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2012年 12月に読んだ本

●6590 レオン氏郷 (歴史小説) 安部龍太郎 (PHP) ☆☆☆☆

 

レオン氏郷(うじさと)

レオン氏郷(うじさと)

 

 

等伯」とほぼ同時に上梓された本書もまた、ボリューム十分の力作であり傑作であった。戦国時代において、その若き頃から英明さを称えられることは多いのに、なぜか存
在感があまりなかった蒲生氏郷

奥州における伊達政宗との争いや、利休七哲の一人くらいしか思いつかない。少なくとも僕は、彼に焦点を当てた歴史小説を読んだことはない。そういう意味ではなかなか良いところをついた作品であり、冒頭の幼少時代のエピソードから(ちょっと凄すぎるが)前半は気持ちよく読み進めた。

また、今までも立花京子や藤田達生らの、歴史上の新説を取り入れてきた著者は、今回も「金ヶ崎の戦い」に独自の解釈をしたり(お市は関係ない!)氏郷がローマに使者を出した事実を掘り起こしたり(何とローマ簿記を日本に導入?)小技が効いている。

先に前半は、と書いたが、いやこれは信長が健在の間は、に変更しよう。そう、本書もまた?秀吉の世となってからカタルシスが急速になくなり、何より氏郷の言動がぶれてしまい、嘘くさくなってくる。

そこで、もう一度ラストに向かって、信仰を真ん中に据えて氏郷はやり直そうとする、すなわち秀吉と戦おうとするのだが、もはや彼には時間が残されていなかった。著者は氏郷の死を、政宗による毒殺としているが、これは比喩的なものなのだろうか。一応歴史的には、死因は内臓癌とされているようである。

 

●6591 アホの極み (エッセイ) 池田清彦 (朝日新) ☆☆☆☆

 

アホの極み 3・11後、どうする日本!?

アホの極み 3・11後、どうする日本!?

 

 

盟友養老孟司を意識したのかもしれないが、今回もとんでもない題名。まあ池田らしいと言えば、らしいんだけれど。で、内容は週刊朝日の連載をまとめたらしくて、一編が短くて物足りない。

しかも、第一章と二章が、それぞれ原発と環境問題で、主旨に文句はないが、このレベルで同じ内容を繰り返されると(著者の意図は解るが)鼻白んでしまう。ところがこのあと、あまのじゃくが全開になるあたりからは、急激に面白くなる。

立川談志が亡くなった(中略)二日酔で記者会見に臨み「公務と酒のどっちが大事なんだ」と地元メディアの記者に聞かれ「酒に決まってんだろう」と答えて、在任期間36日で政務次官をクビになった。

このような発言をすれば、クビになるのは分かっていただろうが、分かっていてもそう言いたかった気持ちは良くわかる。たて前だけの正義が嫌いだったのだろう」などは、池田節全開である。

と思ったら、突然故柴谷篤弘氏と構造主義生物学のことがでてきたりして、なかなか油断ならない。というわけで、個人的には甘い採点となった。

 

 ●6592 亜愛一郎の狼狽 (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆☆★

 

亜愛一郎の狼狽

亜愛一郎の狼狽

 

 

恐ろしいことに、きっかけが思いだせないのだが、なぜだか図書館から亜シリーズを三冊借りてきて、再読を始めてしまった。

泡坂のデビュー作「DL2号機事件」が、あの「幻影城」に掲載されたのが76年、本書が上梓されたのが78年、ということで僕が本格的にミステリを読み出した時期と全く重なる。

確か当時同人誌に、泡坂と赤川次郎こそ日本ミステリにユーモアを持ち込む期待の新人、というような内容で評論を書いた覚えがある。まあ、その泡坂は既に亡くなり、赤川次郎はあっと言う間にミステリ作家とは言えなくなってしまったが。

うろ覚えだが、当時の泡坂の受け入れ方は、最初に「11枚のトランプ」を読んだが、期待が大きすぎたせいかイマイチ物足りなさが残った。(あのフランス綴じも面倒だった)しかし、次の「乱れからくり」でノックアウト。(今でも泡坂のベストであり、日本ミステリベスト10作品である)で、次が本書。

本書は当時は収録作はやや小粒と感じたのだが、ラストの二編「ホロボの神」と「黒い霧」(特に後者)が凄く気に入り、亜愛一郎の風変わりなキャラも相まって、傑作短編集となった。しかし、どうも世の中では「曲った部屋」「掌上の黄金仮面」等々の他の短編の方が評価が高く、不思議に感じていたように思う。

で、こうやって再読すると、確かに最初の方の作品は、謎は小粒だが、やはり良く考えられており、当時よりは評価が高くなった。逆に「ホロボ」と「黒い霧」は、当時ほど感銘を受けなかった。まあ、内容を良く憶えていたせいかもしれないけど。

 

