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2013年 8月に読んだ本

●6777 1985年のクラッシュ・ギャルズ (NF)柳澤 健(文春社)☆☆☆☆★
 
1985年のクラッシュ・ギャルズ (文春文庫)
 

 

あまり期待をせずに読みだしたら、やめられなくなり、最後は浦和駅のホームに30分程座って(涼しかったので)読み切ってしまった。僕は女子プロレスには全く興味がなく、クラッシュ・ギャルズも名前くらいしか知らなかったのだが、そんなことは関係なくここまで読ませる著者の力に脱帽だ。

(その僕が唯一女子プロレスと繋がるのは、あの井田真木子神取忍を描いた「プロレス少女伝説」なのだが、実は本書で井田も神取も重要な役割を演じる)

本書の成功の原因は(もちろん著者の力量が一番だが)2つあると思う。ひとつは、これはもう長与千種というレスラーの類まれなる個性と才能を描き切った点だ。しかし、長与という人間は、ある意味猪木を超える存在感だ。凄いとしか言いようがない。

そして、もうひとつは、長与と飛鳥という対立項だけでなく、そこに観客側を代表する、第三の主人公として、元クラッシュの親衛隊長であり、プロレスライターを経て、現在は笑芸人ライターの伊藤雅奈子を配したことにある。

これは、物語世界をくっきりと浮かび上がらせるための、巧緻な仕掛けとして見事に成功した。定期的に挟まれる伊藤の手記が、時代のリアル「なぜ少女たちはあれほど深くクラッシュギャルズを愛したのか」バブル前夜、既に承認の場を失いつつあった少女たち、宮台が描く直前の少女たちのリアルを鋭く炙り出す。

この第三の視点によって、本書は単なる女子プロレスのNFを超えてしまった。個人的には満点でもいいのだが、著者の「1976年のアントニオ猪木」を本書ほどには楽しめなかったのは、やはり僕には猪木の情報がありすぎて、素直に読めないところがあったからだと思う。

そういう意味では、クラッシュ・ギャルズに関しては、ほぼ情報がゼロだったので、ここまで楽しめたのかもしれないと思って、この評価とした。

 

 

 

 

読む本がないので、連城を借りてきたのだが、どうやら「運命の8分休符」と勘違いしてしまったようで、本書は既読、それも作品によっては、他の短編集にも入っていて何度も読んだことがあることに気づきながら、やっぱり読んでしまった。

そして、初期の連城の「意味と関係性の転倒」への異常なまでのこだわりに、呆然としてしまう。作品によっては、明らかにバランスを欠いているのだが、何か憑かれたような作者の筆致に読みだしたらやめられない。

作品としては「過去からの声」がベストだと思うが、さすがにこのトリックは覚えていた。また、表題作の動機も(途中で思い出したが)あっと驚く。

「化石の鍵」「奇妙な依頼」「二つの顔」あたりは、ほとんど忘れていたのだが、これは三作とも、あまりにトリッキーにひねりすぎていたからかもしれない。

 

●6779 王になろうとした男 (歴史小説) 伊東 潤 (文春社) ☆☆☆★

 

王になろうとした男

王になろうとした男

 

 

何となく、出版社の意図が透けて見える本で、内容は5作しかない。(「巨鯨の海」が直木賞」を受賞したら、受賞後第一作緊急出版、ということで華々しくとりあげられただろうが、あえなく落選。本書が文春本というのも意味深)

というわけで、「城を噛ませた男」「国を蹴った男」に比べて、内容は少々薄い。特徴は今までと違って、すべての作品が織田信長に絡んでいるところだが、相変らず活躍するのは、そんな武将いた?という地味な人々で、作品としても最初の三篇は、やはり地味としか言いようがない。

そうは言っても、冒頭の二編「果報者の槍」と「毒を食らわば」は同じ主人公二人の同じ時代を、違う切り口で描くという工夫をしているのだが、やはり地味かな。で、四作目の「小才子」は、またか、という本能寺の真相で、これは派手すぎて、リアリティーがない。

で、最後の表題作があっと驚く異色作。冒頭、南方の黒人たちの生活が描かれ、なんじゃこりゃ?と思っていたら、黒人ヤシルバ=彌介であることがわかり、納得。(ヤスケは信長に仕えたとされる黒人)しかし、この終わり方は・・・唖然。(ルパン三世じゃないんだから)

 

 ●6780 慧眼 スカウト・デイズ (小説) 本城雅人 (PHP) ☆☆☆★

 

慧眼(けいがん)

慧眼(けいがん)

 

 

傑作「スカウト・デイズ」の続編ではなく、スピンオフ短編集。「サクリファイス」「エデン」に対する「サヴァイヴ」という感じか。しかも、ある年のドラフト5位指名までがそれぞれ5作の作品になるという凝った構成。(最後に、ドラフト外も用意してある)

しかし、冒頭の「指名拒否」が、どうにも腹にもたれた。これは、ある有名な実際の事件がモデルで、正直後味が悪い。続く「下位指名」「因縁」は、少々地味な印象。で、ついに次の「同期」は、ドラフト指名と関係ない物語で、趣向倒れ。

