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2014年 7月に読んだ本


 ●7015 会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから(ビジネス) 大西康之 (日経B) ☆☆☆☆

 

会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから

会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから

 

 

あまり期待せずに(たぶん、西松屋アイリスオーヤマがでてくるのでは?と少し期待
して)読みだしたのだが、あまりの面白さにやめられなくなり、一気に読み終えた。

著者の作品は初めてだが、これは本物だ。取材の確かさ、視野の広さ、思考の深さ、思いの強さ、そして対象への愛。しかも、その愛する対象に対する近すぎも、遠すぎもしない、距離感が抜群なのだ。

ようは、バランス感覚が素晴らしいのだ。そうでないと、こんな複雑ではあっても、本質は愚かな物語を楽しめはしない。トーンは少し違うが「ホンダ神話」等々で自動車業界を見事に描いた、佐藤正明に近いものを感じた。

内容は三洋が破綻に至る銀行・ファンドとの戦い?を描いた前半と、副題の通り破綻後の10万人のその後の物語を描いた後半に分かれる。

細かいことは敢えて書かないが、前半においては当時悪役とされた、野中ともよに対するイメージが大きく変わった。彼女には、もっとふさわしい舞台があったのではないか、と夢想してしまうほど、本書における彼女のビジョンは魅力的だ。(一方で、著者は彼女の限界、弱点もきちんと描いていて気持ちがいい)

個人的には、クビになった三代目・井植敏雅氏が、現在あのLIXILの藤森氏の下で、リターンマッチに取り組んでいる、ということに驚いてしまった。本当、つながりすぎてびっくり。

そして後半は、一話一話が心に沁みる。特に家電量販との営業の厳しさは、他人事とは思えない。(逆に、松下の営業はある意味凄いと感じた)正直、こういういい話はほんの一部なのだろうが、リストラ担当の人事部長の贖罪の活動を読むと、つい目頭が熱くなる。

ただ、本書や松下関連の話を読むと、どうしても通奏低音としての同族経営問題から目を逸らすことができず、何かもやもやが残ってしまうのだ。たとえ、井植敏氏がいくらいいおやじだったとしても。

それと、もう一点あの中
村邦夫の描き方が、少し一面的な気もする。(まあ、松下改革を描くことが本書の主題ではないが)いずれにしても、本書は様々な読み方ができる上に、何よりリーダビリティーがある。

ただの情報の羅列ではなく、文章・物語に力がある。著者の他の作品も読んでみたくなった。それにしても、確かにキョンキョンがCMタレントだった、ハイアールのアクアは、今はどうなっているんだろうか?こんどの土日に家電量販店で確認してこようか。

 

●7016 稲盛和夫、最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生 (ビジネス) 大西康之 (日経新) ☆☆☆☆

 

稲盛和夫 最後の闘い

稲盛和夫 最後の闘い

 

 

 

早速図書館で本書を借りたら、翌日出張で仙台に向かう新幹線の中で一気に読み終えた。

やはり、著者の文章には力がある。凄いリーダビリティーだ。正直、三洋に比べてかなり薄いので、緊急出版かな、と危惧したのだが、たぶん世間のJL批判に対する素早い解答の意味合いはあるだろうが、本書もまた取材ぶり、視野の広さ、思考の深さ、そしてバランス感覚が素晴らしい。

JAL再建の外科的手法を担ったのが再生機構のMBAたちであり、稲盛が行ったのは「漢方治療」と言えるが、本書の早い段階で機構側の人間に「フィロソフィーとアメーバ経営だけでJALが再生したかと言われれば、それは違う」とはっきり言わせているあたりに、著者の見識を感じる。

ただし、正直改革のディーティールの迫力、面白さは、薄いこともあって三洋より劣る。しかし、本書はそのテーマを稲盛のフィロソフィーと、方法論としてのアメーバ経営に絞り込んだため、この2点に関してはかなり理解が進んだ気がする。

特にアメーバに関しては、何と今JALは一便ごとの収支が即座に出る、ということで、最近飛行機をダウンサイジングして積載効率?を上げているな、としか考えていなかった自分の浅はかさを反省した。