 ●6593 密室の鍵貸します (ミステリ) 東川篤哉 (カッパ) ☆☆☆☆

 

密室の鍵貸します (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

密室の鍵貸します (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

 

 

いまやベストセラー作家となってしまった著者の、長編デビュー作。著者には全然興味がなかった(というか、長い間このミス大賞の東山某と区別がついていなかった)のだが、どこかで大森望が初期作品を褒めていて、読んでみることにした。

まず、びっくりしたのは、巻末の著者インタビューを読めば分かるように、著者は有栖川チルドレンとでもいうべき存在なのだ。もちろん、推薦の言葉も有栖川有栖。というわけで、確かに密度の濃い本格パズラーだ。

しかし、その大技トリックの性質上、シリアスに描くことは不可能で、ユーモアミステリとなっているのだが、どうもそのユーモアが僕にはしょぼくてイマイチだった。まあ、この動機もシリアスに描くことは不可能。

ただ、この大技トリックは結構楽しんでしまった。伏線も良く効いている。もちろん、このトリックには原型(鮎川哲也のあの作品や、綾辻行人のあの作品)があるのだが、うまく本歌取りしているように思う。

そう言えば、第二の殺人のトリックも、まあ無茶だけど面白くないことはなくて、これもきちんと古典の応用(模倣ではなく)となっていると思う。

 

 ●6594  亜愛一郎の転倒 (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆★

 

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

 

 

「狼狽」に続いて、本書が上梓されたときは、狂喜した記憶があるのだが、残念ながら本書のレベルはかなり落ちてしまっており、その当たりが「ブラウン神父」と重なったのを思い出した。まあ、本家は「童心」「知恵」「不信」までは、まだ読めたのだが。

泡坂=チェスタトンと、長い間条件反射になっていたが、こうやって再読すると内容はスラップスティック調が強いせいか、それほどチェスタトン風とは感じなかった。それよりも、同じ時期に「幻影城」に「遠きに目ありて」を連載していた天藤真との共通点、ユーモア、文体、ロジック展開(イラスト)を強く感じた。

また、本書には傑作の誉れ高い「砂蛾家の消失」が収められているのだが、これはやはりクイーンの「神の灯」と鮎川哲也のあの作品(何と東川と同じ)を組み合せたバリエーションであり、動機の陳腐さもあって、大傑作とは言い難い。

ただ、冒頭の「藁の猫」が前作冒頭の「DL2号」と対になるように配置されていたり、262ページで亜が見る夢が、最終巻のオチの大きな伏線になっていたりしていて、著者らしいたくらみがアチコチにあり、ニヤリとさせられる。

 

●6595 交換殺人には向かない夜 (ミステリ) 東川篤哉 (カッパ) ☆☆☆☆

 

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

 

 

これは、本当に評価に困ってしまう。トリックや伏線の妙に関しては素晴らしい、としかいいようがない。

あちこちに仕掛けられた、ミスディレクションも凄いというしかない。すべての、しかも複雑な謎が、ラストで見事に回収される快感は、まさにパズラーの醍醐味だ。残念ながら具体的なことは一切書けないので、隔靴掻痒極まれり、の感だが。

どうやら本書は「密室の鍵」に始まる烏賊川市シリーズの第四作で、最高傑作とされているようだ。シリーズキャラクターに十乗寺さくら、という天然のお嬢様が加わり、のりは古典部(千反田?)に近づいてきたように思う。

従って相変らずリアルからは程遠いが「密室の鍵」よりは読み易かった。で、問題はこれだけ素晴らしいネタを、こういうマンガチックな処理をしてしまうとは何ともったいない、という思いと、いやここまでぶっとんだトリックをリアルに描くことなど不可能だろう(少なくとも映像化は無理)という思い、が交錯してしまうところ。

もうちょっと納得のいく処理の仕方はなかったものか。いや、素直に傑作と言い切ればいいのではないか。というわけで、思いは千々に乱れてしまう。本当に困った作品だ。

 

●6596 月と蟹  (小 説)  道尾秀介  (文春社) ☆☆☆

 

月と蟹

月と蟹

 

 

五回目の挑戦で、直木賞を受賞した作品が、やっと図書館の棚で借りることができた。とは言っても、そもそも既に著者への興味が薄れている上に、題名や書評から鑑みて、たぶん今僕が一番読みたくないタイプの小説に思えたのだが、やっぱりそうだった。

もちろん下手な小説ではないのだが、田舎の少年少女の内面世界と、残虐な儀式というだけで、嫌になってしまう。僕はやはり大人の小説が読みたいのだ。こういうときには、直木賞って文春の賞なんだなあ、と感じてしまう。

 

 ●6597 ディーセント・ワーク・ガーディアン(小説)沢村凛双葉社)☆☆☆☆

 

ディーセント・ワーク・ガーディアン

ディーセント・ワーク・ガーディアン

 

 

