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2015年 5月に読んだ本

●7219 クール・ジャパン (企画) 鴻上尚史 (講談現) ☆☆☆☆
 

 

副題、外国人が観たニッポン。テレビでおなじみ、クール・ジャパンをもとに、司会の
鴻上がまとめたもので、当然ながら、内容の9割は既に観ている。しかし、そこはさす
が鴻上で、一気に読ませる。

正直、ほぼ同じ内容をNHKがまとめた別の本はそうはいかず、結構あちこちでつかえてしまったのだが。

内容は一点だけ、「サル・パンダ・バナナ」「ウシ、ニワトリ、草」のそれぞれのグループから、より近いものを2つ選べ、という質問に、欧米人は「サル・パンダ」「ウシ・ニワトリ」と答え、日本を含むアジア人は「サル・バナナ」「ウシ・草」を選ぶ、というのだ。

すなわちそれは欧米=「分類」、アジア=「関係」なのである。(難しく言えば、分類=還元主義、関係=ホーリズム)そこで、松岡正剛イサム・ノグチを関係性の芸術と呼んでいたことなどを思い出すのだが、何より僕自身はどう考えても、「分類」が先にきてしまうので、困ってしまった。20代に、あれほどニューサイエンスにはまったはずなのに。

 

 ●7220 死のドレスを花婿に (ミステリ)ピエール・メートル(文春文)☆☆☆★

 

死のドレスを花婿に (文春文庫)

死のドレスを花婿に (文春文庫)

 

 

昨年、各種ベストを席巻した「その女アレックス」に続く第二弾、ではなく、こちらは
既に翻訳されていた(柏書房?)作品の文庫化である。本書を読んで感心した文春の編
集者が、アレックスの大ヒットを生んだということだ。

で、御存じのとおり僕はアレックスをそれほど評価しない。ちょっと場末の幽霊屋敷みたいで、ばたばたしすぎに感じた。ただ、その翻訳は「ハリークバート」とともに素晴らしいと思ったのだが、本書の訳者は当然違っていて、正直まず翻訳に泣かされた。

そして、内容は「その女ソフィー」という感じで、非常に似通った展開なのはいいのだが、今回は第二章に入ると、ほぼ作者の企みは分かってしまう。最後のどんでん返しも、それほどではない。

きちんとプロットで意外性を狙いながら、それが構築美につながっていないのが、相変らず残念なのだが、フランスに著者やアルテのような、らしくない作家がいるのは、意外かつ貴重だとは思う。

今までの作家では「殺人四重奏」のミッシェル・ルブランが意外性において似ている気がするが、ルブランの方が(かなり古いのに)垢抜けているんだよね。

 

 ●7221 楽園のカンヴァス (ミステリ) 原田マハ (新潮社) ☆☆☆☆★

 

楽園のカンヴァス

楽園のカンヴァス

 

 

著者の作品は、だいぶ前に「翼をください」を読んだのだが、本来は女性飛行士アメリ
ア・イアハート(ナイト・ミュージアムでもおなじみ)のノンフィクション、とすべき
内容を、変に日本と結びつけるため、中途半端なフィクションにしてしまった残念な作
品と評価してしまった。(それは今でも間違っていないと思う)

それで、本書が評判になったときも出遅れてしまい、結局図書館で3年待つことになった。しかし、結論は待って良かった、だ。このところ、本当に小説が読めなかったのだが、本書は一気に読んで、深いため息とともに、ネットを検索しまくった。

本書のテーマは、ルソーである。いや、ルソー作品の真贋がテーマである。まずは、倉敷大原美術館の監視員として働く早川織江のもとに、突然MOMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウンからの招待が届く。

物語は、そこから30年の時をさかのぼり、ティムと織江のスイス、バーゼルでの濃密な一週間、ルソーの「夢」の真贋鑑定の戦いが描かれる。そこで、描かれるルソーとピカソの関係と「夢」に秘められた謎、そして、最後に明かされる依頼主の正体。

まあ、僕がもともとルソーが大好きだということを差し引いても、その波乱に富んだ展開に一気に引き込まれた。素晴らしい。そして、物語はまたも現在に戻り、30年の時を超えた「愛」が成就するのだ。(一応、ミステリとしたが、本書は殺人は起きないし、恋愛小説でもある)

