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2015年 6月に読んだ本

●7237 パナソニック人事抗争史 (NF) 岩瀬達哉 (講談社) ☆☆☆☆

 

ドキュメント パナソニック人事抗争史

ドキュメント パナソニック人事抗争史

 

 

著者の反骨精神にはいつも感心するのだが、今回も感嘆、そしてやはり読んでいてつら
く、いや痛くなってしまった。著者の松下へのこだわりは、幸之助も著者も(そして僕
も)和歌山生まれなのだからだろうか。こちらも松下の世襲を巡る争いに関しては、い
くらかの知識はあるので、本書に書かれたことに、それほどの驚きはない。

個別の案件は聞いたことがあることばかりだ。ただ、MCA売却の裏話や、ナショナルリース(あの尾上縫)に続いた、冷蔵庫リコール事件の真相?には驚いた。特に冷蔵庫は、著者がほのめかしているように、社長追い落としのためのとんでもない陰謀だったのだろうか。

それにしても、他社の人事抗争は週刊誌的に面白くて、一気によんだのだけど、後半はもう、疲れたというか、あきれたというか、そして何やら空恐ろしくなってしまった。

日本を、いやかつては世界を代表する企業の中で、多くの幹部社員が、子供のけんかみたいなことを繰り返している。本当に、こんなことがありえるんだろうか。

ソニーの話も痛いのだが、ソニーは頭でっかちすぎたのに対して、パナソニックは本当に幼稚としかいいようがない。とても、おとなとは思えない。そして、三洋もそうだが、やはり世襲というものは、辛いものだ。トヨタとは、一体何が違うんだろうか。

 

 ●7238 君たちは何のために学ぶのか (社会学) 榊原英資 (文春社) ☆☆☆★

 

君たちは何のために学ぶのか

君たちは何のために学ぶのか

 

 

「榊原式スピード思考法」は、僕のバイブルの一冊と言っても良いほどの本であるが、
読み物としては、いかにもシンプルすぎる。で、彼がこんな村上龍宮台真司的な本を
書いていることに気づき、図書館で借りて読んでみた。正直、たぶんこれは高校生を相
手として書いてるので、文体すべてがちょっと幼い。

ただ、「サラリーマンの時代の終わり」「誰もがプロになれる才能をもっている」「なぜ学ぶ必要があるのか?」「わたしたちは日本のスペシャリスト」のあたりは、田坂さんや松岡正剛とリンケージして、ぜひ若手に読んでほしい気もする。とりあえず、誰かに読ませて、反応を見てみよう。

 

●7239 窓辺の老人 (ミステリ) マージェリー・アリンガム(創元文)☆☆☆★

 

窓辺の老人 (キャンピオン氏の事件簿1) (創元推理文庫)

窓辺の老人 (キャンピオン氏の事件簿1) (創元推理文庫)

 

 

副題はキャンピニオン氏の事件簿1であり、名探偵アルバート・キャンピニオンが活躍
する短編集。クリスティー、セイヤーズ、マーシュと並ぶ、アリンガムだが、よく考え
たら長編は一冊も読んだことがない。ハヤカワ文庫創刊時も、クリスピンやブランドな
どと違ってアリンガムは文庫にならなかった。

しかし、アリンガム=キャンピニオンが僕の印象に強くあるのは、あの乱歩編の世界短編傑作集の、本書の冒頭に収録された「ボーダーライン事件」のせい。この切れ味するどい短編は、5巻のベスト3に入る傑作だ。

あとはダンセイニ「二瓶のソース」とセイヤーズ「疑惑」かな。今回読み返すと、翻訳のせいか、やや明るめでコミカルだが、やはり傑作。しかし、その他の作品は新訳をもってしても、どれも古臭い。

ホームズのパターンを使った作品も多い。訳者は頑張ってるんだけれど、やっぱりこの英国貴族的なスノッブさは、好みではない。

 

●7240  流  (フィクション) 東山影良 (講談社) ☆☆☆★

 

流

 

 