また、今までは機内販売金額は営業の成果に反映されていたのだが、今は各アメーバの実際に売ったCAの成果となる、ということらしい。まさに著者が書いているように、アメーバ経営は、トヨタカンバン方式、GEシックスシグマと並ぶ経営手法になった。

本書によると資生堂が導入しようとしたようだし、そういえば三洋においても敏がアメーバにかぶれてしまい、いきなり組織を何千にも細分化して現場が大混乱するさまが描かれていた。

以上、僕は実は経営者としての稲盛さん(実学)には大きな敬意を払いつつも、そのフィロソフィーや塾に関しては、何か胡散臭いものを感じて、今まで避けてきた。

本書を読んでも、やっぱり何か浮世離れしすぎて、本当かよ、という気持ちはまだあるのだが、ひょっとしたら同郷の西郷隆盛も、こんな人物だったのか、という気はしてきた。西郷もまたあまりにも大きい矛盾の塊であり、僕はちゃんと理解できていないのだが。

最後に個人的にはJAL再生における稲盛=京セラ批判(例えば再上場におけるキャピタルゲイン批判)には、いきどおりを感じていたので、本書の内容は僕には心に沁みた。もちろんANAが不公平だ、というのはわかるのだが。

 

●7017 放浪探偵と七つの殺人 (ミステリ) 歌野晶午 (講談文) ☆☆☆

 

増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)

増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)

 

 

読む本が無くなったので、歌野晶午を集中的に読もうかと思ったのだが、一冊目から挫
折してしまった。決して駄作だとは思わないし、パズラーとして色々工夫しているのも
わかるのだが、その見せ方が合わない。

まあ、若書きと言ってしまえば終了なのだが、今のところ著者のマイベストである「ROMMY」は、もっとシンプルでありながら驚きがあったように思う。

確かに本書は、解説で柄刀一が書いているように「密室殺人ゲーム」に似たテーストがあるのだが、僕の場合それはマイナス評価なのだ。

 

 ●7018 セブン (ミステリ) 乾くるみ (角川春) ☆☆☆

 

セブン

セブン

 

 

続けて短編集だが、本書も凝ってはいるが、やはり楽しめなかった。冒頭の「ラッキーセブン」の評価が高いが、いくらミステリと言っても、この設定は無茶苦茶だと思う。


まあ、こういうSF的?な特殊設定や、論理への異常なこだわり、そしてギャルゲー的なダークテーストというのは、著者の特徴でもあるんだが、良く考えるとそれは全て西澤保彦にも当てはまり、やはりレベルの違いを感じてしまう。

まあ、その論理とダークテーストが、奇跡のように組み合わさった傑作が「イニシエーション・ラブ」であって、それがベストセラーになっていることはうれしいのだが。

 

 ●7019 名探偵なんか怖くない (ミステリ) 西村京太郎 (講談文) ☆☆☆☆

 

名探偵なんか怖くない (講談社文庫 に 1-2)

名探偵なんか怖くない (講談社文庫 に 1-2)

 

 

なんと71年の作品の新装版です。著者については今更説明はいらないだろうが、トラベルミステリーの第一人者であり、赤川次郎内田康夫、らともに、マニアからは目の敵にされるか、無視されてきた量産作家である。

しかし、昔大学のクラブの先輩が、著者を、ベストセラー作家西村寿行とは違い、マニアックで売れない作品をコツコツ書いている、と評したように、著者は「寝台特急」を書くまでは、売れないマニアックな作家だったのだ。

そして、その頃の著者のマイベスト3が、本書と「殺しの双曲線」と「華麗なる誘拐」となるのだが、何と図書館でこの三冊の美本を見つけてしまい、方針を急遽京太郎祭りに変更することにした。

で、本書なのだが、名探偵とは、エラリー、ポアロ、メグレ、明智の四名だが、巻末の著者と綾辻の対談で語られているように、決してパロディーなどではなく、オマージュに満ちた力作である。(この四人の中で、著者はメグレが一番好きで、エラリーはイマイチ、というのは意外だったが)

