2017年 10月に読んだ本

●7696 風神雷神 (歴史小説) 柳 広司 (講談社) ☆☆☆☆★

 

風神雷神 風の章

風神雷神 風の章

 

 

 

風神雷神 雷の章

風神雷神 雷の章

 

 

垣根、馳、に続いて、柳が歴史小説の傑作を書いた。偏見かも知れないが、ミステリの第一線の作家が歴史小説を書くと、僕にはプロパーより、ストレスなしですらすらよめる気がしてしまうのだ。

主人公は、俵屋宗達。いいところに眼をつけたと思う。狩野でも長谷川でもない。誰でも知ってるようで、実は知らない。僕は彼の本職が扇屋であることさえ、知らなかった。

上巻の風の章は本阿弥光悦、下巻の雷の章は烏丸光弘という、二人の卓越したプロデューサーによって、宗達はどんどん高見に登り詰めていく。今、こういう絵画がテーマだと、i-PADが大活躍してくれて、登場する絵画を確認しながら読めるので、本当に助かる。そうでなければ、絵というより模様に近い初期の宗達の魅力が、全然分からなかっただろう。

正直、著者のけれんとも言える、時々紛れ込むジャズ用語や、宗達と出雲阿国のちょっとできすぎた関係などをマイナスに捉える人もいるかもしれないが、僕は許容範囲で愉しんでしまった。

まあ、ちょっと甘い評価だが、歴史小説家柳に期待してみた。

 

●7697 フェルメールの街 (ミステリ) 櫻部由美子 (角川春) ☆☆☆★

 

フェルメールの街

フェルメールの街

 

 

全然知らない作家(角川春樹小説賞?)だけれど、フェルメール好きのぼくとしては、表紙に釣られて、つい手に取った。ミステリと書いたが、本質は若きフェルメールと親友レーヴェンフックたちを巡り、まさにフエルメールの街、デルフトを生き生きと描いた作品である。

文章は少し説明臭いし、若書きの感じもあるが、なぜか僕はスイスイ読んでしまった。当時のオランダをイメージしながら。しかし、傑作とは残念ながら言えない。正直、無理矢理くっつけたようなミステリの部分が、かなり残念なできなのだ。で、最後の○○オチも好みではない。

今回もネットで絵を確認しながら読んだ。(作者の創作?にだまされたけれど)ただ、フェルメールの絵に関しても、ある程度知識がないと分からない書き方だし、正直中途半端にも感じる。ということで、評価はこれでも甘めかもしれない。

 

●7698 7人の名探偵 (ミステリ) 麻耶雄嵩山口雅也我孫子武丸有栖川有栖・法月綸太郞・歌野晶午綾辻行人 (講談N) ☆☆☆

 

 新本格3周年に相応しい豪華なラインナップ。もちろん、全作書下ろし、なのに傑作と思う作品はひとつもなかった。というか、そもそもきちんとした名探偵パズラーは有栖川だけで、他はほとんど変化球なのだ。

一応、麻耶と法月も名探偵がでてくるが、前者のラストのぶっ飛び方や、後者のリアルに見えるが無茶苦茶非現実的、というのは、悪い方にらしくて萎えてしまう。我孫子の作品は、まるで「ノックスマシン」のような上、歌野とかぶっている。

有栖川だけが頑張っていて、ネットでも好評だが、正直このトリックはイマイチに感じる。オチは予想がついたが、有栖川らしくて、こっちは好感が持てたが。

 

●7699 機龍警察 狼眼殺手 (ミステリ) 月村了衛 (早川書) ☆☆☆☆

 

 待ちに待ったシリーズ長編第五弾。ネットでの評判も上々で、いやが上にも期待が高まる。しかし、読了後はやや微妙な感じ。

もちろん、駄作ではない。一気に分厚い作品を読まされた。ただ、過去の作品が特捜部の誰かにターゲットを当てた物語だったのに対して、今回はそうなっていない。(てっきり、今度は姿の番だと思っていたが)

