融会社したソニーの姿に愕然としてしまう。これは偶然の結果なのか、意識的にやっているのか、は良く解らないのだが。

 

 ●7367 天下人の茶 (歴史小説) 伊東 潤 (文春社) ☆☆☆☆
 
天下人の茶 (文春e-book)

天下人の茶 (文春e-book)

 

 

昨年は著者の時代が到来したと言える充実ぶりだった上に、「天地雷動」というキャリアハイの傑作もものにした。(なぜか、評価が盛り上がらないが、僕は傑作だと思う)

しかし、今年はやや書き過ぎで、薄味になってきたと感じていたのだが、本書は初期の連作形式に戻して、複雑な時制でありながら、一気に読ませる。

いつものように、牧村兵部や瀬田掃部のような、マイナーな実在人物をうまく使いながら、利休ー織部ー遠州、という侘び、の歴史の転換を見事に描いている。

ちょっと利休の思想がぶれている気がするし、あまりにも論理が前に出てきている気もするし、ラストの着地もうまく決まらなかった。

しかし、やはり本書は傑作であり、伊東流のもうひとつの本能寺の解決がここにはある。そして、それはどうしても、「へうげもの」と重なってしまうのだ。まさに、茶の湯陰謀録とでもいうべき、黒くて美しい物語だ。(信長の大陸進出の新解釈も、なかなか説得力があって面白かった)

 

●7368 ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ(SF)恒川光太郎(角川書)☆☆☆☆★

 

 

前作「スタープレイヤー」は、変な小説ではあったが、ルールに縛られたゲーム小説であり、論理が前面に出てきて、恒川らしくない作品だった。

まあ、それでも面白かったのだが、本書は同じ設定を使いながらも、スタープレイヤーの世界(サージイッキクロニクル)と「ヘブン」という死者の世界を平行に描き、亀人間のような恒川らしい?えぐい描写も相まって、前作以上に一気に読ませるリーダビリティーは抜群である。

ただ、途中で二つの物語がどう繋がるかは見えてくる。ええー、こんな解り易くていいの?と思ったのだが、さすが恒川、それは見事なレッドヘリング、罠であった。見事に引っかかってしまった。そうか、こうきたのか。「アナザー」的に素晴らしい。おそれいりました。

そして、冒頭の文章までが、見事なプロットトリックとなるのは、今年評判となったあの海外ミステリと同じではないか。もう一度言う。素晴らしい。

また、後半ある人物が登場したり、ラストになんとあの人が現れたり、前作に既に伏線を張っているのもまた素晴らしい。正直、まさか続編があると思わなかったのだが、この調子ならあと数作は書けるんじゃないだろうか?

「アナザー」の方は続編は期待外れだったが、本書は前作を上回る、今のところ今年のSFのベストと言っていい傑作だ。(天冥の標の最新刊が、ギリギリ12月に出たのだが、買おうか図書館を待とうか、悩んでいる)

 

 ●7369 鄧小平 (歴史) エズラ・ヴォーゲル 橋爪大三郎 (講現新)☆☆☆☆

 

トウ小平 (講談社現代新書)

トウ小平 (講談社現代新書)

 

 

あの「ジャパンアズナンバーワン」のヴォーゲルが、10年の年月をかけて1200ページ上下巻の大作「現代中国の父・鄧小平」を上梓し、中国で60万部のベストセラーになっていたなんて、全然知らなかった。

で、鄧小平こそ20世紀後半で一番重要な人物(なのにあまり研究されていない)として、しかも1200ページの大作は素人には重すぎるとして、あの橋爪がヴォーゲルとの対談本=大作のダイジェストを作ってくれた。これはもうGJと言うしかない。

しかし、残念ながら文化大革命までの共産党内での権力闘争の話は、専門家ではない僕には正直面白くなかった。で、鄧小平が権力を握ってからの変革の物語は、当然面白いのだが、ヴォーゲルは予想以上に冷静かつ客観的に描いていて、鄧小平を過大評価しない。

例えば、経済特区のようなやり方は、巨大な中国では昔からよくあったパターンとしたり、深浅が成功したのは、すぐそばに香港があったからであり、これは偶然にすぎない、とするのだ。

読みながら感ずるのは、冒頭のようなダイジェストというコンセプトを越えて、橋爪が攻め込んでいくところだ。これはもうインタビューなどというものではなく、ほとんど対等に語っている。

そして「現代中国」では、描けなかったヴォーゲルの本音をかなり引き出すことに成功している。初めから、意図はそこにあったのかもしれないが。それでも感じるのは、ヴォーゲルの学者としての矜持である。

証拠がないことは、絶対に書かない。ポピュリズムの対極のアカデミズムの厳しさ、というものをひさびさに感じさせてくれた。

そして、たぶんヴォーゲルは、天安門を必要悪として、認めているし、一般の日本人にとっては嫌なイメージしかない、江沢民の政治を評価する。このあたりを、われわれももう一度冷静になって、客観的に見直さなければならないとつくづく感じた。

(でも、1200ページを読んでみようとは思わなかったけれど)しかし、経済特区ではなく政治特区という考え方は魅力的だ。

 

 ●7370 吉田茂 ポピュリズムに背を向けて(NF)北康利(講談社)☆☆☆☆

 

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて

 

 

「最強の二人」が面白かったので、早速著者の本を借りてきた。まずは、今まできちんと読んでこなかった吉田茂だ。で、まあこれは白洲次郎つながり、ということもあるんだけれど、面白く読むことができた。

いや、吉田の偉大さを具体的に感じ(面倒くささも感じるが)彼なくば今の日本はどうなっていたかと、つくづく思う。そして、吉田や白洲、そして西郷、岸らを描いてきた著者のテーマが少し見えてきた。

著者には沢木や佐野のような、派手なけれんはないが、吉村や後藤ほどストイックに地味でもなく、緻密な取材に基づいて、素晴らしい素材をそのまま出してくれる名シェフといったところだろうか。

著者のあとがきがいい。「吉田茂は民主主義など衆愚政治だと最初から見切っていた。彼は自由主義者ではあったが、民主主義者ではなかった。」多数決が正しい、という論理では、サンフランシスコ講和条約は締結できなかっただろう。

晩年、吉田の秘書が我が国の課題について尋ねた時の言葉が素晴らしい。「相手国の立場を考えての貿易の伸張、国際社会での信用を失わないための役割分担などが、我が国の今後の課題ですね」「他人をうまく助けることができなければ、人間一人前とはいえません」「外交的センスのない国は滅びる」いったい、彼の視線はどこまで見通していたのだろうか。

 

 ●7371 福沢諭吉 国を支えて国を頼らず (NF) 北康利 (講談社)☆☆☆★
 
福沢諭吉 国を支えて国を頼らず

福沢諭吉 国を支えて国を頼らず

 

 

続いて、吉田と同じく今まできちんとした評伝を読んだことのない福沢諭吉。著者が言うように、僕の知識も「学問のすすめ」と慶応義塾、まああとは咸臨丸くらいしか具体的なイメージはない。

しかも、どうしても引っかかるのが、あの勝との喧嘩?であり、勝びいきの僕としては、どうにも納得できない。まあ、本書でもこの部分は、やはり勝の勝ちに感じてしまう。

そうは言っても、本書の冒頭の適塾での緒方洪庵との師弟関係あたりは、「花神」裏バージョンという感じで読ませるし、白洲の次に福沢を選んだというのも、副題から解るように著者のテーマは一貫している。

そして、これは西郷や吉田とも、きちんとつながる。ただし、今回はやはり物語として、福沢のストーリーが(大河ドラマの新島と同じく)僕にはカタルシスがないのだ。好みの問題というしかないが、後半はやや退屈であり、そういう場合の著者の文体は、それだけで読ませるほどの力はないのだ。勝手な言いぐさかもしれないが。

 

●7372 死と砂時計 (ミステリ) 鳥飼否宇 (東京創) ☆☆☆★

 

死と砂時計 (創元クライム・クラブ)
 

 

器用貧乏と言うか、書き過ぎと言うか、才能を浪費しているイメージの強い著者だが本書は珍しくあちこちの年末ベストで健闘している。内容は、たぶん法月の「死刑囚パズル」にインスパイアされたんだと思うが(明日、死刑になる死刑囚が殺される)その解決は法月の1/5くらいの出来。