ただ、ミステリとしての設定はかなり無茶で、ラストのどんでん返しも含めて、意外性はそれほど感じなかった。(たぶん、それは時代の限界かもしれないが)ただしとにかく、著者の勉強が半端ではなく、それだけで、マニアはうれしくなってしまう。

トラベルミステリー作家の作品とはとても思えない、ディープでマニアックな作品で、何よりミステリへの愛が感じられるのだ。いやあ、これはシリーズ四作全部読み返そう。

綾辻は「多すぎる」がベストと言っているが、正直後の作品が思い出せない。「乾杯」は「カーテン」がモチーフだったことだけは、覚えているが。

 

●7020 華麗なる誘拐 (ミステリ) 西村京太郎 (講談文) ☆☆☆☆

 

華麗なる誘拐 (講談社文庫)

華麗なる誘拐 (講談社文庫)

 

 

さて、第二弾です。本書の基本トリックはさすがに覚えていたのだが、それでもこの日本国民全員を人質にとり、無差別殺人を繰り返す、というシチュエーションは82年の作品とは思えない新しさがある。

また、誘拐ミステリの最大の難関である身代金の受け渡し方法に関しても、5000億円というトンデモ金額なのに、何とも人を喰ったトリックが仕掛けられており(しかも、この部分は忘れてしまっており)びっくりしてしまった。

このユーモラスかつ残酷なトリックの冴えに、脱帽である。ただし、弱点もある。まず左文字進という探偵に全く魅力がない、というか警察も含めた捜査陣にリアリティーがないのだ。事件が事件だけに、もっとリアルな緊迫感で描けると思うのだが、時代のせいか、作者の力不足なのか。

さらに、これまたこんな魅力的な犯罪を行う、ブルーライオンズのメンバーがリーダーも含めて、これまた魅力がない。力量のある作家にリメイクしてほしいほどだ。

更に言えば、犯人特定のプロセスが、ちょっと安易すぎる。というわけで、全体に荒っぽい部分もあり、色々文句はあるのだが、でもやっぱり本書は魅力的なミステリだ。このまま京太郎祭りを、もう少し続けてみよう。

 

●7021 君は、どう生きるのか? (ビジネス) 古森重隆 (三笠書) ☆☆☆★

 

 

申し訳ないが「魂の経営」は、著者がスーパーマンであることは解ったが、正直あまり
ピンとこなかった。

で、今度は人生訓?のようだが、ベストセラーということでとりあえず手に取った。(本はともかく、僕はこの未曽有の危機を見事に乗り切った、富士フィルムという会社はいくらリスペクトしても足りないし、少しでもその秘密を知りたいとは常に思ってきた)

本書を読むと、誰でも思い出すのは田坂さんの「77の言葉」だ。本書には34のキーワードがあり、それが右ページに大きく書かれ、内容はだいたい3ページくらいで終り、最後にまとめの箴言がつく、という「77」に似た構成で、あっという間に読める。

「半年でもいいから、どっぷり仕事に浸って、死ぬ気になって働いてみてほしい。死ぬ気で半年も働けば、『手応えをつかむためには、ここまでやればいいんだな。ここまでやればお客さまも満足してくださるし、会社に対しても貢献を果たすことが出来るな』という目安が見えてくる」

「思考力を養うには本を読むのがいちばんである」

「相手のニーズは何か、そのニーズにどういう価値を持った答えが用意できるか。ひとことで言えば、これがきちんとできる営業マンが、優れた営業マンである」

「私は課長や部長だったとき、月に一回くらいの割合で部内に関係する営業と製造、研
究所のメンバーを集めて合宿を行った」

等々、営業ほどおもしろい仕事はない、として書いていることには、ひとつの文句もなく賛同する。でも、何というか、ガテン系、体育会系の香りが、僕には強すぎるんだよねえ。やっぱり。

 

 ●7022 10倍仕事ができる人、10分の1しかできない人 (ビジネス) 島原隆志 (大和書) ☆☆☆

橋本さんの紹介で、コンピタンシーに関する本だというので、読んでみたのだが、申し
訳ないが僕には合わなかった。後でいくつか書くように、内容のほとんどには賛同するし、若手に読ませたい部分も多々ある。