前評判の高い、台湾生まれの作家による台湾版アメグラ的小説。著者の作品は、このミ
ス大賞を受賞した「逃亡作法」は読んだが、達者だなあ、とは感じてもあまり引かれる
ものはなかった。

大森絶賛の「ブラック・ライダー」も、予想通り数ページで挫折。本書は一応殺人事件はあるのだけれど、もはやミステリとは言い難い。「血と骨」のような濃密で猥雑な世界・クロニクルを、幽霊のような呪術的なマジックリアリズムで描いた大作だ。

ただし、申し訳ないが今の夏枯れした僕の読書脳には、本書は重たく、油っこすぎた。途中で、かなり疲れてしまった。というわけで、残念ながら僕は本書の魅力を十分理解できなかった。まあ、もともとマルケス的な、マジックリアリズムには弱いんだけれど。

 

 ●7241 誘 神 (ホラー) 川崎草志 (角川書) ☆☆☆

 

誘神

誘神

 

 

「疫神」は傑作だと思ったのだが、あまり評価されなかった。で、本書は題名からわか
るように、続編である。ただし、一部登場人物が重なるだけで、本書を初めて読んだ人
間には、かなり不親切だと思う。もう少し世界設定が分かる工夫がいるのではないか。

しかし、問題はそれ以上に、前作の魅力的な設定(アンモナイトの異常巻と人類絶滅、
等々)が、全然深められず、底の浅い展開に終始すること。そういえば、長い腕シリー
ズも巻を追うごとにレベルが落ちてきた。このシリーズも、もう打ち止めにした方がいいと思う。

 

 ●7242 夏の沈黙 (ミステリ) ルネ・ナイト (創元文) ☆☆☆★

 

夏の沈黙

夏の沈黙

 

 

世界的なベストセラー、ということだが、確かに「二流小説家」のような本の中の本が
あったり、(もう本当に嫌になるほど)最近はやりのカットバックが多用されていて、
その上読みやすい、という確かにベストセラーの典型のような作品。

しかし、たぶん著者は、あまりミステリが分かっていないのではないだろうか?物語としては読ませるけれど、ミステリとしては、ベタな展開で、全然意外性が足りない。

また、ヒロインはまだしも、前半いいひとに描かれる、旦那の正体?があんまり。これじゃ、僕は傑作とはちょっと言い難い。

 

 ●7243 ウツボカズラの甘い息 (ミステリ) 柚月裕子 (幻冬舎) ☆☆☆★

 

ウツボカズラの甘い息

ウツボカズラの甘い息

 

 

正直、書き過ぎだなあ、と心配しながらも、著者の文章はなぜか僕にしっくりきて、ま
たしても、一気に読んでしまった。でも、主人公の刑事の家庭環境や相方の女性刑事の
存在、一方で起きる化粧品販売の詐欺事件、等々正直既視感ありまくり。どこかで読ん
だような話ばかり。

ただ、一点後半に入って、大きなトリックが仕掛けてあるのだが、これまた、最近ではこのパターンはかなりあり(私見では、奥田英朗のあの作品や、小林泰三のあの作品あたりから、頻繁に目にするようになった。いまさら、このトリックを使うなら、道尾秀介のあの作品くらいひねってもらわないと。あ、そういえばこのミス大賞のライバルの中山七里も使っていた!)ちょっとねえ、という感じ。

著者には大きく期待していたのだが、今や風前の灯か。

 

 ●7245 イノセント・デイズ (フィクション) 早見和真 (新潮社) ☆☆☆★

 

イノセント・デイズ

イノセント・デイズ

 

 

これまた、図書館で一年近く待ったのだが、正直評価に苦しむ。推理作家協会賞を受賞
したようだが、本書をミステリととらえるのは難しい。というか、ミステリとしたら、
破綻しているように思う。(たぶん、僕は結局ラストの展開が、良く解らなかったのか
もしれない。僕の理解では、これはあまりにも唐突で、いいかげんだと思う)