たぶん、今回は登場人物が多すぎる。結果、物語がスケールの割には、散漫な感じがしてしまうのだ。あと、これはネットでも書かれているが、結局このシリーズ、機龍の存在がうまく生かせなくなってしまった。本書では、機龍は一回も実働しない。ただ、物語の背景としては、謎を深めているが。

作者がこの大きな「敵」に関して、きちんと既に描いていることを願う。次はそろそろ具体的に書いてもらわないと。というわけで、本書は傑作ではあるが、シリーズ最高作とは言えない。まあ、時間はかかるだろうが、次作に期待。

 

●7700 琥珀の夢 上 (NF) 伊集院静 (集英社) ☆☆☆☆

 

琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎

琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎

 

 

小説、鳥井信治郎、とあるから、ノンフィクションは変か。鳥井=ウィスキーの話しを伊集院が描くというのは、できすぎ、というかぴったり。上巻は信治郎の丁稚時代が主となるが、このあたりは富樫の「堂島物語」を思わせて、一気に読ませる。独立してからの最初の豪華客船の旅にも驚かされるが、やはり一番印象深いのは、冒頭の信治郎と、ある人物の遭遇のシーンだ。まあ、僕はすぐ分かってしまったが、どうやらそれが実話であることには、驚いた。

 

●7701 月明かりの男 (ミステリ) ヘレン・マクロイ (創元文) ☆☆☆

 

月明かりの男 (創元推理文庫)

月明かりの男 (創元推理文庫)

 

 

マクロイがどんどん訳されるのはうれしいが、やはりさすがに全部傑作なわけはない。40年の第二作は、「小鬼の市」や「逃げる幻」のように、戦争の影響が大きい。(被害者が収容所から脱出してきた、ユダヤ人学者という設定)しかし、残念ながら二作よりはかなり落ちる。

どうやらマクロイは本書を、ヴァンダインのように心理学ミステリにしたかったようだが、パズラーとしての脇が甘い上に、驚きも少ない。犯人がミスばかりするのには、閉口してしまう。

まあ、ある人物が本書で登場するのは、解説の鳥飼と同じく、意外ではあったが。

 

●7702 琥珀の夢 下 (NF) 伊集院静 (集英社) ☆☆☆★

 

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎

 

 さて、下巻は信治郎が独立してからの話。で、竹鶴=マッサンも登場してきて、もっと面白くなるように思えたのだが、何か少し消化不良。なかなか、実話というものは難しい。こっちは、後半部分は色んな本で読んでいるので。

 

●7703 孤軍 越境捜査 (ミステリ) 笹本稜平 (双葉社) ☆☆☆

 

孤軍 越境捜査

孤軍 越境捜査

 

 シリーズ5作目だが、前作から急にレベルが落ちた。というより、笹本自体が完全に量産体制に入ってしまい、看板シリーズまでじっくり考えずに書かざるを得ない、というところか。悪い意味で、今野の隠蔽捜査と同じ道を歩んでいる。

鷺沼、宮野、福富(は今回あまり登場せず)三好、井上、彩香、のタスクフォースは相変わらず、生き生きと読ませるのだが、(相変わらず宮野が笑わせる)肝心の謎の方が単純すぎる。また、警察幹部がこんな犯罪を隠蔽するなんて、いくら何でも現実味がない。最初の三作には、妙なリアリティーがあったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

2017年 9月に読んだ本

●7687 盤上の向日葵 (ミステリ) 柚月裕子 (中公社) ☆☆☆☆

 

盤上の向日葵

盤上の向日葵

 

 

冒頭が素晴らしい。羽生をモデルにした将棋の六冠王壬生と、東大卒のIT長者から奨励会を経ずプロ入りした、これまた天才上条の、七冠をかけた決戦が将棋の駒の街、天童で始まろうとしていた。しかし、そこには埼玉県警の二人の刑事(一人はまるで、「孤狼の血」から抜け出たような石破と、奨励会で夢破れ刑事になった佐野のコンビ)が立ち会っていた。