しかし、次の「流儀」そしてラストの「いわく」では、堂神、世良、大内の因縁が語られ、前作を読んだ人間には興味深い。ただ前作に比べて、どうしても陰湿感を感じてしまうのは、内容だけでなく、僕がサッカー標準とは全く掛け離れた、ドラフトいや野球界という仕組みに、強烈な違和感を感じてしまうからだろうか。

 

●6781 妖女のねむり (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆★

 

妖女のねむり (創元推理文庫)

妖女のねむり (創元推理文庫)

 

 

相変らず読む本がなくて、今度は泡坂を読みだした。もちろん、既読なのだが「湖底のまつり」や「花嫁のさけび」と違って、どんな話だったか、さっぱり忘れてしまっている。

で、読みだして、すぐ思い出した。こりゃ「輪廻転生」の物語だったんだ。しかも、ストーリーは中盤でいきなり意外な展開となる。しかし、読了してどうにも消化不良が残った。

もちろん泡坂のことだから、単純な輪廻転生ではなく、その中に秘められたトリックを、張り巡らせた伏線から解いていくのだが、残念ながら根本的な設計ミスがある。それは犯人の動機であり、その結果輪廻転生の扱いが虚なのか、実なのか中途半端になってしまっている。

ここはやはり、「火刑法廷」や「死者の中から」のように、すぱっと世界を反転させるべきだと思う。

 

 ●6782 宰領 隠蔽捜査5 (ミステリ) 今野 敏 (新潮社) ☆☆☆★
 
宰領: 隠蔽捜査5

宰領: 隠蔽捜査5

 

 

1、2、と盛り上がって、3でこけて、4で盛り返したシリーズだが、今回は無難な出来。ただ、最近今野はここぞとばかりに新刊を次々上梓していて、その書き過ぎの影響が、本書にも少し出ているのでは、と危惧する。

相変らずスピーディーで一気に読ませるが、正直文章にコクがないのだ。ただ、さすがにこのシリーズは6冊目なので、キャラクターが明確にイメージができることが、その弱点を覆い隠しているようにも感じてしまうのだ。

4で使った、家族の絆も、二回続くとインパクトは弱い。謎の解決もちょっとご都合主義の帳尻合わせを感じる。今野敏は当分お休みにしよう。

 

 ●6783 生活安全課0係ファイヤー・ボール(ミステリ)富樫倫太郎(祥伝社)☆☆☆☆

 

生活安全課0係 ファイヤーボール (祥伝社文庫)

生活安全課0係 ファイヤーボール (祥伝社文庫)

 
生活安全課0係 ファイヤーボール

生活安全課0係 ファイヤーボール

 

 

隠蔽捜査の竜崎が、だんだん丸くなった、というか当初の輝きが褪せてきてしまった時に、竜崎おぼっちゃまバージョンとも言うべき、小早川冬彦警部の新シリーズが届いた。

軍配者三部作のあと、いくつか新たなジャンルを模索した著者だが、正直言ってあまり成功したとは思えなかった。しかし、本書はまだ一冊目だが、ひょっとしたら新鉱脈を見つけたのではないか?と思わさせる傑作だ。

とにかく引きこもりだったのに、大検を受けて東大に入り、警察庁キャリアとなった、超天才、現場好き、正直者、KY野郎で、中学生にけんかで負けてしまう小早川というキャラが最高だし、脇役陣も悪くない。

で、ストーリーは典型的なモジュラー型ミステリで、大は殺人放火から小は迷子まで、いくつもの事件が同時多発的に進行する。

残念ながら、最大の事件の犯人がイマイチ意外でないのと、いくらなんでも最後数ページで一気にいくつもの謎が解けてしまうのが、少々あっけないのと、ラストのオチがいらない気がするのが、残念だけれど、まあ今後が期待できるシリーズ第一作だと思う。

著者のもうひとつの警察小説である「SROシリーズ」も読み比べてみようか。(SROを読むと、ラストのオチの意味が良くわかった。必要かどうかは微妙だけれど)

 

●6784 血の轍  (ミステリ) 相場英雄  (幻冬舎) ☆☆☆★

 

血の轍

血の轍

 

 

またしても、警察小説である。「震える牛」でブレイクした著者だが、その題材(狂牛病)及び社会派ミステリということで、未だに読んでいないのだが、本書は公安と刑事部の戦いがテーマと聞いて、読んでみた。

一読して実力はかなりのものと感じた。特にその文体は、やや粘着質だが凡百の新人とはレベルが違う。また、今まであまり描かれなかった公安の具体的な動き(和製エシュロンみたいなのも出てくる)も、どこまで正しいのか知らないが、なかなか面白い。

ただ、たぶん個人的な好みが大きいとは思うのだが、著者はあまりミステリが解ってない気がして、愛情も感じないのだ。本書も合格と言ってもいいのだが、やはり色々引っかかってしまう。

まず、ミステリとしての底の浅さ。●●操作というのは良いが、それにしても警察幹部がダメすぎる。いくらなんでも、もう少し危機管理ができるのではないか。

また、二人の主役である兎沢と志水の過去が、時々フラッシュバックするのだが、それがうまく整理されてなくて、読みにくい。最後のオチもどうかなあ、という感じ。

というわけで、☆四つあげたいんだけれど、この評価とした。著者はミステリに拘らない方がいいような気がする。実力は間違いなくあるのだから。

 