ただ、その表現が一冊を通して、同期の出世争い(成果の出せる人と出ない人=主人公)がマンガチックに描かれていて、田坂さんに慣れてしまった僕には、どうにも素人っぽく感じてしまうのだ。

そして、何よりそういう行動を起こしてしまう、心(潜在意識)への踏込が弱くて、全体に薄っぺらく感じてしまい物足りないのだ。

「○どうすれば『一つの動作』で『複数の作業』を薦められるか考えて動く、×『一つの仕事』を仕上げるまで、次の仕事に移ることができない」

「こまめな報告が身を助ける。『あの件どうなった?』と声をかけられたら失格」

「○トラブルに限らず、メールでも現場でも反応が早い、×トラブルに限らず、人の要求への反応が遅く、催促を受けがち」

「○同僚やキーパーソンとのコミュニケーションが多く、円滑な人間関係を築く、×周囲とのコミュニケーションが少なく、自分の仕事に没頭しがち」

まあ、こうやって書き出すと、大事なことなんだけれど、やっぱり当たり前だし、つい、WHYと言いたくなる。

 

 ●7023 殺しの双曲線 (ミステリ) 西村京太郎 (講談文) ☆☆☆☆

 

新装版 殺しの双曲線 (講談社文庫)

新装版 殺しの双曲線 (講談社文庫)

 

 

これまた、注文がないことはないが、やはり傑作だ。確か冒頭で本書は双生児トリックを使っている、と明言しているのだが、それがミスデレクションとなっているところが「殺戮にいたる病」を彷彿させる。(まあ、そこまであざやかではないのだが。僕は三つ子ではないか?と思ったが、はずした)

また、本書の半分は「そして誰もいなくなった」と相似のプロットで、オマージュというか挑戦となっている。しかし、僕が驚愕したのは、そんなことではなく、本書で繰り返されるメイン・トリックが、あの「摩天楼の身代金」のラストと同じだったことだ。

(僕は一時期「摩天楼の身代金」「バスク、真夏の死」「シンプルプラン」が新しい海外ミステリ御三家?と言っていた頃がある)

しかし、本書の上梓は71年「摩天楼」が訳されたのが83年、なのでこっちが元祖なんだ。まあ、本書をジェサップが読んだはずはないけど。たぶん「摩天楼」を読んだとき、本書の内容なんかとっくに忘れていたんだろうと思う。

もし、覚えていたら、ひょっとしたらあそこまで感銘を受けなかったかもしれない。やっぱり、ミステリは難しい。

 

●7024 名探偵が多すぎる (ミステリ) 西村京太郎 (講談文) ☆☆☆☆

 

名探偵が多すぎる (講談社文庫 に 1-5)

名探偵が多すぎる (講談社文庫 に 1-5)

 

 

シリーズ第二弾。個人的には昔読んだとき「怖くない」より落ちる気がしたのだが、今回は結構楽しく読んでしまった。たぶん、昔はルパンや二十面相が出てくる、乱歩タッチが子供っぽくて嫌だったんだろうと思う。

しかし、章題がすべてパロディーになっていたり、西村京太郎がこんなにマニアックだったとは、改めて驚いてしまった。また、密室トリックも必然性は?だが、良く考えられていると思う。「人形はなぜ殺される」の瀬戸内海バージョンというべきだろうか。ラストも結構うまく決まった。

 

●7025 名探偵も楽じゃない (ミステリ) 西村京太郎 (講談文) ☆☆☆★
 
名探偵も楽じゃない (講談社文庫)

名探偵も楽じゃない (講談社文庫)

 

 

はるか昔の記憶をたどれば、シリーズ第三作の本書が一番レベルが低かったように思う
のだが、やはり前二作に比べると、ちょっと雑でやりすぎが減点。

でも、今回はミステリマニアのクラブが舞台とあって、著者のマニアぶりが半端なく、そういう意味では読む価値は十分ある。

ただ、いつもの四人の名探偵にプラスして、左文字京太郎という新探偵を登場させたのが、雰囲気を壊すだけでなく、真相を見破り易くしてしまった気がする。(たぶん彼がモデルとなって、後に左文字進が生まれたのだろうが、結局どちらも僕には魅力がない)