その他の作品もパズラーとしての努力は解るのだが、如何せん終末監獄という基本アイディアに全くリアリティーがなく、それがラストの茶番劇に繋がってしまう。残念ながらセンスがなさすぎるのだ。主人公の父親の正体も見え見えだし。

 

 ●7373 福岡ハカセの本棚 (書評) 福岡伸一 (メディ) ☆☆☆☆

 

福岡ハカセの本棚 (メディアファクトリー新書)
 

 

僕が著者と出あったのは、「マリス博士の奇想天外な人生」の翻訳者としてであった。普通、翻訳者なんて記憶に残らないのに、ほぼ竹内薫の独占状態だった科学本の翻訳に、こんな文章のうまい(最初は文系の人だと思っていた)訳者がいたのか、と驚いたせいだった。

その後「生物と無生物」や「動的平衡」を読んで、感心したのだけれど、最近は同じネタの使い回しが多く、少し距離を置いていた。で、本書こそそんな著者に求めたい本だった。

ただ、内容は最初は一冊一冊の深堀りが足りなくて、正直物足りなかったのだが、後半になってSFや進化論になると、俄然チョイスが僕好みになるのだが、著者は僕と同年齢だから当然なのかもしれない。

ブルーノ・エルンストの「エッシャーの宇宙」、キム・ステルレルニー「ドーキンスVSグールド」、サイモン・シンフェルマーの最終定理」「暗号解読」、岩崎書店!「宇宙人デカ」!「27世紀の発明王」!!「アンドロメダ病原体」「ジュラシック・パーク」、で、同い年だから当然村上春樹も出てくるのだが、ベスト3が「羊」「世界の終り」は解るが、もう一冊が「国境の南」だとは。読み直してみようか。

何もかもが懐かしいが最後に一言。エピジェネティクスというのは、池田の構造主義進化論と同じではないか。獲得形質は遺伝する?リチャード・C・フランシスの「エピジェネティクス・操られる遺伝子」を読まなければ。 

 

●7374 帝国の女 (フィクション) 宮木あや子 (光文社) ☆☆☆★
 
帝国の女

帝国の女

 

 

著者のデビュー作「花宵道中」を読んだとき、何と素晴らしい文章を書く作家なんだろうと驚いた。しかし、その後はやや中途半端な作品が続き、時代小説から離れてしまったこともあり興味がなくなった。

基本的に、恋愛小説やお仕事小説には興味がないのだ。リアルだと身につまされるし、そうじゃないと白けてしまう。で、北上おやじ絶賛(だった気がする)の本書も、正に恋愛・お仕事小説なのだが、たまたま年末最後の図書館で、美本を見つけて手に取った。

さすがに、文章はうまくて一気に読めた。帝国って何だろう?と思っていたが、何のことはない、テレビ局(デモに襲われたとあるからあの局?)が舞台の、5人のキャリアウーマン?(死語?)の物語。

というわけで、まったく知らない世界だけれど、いかにもありそうな連作短編集。ただ個人的には、一番魅力的な片倉一葉という謎の女性の過去が、やりすぎ。これは、ちょっとありえない。

その他の、枕営業やさまざまな嫌な話も、有り得るのかもしれないが、敢えて読みたいとは思わない。小泉今日子の「最後から二番目の恋」あたりを気楽に観てる方が、よほど健康に良い。

 

 ●7375 天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒト1(SF)小川一水(早川文)☆☆☆☆

 

 

全10巻のついに9巻だが、前篇ということで、迷ったんだけれど、このままだと今年は「天冥」を読まない年になってしまうので、ついに購入して読みだした。

正直、今回は一年近く待たされたので、完全にストーリーを把握したつもりだったのに、結構忘れている部分も多くて(さらに、このシリーズで嫌な二点、変な名古屋弁とラバーズの存在)最初なかなか読み進めなかった。これは、最近では珍しい。

しかし、途中で、あの変な二人組の正体が解り驚き、後半は怒涛の展開となる。そして、そして今回のラスト、断章六!!おいおい、どこまで風呂敷を広げるんだ?せっかく回収し始めた伏線の数々をはるかに超える、驚愕!?の展開。

本当に10巻で終るのか?最後は「イシャーの武器店」や「タウ・ゼロ」のような超バカSFにならずに(いや、それも面白いか?)きちんとすべてを解決してくださいよ。本当に。

 

●7376 死んでたまるか (歴史小説) 伊東 潤 (新潮社) ☆☆☆★

 

死んでたまるか

死んでたまるか

 

 

戊辰・函館戦争とくれば、普通は土方か榎本が主人公なのだが、何と本書は大鳥圭介である。伊東も苦労しているなあ、という感じ。まあ、歴史小説での新味というのは、ひょっとしたら本格ミステリ並みに難しいのかもしれない。

常識的に考えて、大鳥はこの戦争で負け続けるので、土方の引き立て役がお似合いなのだが、伊東はその負け続ける姿に焦点をあてているのだ。

しかし、これはやっぱり無理。負け続ける戦いには残念ながらカタルシスはない。また、前半は戊辰戦争と過去(適塾での福澤との主席争いは面白いのだが)が頻繁にカットバックで入れ替わり、正直かなり読みにくい。

で、本書でも大鳥は、小さいぶ男で、感情が激しく、戦が下手、と正しく土方の正反対の男として描かれ、結局は後半は土方にいいところを持って行かれてしまう。

そして、すべての黒幕は結局勝だった、といういつものオチ。というわけで、勉強家の伊東が使い古された題材を、色々工夫して頑張っているのは解るが、傑作とは言い難い出来。もう少し落ち着いてほしい。

 

●7364 雀 蜂 (ミステリ) 貴志祐介 (角ホ文) ☆☆☆
 
雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

 

 

貴志の角川(ホラー文庫)に対する感謝の気持ちが現れた?文庫書下ろし。いや、決して皮肉ではなく(角川の編集者の薦めに従って「黒い家」を書いたから、今の貴志があるのだし)東野が文芸之日本社文庫で文庫を書き下ろしたのと同じ状況だと思う。

そして、残念ながら内容の方も東野と同じであり、明らかにハードカバーとは最初から目指すレベルが違っている。

最初は雀蜂を使った単純なホラーなのか、と思っていたが、ラストで物語はトンデモ展開となる。どうやら、文庫のオビではそのどんでん返しが売りだったようなのだが、正直これはダメ。

こういうのは小林泰三か、一昔前の折原一にでもまかせておくべき。貴志には似合わない。前から使う勇気のなかったイッパツアイディアを何とか使ってみました、という貴志らしくない雑な作品。文中で作家が引用する架空の作品たちの薀蓄は、結構面白いのだが。

 

●7365 北条早雲 悪人覚醒編 (歴史小説) 富樫倫太郎 (中公論) ☆☆☆☆

 

北条早雲 - 悪人覚醒篇

北条早雲 - 悪人覚醒篇

 

 

シリーズ第二作。同じ早雲を一冊で描いた伊東の「黎明に起つ」は、詰め込み過ぎで複雑な時代背景と相まって、非常に解りにくい作品になってしまった。特に室町時代の京都と関東の争いは、予備知識が足りなくて、苦労した。

で、本書はシリーズ化することで、その弊害をなんとか逃れている。正直、それでも解りにくいのだが、堀越公方古河公方の関係あたりも、やっと解ってきた。しかし、その一方では物足りなさも感じる。

早雲や脇役たちの人物造形が、幼いのだ。悪人と言いながら、これでは良い人すぎる「軍配者」の頃は、逆にそのあたりが新鮮だったのだが、そろそろここから脱皮しないと、難しいところに来てしまった気がする。まあ、読んでる間は問題ないのだが、どうもあちこちで、描写やストーリーに既視感を感じてしまうのだ。


 2015年は、以上217冊でした。もう少し読みたかったのだけれど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年 11月に読んだ本

 ●7337 赤い博物館 (ミステリ) 大山誠一郎 (文春社) ☆☆☆☆★

 

赤い博物館 (文春e-book)

赤い博物館 (文春e-book)

 

 