ネタをばらすようで気がひけるのだが、本書の主人公三村は第一話では一見刑事のように見えるのだが、実は労働基準監督官なのだ。嗚呼、ここにもまた一人、横山チルドレンが誕生した。そう思いながら読み進んだのだが、明確に犯罪や殺人を描いた作品もあるのに、本書をミステリとは呼びたくなくなってきた。

というのは、本書のテーストは横山ミステリよりも、垣根涼介の「君たちに明日はない」のほうなのだ。表と裏の違いはあるけれど。特にいつも居酒屋で一緒に飲む、三村の親友の清田(彼は本当の刑事)が、村上の親友の銀行マン山下と重なってしまう。

もう脳内では清田は、北村有起哉しかありえない状態。(あ、中小企業の経営指導、ということでは「ハゲタカ」の初期も思い起こした)

本書の第五話までは「小説推理」に連載されたようだが、最後の「明日への光景」だけが書下ろしで、他の倍の長さがある。これが力が入っているのは分かるが、評価に苦しむ。

三村に突然公私両面でとんでもない事件が起きてしまうのだが、そのとんでもなさがそれまでの作品と比べて、あまりにもとんでもなく、これはいくらなんでもやりすぎだろう、と感じてしまうのだ。

特に私=妻の由香里の件は、正直ないほうが余程すっきりする。「64」では解決されない、私=娘の事件が物語に深い彩を与えたが、こちらははっきり言って物語の流れを阻害するだけだ。

公の方の事件は、とんでもなくはあっても、まえの作品にきっちりいくつかの伏線がはられていて、結構驚かされる上に、最後の処理も納得いくできなのだが。

あと、息子とかわす世界平和?に関するディスカッションも、さすがあの「リフレイン」を書いた著者だとは思うが、そもそも労働基準監督官自体が説教臭いのだから、これはもうやりすぎとしか言いようがない。沢村らしいと言えばらしいのだけれど。

 

●6598 SF挿絵画家の時代 (企画) 大橋博之 (本雑誌) ☆☆☆☆
 
SF挿絵画家の時代

SF挿絵画家の時代

 

 

ずっとSFマガジンに連載されていたものが、まとまって本の雑誌社から上梓された。実は、大橋は僕と同い年で、大阪と和歌山の片田舎という違いはあっても、ほぼ同じSF受容体験をもっており、結構うるうるくるものがあった。

ただ、残念ながら挿絵の数が限られており、また僕の場合はSFよりもやはりミステリの方がインパクトが強いので、その分はマイナスだが。

僕の興味は2つに分かれる。ひとつは、やはりあかね書房。「21世紀の発明王」その他の真鍋博インパクトは強烈だった。また「ふしぎな足音」や「黒いカーテン」の印象的な影絵のようなイラストが、原田維夫という人だったことを教えられた。

ただ、あかね書房のミステリ&SF全集には、横尾忠則和田誠黒田征太郎も参加していたはずだし、ジュヴナイルでは、長新太や九里洋二も印象が強いのだが、選ばれていないのはSF界との関係の濃淡だろうか。

そして、もうひとつは学生時代むさぼり読んだ早川文庫の青背の表紙。もちろん加藤直之が一番だったが、僕は一時期角田純男の表紙の本に入れ込んでいたことがあった。ゼラズニイエリスンル・グイン、シマック等々。何もかもが懐かしい。

そして、絵自体はそれほどでもなかったのだが、当時耽読していたシルバーヴァーグの表紙が中原脩だったことも思い出した。でもやっぱり山野辺進の競馬シリーズや、金森達の87分署シリーズの方が印象に残ってるんだよね。

まあ、金森は光瀬龍の宇宙年代記のイメージも強いけど。というわけで、物足りない点もあるけれど、素直に楽しめた労作。

 

●6599 亜愛一郎の逃亡 (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆★

 

亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 

 

残念ながら、予想通りと言うか記憶通りと言うか、シリーズ第三作はミステリとしては一番落ちる。そもそものトリックやロジックがかなり大雑把になってる上に、スタイルやストーリーが下手くそなスラップスティックというか、何より駄洒落に入れ込んでしまっているところがつらい。

「歯痛の思い出」「飯鉢山山腹」「赤の賛歌」「火事酒屋」と言った作品は、もう少し工夫すれば何とかなったような気がして残念。ただ、本書の作品から、著者の舞台は廃刊となった幻影城から、野性時代や小説推理となり、最終的には直木賞に行き着く。

で、そんなことは最後の作品「亜愛一郎の逃亡」の前では、どうでもよくなってしまう。この過去の登場人物の羅列には(これを初めて雑誌で読んだ人は面食らっただろうが)もう涙しかない。ここは、リアルタイムでもきっちり憶えていた。というわけで、正直評価は★一個甘め。

 

●6600 体育館の殺人 (ミステリ) 青崎有吾  (東京創) ☆☆☆☆

 

体育館の殺人 [単行本版]