しかし、一人の誰からも必要とされなかった女性の、永遠の仔・裏バージョンとしては、読ませることは確か。その文体からは異様な迫力を感じ、そしてそのダークヒロインの言動には、憐憫を越えた恐怖と、強烈な違和感を感じる。

しかし、やっぱり、僕は本書をちゃんと理解していない。したがって、きちんと評価できない。

 

●7246 太陽の棘 (フィクション) 原田マハ (文春社) ☆☆☆★

 

太陽の棘(とげ)

太陽の棘(とげ)

 

 

今月はどうにも不調なんだけれど、マイブーム?の原田の絵画モノ?を読んでもやっぱ
り駄目で、なかなか闇は晴れない。

本書は、戦後沖縄に実在したニシムイという芸術コミューン?と、これまた実在のサンフランシスコの医者(軍医)スタンレー・スタインバーグとの交流を描いたもので、フィクションとしたが、たぶん限りなくノンフィクションに近い作品。

そのせいかもしれないが、ストーリーがかなり単調なのだ。剛球ストレートというべきなのかもしれないが、エンタメとしたとき、このストーリーで長編は苦しい。

題材を温めずに、というかNFなので温めようがなかったのかもしれないが、一気に書き上げた作品に勢いはあっても、やはり物足りなさが残る。

(この後、キングの「11/22/63」の分厚い上下巻を見つけて、勇躍読みだしたんだけれど、20ページでギブアップ。このくどい文体はやっぱ無理だわ。で、その後SF二冊リタイア)

 

 ●7247 ミステリ編集道 (インタビュー) 新保博久 (本雑誌) ☆☆☆☆☆

 

ミステリ編集道

ミステリ編集道

 

 

というわけで、またもや深い小説鬱状態に陥ってしまったのだが、ここは今週のドッキ
リメカ、というか最終兵器の登場。

この年になって、作家になった自分をイメージすることはもはや不可能だけれど、編集者になった夢はまだまだ見てしまう。ここには、オルターネイティブな僕の人生があり、ため息をつきながら一気に読了した。

特に後半はまさにリアルタイムで体験したミステリ・ルネッサンスであり、時の流れの残酷さを感じるのみ。

原田裕東都書房)大坪直行(生きていたのか?宝石社)中田雅久マンハント)八木昇(桃源社島崎博!!(幻影城)白川充(講談社佐藤誠一郎(新潮社)北村一男(ジャーロ)山田裕樹(集英社宍戸健司(角川ホラー文)戸川安宣!(唯一会ったことがある)染田屋茂(早川:翻訳者だとばかり思っていた)藤原義也(国書刊行会)といった、錚々たるメンバー。

宇山日出臣や厚木淳らは、残念ながら間に合わなかったが。内容に関しては、敢えて書かない。もちろん、本書はミステリマニア以外には薦めない。大森は早くSF編集道を書きなさい。

 

 ●7248 地獄の観光船 (エッセイ) 小林信彦 (集英社) ☆☆☆☆

 

地獄の観光船―コラム101 (1981年)
 

 

上記の集英社の山田裕樹が、まず最初に小林信彦の「地獄の読書録」を作った、という
話がでてきたので、小説不感症の時は、古い小林エッセイ、ということで、続く本書を
借りてきた。

図書館の奥の方から時間をかけて出てきた本書は、文庫でなくハードカバーでびっくり。81年の本です。77年から81年まで続いた、キネマ旬報連載のコラムをまとめたもの。

たぶん、小林のエッセイに一番力があった頃で、掲載誌の関係上70%以上が映画評なのだが、それでも一気に読ます。また、時々挟まる漫才ブームや小説の話も、生き生きしている。

残念ながら、後半が映画の比率が高くなりすぎて、ちょっとついていけなくなってしまったが。

そして、どうしても思うのは、今の文春エッセイとの比較である。相変らず、映画中心は同じなのに、文春は偏屈親父のこだわり薀蓄にすぎない、ように感じてしまうのだ。

 

 ●7249 私の体を通り過ぎていった雑誌たち(エッセイ)坪内祐三(新潮社)☆☆☆☆

 