物語はそこで、一気に30年前の諏訪にとび、貧乏な天才少年と、それを助ける将棋好きの先生のストーリーとなる。そして、現在と過去がカットバックで描かれるのだが、そのディティールが太くて、うまくて、分厚い作品を一気に読んでしまった。

では、大傑作かといわれると、これまた困る。小説としては文句はないのだが、ミステリとしては、これは「砂の器」だと、すぐに気づいてしまう。また、終盤の真剣師小池重命をモデルにした、東名重慶のくだりも、面白いのだが、ミステリとしては厳しく言えば陳腐なできだ。

まあ、でもいい。これだけ書いてくれれば十分だ。これで、「慈雨」を入れれば、おすすめ神7がそろった。「慈雨」を僕は評価しないが、本の雑誌No1なんだからいいだろう。

 

●7688 浪漫疾風録 (NF) 生島治郎 (講談社) ☆☆☆★

 

浪漫疾風録 (講談社文庫)

浪漫疾風録 (講談社文庫)

 

 とあるブログで本書の存在を知った。小林、都筑、常盤、等々当時の編集長の話はいくつも読んだが、そう言えば生島=小泉太郎に関しては、読んだことがない、という気がして読み出した。

早川ミステリマガジン創刊時の、田村隆一都筑道夫田中小実昌福島正実、といったメンバーや、佐野洋結城昌治開高健、といった作家たちが次々実名で登場する。当然、妻の小泉喜美子もでてくる。そして、後半出てくる小林信彦の意外なイメージには驚いた。

というわけで、クイクイ一気に読んだのだが、ちょっと合格はつけられない。というのも、著者自身のみが越路という仮名であり、何だかなあ、という感じなのだ。そのせいかもしれないが、すべてにおいて少し掘り下げが足りない気がした。漫画原作みたいなのだ。楽しんでおいて、文句言って悪いが。

 

●7689 監督の問題 (フィクション) 本城雅人 (講談社) ☆☆☆★

 

監督の問題

監督の問題

 

 著者の作品は、野球がテーマだと、魅力が増す感じなのだが、本書は表紙から分かるようにユーモアを狙っていて、微妙な出来。まあ、楽しく読みはしたのだが、それ以上でもなく、それ以下でもない。

珍しく書下ろしの連作短編集なので、何か仕掛けを期待したのだが・・・

 

●7690  幻視街  (SF)  半村良  (講談社) ☆☆☆

 

幻視街 (角川文庫)

幻視街 (角川文庫)

 

 

 半村良もなかなか神7が作れなくて、77年のブログで見つけた古い本を読み出したがイマイチ。冒頭の一番長い「獣人街」は、迫力があって読ませるが、結局よく分からない。これは、新しい聖書の物語なのか。次の「巨根街」はツツイにでもまかせたほうがいいのでは?

「妖星伝」「岬一郎」「産霊山」「石の血脈」あたりまでは、スラスラでるのだが。

 

●7691 名探偵傑作短編集 法月綸太郞編 (ミステリ) 法月綸太郞 (講談文) ☆☆☆

 

名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇 (講談社文庫)
 

 

法月、御手洗、火村の三大?名探偵の企画短編集の第一弾は法月綸太郞。なんだけれど、イマイチのれなかった。こういうとき、自分は本当にパズラーファンなのかと思ってしまう。若い頃はあれほど、クイーンの国名シリーズの解決シーンだけを読んだりしたのに、本書の論理の繰り返しが面倒に感じるのだ。(特に「リターン・ザ・ギフト」。もっとシンプルにした方が傑作になった気がする)僕が変わったのか、作品が悪いのか・・・

収録作は全部読んだはずなのに、ほとんど記憶にないのにあきれる。さすがに協会賞を獲った「都市伝説パズル」は覚えていたが、初読ほどの面白さは感じなかった。

 

●7692 ディレクターズ・カット (ミステリ) 歌野晶午 (幻冬舎) ☆☆☆★

 

ディレクターズ・カット

ディレクターズ・カット

 

 