体育館の殺人 [単行本版]

 

 

本年度の鮎川哲也賞受賞作。かなりクイーンを意識した作品と聞いていたので、読み始めてそのラノベ風のキャラクター設定に引いてしまった。ついに、鮎川賞にもラノベの嵐が吹き荒れるのか。

まあ、最近クイーンと鮎川が好き、と言いながら変に捩れた作品を書く若手が多いので、想定の範囲とは思いながらも、その幼い文章も相まって、読むのが苦痛になってきた。

しかし、傘である。途中から始まる傘を巡って繰り広げられる延々とした論理の試行錯誤。確かにキャラや文章に文句はあるが、これは長い間忘れていた正統派パズラーの懐かしい味そのものだ。

そして、全320ページのうち、何と80ページが犯人の絞込みに費やされるという国名シリーズの王道パターンには、まいったと言うしかない。ひさびさの正統派フーダニット。そして、止めのクイーン的オチ。

まあ、選評で北村と辻がその論理の甘さを酷評しているが(手直しがあったとは思うが)このレベルなら僕は十分評価したい。特にDVDのリモコンの件は、ひさびさの「エジプト十字架」という感じでドキドキしてしまった。

「月光ゲーム」だって論理は素晴らしかったが、キャラや文体はまだまだだった。願わくば、著者が早く青崎版「孤島パズル」「双頭の悪魔」を書き上げてくれることを期待したい。方向性は間違っていない。

 

6601 ファーガスンの薫陶 (スポーツ) 田邊雅之 (幻冬舎) ☆☆☆☆
 
ファーガソンの薫陶 勝利をもぎ取るための名将の心がまえ

ファーガソンの薫陶 勝利をもぎ取るための名将の心がまえ

 

 

良くある欧米の分厚いスポーツノンフィクションとは違って、程よく和風に食べやすく料理された本。マニアには物足りないかもしれないが、今の僕にはちょうどよいかげん。

出版社があの幻冬舎ということもあって、香川本の一種か?という危惧もあったのだが香川は少し触れられるだけで、バランスも良い。(内容の元はナンバーの文章のようだ)

ファーガスンと言えば、カントナベッカムロイ・キーンファン・ニステルローイテベス、クリ・ロナ、等々のスーパースターとの愛憎、確執がすぐ思い浮かぶが、どこまで本質に迫れているかは神のみぞ知るだが、カントナベッカムの物語は僕には面白く読めた。

本当にファギーというのは、単純かつ複雑、熱くてクール、瞬間湯沸かし器であり深謀遠慮、と矛盾の塊でありながら、とんでもない巨人なのだ。マンUのサッカーを僕は好きではないが、ファギーの存在には敬意を払うしかない。

ただ、後半は少し失速してしまう。もう少し具体的な試合の話があれば、もっと絞まったのではないだろうか。あと、モウリーニョがかなり出てくるのだから、ペップに関しても少しは描いて欲しかった。(ベルバトフもでてこなかったなあ)

 

●6602 館 島  (ミステリ) 東川篤哉 (創元文) ☆☆☆☆

 

館島 (創元推理文庫)

館島 (創元推理文庫)

 

 

題名から解るように、本書は館ミステリであり、孤島ミステリでもある。すなわち綾辻や島田の世界を目指した、コテコテの新本格パズラーだ。

根本にある奇想というかトリックは素晴らしいと思う。ただ、うまく描かないと慣れた読者には予想がつくものではあるが、いつものように細かい伏線がアチコチで効いていて感心してしまう。

何よりも今回は(まだ完成していない)瀬戸大橋の使い方が抜群である。これは素晴らしい。そして、パラセーリングが動機に絡むのもうまい。もっとも、パラセーリング自体の登場は強引だが。

問題は、これもいつもなのだが、抑え気味とは言いながらユーモアというかギャグが寒いこと。烏賊川市の次が横島、というのは許そう。しかし、小早川沙樹という探偵と、主人公の刑事相馬隆行のコンビが全くダメである。

小早川が謎を解くたびに、何で急に解るんだ!と突っ込みたくなる。酔っ払ってばかりなのに。そもそも、第一の殺人は良く出来ていて、第三の殺人も悪くないが、第二の殺人は必然性があまりにも低い。

また、その動機もギャグとしては面白いが、リアリティーはゼロ。(どうも、この作者動機にまでギャグをぶちかます傾向がある)というわけで、本書のアイディアで島田御大が一冊書いたらかなりの傑作になったのではないか、と感じてしまう。

(トリックを見破られる可能性も上がるかもしれないが)やはり館や孤島ミステリには、御手洗のハッタリが良く似合う。ああ、最後に本書の題名自体が壮大なミスデレクションになっているのには、感心してしまった。

というわけで、本書も手放しで絶賛は出来ないのだが、ミステリマインドを掻き立ててくれる傑作であるとは思う。

 