うまいなあ。ずるいなあ。正直、冷静になって考えると、織江の境遇のあんまりな変化や、登場人物の造型等々に物足りなさ、リアリティー不足を感じないでもないのだが、この際そんな野暮は言わずに、作者の紡いだ豊饒で濃密な物語の余韻にどっぷりつかるしかない。

そして、今回もまたi-Padを本の隣に置いて、出てくる絵画を片端から検索しながら読み続けた。本当に良い時代になったもんだ。

原田マハ原田宗典の妹とは知っていたが、実際にMOMAで働いたことがあるとは知らなかった)再勉強すべき作者がまた一人現れた。(本書は山本周五郎賞受賞作)

 

 ●7222 ジヴェルニーの食卓 (フィクション) 原田マハ (集英社)☆☆☆☆☆
 
ジヴェルニーの食卓

ジヴェルニーの食卓

 

 

早速「カンヴァス」の次の作品、絵画をテーマにした短編集を借りてきて読みだしたの
だが、いやあまたしてもまいってしまった。正直、収録された四編が、それぞれ「カン
ヴァス」と同じくらいの、濃密さ豊饒さを持っており、結果的に評価を満点にせざるを
得なくなってしまった。何で本書が直木賞落ちたのか解らない。

四編は印象派の巨匠の四人の画家を、それぞれ違った立場の女性が描く、という共通項を持ちながら、その物語のパターンは全て違っており、史実に基づいたフィクション(作者の言葉)として、素晴らしい四部作となっているのだ。そこには、著者の圧倒的な知識と勉強、確かな技術と企みが明確に存在しているのだ。

まずは、マティスを描いた「うつくしい墓」の柔らかで明るい日差しに陶然となり、次のドガを描いた「エトワール」(いや、ドガとメアリー・カサットの真剣勝負と言うべきか)に、魂の深いところを突き抜かれ、セザンヌを描いた「タンギー爺さん」(と言っても、セザンヌはゴドーよろしく、最後まで登場しないのだが)に心が震え、最後のモネを描いた表題作に目頭があつくなる。

すべて素晴らしい。しかし、今回読書を越えて素晴らしいのは、ウェブで検索した「ヴァンスの礼拝堂」であり、「十四歳の小さな踊り子」であり、「タンギー爺さん」であり、「ジヴェルニーの庭園」であった。

そして、印象派の時代をもう一度ネットで復習し、整理した。ああ、もう一度オルセーに行かなければ。

 

●7223 キネマの神様 (フィクション) 原田マハ (文春社) ☆☆☆☆
 
キネマの神様

キネマの神様

 

 

今回は題名からわかるように、映画がテーマだ。そして、今回もまた一気に読み上げた。著者のエンターテインメント作家としての腕の冴えは、もはや間違いない。

ただし、今回は手放しに褒めることはできず、読後何やら漠然とした違和感があり、ストーリーを反芻するにつれ、その思いは強くなった。

それは、著者の絵画(仕事)と映画(趣味)へのスタンスの違いからくるものなのか、はたまた僕自身の絵画と映画への(今現在の)思いの強さと弱さからくるものなのかは、まだ良く解らない。

はっきりしているのは、本書の通奏低音、主モチーフとして流れる映画「ニュー・シネマ・パラダイス」や、途中で重要な役割を演じる「フィールド・オブ・ドリームス」もまた、僕に同じような感触を与える映画なのだ。

よくできているし、褒める人がいるのも理解できる。でも、僕には違和感が残る。その本質はまだ良く見えないのだが、今は本書のテーマが「キネマの神様」への「祈り」の物語であるなら、個人的にはもう少し素朴で、小さくひめやかであっていいのではないか、と感じる。

本書も「ニューシネマ」もちょっと仰々しく、わざとらしいのではないか。感動の押し売りとまでは言わない。でも、祈りとはもう少しパーソナルなもののような気がするのだ。

それでも、本書の後半からラストへの盛り上がりは、シンデレラストーリーの王道として、読ませることは間違いない。

少し疲れたので、今後は少しづつ原田を読んでいこうと思う。(個人的には、ヒロインの父親は途中から間違いなく、平泉成に自動変換させられた。ヒロインは吉田羊かな)

 

●7224 2014 The Best Mysteries (ミステリ)日本推理作家協会編(講談社)☆☆☆★ 

 