あの傑作「密室募集家」には少し及ばないが、いまどき貴重な本格パズラー集。ヤッフェの「ママは何でも知っている」から綿々と続く?女安楽椅子探偵+ワトソン(いやアーチー・グッドウィンか)の物語に、ケイゾクのミショー・テイストを加えた、と言っても伝わらないか。

既に解決済の事件や時効事件の資料を保管する犯罪資料館=通称赤い博物館の館長=コミュ障で出世から外れた美貌の元キャリアと、ミスで捜査一課から左遷された刑事のコンビが、時効事件を再調査していく物語。

第一話「パンの身代金」は、どんでん返しは凄いが、ちょっと反則気味。さらに動機が弱い。トリックのためのトリック臭い。「復讐日記」は、パズラーとしてはベスト。ちょっと無理がないこともないが、このトリックは素晴らしいし、日記からの推理も良く出来ている。

「死が共犯者を別つまで」も、交換殺人を最初にバラしておきながら、さらに意表をついてくる。(冒頭の殺人シーンはちょっとあざといが)「炎」も良く出来ていて、特にラストの娘が助かった真の理由のダークさは、うなされるほど怖い。

そして、ラストの「死に至る問い」は、今までの作品全体に感じる動機の弱さを、たぶん作者も意識した上で、書下ろしの本作は、とんでもない動機をテーマに持ってきた。無茶だけれど、何か作者の意地が感じられて、微笑ましい。

というわけで、五篇の中では「復讐日記」と「炎」が傑作だと思うが、無茶な部分はあっても、全ての作品でネガとポジをひっくり返そうとする、作者の稚気に乾杯。マンネリに陥りそうな展開を、様々な手で避けているのも素晴らしい。続編に期待。

 

●7338 希望のかたわれ (ミステリ)メヒティルト・ボルマン(河出新)☆☆☆☆

 

希望のかたわれ

希望のかたわれ

 

 

昨年度の欧州ミステリの大躍進の中、著者の「沈黙を破る者」の評価がイマイチに感じたのだが、今回はどうだろうか。本書は実はフクシマがきっかけに生まれた、ドイツ人作家によるチェルノブイリの物語である。

本書では、3つのストーリーが交互に語られる。チェルノブイリのそばの「ゾーン」で一人で暮らすヴァレンティナは、ドイツで行方不明になった娘のカテリーナのために、自らの過去の手記をしたためる。(その回想録も含めると、四つのストーリーとも言える)

次が、突然売春組織から逃れてきたターニャという少女を匿い、徐々に安寧な日常生活から逸脱していく農夫のレスマンの物語。最後に、ロシアから大量に失踪した少女たちを追って、ドイツに向かうキエフ警察のレオニード警部の物語。

最初は、この3つの物語がどうつながるのか、良く解らないのだが、たぶん中心となるヴァレンティナの手記が、チェルノブイリの真実を語っていて、痛くてたまらない。ただ、中盤をすぎると、ようやく3つのストーリーがどう絡むのかが、見えてくる。

それは、血の絆であり、ウクライナの哀しい歴史であり、現在の東ヨーロッパの厳しい現状である。

北欧ミステリにおいては、人身売買が描かれることが非常に多い。そして、本書でも、その舞台は地政学的にも経済的にも、著者の故郷ドイツとなる。

そのドイツに今、今度は中東から難民が押し寄せる。ミステリとしての衝撃はそれほどではないが、欧州の現状(と、もちろん我が国)を考えさせる、深くて重い作品である。

 

 ●7339 星読島に星は流れた (ミステリ) 久住四季 (創元社) ☆☆☆☆

 

 

著者はラノベ界?では有名なパズラー作家らしいけど、確かに本書はミステリ・センスの光る傑作であり、ぜひラノベから足を洗ってほしいと感じた。

基本的には「そして誰もいなくなった」=嵐の孤島ミステリなのだが、日本人が主人公でありながら、舞台をマサチューセッツに持ってきて、主人公の暗い過去を、アメリカンギャグ(おばあちゃん)で吹き飛ばす導入部から、一気に引き込まれた。

正直、真犯人は見え見えなのだが、そこにいたる論理の冴えや、何よりも本書の構造をなす、ある構図が素晴らしい。基本的には、乱歩の言うプ○○○○○○ーの殺人なのだが、良く考えればあまり実例がなく、長編ミステリで、ここまでメインに使った作品を他に思いだせない。

そして、たぶん著者は、ゴールドマンの「暗黒星ネメシス」を読んだのではないか?今やほとんど否定されてしまったが恐竜絶滅の原因となった隕石の原因を、宇宙のある構造に求めた「ネメシス」と、本書の犯罪の構造は、僕には相似形に見える。そして、それは妖しくも美しい。

ただ、ネットの感想で多くが、ラノベ作家だけあってキャラが立っている、というのには閉口する。ラノベのキャラ立ちは、アニメの世界で、大人にはちょっとつらい。

本書も、博士を始めとした女性のワンパターンの人物造形には、正直いらっとした。(個人的に最悪なのは「図書館戦争」)そうは言っても、本書はやはり筋のいいパズラーであり、次作に期待したい。

 

●7340 猟犬 (ミステリ) ヨルン・リーエル・ホルスト (HPM) ☆☆☆☆

 

猟犬 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

猟犬 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

あの「ミレニアム」で始まった北欧ミステリ・ブームも、ノルウェー産の本書で、個人的には、スウェーデンフィンランドデンマークアイスランド、と完全制覇?

しかし、全体に非常にレベルが高いし、マルティンベック以来の警察小説が主であったり、テーマが似ていたり、国を越えた共通点が多いのだが、その中でも人物造形の確かさは本書でも素晴らしい。(もうひとつの特徴と言える、暗さ、重さは、本書はそれほどでもなく、これもまた好印象)

主人公の刑事ヴィスティングと、新聞記者の娘のリーナの共同捜査が、うまく描かれ、一気に引き込まれる。17年前に逮捕した誘拐事件の犯人の決め手となった証拠が偽造であったとして、停職処分となったヴィスティングと、父を助けようとして新たな殺人事件に巻き込まれていくリーナ。

前半は、いったい誰が証拠を偽造したか、後半は二つの事件がどう繋がるか、という興味で読ませる。ただ、正直言ってミステリとして見たときには、前半の犯人は意外過ぎて解り易い?し、後半は論理的にかなり破綻している。

とはいうものの、これだけ読ませてくれれば十分としよう。本書はシリーズ第八作で、作者は執筆当時は現役刑事ということだ。それにしても、素晴らしい筆力だ。

 

●7341 アリババ (ビジネス) ポーター・エリスマン (新潮社) ☆☆☆☆
 
アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略

アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略

 

 

正直、アリババって中国に保護された半国営企業のように捉えていたのだが、本書の内容を信じるならば、全く違っていた。当初は巨人イーベイに何度も叩かれながら、這い上がってきた企業のようだ。

著者はそのアリババの挫折と成長を支えてきた米国人。こういう人材がいるところが、米国の奥深さであり、米中関係の複雑さだろうか。

正直、ITとしては、ジャックマーのビジネスモデルがどれだけ独創的かは、素人の僕には解らない。(本書を信じれば、ジャック・マーも素人のようだが)

ただ、タオバオ=オークション・サイトにワンワン?というチャット機能をつけたり、サイトを中国流にカスタマイズしてきたのと、あくまで中国の中小企業の発展のため、無料サイトを通してきたこと(ちょっときれいごとすぎるが)、それにマーの人間的魅力が、アリババの成功要因か。

逆に本書に登場するグーグルのラリー・ペイジとセフゲイ・ブリンが、いかにも傲慢に描かれていて興味深い。(あたかも、中国当局がグーグルを認めない言い訳?みたいに感じた)

ただ、個人的には、孫正義がほとんど出てこないのが物足りないし、Tモールはたぶん楽天を真似ていると思うのだが、楽天も全く出てこない。このあたりは、所詮日本のECは、英語世界からしたら番外地にすぎないのか、米国人である著者の限界なのかは、今のところ解らないが。

そうは言っても、なかなか情報がなかったアリババの全体像を理解するには、本書は何より読みやすくて、入門編としては合格だと感じた。

 

 ●7342 怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関(ミステリ)法月倫太郎(講談社)☆☆★

 

怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関

怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関

 

 