●6785 暗殺者の正義 (冒険小説) マーク・グリーニー (早川文) ☆☆☆☆

 

暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)

 

 

北上御大一押しのグリーニーの最新作。しかし、本格的な冒険小説を読んだのは本当にひさびさだ。80年代、ヒギンズを筆頭に巻き起こった冒険小説ルネッサンスも、冷戦が終わるのと同時に下火になった。ボスニアを舞台にした「カーラのゲーム」あたりが、最後の傑作だったか。

で、本書はスーダンが舞台で、米国、ロシア、そして中国の三つ巴の陰謀、というのだからやはり時代は変わった。しかし、そんな外見(一番近いのはフォーサイスの「戦争の犬たち」だろうか)とは関係なく、北上が推すのは良くわかる。

とにかく濃いのだ、描写が。特にそのアクションシーンの連続(全編アクションと言っても良いくらい)には、驚くしかない。さらにもうひとつ、題名に正義とあるように、主人公ジェントリー(グレイマン)は暗殺者でありながら、自己流の正義に拘るのだ。

このあたりは、ヒギンズっぽくもあるが、僕にはちょっとうっとおしく感じた。もっとプロに徹してもらう方が好み。(というわけで、途中のエレンとの逃避行から、ラストのオチに至る展開は、個人的には必要ない)

以上、ひさびさに堪能したが、正直言うと長らくこんな濃い小説を読んでなかったので、長さの割には疲れてしまったのも確か。この猛暑の中で読む小説ではなかったかもしれない。

 

●6786 独断流「読書」必勝法 (エッセイ)清水義範西原理恵子(講談文)☆☆☆★

 

独断流「読書」必勝法 (講談社文庫)

独断流「読書」必勝法 (講談社文庫)

 

 

正直「暗殺者の正義」がかなりヘビーだったので、息抜きに図書館で見つけた本書を読みだした。まあ、西原の漫画?をひさびさに読みたかったせいもある。本書は「坊ちゃん」から「罪と罰」「金閣寺」まで、世界の名作文学?を清水が解説し、それと関係なく西原が絵で返す、といういつものパターン。

最初のうちは「ロビンソン・クルーソー」や「伊豆の踊子」の西原が最高で(確かに西原の実家の方がよほど遭難している。でも「蠅の王」で落とすところなどは、やりすぎ?)クイクイ読んだが、清水の解説がそれほどでもなく(「ガリバー旅行記」など、何回も読んだ内容)後半に行くと、西原の読まずに描くという芸にも限界が来て、ちょっとだれてしまった。それにしても、清水のミステリとSFの好みは古すぎる。

 

 ●6787 花嫁のさけび (ミステリ) 泡坂妻夫 (ハルキ) ☆☆☆★

 

花嫁のさけび (ハルキ文庫)

花嫁のさけび (ハルキ文庫)

 

 

題名からして、「レベッカ」の本歌取りであることは明白だが、本書は読んでいるうちに最後のトリックを思い出してしまった。正直、大物一発トリックで、嵌められた人は驚くだろうが、たぶん僕は初読のときもある程度解ってしまったような気がする。

で、問題はこのトリックは別に悪くないのだが、その裏にある密室トリックや伏線が、泡坂のレベルから考えると、少々雑なのだ。まあ、泡坂には(特に当時は)求めるレベルが、高すぎたのだろうが。

この後「迷蝶の島」「悲劇悲喜劇」と個人的に気に入らない作品が続き「妖女のねむり」以降は、新刊に飛びつくのはやめてしまった、ように覚えている。

 

●6788 SROⅠ 警視庁広域捜査専任特別調査室(ミステリ)富樫倫太郎(中公文)☆☆☆☆

 

SRO1 警視庁広域捜査専任特別調査室 (中公文庫)

SRO1 警視庁広域捜査専任特別調査室 (中公文庫)

 

 

SROというのは、いわば和製FBI組織。(「相棒」で大河内監察官が必要性を力説していた)まあ、そういう架空の組織を描く警察小説は、貫井の「影の捜査チーム」香納のK・S・P、さらには「機龍警察」と枚挙に暇がないが、だいたいこういう場合ボスが一番の曲者で、本書の場合もSROを首相に直談判して作り上げた?と噂される山根新九郎の存在が一番謎、かな。

で、読みだしたら止まらない。今回も軍配者と同じくキャラが立っているのだが、ここまで極端なキャラを最初から準備して絡ませる、というのはラノベのパターン。しかし、富樫の場合薄っぺらいキャラクター小説とは、やはりレベルが違う。

美貌で暴力的な麗子、粗野な人情家尾形、ぼっちゃん川久保、昼行灯富田、ネイルギャル木戸、と癖のある人物ばかり。特にハリーこと針谷に至っては●回、犯人を撃ってしまうとはやりすぎ。

なのに、こんなキャラの一人一人にこの組織に来た必然性と役割がきちんと考えられているのだ。このあたりが偶然のオンパレードのラノベとは一線を画す。

そして、本書のもう一つの成功は、日本では多重人格が正確には認められていないことは良く聞くが、本書は日本ではまだシリアルキラーが認められたことがない、として日本初のシリアルキラー、ドクターをプロファイリングから追いつめていくところにある。

この犯人像は意外かつ強烈な印象を残す。怖い。で、この誘拐トリック?には驚いた。で、早速シリーズを4までゲットしたのだが、なぜか5だけが23人も予約が入っている???