ミステリ的にも、多重解決の努力は分かるのだが、ゴタゴタして切れ味が足りない。本書の本質的な構造は西村版「乱れからくり」であり、もっとシンプルかつ大胆にやれば、傑作になった気がする。
 


 ●7026 野望の憑依者(よりまし)(歴史小説) 伊東 潤 (徳間書) ☆☆☆★

 

野望の憑依者

野望の憑依者

 

 

さすがに「名探偵に乾杯」が全然進まなくなってしまい、気分転換に本書を読みだしたら正解、一気に読み終えた。(やっぱり、当時の本格ミステリの人物描写は稚拙であって、ポアロの息子がでてきたところで嫌になってしまった)

本書の舞台は、著者にしては意外な南北朝時代、それもあの稀代の婆娑羅にして悪党、高師直が主人公である。正直、あの複雑な太平記を描くには本書は短すぎる、と感じたのだが、後醍醐天皇側をほとんど描かない、とういう奇策?も、やはり成功したとはいいがたく、後半が駆け足に感じる。

ただ、たぶん著者が一番力をいれたと思われる、欲望のままに動くも師直と、もう一人の悪党、しかし民のために戦い死ぬ、という楠正成の対比は、後者の登場は少ししかないのだが、本書を引き締め、きらりと輝かせている。

出来ることなら、佐平次などという(たぶん)架空の人物を描くよりも、師直と正成の二人に絞って、徹底的に描いた方がよかったように感じたのだが。

それにしても、今回の直木賞に、なぜ著者はノミネートされなかったのだろうか?(ちなみに、大河の影響で、高師直柄本明足利直義=高島政伸の面影が頭にちらついて離れなかった。しかし、尊氏はこれじゃ真田ではなく鶴太郎か。鶴太郎は確か高時をやっていた気がしたが)

 

 ●7027 アンダーカバー 秘密調査 (ミステリ) 真保裕一 (小学館) ☆☆☆☆

 

アンダーカバー 秘密調査

アンダーカバー 秘密調査

 

 

著者の作品を文句のない傑作と感じたのは、02年の「誘拐の果実」が最後だったように思う。初期の傑作群(「震源」「ホワイトアウト」「奪取」「密告」等々)に思い入れがあるだけに、このところの著者の作品には不満だった。

特に「アマルフィ」は、いったいどうしてしまったんだ、と感じてしまった。ただ、直近の「正義をふりかざす君へ」は細かい文句はあるが、かなり戻ってきたように感じていた。

そして、本書。冒頭の主人公(見た目はともかく、シチュエーションはもろ、ホリエモンライブドア)が罠にはまって、麻薬密輸の罪でフィリピンの刑務所に収監される、というのはまさに現実の事件と重なり、一気に引き込まれた。

一方では、ユーロポールの麻薬Gメンの活躍が描かれ、ふたつのストーリーは何とトルコでシンクロする。正直、日本(フィリピン)パーツの面白さに比べて、欧州パーツはやや尻すぼみになるのだが、それでもひさびさに真保の調査の行き届いた、迫真のミステリの復活である。

ただ、謎の正体(そもそも、なぜこんな事件が起きたのか)がイマイチピンとこなかったり、物足りない点もあるので、やや甘い採点か。

 

 ●7028 追憶の夜想曲 (ミステリ) 中山七里 (講談社) ☆☆☆☆

 

追憶の夜想曲

追憶の夜想曲

 

 

もはや見放したつもりだったのだが、こういう時に限って新刊が簡単に手に入る。まあそれでも「カエル男」から「贖罪の奏鳴曲」とつながる、ダーク路線(とは言っても「ドビュッシー」もかなりダークなのだが)は、まだ読んでみたいと思わせるものがある。

結論は正解。正直言って、御子柴シリーズの通奏低音である贖罪の描き方はピンとこない。(例えば、この結末では御子柴は社会から抹殺されるだろう)しかし、本書の文体には力があり、一気に読まされた。