大森大絶賛だけれど、僕は本書を認めない。(ネットの評価も散々)個人的に前作も、法月の嫌なところがかなり出ていて(スタイリッシュだけれど、中身がない)評価しなかったが、今回はそれ以上にダメ。

逆に「ノックスマシーン」は、マニアとして非常に楽しめたのだが、これは読者を選ぶわけで、年間ベストに選ばれたことで、多くのライトファンを悩ましてしまった。

で、今回は「ノックス=量子力学ミステリ?」をジュブナイルの長編でやる、というのは、完全に戦略ミス。後半は、本当に読んでいてつらかった。一応、量子力学を少しは齧った僕がそうなのだから、イーガンなど読んだことがないミステリ・ファンは理解不能だろう。

 

 ●7343 片桐大三郎とXYZの悲劇 (ミステリ) 倉知 淳 (文春社) ☆☆☆★

 

片桐大三郎とXYZの悲劇

片桐大三郎とXYZの悲劇

 

 

題名から解るように、かのレーン四部作のパロディ、いやオマージュであり、冒頭「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」では、満員の山手線で毒殺事件が起き(もちろん、X)次の「極めて陽気で呑気な凶器」では、何とウクレレで殺人が起きる。(もちろんY=マンドリン

というわけで、マニアにとっては大爆笑であり、まあキャラクター的にも、片桐はあまりにもだけれど(まあ、本家のレーンもかなり芝居がかっていることに、Xの再読で驚いたが)面白く読めた。

ただ「黄金の羊毛亭」氏が指摘しているように、2作ともパズラーとしては、いかにも緩い。そのあたり、クイーンファンとしては、どうにも引っかかってしまう。

で、最悪なのは次の「途切れ途切れの誘拐」。そもそも、どこがZへのオマージュなのか分からないし(解らない、ということがオマージュかもしれないが)論理的に破綻しているうえに、ラスト最高に後味がわるいのだ。この意外な凶器は、やっぱりちょっと耐えられない。

で、ラストの「片桐大三郎最後の季節」は、お約束通りある仕掛けがあって、見事な四部作?のエンディングとなるのだが、やっぱり四作通してだと、合格点はあげられないなあ。

 

 ●7344 下町ロケット2 ガウディ計画 (フィクション)池井戸潤小学館)☆☆☆☆

 

下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

 

 

TV「下町ロケット」の第一回を観たとき、いくらスペシャルといって、ここまで話が進んで、どうやって三か月もたせるのか?と思ったら、何とこういうことだったのか。小学館にこんな知恵者がいるとは思えないのだが。

ただ、個人的には「下町ロケット」は、ある意味完璧な作品なので、2はいらないなあ、と思っていたのだが、そういう時に限って図書館で手に入ってしまう。(ちょうど発売日に電話予約したら、1番目だった。モズの最新作が同じ発売日で11番だったので、やっぱりミステリの方がマニアが多いのか?)

で、結論から言うと、本書もやっぱり傑作で、一気に読んでしまった。ロケットの後が心臓弁とは驚いたが、きちんとつながるところは素晴らしい。(しかし、今田に医師を演じられるのだろうか?「蝉しぐれ」は最悪だった・・)

ただ、結局第一作は超えられないし、基本パターンの繰り返しである。というわけで、読んでる間は面白かったし、TVドラマとしても魅力的だけれど、やっぱり必要なかった気もする。

 

 ●7345 井沢元彦の戦乱の日本史 (歴史) (小学館) ☆☆☆★

 

井沢元彦の戦乱の日本史

井沢元彦の戦乱の日本史

 

 

小学館と言えば、逆説の日本史だ。たぶん、そこからのスピンオフ本だが、とりあえず借りて読みだしたら、やっぱりやめられなくて一気読みだった。ほとんど既読だが、やはり面白いのだからしょうがない。

で、今回朝鮮出兵において、当然秀吉は勝つもりであり、参加しなかった家康が偉いのではなく、秀吉が家康に参加させなかった(新たな領土を得るチャンスを奪った)という視点は(読んだような気もしてきたが)結構斬新で気に入ってしまった。

 

 ●7346 坂本龍馬を英雄にした男 大久保一翁(歴史) 古川愛哲 (講談α)☆☆☆★

 

坂本龍馬を英雄にした男 大久保一翁 (講談社+α新書)

坂本龍馬を英雄にした男 大久保一翁 (講談社+α新書)

 

 

大政奉還」「船中八策」は、龍馬ではなく、大久保一翁のアイディアであった、というのは、半藤一利があちこちで書いているので、てっきり定説かと思ったら、大久保に関してはきちんとした評伝が今まで一冊しかない、という。

確かに大久保の伝記など読んだことがなかったので、本書で語られる幕臣大久保の姿は、面白く魅力的だ。ただ、たぶん著者の筆力不足か、もうひとつ迫力というか、格が足りない。しかし題名とは裏腹に、龍馬へのリスペクトもたっぷりで、好感は持てる。

 

 ●7347 男性論 (エッセイ) ヤマザキマリ (文春新) ☆☆☆★

 

男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)

男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)

 

 

これまた、偶然図書館で見つけたのだが、少しは知っていたが、著者の波乱万丈な人生は、あの波乱万丈?の「テルマエ・ロマエ」ですら、全く歯が立たない。ただ、一冊のエッセイとして本書を見た場合、後半題名と全く関係なくなるのは愛嬌として、どうにも内容がとっちらかって、落ち着かない。

その上、僕はやっぱりイタリア流というか、ラテン流の濃密なコミュニケーション、という奴は勘弁してほしい。

というわけで、ネットで本書は絶賛の嵐だが、個人的には評価をためらってしまう。まあ、例の百万円暴露問題には、日本のエンタメ契約が、泳げタイヤキ君、の時代から変わっていないことに、あきれるしかないが。

 

●7348 ピルグリム1名前のない男たち(ミステリ)テリー・ヘイズ(早川文)☆☆☆☆

 

ピルグリム〔1〕 名前のない男たち

ピルグリム〔1〕 名前のない男たち

 

 


 ●7349 ピルグリム2ダークウィンター(ミステリ)テリー・ヘイズ(早川文)☆☆☆☆

 

ピルグリム〔2〕 ダーク・ウィンター

ピルグリム〔2〕 ダーク・ウィンター

 

 


 ●7350 ピルグリム3遠くの敵    (ミステリ)テリー・ヘイズ(早川文)☆☆☆☆

 

ピルグリム〔3〕 遠くの敵

ピルグリム〔3〕 遠くの敵

 

 

常々あのシンプルな「マッドマックス」から「2」のストーリー世界を創り上げた(でっち上げた?)作家は、とんでもない天才かつ剛腕だと思っていたが、その「2」の脚本家がテリー・ヘイズであり、本書はその処女作の大長編である。

そして、彼はやはり只者ではなかった。これが処女作とは、驚きの傑作である。冷戦終了後壊滅状態に陥ってしまった、スパイ・冒険小説に最近、北上おやじ大絶賛のグルーニーが旋風を起こしているが、申し訳ないが、僕には密度が濃すぎて胃にもたれる。

それに対し、確か池上は本書の方を評価していたが、僕も今回は珍しく池上を支持する。とにかく、3巻に渡る大長編なのだが、189にのぼる各章が結構短く、場面展開が早くて、長さに比較して非常に読みやすい。さすがはハリウッドである。(見てないんだけれど「24」ってこんな感じかな)

しかも、人物造形も良く出来ていて、主人公の伝説の諜報部員ピルグリムと、天才テロリスト、サラセンの両雄だけでなく、脇役も素晴らしい。ピルグリムの上司の「死のささやき」天才ハッカー「バトルボイ」や大統領もいいが、ピルグリムの親友のブラッドリーとその妻マーシーが出色の出来。(9・11の描き方が素晴らしい)ルパン3世と次元みたい。

しかし、長大な物語の骨格は実はシンプルで、基本は「ジャッカルの日」だ。ジャッカル=サラセン、ルベル警視がピルグリム、ドゴール暗殺が米国バイオテロ計画。そして、もちろん双方失敗の終わるのはお約束だ。

ただ、一点どうしても納得のいかない部分が残念ながらある。冒頭とラストで描かれる2つの殺人事件と本筋のテロ計画が、トルコの観光地ボドルムでクロスするのが本書のミソだが、僕が読み違えていなければ、それは単なる偶然なのだ。