●6603 密室に向かって撃て! (ミステリ) 東川篤哉 (カッパ) ☆☆☆☆

 

密室に向かって撃て! (カッパ・ノベルス)

密室に向かって撃て! (カッパ・ノベルス)

 

 

シリーズ第2弾。鵜飼、戸村、朱美、のレギュラー三人に本作からさくらが参加し、古典部?が完成。本書は、著者の資質が良く解る作品。

トリックに決してオリジナルティーがあるわけではないのだが、その組合せやバリエーションの考案がうまいのだ。簡単に言えばミステリ・センスが良い。そして、犯人の意外性には全く拘っていない点も、素晴らしい。

本書も、クリスティーのある有名長編とフランク・グルーパーの古典のトリックを組み合わせて、全く新しい観点からトリックを編み出している(銃弾のカウントダウンという趣向は素晴らしい)

特に海辺に捨てられていた肉の塊という伏線が、見事に決まっている。ただし、本書の場合の課題は、密室そのものの構成の解りにくさと、その必然性にある。もっとシンプルな形にできなかったのだろうか。どうにも、シチェーションがイメージしづらくて読み難かった。

しかし、ユーモアや文体を除いて、純粋ミステリ度として評価すれは、このところの新人(でもないか)の中では、アベレージは非常に高い。西澤のタック&タカチシリーズを思わせる。

 

●6604 新本格ミステリの話をしよう (評論) 佳多山大地 (講談社)☆☆☆★
 
新本格ミステリの話をしよう

新本格ミステリの話をしよう

 

 

いわゆる新本格ミステリに関する評論や解説を集めた作品だが、正直言って「謎解き名作ミステリ講座」に続いて、物足りない。例えばちょうど読み終えたばかりの「交換殺人には向かない夜」の解説が収められているが、このレベルだと僕の所感とあんまり変わらないんじゃないの?

やはり、大森や山岸、小川、といったSF界の評論家に比べると、著者や円堂都、鷹城、千街、といったミステリ評論家は分が悪い。

まず「幻影城」があり、島田と笠井があって、綾辻が「新本格」を導いた、という世界認識は同世代として全く同感なのだが、もっときちんと傑作のみを分析した評論があってもいいんじゃないだろうか。

まあ、上記の評論家たちはみんな、新本格第一世代=僕と同世代より一回り近く年下になってしまうせいか、評価が甘い感じがするんだよね。

 

●6605 大帝の剣4 (伝奇小説) 夢枕 獏 (エンタ) ☆☆☆☆

 

大帝の剣4 <幻魔落涙編>

大帝の剣4 <幻魔落涙編>

 

 

2、3、とちょっと調子を落としてたんだけれど、3のラストあたりからSF要素が全開となり、4は完全にSFとなった。

今までも書いたように、本書は「混沌の城」であり、獏版「妖星伝」であることは間違いないのだが、どうも著者の筆がいつものように滑って、武蔵の話が長くなりすぎたのだが、やっと調子がでてきた。

キリストやシャカが出てくるのは「百億千億」だし、ついには螺族が登場してきて「上弦の月」となる。ああ、それから「20億の針」や「寄生獣」のテーストもある。

ラストは何と少年時代のアレキサンダー大王に、シャカとガブリエルがオリハルコンの剣を渡す、という場面で幕を閉じ、ワクワクしてしまう。しかしまあ、既視感ありまくりのストーリーはいいんだけれど、ちょっと格調が無さ過ぎるのはどうしたものか。

 

 ●6606 煙の殺意 (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆☆

 

煙の殺意 (創元推理文庫)

煙の殺意 (創元推理文庫)

 

 

著者の初期の「亜シリーズ」以外の短編を集めたものだが、今回再読して感じたのは、傑作と平凡作が混淆しているなあ、ということ。

「紳士の園」と「煙の殺意」は、従来から傑作と言われており、ストーリーもある程度憶えていた。ただ、単なるパズラーではなく、奇妙な捩れ具合が特徴であることを痛感した。著者は最初から、感覚というか思考回路が一筋縄ではいかなかったのだ。

で、何より驚いたのは、本書で一番の傑作、というかミステリ短編としてベスト級の名編である「椛山訪雪図」の内容をちっとも憶えていなかったこと。嗚呼、学生時代の僕には、この作品の素晴らしさが良く解らなかったんだろう。

まあ、年をとればとるだけ滋味を感じる作品ではある。が、何よりこの作品こそ、後の作者のひとつの柱となる「湖底のまつり」のような幻想的な耽美作品の先駆けと感じた。最後に傑作というほどでもないけれど「開橋式次第」の「御札」は、「月光ゲーム」の「年野」を思い起こした。

 

 ●6607 猫間地獄のわらべ歌 (ミステリ) 幡 大介 (講談文) ☆☆☆☆

 

猫間地獄のわらべ歌 (講談社文庫)

猫間地獄のわらべ歌 (講談社文庫)