 

●6789 SROⅡ 死の天使 (ミステリ) 富樫倫太郎 (中公文) ☆☆☆★

 

SRO〈2〉死の天使 (中公文庫)

SRO〈2〉死の天使 (中公文庫)

 

 

シリーズ第二作。今回は医者にシリアルキラーが少ない理由を、プロファイリングから説明した上で、それに当てはまらない「死の天使」という医者のシリアルキラーを描く。

その狙いは、なかなか良いと思う。医者が末期の患者を殺すことは可能だろうし、宗教的な動機も納得でき、なかなか怖い設定だ。ただし、読み始めて幸いなことに、これはいくらなんでもばれる。

こんなことを続けることはちょっと無理、という感じで、リアリティーがない。どこか、戦略が狂っている。犯人の炙り出し方が単純すぎるし、ラストもちょっと安易だろう。犯人のある行為には「ダ・ヴィンチ・コード」を読んだ人はにやり。で、針谷に関しては、もう完全にお約束のギャグになってしまった。

 

 ●6790 SROⅢ キラー・クイーン (ミステリ) 富樫倫太郎 (中公文)☆☆☆☆

 

SRO3 キラークィーン (中公文庫)

SRO3 キラークィーン (中公文庫)

 

 

何と、第一作のドクターこと近藤房子が、キラークイーンとして復活。シリーズモノの定番とは言え、いきなりの脱獄には驚愕。しかも、そんなことを可能とする犯罪集団のボスの動機にもぶっ飛ぶ。

スケール、スピード、意外性がマックスとなった、今のところシリーズ・最高作。敢えて言うなら、近藤房子があまりにも凄すぎて(ある意味、レクターを超えた)その一見ただの中年のおばさんが繰り広げる、残虐の限りに目が点になってしまい、SROのメンバーが全然目立たないのが欠点か。

そして、衝撃のラスト。そう、キラー・クイーンの最大の武器は、幸運なのだ。その意味では氷室のやろうとしたことは、正しかった?そして、SROの麗子と沙織という二人の女性も、とんでもないトラウマを負ってしまう。彼女たちは立ち直れるのだろうか。いやあ、やめられなくなってきた。

 

 ●6791 SROⅣ 黒い羊 (ミステリ) 富樫倫太郎 (中公文) ☆☆☆

 

SRO4 黒い羊 (中公文庫)

SRO4 黒い羊 (中公文庫)

 

 

今回のシリアルキラーは、一応書かないでおくが、読めば誰でも解る超有名事件がモデル。というわけで、物語に意外性が全くない。まあ、針谷が今回もまた最悪なことになってしまうのだが。

どうも、このシリーズは近藤房子が活躍しないと、魅力が半減してしまう。次作はⅢの続きで、近藤が再び大活躍?するみたいなので、期待しよう。

どうやら、このシリーズⅠはCノベルスから上梓されたのだが、Ⅱ以降は文庫書下ろしになっているようだ。だから、今年でたⅤにはかなり予約が入っているみたい。(同文庫に堂場舜一のシリーズも入っている)しょうがないから、自腹で買うか。ここまできたら。(でも、0係の最後で近藤が登場するのだから、たぶんⅤでも捕まらないんだろうなあ)

 

●6792 SROⅤ ボディーファーム (ミステリ) 富樫倫太郎(中公文)☆☆☆☆
 
SROV - ボディーファーム (中公文庫)

SROV - ボディーファーム (中公文庫)

 

 

結局自腹で買ってしまった。本屋に全巻揃っていた、ということは結構人気シリーズなんだ。そして、キラークイーン・近藤房子三度目の降臨である。途中で気づく題名の意味に愕然としてしまう。シリーズ屈指の緊迫感であり、スピード感だ。

そして、房子と麗子さらには久美子の壮絶な戦いは、とんでもない結末を迎える。その結末には、ちょっとどうかな、という感じもしないでもないし、本当にこれでおしまい?という気もするが。

ただ、このラスト2連発は、次作へのひっぱりとしても、意外過ぎて驚愕。これは、次も読まざるを得ない。今のところ、本書がシリーズ最新刊なのだが。(ということは、0係と並行で続くのか)

 

●6793 日本レスリングの物語 (NF) 柳澤 健 (岩波書) ☆☆☆☆★

 

日本レスリングの物語

日本レスリングの物語

 

 

新書かな、と思っていたら堂々たるハードカバーで、内容も素晴らしい傑作であった。こういう、ある意味学究的な作品(なにせ岩波書店)と猪木やクラッシュギャルズを同等に描いてしまうのが、さすが僕と同じ村松世代。(あらゆるジャンルに貴賎なし、ただしジャンルの中に一流と五流がある)

そもそも、レスリングとは不可思議かつ何と魅力的なスポーツだろう。柔道でも相撲でもないのに、日本に根付いている。特にオリンピックにおける存在感は抜群だ。戦後初の金メダルもレスリングであり、男子は金20個、銀16個銅11個もメダルを獲得し、不参加だったモスクワ以外はメダルを逃したことが一回もない。(ロンドンが含まれていないが、米澤が金を獲得)