うううん、これはちょっとねえ。完全殺人の物語も、それはそれで魅力的ではあるのだが、やはりこれでは構成美が足りない。美しくないのだ。

 

●7351 最強のふたり 佐治敬三開高健 (NF) 北康利 (講談社) ☆☆☆☆★

 

佐治敬三と開高健 最強のふたり

佐治敬三と開高健 最強のふたり

 

 

一応ルーツは関西人でありながら、開高健を読んだことがない。(山口瞳もそうだが)「マッサン」を見ていたときも、鳥井信治郎について読もうとは思わなかった。こういう僕にとって、最強のタイトルの本書が上梓され、あわてて読み始めた。

そして、ここで描かれるサントリーの歴史は、想像をはるかに超えて面白く、なぜ今まで読まなかったのか、と悔やんでしまった。

というわけで、鳥井信治郎から佐治敬三(そして描かれないが、現社長の佐治信忠)と続くサントリーの破天荒なビジネスストーリーは、たとえ誇張が入っていても、やはり面白い。

著者の本を読むのは、たぶん三冊目だが、過去は白洲次郎西郷隆盛とこれまた素材が抜群で、面白かったのだが著者の実力は良く見えなかった。ただ本書は以下の点だけでも著者の取材力は素晴らしく、それをまた許したサントリーの懐も深い。

すなわち、誰もが変だと思いながら敢えて突っ込まない、鳥井と佐治の苗字の違いである。通常は母方に養子に入ったとされるが、実は真相はそんな単純な話ではなく、かなりドロドロと生臭いもののようだ。

内容は本書で確認してほしいが、さすがにこれには驚いてしまった。そして、本書の後半は開高健の物語となる。正直、最初は一冊の本として、バランスが悪いと思った。しかし、開高という化け物を描こうとすると、このバランスの悪さ、いや崩壊は必然にも感じた。

まずは、サントリー宣伝部での活躍、梁山泊としての寿屋宣伝部の仲間たち(洋酒天国編集部)そして直木賞受賞、さらにはベトナム戦争と「夏の闇」。クサンチッペに例えられる開高の悪妻牧羊子、夏の闇の女のモデル佐々木千世、更には開高の愛人?高美恵子、娘の道子、等々がネットですぐ画像が出てきてしまう今の世を、どう受け止めればいいのだろうか。

読了して思うのは、佐治ではなく、鳥井信治郎開高健こそが、最強であり、それは過剰なまでの馬力と女性関係に象徴される。そして、佐治はそんな二人を見守る守護者のように感じてしまった。孤独でストイックな。

というわけで、正直消化不良な部分(特にビジネスに関して)も多々あるのだが、一方ではとんでもない傑作を読んでしまった気もする。

そして、杉江さんの起業一周年パーティーで、サントリーの人たちが、スコール!と乾杯した意味が、本書の冒頭で明らかになった。そうだったんだ。そういえば、昔中井さんから「サントリー・クォータリー」をもらったことがあったなあ。

 

 ●7352 ゲルダ (NF) イルメ・シャーバー (祥伝社) ☆☆☆☆

 

ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯

ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯

 

 

副題は、キャパが愛した女性写真家の生涯、だが、表紙裏に書かれた「ゲルダはキャパの最愛の人、だけの存在ではなかった」という言葉こそが、本書のテーマである。

ウィーランのキャパの伝記で、その魅力的な恋人ゲルダが、ビジネスにおいてもキャパのパートナーであったことが新鮮であった。そして、その後キャパとは二人はユニット名であった、との文章も読んだが、それを証明するのが本書の丁寧な取材である。

ゲルダの短い人生に、文章化された記述はほとんどなく、シャーバーは膨大なインタビューから、彼女の真実を明らかにしていく。そして、明確になったのはゲルダは短期間で写真家としての腕を上達させ、遂にキャパと並ぶ、いやキャパなしでも問題ない一人の女性写真家と成長し、そのしょっぱなで帰らぬ人となってしまったという事実だ。

とにかく、本書はインタビューとともに写真が多く、そのあたりがリアルに迫ってくるのだ。正直、素行面にはゲルダはかなり問題があり、キャパとの関係も継続したかどうか疑わしい。

しかし、皮肉なことに戦争という非日常が、二人の才能を一気に開花させた。極限状態こそが、二人の過剰さを受け止めた。そして、その写真から見えるゲルダの世界は、対象をその背景ごとつつみこむ大きさであり、キャパのそれは、対象に一直線に迫る勇気である。

沢木耕太郎が30ページの解説と、解説者まえがき?を書いている。そして、こんな本を祥伝社が上梓したことには、驚きを禁じ得ない。いつか、沢木が裏話をしてくれるのだろうか。(できれば、沢木の「キャパの十字架」の真相?に対する、シャーパーの意見を聞いてみたかった)

 

 ●7353 エンタテインメントの作り方 (エッセイ) 貴志祐介 (角川書) ☆☆☆☆

 

 

今や抜群の安定感のある著者の珍しいエッセイ、というか創作講座。(当初、あくまでエッセイと思って読んでいたが、途中で貴志は結構真面目に創作講座をやっている気がしてきた)

ヤマザキマリ等々のエッセイと違い、本書は彼の作品と同じく、きちんと論理=設計図が引かれており、個人的にはそこに共感してしまう。

また、もし僕が彼のような才能を手に入れたら、やはり自分の作品には同じような考を持つだろうと確信を持って言える。それほど、彼のエンタメに対する理論武装は素晴らしい。もちろん、同年齢からくる共感もあるだろうが。

また、読み物としては彼の場合ほとんどの作品を読んでいるので(たぶん、未読は「雀蜂」のみ)引用が全て理解でき、楽しめたことも確か。ただ、本書を読んで作家になれるかどうかは、かなり疑問だが。

 

 ●7354 やってみなはれ みとくんなはれ (NF)開高健山口瞳(新潮文)☆☆☆☆

 

やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)

やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)

 

 

最強のふたり」に出てきた「幻のサントリー社史」で、何と戦前篇を山口、戦後篇を開高が執筆しており、それがこうやって上梓されているのだから驚きである。

普通、社史なんて誰もきちんと読まないだろうが、さすがに山口の文章は抜群で、一気に読んでしまう。ただ、本人も書いているが、なぜか途中サントリーとは関係ない山口の父親が大活躍?したりしてしまうのだが。

後半は開高の出番だが、正直この文章はあまりにも饒舌かつ猥雑な戯作調で、個人的には山口の方が口に合った。

また、物語も宣伝部の話が多すぎる、と思っていたのだが、読了して「最強のふたり」が、あまりにも本書の記述が多すぎることに気づいてしまった。それほど、二人の物語は面白い。

しかし、時代の制約はあるのだろうが、サントリーのビジネスが宣伝だけに見えてしまうのは、痛しかゆしかなあ。それにしても、こんなカルチャーの会社がキリント一緒になろうとした、だけでも驚愕である。

結局、本書も「最強」も、サントリーがビールに進出したところで終るが、「最強」は、その後のキリンとの破局や、新浪社長の登場まで描いてほしかった)

 

 ●7355 バビロンⅠ -女- (ミステリ) 野崎まど (講談タ) ☆☆☆☆
 
バビロン1 ―女― (講談社タイガ)

バビロン1 ―女― (講談社タイガ)

 

 

メディアワークス文庫に対抗して、講談社タイガ(文庫はつかない?)が創刊され、その最初のラインナップが、西尾維新森博嗣と並んで、野崎まどである。当然、ラノベの読者の次のステップを狙うのだろうが、どうやらあの講談社ノベルスが、こちらに移行してしまうようでもある。

宇山さんは、天国で何を思うのだろうが。閑話休題。そして、本書だが、今までの舞台=学園とは違い、検察と企業犯罪が舞台で驚くのだが、そこはやはり野崎印は変わらない。

ベタなギャグも数は減っても健在だし、ミステリともSFとも解らないストーリーは、どんどん意外な方向に転がって、八王子、多摩、町田、相模原を合体させた新域なるトンデモまで登場する。正直、本書は長大なストーリーの冒頭にすぎない感じなので、評価は難しいのだが、野崎がきちんと伏線を回収してくれることを信じて、シリーズとつきあっていこうと思う。