また、はっきり言って、誰もが不幸になってしまう真相も、ストーリーに引っ張られたので、すきを突かれた感じで、結構意外だった。特に御子柴と岬検事の丁々発止のやりとりが素晴らしいのだが、岬?と思って調べたら、やっぱり「ドビュッシー」のピアニスト岬先生の父親という設定。

まあ、この作者の作品はアチコチで繋がっていて、マニアックなワールドを作っていることを再認識。

 

●7029 ナイト&シャドウ (ミステリ) 柳広司 (講談社) ☆☆☆★
 
ナイト&シャドウ

ナイト&シャドウ

 

 

あっという間に読み終えて、ううんと考え込んでしまう。これが、あの柳の新作なのか。ワシントンを舞台に、日本から研修で派遣された超人SP首藤が大活躍、という話なのだが、ラノベとは言わないが、あまりにも文章にコクがないキャラクター小説。

まあ真保の「アマルフィ」に比べたら、まだましかもしれないが。こりゃ劇画だなあ、と思ったのだが、いやいやこれはテレビの刑事(SP)モノの脚本、と考えればキャラもたっていて、スピーディーで、派手で荒っぽいどんでん返しも続いて、最高ではないか、と思ってしまった。(鑑識の見せ場もたっぷりあるし)

でも、基本的に海外で日本人エリートが大活躍、というのは、あまりにも時代錯誤で恥ずかしいなあ(恋人が欧米人じゃないのが救いだけど)柳ってそういう小説は、書かないと思っていたのだが。(今僕は春江一也の春夏秋冬シリーズを脳裏に浮かべて書いたのだが、良く考えたら矢吹駆シリーズも当てはまってしまう。怖!)

 

●7030 日本企業はモノづくり至上主義で生き残れるのか (ビジネス) フランシス・マキナニー (ダイヤ) ☆☆☆☆ 

 

 

副題:「スーパー現場」が顧客をキャシュに変える。刺激的な題名に釣られて読みだしたが、内容はかなり予想と違う上に、作者名やその主張に既視感がある。そして、やっと思い出した。著者はあの「松下ウェイ」の作者なのだ。

そして、一気に読了して、凄い本を読んでしまった気もするし、何か結局良くわからない、というか隔靴掻痒いやごまかされた気も少しする。

何せ、著者がブレーンを務めた中村邦夫やあのストリンガーまで、本書では新しい世界を見通した人間として描かれ、その変革を日本の既存勢力がつぶした、という論調は、さすがにすんなりとは呑み込めない。

企業にとって重要な指標は、キャッシュ化速度指標と資本速度指標である、というのは「松下ウェイ」と同じフットボール理論なのだが(僕はこれをWMに当てはめたのだが、本書では代表企業としてアップル、そしてP&GとWMがセットで語られる。ただ、アマゾンが出てこないのが、時代の限界で物足りないが)

本書の新しさは、それをもたらすのが、極度に拡大化されたクラウド上の顧客情報である。すなわち「スーパー現場」とは、急拡大する顧客接点と高速なキャッシュ化スピードの組合せである、とするのだ。

そして、その代表企業であるアップルこそ、アップルストアやi-phoneのアプリによって、世界中の顧客情報を分析し、顧客が望む商品を(絞り込んで)創り出し、キャッシュ化速度を最大化している、というのだ。

言いかえると商品を絞り込み、最高の価格、最小の在庫、最短のサイト、で商売している、ということだ。まあ、こう言いかえると、ちょっと鼻白んでしまうのだが、これが国境を越えて急拡大するクラウド上で全て起きているところがミソで、確かにそういう発想は日本ではなかなか難しいかもしれない。

(ただ、著者が書くように、幸之助や盛田が今の時代に生きていれば、一番顧客に近い=クラウドという世界をイメージできたのかもしれない)

ただ、この考え方で本当にアップル=ジョブズの独創性を本当に説明できるのか?結果の後付ではないか?という思いもどうしてもしてしまう。やっぱりきちんと識者に解説・評価してもらわないと、どうも高揚だけでなく、もやもや感もつきまとうのだ。