著者の「密室殺人ゲーム」シリーズが苦手な僕には、ちょっと辛い作品。サイコキラーとTVのやらせを使った、どんでん返しは、よく出来ているような、予想通りのような。とにかく、こういうキャラや文体は苦手なのだ。申し訳ないけど。

 

●7693 落語 魅捨理全集 坊主の愉しみ (ミステリ) 山口雅也  (講談社) ☆☆☆★ 

 

落語魅捨理全集 坊主の愉しみ

落語魅捨理全集 坊主の愉しみ

 

 これまた、無粋な僕には苦手なジャンルだけれど、冒頭の「坊主の愉しみ」にあるダールの名作が使われていて、嗤ってしまった。残念ながら、他にはなかったけれど。全体に思ったより楽しく読んだけれど(ギャグがややすべるが)知識不足の僕が、どこまで理解できたかは不明。

 

●7694 名探偵傑作短編集 火村英夫編 (ミステリ) 有栖川有栖 (講談文) ☆☆☆☆

 

 

この企画、新本格30周年ということらしい。それにしては、解説人が物足りない。本書の杉江はまだましな方だが、大森のように熱い時代をきちんと語ってくれる評論家がミステリにも欲しい。

で、本書だが贔屓なしに、法月よりすごく読みやすかった。細かい分析はやめるが、法月がお手本とする都筑のパズラーも僕は読みにくいので、その編に秘密があるのかも。

本書というか企画本三冊とも全編既読なはずなのに、相変わらず全然記憶がない。特に有栖川の最高傑作?とも言われる「スイス時計の謎」がずっと気になっていて、今回やっと本書で再読できた。

結論は、最初はよく分からなかったのだが、腑に落ちると、やはりこのロジックは美しい、と感心した。(まあ、ネットで誰かがけなしていたように、確かに本音はこのトリックは近代科学捜査の前では無理なのだが・・・これがなければ★もう一つ追加でもいい)ただ、もしこれを僕が法月の文体で読んだら、読み切れたかどうか怪しく思ったのだ。で、本書はなぜか本家クイーンの「ガラスの丸天井付時計」を思い起こすのだ。

その他も、思ったより面白い。「赤い稲妻」の大胆なトリックには驚いたし(まあ、無茶だけれど)「ブラジル蝶」のある機器の使い方も面白い。(杉江が本書がある国名シリーズへのオマージュと書いているのが、分からなくて引っかかる。「Y」のインスツルメンタルではないのだろうか)

残りの3編も悪くない。島田を読んでいる途中に、本書が届き、こっちが面白くて一気に読んでしまった。さて、島田に戻ろう。で、こういうとき、綾辻に名探偵がいないのが痛いなあ。十巻館の愛蔵版は出たみたいだけれど。

 

●7695 名探偵傑作短編集 御手洗潔編 (ミステリ) 島田荘司 (講談文) ☆☆☆★

 

名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇 (講談社文庫)

名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇 (講談社文庫)

 

 さて、トリを務めるのが、御大島田荘司。まあ、最近の作品にはもはや期待はしないが、初期の短編集には愛着がある。その最初の「挨拶」からは「数字錠」と「ギリシャの犬」の二編。後者は「挨拶」の中の僕のベストで、さすがにあの暗号トリック(今でもベストのひとつ)はよく覚えていた。たこ焼き屋は忘れていたけれど。「数字錠」は人情話だが、肝心の数字錠の使い方がイマイチ。

「ダンス」からは「山高帽のイカロス」、「メロディ」からは「IGE」の二編。この二作は、島田の魅力と、現在の失速状況をよく表している。魅力はなんと言っても、そのリーダビリティ。まあ、けれんが勝ちすぎているが、とにかく読ませる。

弱点はもう、不可思議状況を作り出すためにすべてを奉仕させているので、ストーリーに全然リアリティーがないこと。どっちの動機も、あっちの世界のものだ。で、肝心のトリックは、派手だが、前者はチェスタトンのあれ、後者はドイルのあれとクイーンのあれの、島田流ゴタゴタ装飾過剰で、どうにも趣味に合わない。(その典型が解説にも引用された、最近作「屋上の道化たち」)