 

 

2015年 10月に読んだ本

●7319 血の弔旗 (ミステリ) 藤田宜永 (講談社) ☆☆☆★

 

血の弔旗

血の弔旗

 

 

者の作品にはもはや興味がなくなっていたのだが、今回は分厚くて力が入っている気がして読んでみたが(何せ、著者の最高傑作はあの超分厚い「鋼鉄の騎士」なので)読了して微妙な出来。

良く考えると、著者の作品は初期は冒険小説であり、そして探偵小説(ハードボイルド)や、読んでないけれど恋愛小説と変化してきたが、本書のような犯罪小説はあるようでなかった気がする。

内容としては、戦後すぐの強盗殺人事件が、時効まで主人公たち四人の犯罪者を苦しめるのだが、前半は根津がいかにもアプレゲール的な虚無感を醸し出し魅力的だし、四人のつながりが疎開時代にある、というのも時代を映し出して効果を出している。

そして、物語は昭和=戦後史として「白夜行」のように、時代風俗の変遷とともに描かれるが、途中で鏡子が現れるあたりから、どうも個人的には話に入れなくなる。まず、これは偶然すぎるし、さらに根津が彼女に惚れてしまう、というのは最初の性格設定から変わりすぎだし、11億円をそんな危険にさらすのはあり得ない。

で、結局(これまたかなり無茶な展開だが)そこから、完全犯罪が崩れていくのだが、ラストの根津のいい人ぶりには、正直がっかりした。また、結局真犯人は誰か、というのも一応意外な犯人が用意されているが、その前にもう誰でもいいじゃん、という気になってしまったのも確か。

というわけで、前半だけなら、今年のベスト10候補くらいには挙げられたが、残念ながら後半は腰砕け。

 

 ●7320 九尾の猫 (ミステリ) エラリー・クイーン (早川文) ☆☆☆☆

 

九尾の猫〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

九尾の猫〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

越前新訳は「災厄の町」から、同じライツヴィルものの「フォックス家」「十日間」二作を飛び越えて、ニューヨークが舞台の本書を選んだ。既に「フォックス家」を旧訳で再読した上、「十日間」は苦手の僕にとっては、越前さんGJ!という感じ。

「九尾の猫」はクイーン版「ABC殺人事件」であり、サイコキラーもののはしりであり、NYがパニックに陥るところが読みどころ、というのは憶えていたのだが、それ以外は全く記憶がない。(でも、面白かった記憶はある)

で、今回ミッシングリンクの謎に関しては、かなりレベルが高いと感心したのだが、越前さんには悪いが、新訳の良さはあまり感じなかった。「災厄の町」に関しては、新訳があまりにも素晴らしく、作品だけでなくクイーン後期の再評価まで強いられたのだが。

たぶん本書は舞台がNYであり、準主人公のジェイムズとセレスト(これが、リアリティーがない)以外の人物描写がほとんどないせいで、訳の違いが判らなかったと思ったのだが、旧訳が青田勝ではなく、大庭忠男だったのが良かったのかもしれない。

記憶よりちょっと小粒だが(まあ、これはいつものこと)本書は後期クイーンの異色の傑作であることは間違いない。できれば、若いカップルではなく、警察官で質実剛健で行きたかったが、これは時代的に無理だったのだろう。

 

●7321 Aではない君と (ミステリ) 薬丸 岳 (講談社) ☆☆☆☆
 
Aではない君と

Aではない君と

 

 

ここ二冊、やや変化球だった著者の新作は、題名から解るように、これぞ薬丸印という直球ど真ん中。(ただ、今回は埼玉がでてこないが)冒頭、主人公にかかってくる電話(それによって、離婚した妻が引き取った中学生の息子が殺人罪で捕まったことが告げられる)から、一気に引き込まれ、息苦しくも目が離せなくなる。

仕事での成功、新しい恋人、それらが一気にガラガラと崩れ、小市民的な怒りや逃げと、それに気づいてしまった主人公の葛藤に感情移入してしまい、痛くて辛い。そして、ついに明らかになる真相は、おぞましくもリアルだ。

本書は薬丸印=贖罪の物語であり、かつバラバラだった家族の再生の物語である。正直言って、ラストの展開は、あまりにも主人公が立派な気もするが、やはりこういう話を描かせたら、薬丸は第一人者であることを再認識した。ただ、これがミステリの面白さか?と問うたなら、正直疑問も感じてしまうのだが。

 

 ●7322 鍵の掛かった男 (ミステリ) 有栖川有栖 (幻冬舎) ☆☆☆☆

 

鍵の掛かった男

鍵の掛かった男

 

 

有栖川の新作は、火村シリーズ最長の作品であり、ホテルに長期滞在をしていて自殺した(と警察が判断した)ある男の過去を、ある理由で火村ではなくアリスが暴いていく、シリーズ異色作。(火村とアリスの関係が、御手洗と石岡にかぶってしまうのはご愛嬌)

シンプルすぎる設定から、複雑な物語を紡ぎだした職人芸には感嘆だが、正直ちょっと冗長に感じる部分もあった。主人公の過去に様々な人物を絡めて読ませるが、この内容だとやはり長すぎるし、最後の解決もやや引っ張りすぎに思えた。

また、ラストで明かされる動機は、なるほどこうきたか、と思いつつも、クイーンというよりクリスティー的偶然であり、著者らしくきちんと伏線は張っているが、やや微妙な感じ。(「鏡は横にひび割れて」を思い起こした)というわけで、ちょっと甘目の採点。

 

 ●7323 太閤の巨いなる遺命 (時代小説) 岩井三四二 (講談社) ☆☆☆

 

太閤の巨いなる遺命

太閤の巨いなる遺命

 

 

著者に関してはかつて短編集を2~3冊読み、最初はサラリーマン的なペーソス溢れる時代小説が新鮮だったのだが、すぐに飽きてしまった。しかし、その後本書のような骨太の冒険小説を書くようになっていたんだ。

しかし、過去の経験から、こういう作品はよほど人物造形が出来ていないと(有名な武将も出てこないので)劇画調になってしまい、しらけてしまう。

本書も、構想が雄大なだけに(逆宇宙戦艦ヤマト?)どうもリアリティーが感じられなく、感情移入しずらかった。ちょうど「大江戸恐龍伝」の、つまらなかった南洋パーツに似たものを感じた。縄田一男の激賞は、相変らず信頼できない。

 

●7324 WOOL ウール (SF) ヒュー・ハウイー (角川文) ☆☆☆☆

 

ウール 上 (角川文庫)

ウール 上 (角川文庫)

 

 

 

ウール 下 (角川文庫)

ウール 下 (角川文庫)

 

 

大森絶賛の米国KDPで大ヒットしたデストピアSF大作、を偶然図書館で見つけて大森の解説に釣られて読みだした。内容も結構好みだが、著者の略歴が藤井大洋と重なるし、大手出版社相手の立ち回り(電子書籍出版を含まない紙だけの契約!)が、小説以上に?面白い。

で、内容だが、確かに世界の終末以降、サイロと言われる地下144階のシェルターで暮らす人々の物語は魅力的だし、下巻に入ってあることが明らかになってからの展開も、予想はつくが面白い。

ただ、小説的には人物造形や情景描写がイマイチで、かなり読みにくい部分もある。まあ、少し甘めの採点だろうか。

このあと、本書の前日譚である「シフト」と、本書の完結編である「ダスト」で、サイロ三部作の完結ということだが、「パインズ」を初めとして、最近三部作が多すぎる。

しかも3×上下だと、もう少しリーダビリティーが欲しい。翻訳のせいかもしれないが。何より、「パインズ」と同じく、ネットで調べていたら、その後の展開も何となく解ってしまった、気がする・・・・

 

●7325  声  (ミステリ)アーナルデュル・インドリダソン(創元社)☆☆☆☆

 

声

 

 

「湿地」「緑衣の女」に続く、アイスランドミステリ、エーレンデュリ・シリーズ第三弾。相変らず、北欧ミステリらしく、暗く重く、過剰なまでの人物描写で読ませるが、前二作に比べて、ミステリとしてレベルアップしているし、何より被害者の過去=ボーイソプラノの少年スター(のなれの果て)の造型が素晴らしい。