 

 

いやあ、こんなとんでもない作品を見逃していたとは。文庫書下ろし時代小説に見せかけた超バカミス、というか地雷作品。正直言って、この手は二度と使えないだろうが、ここまでやっちゃうと、一回は読んでみる価値はある、ような気がする。自信はないけど。

とにかく、メタミステリ部分が絶品で、猿が犯人の密室殺人・・・の件は大爆笑。ここだけでも読む価値がある、ような気がする。著者のことは全然知らなかったが、一応時代小説は結構書いているようだ。

やたら現代的な文章の癖に、妙に江戸時代のディティールの薀蓄にうるさいのが特徴だけれど、まあ著者の時代小説を読んでみたいとは思わないし、繰り返すけどミステリとしてもこの手は一回だけの禁じ手だろう。

 

●6608 斜め屋敷の犯罪 (ミステリ) 島田荘司 (講談文) ☆☆☆★

 

 

長い間、「館ミステリ」=綾辻行人と条件反射となってしまっていたが、「館島」を読んで、そうだ本書があったんだ、といきなり気づいてしまった。(「猫間地獄」にはとんでもない「館ミステリ」が登場したが)

で、そういえば初期の島田作品で、なぜか本書を読んでいないことにも気づいた。で、早速読んでみた。82年の作品で、あの「占星術」に続く第2作だが、ストーリーはさすがに古臭いが、とんでもない比喩を除けば、島田は最初から文章はきちんとしてたんだ、と再認識した。(いや、最近の方がひどいか)

で、歴史的な意義を再認識しながら読み終えて、また思い出した。そうだった。僕は本書は未読だが、このトリック(大バカトリック?)は記憶にある。そう、当時推理研の誰かが、このトリックをばらしてしまい、あまりにもバカげている、と感じたので、結局読まなかったんだ。

同じ建物の物理的トリックなら、「暗闇坂」や「水晶のピラミッド」の方が数段優れている。ただ、やっぱり新本格における「館ミステリ」がここから始まったとするなら、きちんと読んで良かったとは思う。

 

●6609 償いの報酬 (ミステリ) ローレンス・ブロック (二見文) ☆☆☆★
 
償いの報酬 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

償いの報酬 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 

 

何と「すべては死にゆく」で終了したはずのマットスカダーが復活した。冒頭で老境に入ったスカダーとミックが昔話をしていて、回想シーンに突入するという構成。(でも、これって「聖なる酒場の挽歌」で使った手じゃ・・)

そして回想は名作「八百万の死にざま」の後の時代へ。ファンとしては期待は高まる。

しかし、このシリーズ中期のピークであった、いわゆる倒錯三部作「墓場への切符」「倒錯の舞踏」「獣たちの墓」以降は全て読んでいるが、最後の三作「皆殺し」「死への祈り」「すべては死にゆく」は、急速に衰えたように感じていたので、一抹の不安。

で、残念ながら不安的中。正直言って、ミステリとしてはかなり弱いし、展開も冗長。(まあ、そんなこと言うと「八百万の死にざま」も、ミステリとしては弱いのだが)ただ、相変らず田口俊樹の名訳もあって、文章は素晴らしい。

残念ながらこういう味のあるハードボイルドは、最近ではコナリーしかもういない。こうなったら、御三家の内リューインとグリーンリーフは殆ど読んだので、残されたスカダーの初期作品も読んでみようかなあ。

(初期は「八百万の死にざま」と「聖なる酒場の挽歌」しか読んでいない)たぶんミステリとしては弱いだろうけど、もう少し引き締っているはずだ。

 

 ●6610 完全犯罪に猫は何匹必要か?(ミステリ) 東川篤哉(カッパ)☆☆☆☆
 
完全犯罪に猫は何匹必要か? (カッパ・ノベルス)

完全犯罪に猫は何匹必要か? (カッパ・ノベルス)

 

 

烏賊川市シリーズも、この第三作で四冊読了。残すは長編一冊と短編集のみ。今回はさすがに招き猫の薀蓄が冗長で、全体に長すぎると思っていたのだが、結末で結構満足してしまった。

まあ、招き猫とビニールハウスを使ったアリバイトリックは、ちょっと面倒すぎるんだけど、凶器の隠し方や、動機が結構良く考えてあってうれしくなってしまった。

さらに、今まで散々文句言ってきたんだけれど、このレギュラー陣に慣れてきて、ギャグも結構笑えるようになってしまった。(洗脳されてしまったか?)さくらがいないのが残念だけれど。

というわけで、烏賊川市シリーズ四冊と「館島」、合せて五冊のミステリとしてのアベレージは驚異的に高い、と素直に評価しよう。(ユーモア小説としては好みは分かれるだろうが)

「密室の鍵」と「密室に向かって」の二冊は当初の評価は☆☆☆★だったんだけど、もう五冊とも☆☆☆☆に格上げすることにする。さて、こうなったら、来年は「謎解きはディナーのあとで」も読まなきゃいけないかなあ。

 

●6611 ここに死体を捨てないでください!(ミステリ)東川篤哉(光文社)☆☆☆☆
 
ここに死体を捨てないでください!