私の体を通り過ぎていった雑誌たち

私の体を通り過ぎていった雑誌たち

 

 

というわけで、非小説本が続きます。著者は、僕より一歳上、ということでほぼ同じサ
ブカルチャー時代を経験しているのだが、いつもどうにも何か違和感を感じる。で、本
書を読んで、その理由がはっきりした。まあ、何のことはない、著者は江戸っ子で、僕は超田舎者、それだけなのだ。

(著者のデビュー雑誌「東京人」を僕は読んだことがない)だから、小学生時代の雑誌といえばマンガオンリーだった僕に対して、「ゴング」「漫画讀本」さらには「TVガイド」と言われても、こちとら白黒の上に四年生まではNHKと海の向こうの四国放送しか映らなかったのだから、話にならない。

それでも、月刊プレイボーイ村上龍の第二作(ニューヨークシティーマラソン)や、GOROの激写(美藝公の素晴らしさ)等々時々クロスしながら、僕と著者はついに「本の雑誌」で激突?する。

しかし、その後は文芸ついた著者とは、また離れてしまう。結局、この違和感はどこまでも続くのだろう。著者は自ら、筒井派ではなく、小林派だと言い、亀和田とも繋がっていて、このあたりが東京に全く思い入れのない、僕と相いれないのだろう。でも、今や僕は浦和に強い思い入れがある。We are reds!!

 

 ●7250 モンローが死んだ日 (フィクション) 小池真理子 (毎日新) ☆☆☆★

 

モンローが死んだ日

モンローが死んだ日

 

 

ひさびさに著者の作品を読んでみた。かなりエキセントリックでえぐい話を、淡いタッ
チで描き切る文章の冴えは素晴らしい。そうでなければ、還暦近い未亡人の恋愛物語な
どとても読む気がしなかっただろう。

ただ、正直言って長すぎる。この7掛けで十分なのではないだろうか。そして、最後に仕掛けられた罠が、何というか僕にはあまり楽しめなかった。この男、かなり情けないし、ヒロインも疲れる。

 

 ●7251 恩讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (SF) 梶尾真治 (早川文) ☆☆☆☆

 

 


 ●7252 恩讐星域Ⅱ ニューエデン  (SF) 梶尾真治 (早川文) ☆☆☆★

 

 


 ●7253 恩讐星域Ⅲ 約束の地    (SF) 梶尾真治 (早川文) ☆☆☆★

 

 

カジシンの大作が一気に文庫化。個人的には「サラマンダー殲滅」の路線を期待して読
みだした。

太陽のフレア化によって、滅亡が予測された地球において、米国大統領とその側近たち3万人が、全人類を置き去りにしてノアズ・アークという巨大宇宙船で脱出し、ニューエデンという惑星を目指す。

一方、置き去りされた人々は、ノアズアークで脱出した人々を呪いながら、ある天才少年が発明した瞬間移動装置を使って、致死率は限りなく高いが、同じくニューエデンを目指す。

そして、何とか辿り着いた少数の人々は、ニューエデンに生息する数々の化け物と戦いながら、何とか文明を復興させていく。そんな彼らを支えたのは、ノアズ・アークへの恨み、呪いであった。

第一巻はそこまでを描き、非常に面白かったのだが、その後は小さなエピソード、短編の積み重ねで、ノアズ・アークとニューエデンをほぼ交互に描いていく。ただ、その短編には、正直必要性が疑問なものもあり、Ⅱはちょっと中だるみ感がある。

で、ついにⅢにおいて、ノアズ・アークがニューエデンに辿り着き、ある種のファーストコンタクトとなるのだが、このあたりが少々駆け足な上、ラストはあまりにも予想通りで正直物足りない。

あとがきによれば、ちょうどⅡを書き終えたときが震災であり、そうであれば、このラストはやはり予定調和と言うしかない。さらに、数々の短編の伏線が、ほとんど回収されないのも、ちょっと期待外れ。残念ながら、尻すぼみの印象。(しかし、アジソン大統領はどうしても、オバマとかぶってしまうなあ)