本書のテーマは、家族の崩壊であり、サブストーリー(少年へのDV)や、主人公自身の家庭の崩壊(これは、前作の方が強烈だったが)も含め、読んでいて相変らず辛くて、痛くなってしまう。

そして、書けないが、もう一つの家族の崩壊が事件の真相に直接絡んでしまう。ミステリとしてのレベルアップというのは、脇の事件も含めて、常に意外性を追及しているところだが、それが論理のアクロバット=美しさにはつながらず、ただの意外性に終わっているのは厳しく言えば、物足りない。

ただ、このシリーズの安定感は抜群であり、次は再生の物語を読んでみたい。少し、その兆しはあるのだから。

 

●7326 SROⅥ 四重人格 (ミステリ) 富樫倫太郎 (中公文) ☆☆☆☆
 
SROVI - 四重人格 (中公文庫)

SROVI - 四重人格 (中公文庫)

 

 

シリーズ第六弾。前作はエピソード0、ということで、あの近藤房子の物語だった。で、本作は、ボディーファームの結末に戻って、房子のせいでバラバラになってしまったSROが、再び動き出す物語。

だから、房子は登場しない。ただこのシリーズ、房子が出てこない偶数巻は、レベルが落ちるのも事実。そのあたりは、ジャック・カーリーのカーソン・ライダーシリーズとジェレミーの関係と相似だ。(何のことか分からない人ゴメン)

しかし、今回は本筋以上に芝原麗子、尾形洋輔、針谷太一、といったメンバーのストーリーが読ませる。このあたりは、さすがの筆力。(唯一、リーダー山根新九郎の恋?だけは、相手の鈴木花子!?が変すぎて、どうするつもりなのか?と思ってしまう。彼女もシリアルキラーでは?という声がネットに充満しているので、さすがにそれはない?)

で、本筋の方は、ゴルゴ13のような(違うか?)殺し屋が四重人格シリアルキラーだった?と言う話で、読んでいる間は面白いけど(主人公がGACKTを思いださせて、つい笑ってしまうが)これが良かったのかは、今のところ判断不能。

 

●7327 犬の掟 (ミステリ) 佐々木譲 (新潮社) ☆☆☆☆
 
犬の掟

犬の掟

 

 

このところ新刊上梓が続いている佐々木だが、一定のレベルを常に保っているのはさすがだ。道警シリーズの頃は、かなり荒っぽくなってしまい、見放していたのだが、ベテラン健在である。

今回も、基本ストーリーは「相棒」のある話に相似だが、そこにいたる丁寧な伏線や、双方向からの捜査が最後にクロスする(場所も含めた)プロット展開が美しい。その結果、藤田の「血の弔旗」よりも、はるかに犯人の虚無感を描き出すことに成功している。

ただ、そうは言っても、全体のストーリーには既視感がかなりあり、大傑作とはまだ言い難い。次に期待したい。

 

●7328 犯人に告ぐ2 (ミステリ) 雫井脩介 (双葉社) ☆☆☆☆★
 
犯人に告ぐ : 2 闇の蜃気楼

犯人に告ぐ : 2 闇の蜃気楼

 

 

あの大ヒットした「犯人に告ぐ」に2が書かれるとは。著者の前作が気に入らなかっただけにちょっと構えてしまったのだが、読みだしたら止まらない。これは、今年のベストを争う傑作であり、かつ個人的には「マッドマックス」のように1を2が超えたと感じた。

冒頭のオレオレ詐欺集団に巻き込まれ、活躍してしまう不運な兄弟の描写が素晴らしく、そのおかげで読者の多くは、最後までこの犯罪集団「大日本誘拐団」の方につい感情移入してしまう。

オレオレ詐欺に関しては「神の子」の冒頭も素晴らしかったが、本書はその後、誘拐ビジネス?の物語となり、その二段、三段、四段構えの誘拐作戦が、意表を突きながらもシンプルで、感心してしまった。

タイプは違うが、その緻密さは「99%の誘拐」を思い起こした。(あまりにコロンブスの卵で、何かごまかされている気がするし、警察も間抜けな気もするが)

で、ラスト誘拐団頑張れと思いながら、誘拐事件でそれはないよな、と予定調和を感じていたら、あの小川かつおの登場に大爆笑?こうきたか!で、さらにもう一回ということで、見事なエンディング。素晴らしい。

確かに本書は前作のような劇場犯罪、公開捜査はないので、この題名がいいのかは疑問だが、今回バッドマンに代わって、巻島と対決する、リップマン=淡野の存在感が半端ない。(脳内的には、綾野剛に自動変換、元祖は87分署のデフマン?)これは、3が生まれますか。期待しましょう。

 

 ●7329 勝手に!文庫解説 (書評) 北上次郎 (集英文) ☆☆☆☆

 

勝手に! 文庫解説 (集英社文庫)

勝手に! 文庫解説 (集英社文庫)

 

 

この企画(題名通りに、北上が依頼もないのに勝手に解説を書いてしまう)ミステリマガジンで始まったのには気づいていたが、いつのまにやらこんなに溜まっていたんだ。そして何でこんな企画が始まり、早川ではなく集英社から文庫本になったのか、そのいきさつも本書の「はじめに」で理解できた。

ただ、国内は既読が多いので、解説は面白いが読みたいと思ったのは、北方の「抱影」のみ。海外は逆に知らない作家が多くて、いまさら食指が動かない。(ミステリが少ないし)で、最後にあの未完の大作「氷と炎の歌」があるんだけれど、「ハンターズラン」が読みにくくてしょうがなかった僕としては、悩んでしまう。

まあ、それでも本書を結構楽しんでしまったが、北上・大森・池上・杉江のおなじみ四人による対談が面白い。で、作品がイマイチだと解説でお得感を、という杉江のスタンスに大ブーイング。だから、僕は杉江の書評が嫌いなんだ。解説が良ければいいだけ、本体がダメだと腹立つのに決まってるじゃないか。

 

 ●7330 モダン (フィクション) 原田マハ (文春社) ☆☆☆☆
 
モダン

モダン

 

 

 

「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」に続く絵画モノで、著者自身が働いていたMOMAが舞台の5つの短編が収められている。というわけで、期待は高まるのだが、図書館で手渡されて、その薄さに愕然。しかも文字もスカスカ。

というわけで、恐る恐る読みだしたのだが、冒頭の「中断された展覧会の記憶」は、なんといきなりワイエスの「クリスティーナの世界」。うわあ、いきなり来た!

(MOMAには3回くらい行ったが、ホッパーやダリも良かったが、とにかく「クリスティーナの世界」が最高。たぶん、僕が世界で一番好きな絵画)しかも、時は3・11、舞台は福島。これはインチキである。冷静に読めるはずがない。

で、次の「ロックフェラー家の幽霊」は、まさかの幽霊オチはさすがになかったが、内容的にイマイチと思っていたら、この後の作品の重要は伏線、前ふりだった。(MOMA初代館長のアルフレッドとピカソの関係)

そして、次の「私の好きなマシン」のノスタルジーと素晴らしく新しいオチの冴え。さらに次の「新しい出口」ではあのトム&ティム・ブラウンが登場し、今度は舞台は9・11であり、圧巻のピカソVSマティスの戦い?となる。たぶん、本書の最高傑作。

で、最後に掌編だが、気持ちのいい「あえてよかった」で本書は幕を閉じる。たぶん、読了に二時間かからなかったが、印象は(相変らずネットで絵を見ながら読んだこともあって)かなり濃密。3・11に9・11では、あざとすぎる気もするが、ピカソマティスの関係を画像で理解できただけでも素晴らしい経験だった。

 

 ●7331 あなたは誰? (ミステリ) ヘレン・マクロイ (ちく文) ☆☆☆☆

 

あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

 

 

再評価が進み、旧作が翻訳されているマクロイ。彼女の「逃げる幻」を僕は昨年のベストとした。で、本書は42年の作品だが、何とちくま文庫から渕上痩平(元外務省職員、海外ミステリ研究家)という怪しい訳者で上梓された。

とりあえず、読み終えたが、これがまた評価しずらい作品。ただ、申し訳ない、この渕上という人の訳文は素晴らしい。すごく読みやすくて、あっという間だった。古さも全く感じない。印象評価はやはり良くない。