 

 ●7031 古書店主 (ミステリ) マーク・プライヤー (早川文) ☆☆☆★

 

古書店主

古書店主

 

 

英国生まれの米国人作家が、憧れのパリを舞台に書き上げたミステリ。題材が「死の蔵
書」みたいで、ちょっと期待したのだが、微妙な出来。まあ、悪くはないのだが、すべ
てにおいて70点、という感じで、イマイチ評価しづらいのだ。

で、パリを舞台にしながら、やっぱり登場人物が、主人公以外も米国的に感じてしまう。しかし、最後の最後で、あのシャーロック・ホームズの古典的トリックが出てくるとは、驚いた。

 

 ●7032 私がデビューしたころ (エッセイ) 東京創元社編集部  ☆☆☆☆

 

 

副題:ミステリ作家51人の始まり。たまたま新刊を図書館で手に入れたのだが、最初は有栖川有栖北村薫だけ読めばいいか、と思っていた。しかし、つい山田正紀を読み出し、まるで良く出来た幻想小説のような一編に魅せられ、結局全部読んでしまった。

土屋隆夫など、まるで歴史の証人だし、やはり51人いれば51人の物語があるんだ。正直、最近デビューした作家のエッセイは、薄く感じてしまったが、しょうがないのか。

 

 ●7033 マスカレード・ホテル (ミステリ) 東野圭吾 (集英社) ☆☆☆☆

 

マスカレード・ホテル

マスカレード・ホテル

 

 

正直、古本屋で入手して読んだ「麒麟の翼」があまりにひどい出来だったので、東野の新刊を買うことはやめて、ひたすら図書館で待つことにしたのだが、やっと本書をゲット。

まあ、本はボロボロで、補修のテープが張ってあるのだが。で、内容はまあ最近の作品では良く考えられているし、相変らず読みやすい。

ちょっと最後がやりすぎの気もするし、ヒロインがステロタイプのような気もするので、甘い採点かもしれないが、これなら一読の価値はあるように思う。

 

 ●7034 クリエイティブ人事 (ビジネス)曽山哲人・金井壽宏(光文新)☆☆☆☆

 

クリエイティブ人事?個人を伸ばす、チームを活かす? (光文社新書)

クリエイティブ人事?個人を伸ばす、チームを活かす? (光文社新書)

 

 

金井先生の講義や講話は大好きなのだが、正直その著書に関しては愛読者というには程遠かった。どうも、彼の本は米国ビジネス書によくあるように、他の本の引用やインタビューの羅列が多く、彼自身の持論が練りこまれていない気がしてしまうのだ。

まあ、素材と考え方を渡すので、あとは自分で考えなさい、という感じなのかもしれないが。(「仕事で一皮むける」など、もっと練りこめば、素晴らしい本になった気がするのだが)

で、本書なのだが、これも最近彼が良く使うのだが、最初に曽山氏との対談があり間に曽山氏の実践・理論が紹介され、最後にまた対談が入ってまとめとなる、という構成で、相変らず金井理論は薄いのだが、今回は素材=曽山氏が素晴らしい。

正直あのサイバーエージェントの人事本部長ということで、彼の実践編に関しては全面的に賛同するものはあまりないのだが、その裏に秘められた考え方、ポリシーには強く共鳴した。

そもそも「すごい商品」ではなく、「すごい組織」を作りたい、という入社動機がユニークだし、人事こそ戦略部門たれ、というのは僕がアフラックから教わったことと重なる。

また、ビジネス書の読み方(見方?)も、まったく僕と一緒だし、リーダーは持論ブログを書くべし、というのも大きく賛同する。

人事部門には、耳の痛い話も多いが、人事はコミュネケーション・エンジンである、という考え方や、採用で重視する基準が「素直でいい奴」というのも解るし、「英語力を過剰にアピールする人間を採用しすぎてはいけない」には三木谷さんもびっくり。また、これは結構有名らしいのだが、「CA8」という役員システムにも驚いてしまった。