最近の女子の活躍は書くまでもないだろう。しかし、それには当然理由がある。まずは戦前戦後圧倒的な存在感でレスリング界を牽引した八田一朗。(何とロッキー青木と懇意というには驚いた)

そして、選手としては、東京で金を獲った天才笹原正三。さらにモスクワをボイコットせざるを得なかった悲劇の天才高田裕司シドニーにおけるチームの崩壊。(このあたりは、最近の柔道界の学閥争いを思い起こさせる)そして、復活。さらには女子の台頭。

これらが、間然とすることなく描かれていて、長大な作品を一気に読ませる。やはり、著者の筆力は只者ではない。(まあ、レスリング=格闘技の起源と少年プロレスの話は、あまり興味が持てなかったが)

しかし、ここまで読まれた方にはお分かりのように、本書にはレスリングがオリンピック種目から外されてしまう?という最大の危機の記述はない。こうなったら、続編の緊急出版が必要なのではないだろうか。

 

●6794 狼と兎のゲーム (ミステリ) 我孫子武丸 (講談社) ☆☆★

 

狼と兎のゲーム

狼と兎のゲーム

 

 

ひさびさの我孫子だけど、読み始めてすぐ嫌な予感。「青の炎」小学生バージョンなのだが、小説として最低の内容。こういう物語は、「向日葵の咲かない夏」くらい、工夫して書いてくれないと嫌になってしまう。

そろそろ、我孫子もきちんとした本格パズラーを書いてほしい。この路線では「殺戮にいたる病」を超えることは無理だろう。

 

●6795 アナザー エピソードS (ホラー) 綾辻行人 (角川書) ☆☆☆★
 
Another エピソード S

Another エピソード S

 

 

偶然だが、何と我孫子の次が綾辻。あのアナザーの続編というか前日譚というか。(アナザーは結局、アニメ・実写が創られ大いに盛り上がったが、未見の僕はいまだどうやってあのトリックを処理したのか解らずにいる)

いかにも綾辻らしい理屈っぽいホラー(というかホラーではない?)ではあるが、正直って分量的にも内容的にも長編一冊を持たせるにはやや小粒で、中編ネタに感じた。決して駄作とは思わないが、アナザーに驚愕してしまった僕には、ちょっと期待外れ。

細かいところには、綾辻らしいこだわりが散見するが、そのわりには動機や電話の件など、詰めの甘さ、雑な部分もあって、やはり物足りない。アナザーに対する僕の評価が高いだけに、本書はアナザーとは関係なく書かれて欲しかった気がしてしまう。

 

●6796 ドラゴンフライ (ミステリ) 河合莞爾  (角川書) ☆☆☆
 
ドラゴンフライ

ドラゴンフライ

 

 

「デッドマン」で横溝賞を受賞した新人の第二作で、またしても警察小説である。冒頭魅力的かつ幻想的なシーンが印象に残ったが上に、これどうやって解決するの?と嫌な予感がしたのだが、予感的中。

一応、解決はあるのだが、あまりにも荒っぽい偶然の連続。(冒頭の謎と、大トンボの正体あたりは、島田の影響を強く感じたが)それが、たぶん本書のすべての象徴でもある。

まず、刑事の面々がやたら個性的なのは定石だが、背景の描きこみがあるので、ラノベとは思わない。しかし、キャラの言動がどうも現実離れしていて、イライラしていたら気づいた。そうか、これは漫画なんだ。

ひょっとしたら、これって「こち亀」のパロディではないか?そう考えると、姫野は中川そっくりだし、ヘリコプターで浮かれている正木は両さんそのもの?まあ、これはいくらなんでも冗談だろうが、読み進めていてもう一点気になってきた。

このミステリの骨格が、もろ超有名作品とほぼ同じなのだ。(幼馴染の男女三人の過去と現在)まあ、ラストでいろいろひねってるのだが、やればやるほどリアリティーがなくなっていく。

ネットでは評判がいいし、一応一気に最後まで読んでしまったが、やはりこのレベルの警察小説がこれ以上氾濫すると、せっかく横山らが切り開いたジャンル自体が拡散衰亡してしまう。そういう意味を込めて、厳しい採点としよう。(でも「デッドマン」は「占星術」に挑戦した作品らしく、読んでみたくなってしまった)

 

●6797 ベストセラー炎上 (対談) 西部邁 佐高信 (平凡社) ☆☆

 

ベストセラー炎上

ベストセラー炎上

 

 

図書館で本書を見つけて、ああこれが佐藤優が、西部と佐高が対談後カラオケうんぬんの元ネタか、と思って軽い気持ちで手に取った。

(左右なんて言葉の有効性は疑問だが)左の佐高と右(というか保守)の西部が仲良くベストセラーをくさしている本らしいけれど、何しろその批判する相手がなかなか(僕の好きな作家が多い)で、怖いもの見たさもあって読みだした。