ただ、内容は何と「殺す者と殺される者」と同じく、あの○○○○オチなのである。もちろん、本書の方が古くて、解説を信用すれば、今や巷に氾濫するこのオチの本書は(たぶん)さきがけなのだ。しかも、その使い方も、まるで「本陣殺人事件」の三本指の男みたいで、リアルタイムで読んだ人(たぶん、もう誰も生きていないだろうが)は、驚いただろうし、怖かったと思う。

でもねえ、ミステリをその歴史的価値だけで、評価していいものなのか。本当に困ってしまう。(結局「黄金の羊毛亭」の本書の解説を読んで、やっぱり本書を評価することにした。まだまだ読みが足りません)

 

 
髑髏の檻 (文春文庫)

髑髏の檻 (文春文庫)

 

 

前作のおけるカーソンがあまりにも痛くて、正直このシリーズと付き合うのはやめようかと思った。でも。こうやって無事新作が出ると(実は一冊飛ばしての翻訳なので、無事とは言えないのかもしれないが)気になって、読んでしまう。

そして、今回はカーソンが休暇中での事件であり、かなり立ち直っていて、楽しく読めた。で、何よりこのシリーズの運命を担うカーソンの兄(ハンニバル・レクターの末裔)ジェレミーだが、本書における彼の登場シーンは最高であり、僕もまたカーソンと同じく腰が抜けた。

たぶん、このシーンを読むだけで(シリーズ愛読者は)満足してしまうだろう。凄い。そして、ありえない。さらに、本書の冒頭のある印象的なシーンは、よくある魅力的なイントロダクションと思ていたら、後半のとんでもない展開にひっくり返ってしまった。

(格闘技団体のエースが犯した殺人の弁護士が彼を催眠術にかけ、そこにカーソンが立ち会うシーン。そして、それはカーソンが予測したように、殺人鬼の過去を暴くスイッチをいれてしまう)

このシリーズは、ここで一皮むけたかもしれない。相変らずとんでもない残虐シーンがありながら、一方ではスラップスティックなギャグが繰り返される。今回のヒロイン、チェリーの言葉が、意識的に男言葉で訳されていて、最初はそれが気になって仕方がなかったが、後半はそれこそ当たり前に思えてしまえた。

正直、カーソン・ライダーシリーズは、もはやレベルアップはないと感じていた。しかし、本書は冒頭のジェレミーの登場から、過去の壮大な悪夢の物語の造型を含め、ちょっと甘いかもしれないが、ひとつの頂点を描いたような気がした。

 

 ●7333 影の中の影 (ミステリ) 月村了衛 (新潮社) ☆☆☆☆

 

影の中の影

影の中の影

 

 

推理作家協会賞を受賞した「土漠の花」は、作者の狙いは解るが、「機龍警察シリーズ」の愛読者としては、物語にコクが足りなかった。本書もまたその系統と思ったのだが、冒頭からジェットコースターに乗せられたみたいで、圧倒された。

本書はカーガーと呼ばれてきた伝説のスーパーヒーローの物語であり、正直そんな存在を今描こうとする著者の冒険小説スピリッツには、感嘆するしかない。(著者があの「鷲は舞い降りた」をバイブルとする気持ちは良く解る)

そして、こういう物語はかつて故・船戸与一が描いていたことを思いだしてしまった。「山猫の夏」そして「猛き箱舟」。

ただ、途中でカーガーこと景村が、自分の過去を語りだすシーンは興醒めした。こういう回想シーンは、機龍警察シリーズでも多用され、そこでも物語の流れを壊すことがあったのだが、今回はあまりにも説明的すぎて、全体の整合性が崩れる。

ここさえなければ、間違いなく★をひとつ追加した。さらに、本書を「ゴルゴ13」+「ダイハード」と評していたコラムがあったが、確かにあまりにも劇画的であることは、間違いない。

しかし、本書の素晴らしい点は、冒頭から散りばめられた、人間関係の伏線が、後半見事に繋がり始めるカタルシスにある。アクションシーンの連続が、深く考えることを許さないにしても、この構築美には感嘆するしかない。

さらには、冒頭ヒロインを助けるのが、やくざ組織であり、それが必然性を持って国家?のために戦う、という設定には痛快を越えて感心した。そして、そのディティールも素晴らしい。著者が初めて、機龍警察以外の傑作を描いた、と言っていいだろう。ラストシーンはある意味陳腐だが、僕は「山猫の夏」のラストシーンと重ねていた。

 

 ●7334 私という名の変奏曲 (ミステリ) 連城三紀彦 (文春文) ☆☆☆★

 

私という名の変奏曲 (文春文庫)

私という名の変奏曲 (文春文庫)

 

 

フジテレビで、本書が天海祐希主演でドラマ化されたのを録画して見ようと思ったら、荒筋を読む限り、僕は本書を読んでいないことが明白になり、あわてて図書館に予約した。で、思ったより時間がかかったのだが、読み始めた。その間、あちこちネットで本書の評価を確認したが、少なくとも世の中の連城ファンに比べて、僕は彼の長編に関しては評価できない、と強く感じた。

本書を多くの人が、連城の長編の最高傑作としているが、僕は納得できない。本書の本質は、一人の女性を七人の人間が殺す、という不可能犯罪にある。確かに、よくそんな謎を考え付き、いちおう論理的に解決させたことには、感心するしかない。

しかし、その結果、本書は非常に人工的な作品となり、正直後半は読むのが辛かった。ここは、七人でなく四人くらいにして、短編、いや中編として書きあげれば、花葬シリーズに劣らない傑作になったと思う。

何度も言うが、連城は結局長編ミステリというものが、本質理解できなかったように感じる。そして、本書のヒロインと天海は年齢も体格?も真逆で、大丈夫かよ、という気がしてきた。(しかし、千街晶之の解説は:髑髏の檻もそうなのだが:全然つまらない。ミステリ界にも、大森が登場することを切に願う)

 

 ●7335 ファンタジードール イヴ (SF) 野崎まど (早川文) ☆☆☆★

 

 

アニメ「ファンタジードール」の前日譚のノベラーゼイション、と言われても、さっぱり解らないのだが、野崎まどということで読んでみた。たった150ページ程度の、長編とも言い難い薄い本だが、今回の野崎の文体は、ラノベ風では全くなく、陰鬱な太宰といったような一人称であり、かなり読みごたえがあった。

そして、何より驚いたのは、これだけ見かけが違うのに、読んでいる間は間違いなく、これもまた野崎ワールドだと感じていた点だ。

ギャグやどんでん返し、けれんに満ちたラノベ風の野崎の文体の奥には、間違いなく、本書のような、陰鬱で無慈悲で超越した世界がある。ただ、それを今回は楽しめたかどうかは、若干疑問が残るのだが。

途中で挫折したが「NOVA+バベル」に収録された野崎の「第五の地平」は、チンギスハンと超ヒモ理論とベタなギャグを、宇宙SFで描いた??とんでもない作品だったが、これまた間違いなく野崎印で、その理系テーストは本書に繋がっている。

しかし、野崎というのは、いったいどういう天才なのだろうか。本当に底が見えない。

 

 ●7336 月世界小説 (SF) 牧野 修 (早川文) ☆☆☆★

 

月世界小説 (ハヤカワ文庫JA)

月世界小説 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

いきなりゲイパレードが、黙示録となり、月世界への旅が、妄想のパラレルワードに誘うとんでもない作品。大勢の人々が本書を、「神狩り」「宇宙の眼」「脱走と追跡のサンバ」「言語破壊官」「エイダ」等々に比較しているが、僕は構造的に「果てしなき流れの果てに」とに相似性を強く感じた。特にラストの処理が。(あ、「デビルマン」も入ってるかな)

というわけで、個人的な著者のイメージを覆す力作、であることは間違いない。ただ、正直言って、今回は途中から良く解らなくなってしまった。なんだかわからないが、凄い気がするけど、やっぱりこの程度の理解では、あまり評価する資格はないだろう。

本題とは関係ないが、山田正紀の解説がメチャ面白い。関西の「四大福音」とは「ダジャレ」=田中啓文、「カメ」=北野勇作、「ジャアク」=小林泰三、「オサム」=牧野修、でよろしいでしょうか?