ザ・ベストミステリーズ2014 (推理小説年鑑)

ザ・ベストミステリーズ2014 (推理小説年鑑)

 

 

推理作家協会が年に一回刊行する、短編傑作集。これまた、原田マハと平行に、小説不
感症を直そうと読みだしたのだが、伊坂、今野、翔田、西澤、東川、本城、本多、水生
森晶麿、薬丸、と錚々たるメンバー。(そのうち五篇が協会賞候補作だが、この年は受
賞作なし)

まず、冒頭の伊坂の「彗星さんたち」が、何というか「午後の恐竜」を思わせる。ちょっとオフビートでありながら、論理的なファンタジーで、感心してしまった。ところが、その他の作品は、確かに内容はバラエティーに富み、昔のような中間小説臭はないのだが、小粒というかミステリ的な驚きの薄い作品ばかりだった。

五段階評価するなら、「彗星」は文句なく5なのだが、その他は全部3止まり。(今野と東川は2。特に東川は、鮎川哲也の傑作を冒涜している?)他の年度も読んでみるか、ちょっと悩む。このレベルだと、間違いなくSFに敗けてる気がするなあ。

 

 ●7225 あぶない叔父さん (ミステリ) 麻耶雄嵩 (新潮社) ☆☆☆★

 

あぶない叔父さん

あぶない叔父さん

 

 

麻耶の新作はまたしても連作短編集。で、最初の二編を読んで、解ってしまった。今回
山田風太郎のあの作品にチャレンジなんだと。

そして、ここでいつもお世話になっているミステリサイト「黄金の羊毛亭」を読んではっとした。(アップされるスピードは遅いのだが、その分析は素晴らしい。例えば七河迦南の作品の本質は、このサイトを読まなかったら僕は解らなかっただろう)

そう、本書の表紙のシルエットは、どう見ても金田一耕助である。ということは、著者は羊毛亭の言う通り、単なる名犯人?ではなく、探偵=犯人という連作?を書くことで、後期クイーン問題ちゃぶ台返しをまたも行った、と見るべきだろう。(何のことか分からない人がほとんどだろうが、これ以上は書けない)

ただし、それが面白いのかどうかは別問題。そろそろ「隻眼の少女」に続く、長編をお願いします。このパターンはこれで打ち止めにして。(羊毛亭は、本書のとんでもない題名は、あのポーストの「アブナー叔父」に掛けていると推測しているが、どうだろなあ、内容はあまりに違う)

 

●7226 謀殺のチェス・ゲーム (ミステリ) 山田正紀 (角ハ文) ☆☆☆★

 

謀殺のチェス・ゲーム (ハルキ文庫)

謀殺のチェス・ゲーム (ハルキ文庫)

 

 

山田正紀の初期再読もぼちぼち進めているのだが、今度はミステリ、というか冒険小説
の最高傑作「火神を盗め」にしようと思っていた。

ところが、図書館で本書の新装版の美本をみつけてしまい、急遽方針転換。こっちの方が「火神」より先で、内容はほとんど忘れてしまったが、僕の中では何よりあの「ゲーム理論」を教えてくれた小説、として記憶に残っている。(内容に関しても、悪い印象はない)

ただ、本書を読み終えた今素直に傑作と呼べない僕がいる。これはもう、初期山田作品の特徴と言っても良い、若書きというか説明っぽい文体、そして勉強(今回はゲーム理論)が生で出てくる、この二点が本書では特に顕著で、ストーリーの面白さは認めても(特にラストのひっくり返し方は、定石通りだけれど決まっている)傑作とは言い難いB級テーストがあふれているのだ。

そういう意味では、有栖川有栖には悪いが、「謀殺の弾丸特急」と同じ、無駄な暑苦しさと雑さを感じてしまったのだ。

さらにいえば、当時の極東軍事情勢や、そもそもの軍需産業の動機も、全くリアリティーがないが、これはしょうがないとしよう。

しかし個人的には、「ゲーム理論」をかなり勉強した今の僕には、本作での使い方はちょっと耐えられなくて、ここがたぶんかっこいい、と感じた30年前との最大の違いなのかもしれない。

 

●7227 秋の牢獄 (ホラー) 恒川光太郎 (角ホ文) ☆☆☆☆

 

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

 

 