対象は、勝間和代「断る力」、村上春樹1Q84」、内田樹「街場のメディア論」、竹中平蔵「改革はどこへ行った」、塩野七生「日本人へリーダー論」、稲盛和夫「生き方」。

読み終えて、嫌になってしまった。やはり佐高とは合わない。佐高のおかげで、西部の悪い面が全開してしまったのか?まず、この6冊を同じレベルで語るのは無茶でしょう。僕は勝間だけはさすがに読んだことがないが、村上と塩野はほぼ全部読んでいるし、内田も膨大な著作の代表作はだいたい読んでいるつもり。

この三人は、小説、思想、歴史、における日本のトップランナーの一人であり、それをここに書かれた本だけで評価するなんて、とんでもないと思う。

特に塩野の作品は、実は僕も感心しなかったのだが、それだけで「ローマ人」が読む必要がない、と断定する傲慢さにはついていけない。また、村上春樹に関しても同じ。「1Q84」は彼のベストではないし、二人ともどうやら「ノルウェイの森」くらいしか読んでないようだ。

内田に関しては、基本思想は西部に近いと思っていたので、西部の舌鋒が鈍いのが微笑ましいが。で、勝間や竹中や稲盛は別に文学者ではなく、こういう場で、他の三人と同列でけなすのは、カテゴリーエラーだと思う。

しかし、この対談以上に情けないのが、ネットでの所感群で、ほとんどの所感が「私もベストセラーは読まないので、これらの本は読んでいないのだが」同感した、反発した、という文章ばかり。村上、内田、塩野、くらい読んでから書き込めよ、と言いたくなる。まあ、良心的な人は、相手にしていないのだろうが。

 

●6798 週刊ブックレビュー 20周年記念ブックガイド (企画) NHKサービスセンター編集発行 ☆☆☆☆

 

ステラMOOK 週刊ブックレビュー 20周年記念 ブックガイド
 

 

これまた、図書館で見つけたムック本。内容はバラエティーに富んでいて、楽しめた。例えば、10-11年にとりあげた本の一覧などがあるのだが、やはり見逃した回も多くあり、チェックしていくと面白い。思わず、当時は予約満杯であきらめた本を、何冊も予約してしまった。

人質の朗読会」のように複数の人が推薦している本も数冊あり、興味深い。特に縄田一男が、松井の「西南の風」を選ぶのは解るが、あと二冊がP・D・ジェイムズの「秘密」と浦沢直樹の「BILLY BAT」というのは、同世代でもあってイメージが覆ってしまった。

しかし、題名だけを見ると、20周年記念=めでたい感じだけれど、現実には児玉清追悼の側面がある上に、何より週刊ブックレビューは翌13年の3月で終了してしまうのだ。

僕は、すぐ似たような番組が復活すると思っていたのに、その後も全然音沙汰なし。正直、週刊ブックレビューが終わって、何かぽっかり穴が空いたようにすら思う。中江有里を中心に、何とか復活してくれないだろうか。

 

●6799 わたしの少女マンガ史 (NF) 小長井信昌 (西田書) ☆☆☆

 

わたしの少女マンガ史―別マから花ゆめ、LaLaへ

わたしの少女マンガ史―別マから花ゆめ、LaLaへ

 

 

ブックレビューにおいて、何と僕の今月イチオシの「1985年のクラッシュ・ギャルズ」を、北尾トロ夢枕獏が推薦していた。その獏のもう一冊が本書。副題に別マから花ゆめ、LaLaへ、とあるように著者は白泉社を立ち上げ、花とゆめ、LaLaを育てた伝説の名編集長である。

ちょうど僕が大学時代に少女マンガが大ブームとなり、おっかなびっくり読み始めたのだが、リアルタイムで雑誌連載を立ち読みして単行本購入と、きちんと読んでいたのは結局「日出処の天子」と「はみだしっ子」と「緑茶夢」の三作品だったように思う。

そのブームのど真ん中にいたのが著者であり、その功績は計り知れないし、漫画家から慕われていた様子も、本書の付録?に詳しい。しかし、そのことと本書の内容は、やはりきちんと分けて評価しなければならないだろう。

過去の数々の漫画編集者の物語に対して、本書は圧倒的に漫画家の情報が少ない。自分の話ばかりである。著者は1930年生まれ。もう少し早く歴史を語ってほしかった。

正直本書のこだわりは、何と自分のトラウマであった少年漫画にあり(最初に担当になった少年マンガ雑誌で失敗し、少女マンガに回されて成功)そこは非常に詳しいのだが「ヤング・アニマル」の話なんか、誰が読みたいのだろうか。

山岸涼子大島弓子三原順もほとんど出てこない、少女マンガの歴史に何の意味があるのだろうか。人間やはり年をとると、本当に自分勝手で頑固になるんだ、とつくづく思ってしまった。

 

 ●6800 女子学生、渡辺京二に会いに行く (思想哲学) 渡辺京二 × 津田塾大学三砂ちづるゼミ (亜紀書) ☆☆☆

 

女子学生、渡辺京二に会いに行く

女子学生、渡辺京二に会いに行く

 

 

何か村上春樹みたいだけれど、本書はブックレビューで岸本葉子が推薦。「逝きし世の面影」も「黒船前夜」も結局読み出せなかったのだけれど、こういう切り口なら、やっと渡辺にチャレンジできるのではないか、と考えたのだ。