ここに死体を捨てないでください!

 

 

 ついにシリーズ五冊目の、今のところ最新長編。冒頭がリアルタイムの殺人事件でその
犯人?たちの逃避行(死体遺棄)と、鵜飼、戸村、朱美のレギュラーが、偶然?繋がってしまうプロットが良く出来ていて感心。

また、贔屓目かもしれないが、ギャグも抑え気味ながえら、今までで一番笑える。仙台に逃走?した妹が抜群。問題は、大掛かりなトリックにあって、着眼は面白いし、伏線も効いているんだけど、さすがにちょっとリアリティーが足りない。(何か痕跡が残るでしょう、普通は)

いや、でもこのくらい楽しませてもらえれば十分だけど。「完全犯罪に猫は何匹」の招き猫に続いて、○○の波乗りのイメージ喚起力が素晴らしい。ただ、今回もさくらが出てこなかったのが残念。

 

 ●6612 はやく名探偵になりたい (ミステリ) 東川篤哉 (光文社) ☆☆☆☆

 

はやく名探偵になりたい

はやく名探偵になりたい

 

 

最後は短編集。僕は著者のユーモアは短編でこそ生きるんじゃないか、と感じていたがその通りだった。冒頭の「藤枝邸の完全なる密室」は「カーを読んだ男」ばりの、本格脱力密室殺人で笑える。(逆にトリックはリアル)

「時速四十キロの密室」は、複雑な設定の割には、トリックが単純で無茶。でも、ユーモアで読ませる。

そして、収録作でパズラーとしては最高の出来なのは、「七つのビールケースの問題」。よくも、こんなしょうもない?展開から、きちんとしたパズラーを作り上げたもんだ。感嘆。「九マイル」とまでは言わないが、こんなミステリを書けるのは、東川と西澤くらいだろう。

「雀の森の異常な夜」は、ちょっと設定が無茶だけれど、アリバイの件に工夫がある。そして、最後の超異色作が「宝石泥棒と母の悲しみ」。これには、ぶっ飛んでしまった。よくこんな馬鹿な?ことを考えると思う。まいりました。

というわけで、短編集もやはりレベルは高かった。最後に、今回は全作レギュラーが鵜飼と戸村しか登場しないのが、ちょっと物足りない。

 

●6613 個を動かす 新浪剛史 (ビジネス) 池田信太郎 (日経B) ☆☆☆☆
 
個を動かす

個を動かす

 

 

何年前だろうか、何かの会合で新浪氏の講演を聞いたことがある。そのとき、つい彼が「カオスの縁」という言葉を使ったので、そうか田坂さんはローソンの社外重役だったんだ、と思い出した。

というわけで、いつか彼の本がでたら読もうとは思っていた。あっと言う間に読み終えたが、やはり田坂的な記述が多く「ミッション(使命)で動く会社にならなければ」なんて、彼が言うとさまになってしまう。

また、GE的な記述も多く、そうならざるを得なかったのだろうが、CVSという中央集権的な業態に、自律的な多様性、個への分権を追及していくスタイルは魅力的だ。

そうは言っても、一方では「現場まかせの、仮説・検証はもうやめよう」と言って、自動発注にチャレンジしていくのだから、やはり面白い。

まあ、ビジネスとしては、ちょっときれいごとのように見える部分もあるが、読物としては流通業の基本的な部分もきちんと押さえており、一方では流通という世界を超えたグローバルマネジメントの面白さもあり、何より傾いた会社・組織を立て直していく、組織の成長物語としてなかなか読ませる。(おにぎりの成功体験は解りやすい)

ただ、たぶん現実は強力すぎるライバルの前で、そんなにうまくはいかないのだろうが、判官贔屓と言ったら怒られてしまうか。

 

●6614 本棚2 (企画) ヒヨコ舎編 (アスペクト) ☆☆☆★

 

本棚〈2〉

本棚〈2〉

 

 

本書はそもそも図書館で有栖川有栖の本を検索していたら、引っかかって読み出した。なぜ、そんなことをしていたかは長くなるのでやめるが。だから、最初は彼の本棚。

昔、「推理作家の発想工房」(南川三治郎)という海外ミステリ作家の書斎の写真集があったが、優雅だなあという感じで、自分とは関係なかった。

しかし、本書は正に本棚であり、ミステリ&SF系の作家の本棚(神林長平COCO夢枕獏)は、見ていて飽きない。もっと全ての本棚を写してほしいくらいだ。

まあ、逆にカテゴリーエラーの本棚は、全然興味が持てないのだが。それにしても、本棚というものを拒否した(実際僕の部屋に本棚はない)僕にとっては、中毒を再発させるような、悪魔の本でもある。