ホラー大賞受賞第一作の「雷の季節の終わりに」を読みだしたのだが、どうも長編とい
う形式と、初期の著者のテーストが合わず、途中でこちらに切り替えた。本書はいかに
も恒川らしい中編が三作収められている。

冒頭の表題作は、「リプレイ」や「ターン」の一日バージョンというか、時の狭間で同じ日を繰り返す人々の物語。何か既視感のある内容だが、そこは結構恒川流の工夫があって、ラストまで一気に読まさせられた。北風伯爵というネーミングは、ううん、だけれど、傑作。

次の「神家没落」は「夜行の冬」の個人バージョンのような話だけれど、オフビートな展開(「放心家組合」のような、ぬけぬけとした味がある)がヒートアップして、とんでも展開になるのも著者らしい。ラストがちょっと淡泊だけれどこれも傑作。

そして、最後の「幻は夜に成長する」は、まさに今の恒川作品であり、ストーリーは3回とんでもなく変調する。ちょっとラストが安易なような気がするが、これはもう恒川にしか書けない傑作だ。

やはり、中短編の方がいいのだろうか。「金色機械」も「スーパースター」も、連作長編だし。

 

 ●7228 偽装・越境捜査4 (ミステリ) 笹本稜平 (双葉社) ☆☆☆★

 

偽装 越境捜査

偽装 越境捜査

 

 

今野と同じく多作家になってしまった著者だが、とりあえずこのシリーズは、きちんと
追いかけようと思っていた。(今野における隠蔽捜査と同じか)

だが、今回はどうもいけない。これまで、このシリーズに魅力があったのは、キャラが立っているのももちろんだが、何より「裏金」「パチスロ」「政治」と警察機構のタブーに、毒をもって毒を制する、というスタンスでそれこそ越境して挑んできたから。

ところが、今回は悪の存在が、同族ブラック企業でこれがイマイチしょぼいのだ。で、いつものメンバーが頑張るのだが、最初から特別チームが結成され、そこに大した葛藤はなく、物語はスピーディーだが、ある意味のっぺりとツルツル進んで、あまり何も残らない。

駄作ではないしミステリとしての謎も、まあないことはない。ただ、これでは今までの四作の中では、一番劣るというか、笹本もかなりあぶないところにきている気がする。

ただ、もしこれがTVドラマとなったら、それは受けるだろう。鷺沼=柴田恭平、宮野=寺島進、というのはぴったしだが、TVでは出番のない福富はぜひ今回は松重豊でお願いします。

 

●7229 悪意の波紋 (ミステリ) エルヴェ・コメール (集英文) ☆☆☆☆

 

悪意の波紋 (集英社文庫)

悪意の波紋 (集英社文庫)

 

 

僕はルメートルの「その女アレックス」を(スランスミステリ)らしくない作品と称し
たが、本書の構成やオフビートな展開のテーストは、かなりルメートルに似ており、マ
ンシェットやヴォートランのような尖った作品より、今や本書のような作品がフランス
ミステリ主流となっているのかも知れない。

まあ、そうは言っても、本書もかなり変わってるし、何より40年前の強盗+絵画盗難事件は、フランス流ノワール・犯罪小説の濃厚な香りはする。

その強盗事件を起こした五人の生き残りのジャックの物語と、6年前の失恋から立ち直れずフラフラしている、少しあぶないイヴァンの物語が、交互に語られていく、というルメートルと同じようなカットバックが特長。

ただ、正直中盤過ぎまでどうやってこの2つのストーリーがつながるのか、全く想像ができない。しかし、ジャック側にクロエという謎の女性が現れてから、物語は急激に動き出し、その後の展開には正直度胆を抜かれた。

ただ、その後ついに2つのストーリーがクロスするのだが、ちょっと論理が弱い気がする。そして、物語は法廷ミステリとなり、突然の転調、さらに長い長いエピローグによる、本当の物語の解明。

正直、このラストはどうかなあ(緻密さが足りない)と思うのだが、まあ文庫でここまで読ませてもらえば合格としよう。とにかく、細かいところを気にしなければ、本書は本当に変な作品で、そういう意味では裏切られ、楽しめることは間違いないと思う。

 

●7230  雷の季節の終わりに (ホラー) 恒川光太郎 (角ホ文) ☆☆☆☆★
 
雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

 

 