しかし、正直気持ちの悪い本だった。まず、女子大生たちの質問の文章が、やたら衒学的なのに内容がなくて意味が良くわからないのに閉口した。とにかく、薄っぺらな知識を振りかざしながら、視野が圧倒的に狭くて、恐ろしいまでに幼いのだ。

まあ、自分探しを続けて、海外ボランティアを目指して大学に来た、自称ちょっと壊れた優等生ばかりだから、しょうがないのかもしれないが、これなら加藤陽子栄光学園=女子高生の方が、よほどしっかりしているように感じた。

で、極めつけは、フーコーフーコーを繰り返す学生への、渡辺の強烈パンチであり、これは爽快であった。

「あなたのそういうふうな、まあ学校教育というものの持っている性格、それに対する批判というのは、フーコーならずともいろんな人がいろいろ言っていると思うんですけど、とくにフーコーに行ったのはどういうこと?たまたまフーコーを読んだということですか?」

「非常にナイーブというか、率直というか、あなたは学校が好きだったんですね。で、いい子だったわけね。勉強もできるし、成績もほめられるし、それで学校に行って、よく勉強して、ということはいいことだと思っていたのに、フーコーから違う視点を与えられてショックだったと。でもやっぱり、自分としては学校にはいいところがあるはずだといいたいと、そういうことだね」

で、フーコーフーコー繰り返す学生たちが、忸怩たる、も老獪、も意味が解らないのだ・・・一方、じゃ渡辺は鋭いのか、というと、これまた途中から疑問に思えてきた。

最初こそ、あまりにも学生たちが痛いので、渡辺に大人の風格を感じた気もしたのだが、彼も1930年生まれで、言いたいことを結構お気楽に言ってるだけじゃないのか。こんなことで、癒された、救われた、なんて言っていていいのか?と暗い気持ちになってしまった。

結局この本から感じた渡辺は、内田的歴史観を網野的政治感覚で語る吉本隆明、という感じで、やはり違和感を多々感じてしまった。最初「逝きし世の面影」をまた予約したのだが、読了後取り消してしまった。

 

 ●6801 冬のフロスト(ミステリ) R・D・ウィングフィールド (創元文)☆☆☆

 

冬のフロスト<上> (創元推理文庫)

冬のフロスト<上> (創元推理文庫)

 

 

 

冬のフロスト 下 (創元推理文庫)

冬のフロスト 下 (創元推理文庫)

 

 

飛行機で、僕が前作「フロスト気質」を読んでいたら、前に座っていたデイヴイッドが本書の原書をとりだした、という嘘のような本当の話があったのだが、シリーズ五作目(というか、全六冊のラス前)の本書は、はっきり言って長すぎる。

フロスト・シリーズはそのアベレージの高さが特長だが、正直最近の作品は上下巻となって長すぎると感じていたが、今回は我慢の限界を超えた。

このシリーズはモジュラー型なので、ここまで長いと小ネタの連続で嫌になってしまう。いったい、今どれだけの事件が同時進行しているのか、良くわからなくなってしまう。

しかも、いくらフロストでも、警官の飲酒運転のもみ消しはダメでしょう。結局、過去五作も内容の違いが全く思い出せないし。猛暑の中、読むには一番ふさわしくない作品だったかもしれない。

 

●6802 人質の朗読会 (小説) 小川洋子 (中公社) ☆☆☆☆

 

人質の朗読会

人質の朗読会

 

 

3人が推薦しているのだが、当時はあっという間に予約が満杯になって、あきらめていた。ある程度あらすじは知っているつもりだったが、冒頭を読んで驚いてしまった。

(いきなり明らかになるので書いてしまうが)何と人質になった人々は、結局犯人たちの仕掛けた爆弾で、八人全員が死んでしまうのだ。

そうだったのか。そして、それを冒頭に掲げることで、人質一人一人の物語が(人質たちの朗読のテープは、二年後に発見されるという設定)本当の意味での一期一会となってしまう。彼らは二度とこの物語を語ることはない。

そして、なぜか各人の物語は未来ではなく過去であり、身内ではなく偶然の出会いである。彼らにはもう明日はこない。でも、それは僕らだって本質は同じなのだ。そして、自分にとっての本当の価値というものは、決して人と共有できる、理屈で説明がつくものではないのかもしれない。

作品としては、「やまびこビスケット」「B談話室」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「ハキリアリ」といったところが、印象に残ったが、正直言って村上春樹テーストが強いんだよね。特に男が主人公だと。

まあ、僕の場合だから良いとも言えるんだけど。さて、人質は八人でしたが、物語は九つ用意されています。

 

 ●6803 こちらあみ子 (小説) 今村夏子 (筑摩書) ☆☆☆☆

 

こちらあみ子

こちらあみ子

 

 

これまたブックレビューで特集が組まれた作品だが、確かこちらは図書館から借りてきて、結局読まなかったような気がする。いつの間にか本書は太宰賞、三島賞を受賞。しかし、それより未だに今村が表題作と、本書に収録された書下ろし「ピクニック」の二編しか発表していないことに驚いた。

表題作に関しては、事前に情報がありすぎた上に、正直こういうテーマは苦手であり、楽しんで読めた、とは言えないのだが、読み終えて何というか、作者の企みの確かさに感心してしまった。