というわけで、三大探偵は、火村のぶっちぎり勝利で、御手洗、法月、の順かな。とにかく法月は読みにくいんだよね。なぜか。

 

 

 

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中山七里おすすめ神7

①連続殺人鬼カエル男

 

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

 

 

②さよならドビュッシー

 

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

 

③贖罪の奏鳴曲

 

贖罪の奏鳴曲 (講談社文庫)

贖罪の奏鳴曲 (講談社文庫)

 

 

④追憶の夜想曲

 

追憶の夜想曲 (講談社文庫)

追憶の夜想曲 (講談社文庫)

 

 

⑤テミスの剣

 

テミスの剣 (文春文庫)

テミスの剣 (文春文庫)

 

 

⑥スタート!

 

スタート! (光文社文庫)

スタート! (光文社文庫)

 

 

⑦要介護探偵の事件簿 (苦しい!)

 

要介護探偵の事件簿

要介護探偵の事件簿

 

 

柚月裕子おすすめ神7

①孤狼の血

 

孤狼の血 (角川文庫)

孤狼の血 (角川文庫)

 

 

②あしたの君へ

あしたの君へ

あしたの君へ

 

 

③検事の本懐

 

検事の本懐

検事の本懐

 

 

④最後の証人

 

最後の証人 (宝島社文庫)

最後の証人 (宝島社文庫)

 

 

⑤検事の死命

 

検事の死命 (「このミス」大賞シリーズ)

検事の死命 (「このミス」大賞シリーズ)

 

 

⑥盤上の向日葵

 

盤上の向日葵

盤上の向日葵

 

 

⑦慈 雨

 

慈雨

慈雨

 

 

 

2017年 8月に読んだ本

●7679 濱地健三郎の幽なる事件簿 (ミステリ) 有栖川有栖 (角川書)☆☆☆★

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 心霊探偵・濱地健三郎を主人公とする短編集。傑作「幻坂」に2編出ていた、とのことだが、うっすらとしか記憶にない。濱地は、死者の念が見えるという、榎木津のような断定だが、本書はホラーではない。(全然怖くない)かといって、西澤お得意の特殊設定ものでもない。

じゃ、何かと言われると、著者も後書きで苦労しているが、うまく表現できない。というか、ストーリーはホラーよりミステリによっているが、心霊現象のしばりがゆるすぎて、ちょっとパズラー時には弱いのだ。

ただ、キャラクターは立っていて、文章も良くて、クイクイ読めるので、何か後味はホラーと逆のテースト。後半の「霧氷館の亡霊」と「不安な寄り道」が、まずまずだったということは、やっと著者もこの設定の使い方が慣れてきたということか。

「幻坂」が傑作だっただけに、少し物足りないが、読んで損はないと想う。火村のアンチテーゼのような、濱地探偵の次に期待。

 

●7680 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 (歴史) 磯田道史 (NHK) ☆☆☆☆
「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

 

 磯田=江戸の専門家?と司馬遼太郎というのは、イメージが合わなかったのだけれど、そう言えば、磯田は竜馬について書いていた。しかし、やはり磯田の表現能力は素晴らしい。わかりやすい。あっという間に読んでしまった。

司馬史観は、明治を善、昭和を悪(鬼胎)としすぎることに、違和感をずっと感じていた。(だから、僕の「坂の上の雲」への評価は少し厳しい)しかし、こうやって、「国盗り物語」=織田信長から、昭和まで論理的に順に説明してもらうと、決して司馬は単純にそう考えたわけではなく(当たり前か)この国の陥りがちな悪癖(調子に乗ること)への警鐘であったのだ。

磯田が「花神」が司馬のベスト、というのもなかなか気が合うなあ。まあ、僕は竜馬を上にするが、花神も大好きだ。ただ、題名は磯田道史の「司馬遼太郎入門」の方が正しい気がする。

 

●7681 ここから先は何もない (SF) 山田正紀 (河出新) ☆☆☆

 