前言撤回。申し訳ない。50ページくらいで挫折したのを、もう一度最初から読み直し
たら、こんどは(主人公賢也が穏から逃亡するあたりから)一気に引き込まれて、読み
終えて、またも溜息をついた。恒川に駄作なし。

ただし、本当に彼は変わっている。唯一無二にユニークだ。今から考えると「金色機械」や「スーパースター」も変な作品(褒めてます)と感じたが、なんのことはない、この二作は恒川作品の中では非常にオーソドックスで解り易いのだ。

本書は、穏という異界から逃亡した賢也のパーツと、義母の虐待が殺意まで高じてしまい、家出する少女茜の2つのストーリーがあり、それが後半見事にクロスして、まいってしまった。

いや、このパターンはミステリにおいては、最近結構使われるのだが、恒川の場合、彼の紡ぎだす、異形でありながら、なぜか懐かしく、しかし冷酷かつ残虐な世界に気をとられてしまい(ナギヒサとトバムネキの寄生獣の如き造型を見よ。風わいわいも凄い)見事にはまってしまった。素晴らしい。

個人的には、ラストの姉のエピローグは蛇足と思うが、他はもう何ともいいようがない、きっと恒川にしか絶対書けない、傑作である。本書は。

 

 ●7231 ラストワルツ (エッセイ) 村上 龍 (KKベ) ☆☆☆★

 

ラストワルツ

ラストワルツ

 

 

村上龍の新作小説にしては、パブリシティーがほとんどないなあ、と思いながら予約し
たら、本書は小説ではなくエッセイだった。しかも、この「すべての男は消耗品でる」
 のシリーズは、もう30年以上も続いている、というのだ。(たぶん、僕はサッカー系で何冊か読んだはず)

しかし、それにしても、本書における龍は疲れている。いや、老いている。そして、あくまでそのことに正直だ。だから、たぶん読者を選ぶ。僕は龍のスタンスは分かるが、エンタメとしては微妙。

ただ、それでも小林信彦の文春のエッセイの劣化に比べると、全然ましだと思う。と書いたら、何とついに今週の小林のエッセイは休載だった。ついにくるべき時が近づいているんだろうか。

 

 ●7232 冬を怖れた女 (ミステリ) ローレンス・ブロック (二見文) ☆☆☆★

 

冬を怖れた女 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

冬を怖れた女 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

 

 

2-3年前に、マット・スカダー・シリーズを読み切ろう(スカダー祭り)を敢行?し
ようとしたら、図書館で唯一手に入らなかったのがシリーズ第二作の本書。

そんなに熱心に探していたわけではないが、近所の古本祭りで見つけたときは、ちょっとときめいた。(100円でゲット)これで、シリーズ16作、完読だけれど、ネットでリストを確認すると、シリーズは全作、田口俊樹の訳なんだよね。(たぶん、個人的には一番好きな訳者)

そして、「暗闇にひと突き」「八百万の死にざま」「聖なる酒場の挽歌」と「墓場への切符」「倒錯の舞踏」「獣たちの墓」(いわゆる倒錯三部作)と二度のピークがあることに気づいた。

というわけで、本書に関しては書くことがあまりない。ミステリとしては、初期の中でも一番凡庸で観るべき点はない。(まあ、ミステリとしては「八百万」だって凡庸なのだが)ただ、相変らず田口訳は抜群で、キャラも脇役までたちまくりで、あっという間に読んでしまう。スカダーもエレインも若い若い・・・

 

●7233 世界はゴ冗談 (SF) 筒井康隆 (新潮社) ☆☆☆
 
世界はゴ冗談

世界はゴ冗談

 

 

そして、ここにも老いが・・・正直、どの作品も読みにくくてしょうがない。わざとや
ってるんだろうが、それがちっとも効果をあげていない。もはや、普通の小説を書く能
力がなくなってしまったのか、と思ってしまう。

でも、Wikiで筒井の短編集のリスト
を調べたら(さすがに、ほとんど読んでいる)「ウィークエンド・シャッフル」「メタ
モルフォセス群島」「バブリング創世記」の三冊がピークであり、「エロチック街道」
あたりで、あれっとなり、「串刺し教授」「原始人」「薬菜飯店」と全然つまらない、
というか、解らなくなってしまい、それが今まで続いているのだから、根は深い。

という観点からだと、「繁栄の昭和」の解り易さは結構画期的だったんだ、と再確認した。しかし、和田誠の表紙なんて、筒井にあっただろうか?