自分では気づかず、家族を崩壊させてしまうあみこの無邪気さ、に関してはあざとさすら感じるのだが、暴走族になってしまう兄の存在が物語を救っている。そして、何より、最後に一発かます、名無し?の野球少年が素晴らしい。彼がいなければ、少し評価が下がったかもしれない。

で、そもそも僕は子供の物語は嫌なので、実は「ピクニック」の方が楽しめた。いや、楽しめたと言っていいのだろうか。読めば読むほど、この物語の語り手(三人称複数=ルミたち)は、信頼できないと思えてくる。

そして、ついにこれは集団いじめの物語だと気づく。作者の計算が、文章すべてにピリピリと張り巡らされている。こういう作品を単純に楽しめた、とは僕には言えない。何か、平易な文章なのに、真剣勝負に疲れてしまった感じだ。

まあ、その後の沈黙を鑑みれば、書く方こそ疲れたのかもしれないが。(アマゾンでは、「人質」と「あみ子」は隣り合わせで検索で出てくるが、これは内容よりも、表紙の土屋仁応氏の彫刻のせいだろう)

 

●6804 TOKYO初夜ものがたり (企画対談) 梯久美子 (角川書) ☆☆☆☆

 

TOKYO初夜ものがたり

TOKYO初夜ものがたり

 

 

著者はブックレビューの最後の頃の司会者の一人。申し訳ないが、著者があの「散るぞ悲しきー硫黄島総指揮官・栗林忠道」の作者とは、全然気づいていなかった。

本書のレビューにも、面白いが著者は才能を浪費している、などという書評があったが、題名は何だかなあ、だが、田舎から上京した物語を語ってくれる面々が素晴らしく、価値は解らないが、楽しいひと時を過ごすことができた。(ちょうど、この本を人間ドックで読みました)

リリー・フランキーみうらじゅんしりあがり寿中村うさぎ、という同世代の物語は、リアリティーが共有でき、本当に面白い。(何か鴻上は、硬い気がしたが)また楳図かずお高野山のさらに奥に生まれた、ということを初めて知った)やゆでたまご、といった漫画家の上京物語も面白かった。まあ、ピンとこないのもいくつかあったが。

それにしても、東京に出てきてそろそろ25年たつ僕だけれど、だいたい住んだのはすべて埼玉と千葉なので、全然東京という街が理解できてないし、思い入れもない。たぶん中国と同じく、東京という街も本当はないんだと思う。

 

 ●6805 疫神(やまいがみ) (ミステリ) 川崎草志 (角川書) ☆☆☆☆

 

疫神

疫神

 

 

著者の横溝賞受賞作「長い腕」は、結構気に入ったのだが、本職(ゲーム製作会社勤務)のせいか、その後全然音沙汰がなかった。ところが昨年の「長い腕」の続編「呪い唄」に続いて本書が上梓された。あらすじを読んだところ、何となく「ジェノサイド」を彷彿させたので読み始めた。

ケニアでひとつの村を壊滅させたオレンジカビを日本に持ち込んだ向井博士を追跡する、CDC(米国疾病予防管理センター)のエミリー・ディンキンスン。「あの人」との遭遇によって殺人事件を起こしてしまい、逃避行を続ける二海夫婦。

そして、長野の小さな村の、赤い人(疫神)が見える特殊能力を持った少年とおばあさん、この3つのストーリーが交互に語られるのだが、二神夫婦とエミリーのパーツがとんでもなく面白くて、一気に読み切ってしまった。

向井博士はまるで「12モンキーズ」だし、二海夫婦は常野物語のダークバージョンみたい。ただ出版社からいって、たぶん意識的に狙っているのだろうが、やっぱり「ジェノサイド」の影響が強すぎるかな。

本書もまた、超自然的な要素がかなりでてくるのだが、「ジェノサイド」と同じく、本質はSFではなくミステリだろう。唯一、川崎っぽい疫神のパーツが僕にはイマイチだったのだが。

で、どんどんラストが近づいていくのだけれど、どうやって3つのストーリーがつながるのかは、まったく解らない。おいおい大丈夫か?と思っていたら、見事にやられた。こんなつながりとは、予想していなかった。お見事。傑作。

疫神パーツとのつながりは、ちょっとご都合主義にも思えるし、結局何だったんだよ?と言いたくなる部分もあるけど、これだけ読ませてくれて、驚かせてもらえば十分。「ジェノサイド」に比べると可哀そうだけれど、年間ベストの中位には入れたい作品。

 

●6806 デッドマン (ミステリ) 河合莞爾  (角川書) ☆☆★

 

デッドマン

デッドマン

 

 

やめておけばよかった。巻末の参考文献の第一番が、島田の「占星術殺人事件」ということで、つい読んでしまったが、正直言って最近ここまで杜撰というか、突っ込みどころ満載のミズテリを読んだことはない。

バラバラ殺人の意味ときたら、もう唖然とするしかない。これでいいのか?横溝賞。確かにこれに比べれば、千街が言うように「ドラゴンフライ」はミステリとして、かなりレベルアップしている。

で、そもそも、こんな猟奇的な事件を、 笑い警察官たちに担当させるのが、ミスマッチ。今月はひさびさに30冊達成したんだけれど、最後にババ踏んだ気分。あまちゃんも、ついに震災がやってくるし・・・