ここから先は何もない

ここから先は何もない

 

 

 

題名はボブ・ディラン。内容は著者があとがきで書いているように、あの「星を継ぐもの」への不満の解消するために書いた、とのことで、小惑星で何万年前の人骨?が発見される、というのは何度読んでも魅力的だ。また、もうひとつの動機として70年代著者が中間小説誌に、まだなじみのないSFをどうやって書こうとしたか、は本書の冒頭の銀行のシーンで見事に生かされていて、すっと物語に入れた。

そこから、あれよあれよと一癖のある、しかし犯罪者ではないメンバーが集合し、謎の解決のため、米軍基地に進入するあたりは、まるで「火神を盗め」のようで、わくわくした。しかし、今回は主人公がハッカーというのがくせ者で、物語は電脳空間で推進力を失ってしまう。(少なくとも僕には)

というわけで、前半はひさびさの大傑作か、と想ったのだが(神、進化、生命、とてんこもり)途中から訳が分からなくなった。結局、本書は神シリーズ、シンギュイラリティー版、なのか?

山田正紀は不思議な作家だ。大好きだし、かなり読んでるつもりだが、この一冊というのがないし、最近のは雑すぎる気がする。でも、早いうちに何とか、山田正紀おすすめ神7を作りたい。小松左京と同じで、どうにも思い出せない作品が多いのだ。

 

 ●7682 真夏の雷管 (ミステリ) 佐々木譲 (角川春) ☆☆☆★ 

真夏の雷管

真夏の雷管

 

 道警シリーズ第八弾、とのことだが、たぶん僕はこのシリーズを3,4冊読みながらも、派手で雑だなあ、と感じて、読まなくなっていた。ただ、新刊夏枯れの今、ネットの評判も良さそうなので手に取った。(一方、真保の新刊はあまりネットの評判が悪くて、やめてしまった)結論から言うと、警察捜査小説としては、テンポよく一気に読ませる。ただ、ミステリとしては、あまりにもひねり、けれんがない。まあ、87分署みたいに文庫で一発だったら、これでいいのかもしれないが。さて、佐々木も神7作れるのだが、道警シリーズも警察官の血も、僕の場合入らなくて、初期の戦記物ばかりになりそうなんだよね。

 

 

  ●7683 NHKニッポン戦後サブカルチャー史 (社会学) 宮沢章夫 (NHK) ☆☆☆☆ 
NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論

NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論

 

  少し前、NHKで宮沢がやっていたTV番組の続編のノベライズ、らしい。僕は今回は見逃してしまった。で、大森の「SF」は何を夢見るか?が読みたかったのだが、内容はまあ当たり前で、それほどでもない。 逆に期待していなかった、泉麻人の「深夜テレビの背徳」が、オールナイトフジに偏らず、結構自らの体験とシンクロして楽しんでしまった。まあ、あと都築響一の「ヘタうま」で、ひさびさの蛭子のマンガ(当時僕は結構好きだった)を見て、今の蛭子との落差に今さら愕然とする。 


●7684 サザンオールスターズ 1987ー1985 (音楽) スージー鈴木 (新潮新) ☆☆☆☆  
サザンオールスターズ 1978-1985 (新潮新書)

サザンオールスターズ 1978-1985 (新潮新書)

 

 「クワタを聴け!」(中山康樹=亡くなってしまった)を読みながら、本書に手を出したのは、副題の年代。そうこの時代こそが、僕の学生時代であり、サザンとの蜜月であった。(正直、後期の「TSUNAMI」の評価にはぞっとする)個人的に、自腹で買ったLPは「ヌードマン」と「カマクラ」で、「メロディ」と「バイバイマイラブ」がベストと想っていた僕には、気持ちのいい評論だった。そうそう、もう一本、シングルを中心にしたテープのベストも、すり切れるまで聴いたのだが、その時のベストは「C調言葉」と「涙のアベニュー」。 