 

●7234 役者は一日にしてならず (インタビュー)春日太一小学館)☆☆☆☆★
 
役者は一日にしてならず

役者は一日にしてならず

 

 

あちこちで、春日に駄作なし、との声があがっているが、まあそこまでは言わないが、
本書が「天才・勝新太郎」とならぶ傑作であることは間違いない。

正直、いまさら時代劇の老優のインタビューなんて、何が面白いんだろう?と思っていた僕が浅はかでした。まあ、著者の選択が素晴らしいのかもしれないが、16人、最後まで一気に読んでしまった。

そして、時代劇などあまり熱心に観た記憶のない僕にも、結構思い当たるシーンが多くて、かつてはいかに時代劇が日常であったのか、逆に今そうでなくなったのか、を痛感させられた。(まあ、西部劇も同じなのだが)

特に面白かったのは近藤正臣。「龍馬伝」の山内容堂には感心したのだが、こんな深い意図、企みがあったとは。確かに「国盗物語」の光秀、「黄金の日々」の三成、「太平記」の北畠親房、等々、近藤は大河で既存のイメージを覆し続けてきたのだ。足でピアノを弾くだけではないのだ。

その他、千葉真一中村敦夫風間杜夫草刈正雄、らが身近で面白かったが、他も全部読みどころ十分。貴重な歴史の証言であり、濃密な人間記録でもある。

他に、平幹二朗夏八木勲林与一松方弘樹前田吟平泉成杉良太郎蟹江敬三綿引勝彦、伊吹五郎、田村亮高橋英樹田村正和が抜けているのはなぜだろうか?緒形拳は、間に合わなかったのだろうが。(蟹江と夏八木はギリギリ間に合ったようだが)

 

●7235 日本ミステリ解読術 (書評) 新保博久 (河出書) ☆☆☆★

 

日本ミステリ解読術

日本ミステリ解読術

 

 

実は、本の雑誌社から、著者のひさびさの新刊が上梓されたので、その予約と同時に本
書を借りてきた。かなり前、日経のミステリ評を著者がやっていたときは、非常に重宝
したのだが。(今の野崎はイマイチなんだよね)

特に「七回死んだ男」は、見逃していたので、本当に助かった。確か、「死国」も著者がとりあげなかったら、リアルタイムでは見逃しただろう。

正直、赤川次郎山村美紗をここまで丁寧に解説されても?なのだが、岡島二人や笹沢佐保は素直にうれしい。もはや存在しない岡島の作品は、ほとんど読んだつもりでいたんだけれど、結構初期に読み残しがあることに、気づいた。これは、読まなければ。

最後に著者が、ミステリマガジンの新刊書評の四年間のベスト4を挙げていて、「大誘拐」「戻り川心中」「サマーアポカリプス」というオールタイムベスト10クラスの傑作3作に、なんと石沢英太郎の「牟田刑事官事件簿」という、全然知らない作品を挙げているのだ。

その本の解説文であることを割り引いても、これは読まないと。というわけで、途中でたぶん本書は既読であることに気づいたが、ラストの黒津均という作家?の解説は最高。覆面座談会テースト爆発である。

 

 ●7236 ラプラスの魔女 (SF) 東野圭吾 (角川書) ☆☆☆

 

ラプラスの魔女

ラプラスの魔女

 

 

一応SFと書いたが、まあSF作家からしたら、超能力の原因が全く明かされない本書
をSFとは呼びたくないだろうし、また面白さもこれはもうミステリそのものである。

ただ、ジャンルなどどうでもよくて、問題は面白いかどうかであるが、正直本書はつまらない、というか凡庸である。

「分身」「変身」「プラチナデータ」よいった、医学SFの系列だが、個人的には「パラレルワールド」くらいしか面白かったものを思いだせない。本書も、一応いろいろ工夫しているが、半分くらいで全体の構成は分かってしまうし、そこに驚きはない。

さらに、本書の場合、人物造形が中途半端で、誰に感情移入したらよいのか、わからない。東野の作品には珍しく、読んでいてそこが苦痛だった。まあ、駄作ではないのだが、これが日本ミステリの今のレベル、と思われるのは困るので、厳しい評価とした。東野のスランプもかなり長い。やっぱ書き過ぎだろうか。