●7685 芸能人と文学賞 (企画) 川口則弘 (KKB) ☆☆☆☆ 
芸能人と文学賞 〈文豪アイドル〉芥川から〈文藝芸人〉又吉へ

芸能人と文学賞 〈文豪アイドル〉芥川から〈文藝芸人〉又吉へ

 

  又吉のダイヒットが著者に、本書を書く期待を与えた。本来は直木賞男の著者が、細かいことはいわずに、芸能人の文学賞受賞うんちくを繰り広げるのだが、これが想ったより数が多くて、そのほとんどが記憶にあるのに驚く。(鈴木いずみが、こういう取り上げられ方をするのには、違和感があるが)

というわけで、最後の方はさすがに飽きてしまったが、著者の本の中では、一番楽しめたかもしれない。

 

●7686 ライプツィヒの犬 (ミステリ) 乾 緑郎 (祥伝社) ☆☆☆☆

 

ライプツィヒの犬

ライプツィヒの犬

 

 

個人的には「完全なる首長竜」以来、著者に注目している。そして、地味だが「鷹野鍼灸師」「機巧のイヴ」「思い出は満たされないまま」等々、ジャンルにとらわれず、着実に書き続けてきた。で、本書を読みながら、ついに著者もブレイクか?と期待を抱いた。

冒頭は、東ドイツにおける謎の殺人事件の描写で、それが一気に現在の日本にフラッシュバックして、主人公(劇作家・演出家)が、東ドイツの伝説の劇作家ギジの芝居を見に行き、途中で抜け出して、ギジ本人と桐山という謎の青年と出会うシーンから一気に物語に引き込まれた。

東ドイツというと須賀しのぶだが、著者はそれに劣らず、見事に東ドイツの演劇学校

(主人公が留学することになる)を描く。ただ、小説としては素晴らしいのだが、無理矢理ミステリ、というか殺人にした部分が、雑というか、分かりやすいというか、やや残念な出来。

というのも、メインの謎が(途中で予測がつくが)「俳優パズル」等々で、使い古されたもので、しかもそれがうまくはまっていない。でも、やっぱり本書は物語として素晴らしいし、キャラクターも立っていて、ブレイクは無理だろうが、少し甘い採点をしてみた。次作こそ、さらに期待。筆力は申し分なし。

 

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永井するみおすすめ神7+1

①大いなる聴衆

 

大いなる聴衆 (新潮ミステリー倶楽部)

大いなる聴衆 (新潮ミステリー倶楽部)

 

 

②唇のあとに続くすべてのこと

 

唇のあとに続くすべてのこと

唇のあとに続くすべてのこと

 

 

③欲しい

 

欲しい

欲しい

 

 

④ランチタイム・ブルー

 

ランチタイム・ブルー

ランチタイム・ブルー

 

 

⑤隣人

 

隣人

隣人

 

 

⑥ボランティア・スピリット

 

ボランティア・スピリット

ボランティア・スピリット

 

 

⑦天使などいない

天使などいない

天使などいない

 

 

+1、秘密は日記に隠すもの

 

秘密は日記に隠すもの

秘密は日記に隠すもの

 

 

今邑彩おすすめ神7+1

①金雀枝荘の殺人

 

金雀枝荘の殺人 (中公文庫)

金雀枝荘の殺人 (中公文庫)

 

 

②よもつひらさか

 

よもつひらさか (集英社文庫)

よもつひらさか (集英社文庫)

 

 

③「死霊」殺人事件

 

「死霊」殺人事件 警視庁捜査一課・貴島柊志 (光文社文庫)
 

 

④「裏窓」殺人事件

 

「裏窓」殺人事件―警視庁捜査一課・貴島柊志 (中公文庫)
 

 

⑤盗まれて

 

盗まれて (中公文庫)

盗まれて (中公文庫)

 

 

⑥七人の中にいる

 

七人の中にいる (中公文庫)

七人の中にいる (中公文庫)

 

 

⑦i(アイ)鏡に消えた殺人者

 

 

+1、ルームメイト

 

ルームメイト (中公文庫)

ルームメイト (中公文庫)