 

●6615 もう誘拐なんてしない (ミステリ) 東川篤哉 (文春社) ☆☆☆★

 

もう誘拐なんてしない

もう誘拐なんてしない

 

 

かつて、赤川次郎が「マリオネットの罠」「幽霊列車」「三毛猫ホームズの推理」に続いて「ひまつぶしの殺人」を上梓したとき、大きなショックを受けた。相変らずあっという間に読めたけれど、それはもはやミステリではなく、シチェーション・コメディーにすぎなかった。

そして、嫌な予感は的中し、その後は彼は本格的なミステリはほとんど書かなくなった。その象徴が「セーラー服と機関銃」であり、本書はヒロインが組長の娘、ということで正しく同系列の作品である。

まあ、ユーモア小説としては著者の作品の中では悪くない。しかし、ミステリとしてはゆるい。だのに、東川は赤川と違い、身代金の受け渡しに結構大掛かりなトリックを持ってくるのだ。ちゃんと伏線も張って。

というわけで、もう少しミステリ度数を上げれば、本書もまた傑作になったかもしれないが、今回はさすがにこれ以上は褒める気にはならない。

 

●6616 学ばない探偵たちの学園 (ミステリ) 東川篤哉 (JOY) ☆☆☆★

 

 

鯉ヶ窪学園探偵部の三人が主人公のシリーズ第一作。関西弁のギャグが炸裂するせいもあってか、有栖川有栖が思いっきりはじけたらこんな感じになるのかな?と感じた。怒られるかな。まあ有栖川なら、阪急じゃなくて阪神ギャグだろうが。(「猫間地獄」と同じモルグ街ギャグ?がでてくるのがご愛嬌)

で、本書には二つの大掛かりな密室トリックが仕掛けられているが、正直どちらもあまりに非現実的。いくらなんでも、これではTVドラマにさえならないだろう。

一方では「振り子」や「ケトル」という手掛かりの分析などはセンスが良くて、やっぱり著者は物理トリックの人ではないなあ、と痛感した。

トリックにあまり凝らずに、ロジックを更に磨いてほしい。まあ、その前に男三人はないだろう。男女二人づつの古典部を見習ってほしい。

 

●6617 殺意は必ず三度ある (ミステリ) 東川篤哉 (JOY) ☆☆☆☆

 

 

鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ第2作。古典作品のトリックを活用して、全く新しいトリックを創り出す、という著者の長所が良く出た傑作。メイントリックは、クイーンやカーといった巨匠が何度も使ってきた●●の◎◎トリックのバリエーションだが、それを野球に応用したのが素晴らしい。

前作からやたら古臭いプロ野球の薀蓄が出てきたが、まさか本書の伏線だったのか?しかも、それを見立て殺人にまで発展させ、更に犯人が「補殺」と「捕殺」を間違えるなんて、「Yの悲劇」のバリエーションでぶっ飛んでしまった。しかも、僕もずっと「補殺」と「捕殺」を間違えていた・・・

ただ、残念ながらトリック自体はここまでやるには、効果に疑問があるのも事実だが、今回は努力を認めたい。冒頭の野球ベース盗難事件?や、途中の錯覚トリックなど小技も効いている。

また、カープ絡みのディープなギャグにも、気付く人はニヤリとする。(著者は広島生れ)さらに前作で指摘したからか?男三人の馬鹿トリオに、今回は紅一点の生徒会長も加わったことだし。(さくらに比べるとちょっと弱いが)ラストもうまくきまった。

さて、これで図書館で簡単に手に入れることの出来た著者の作品は、全部読んでしまった。申し訳ない。こんな作家を僕はまだ何人見逃しているのだろうか。そして、やはり「謎解きはディナーのあとで」も、自分で買って読むべきなんだろうか。

 

●6618 セント・ニコラスのダイヤモンドの靴(ミステリ)島田荘司(角川文)☆☆☆
 
セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 (角川文庫)

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 (角川文庫)

 

 

02年の作品だけれど、存在すら知らなかった作品。結構アマゾンの評価が高くて、すぐ手に入ったので読み出したが、やっぱりWEBの評価は当てにならない。

たぶん、御手洗というキャラのファンの人たちが褒めてるんだろうけど、まあミステリとしては意味が良く解らない上に、御手洗の言動がわざとらしくてついていけない。

花壇の件もすぐ解ってしまった。ハートウォーミングとミステリの出来には、関連はないはず。

 

●6619 11枚のトランプ (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆☆

 

 

たぶんミステリマニアは、奇術が大好きなタイプとあまり興味がない人に分かれるのではないだろうか。で、僕は後者。特に種明かしのないマジックは興味がわかない。

本書の初読時の感想は既に書いたが、正直評判ほどではない、と感じたのは、たぶん僕のそんな性向のなせる業だったのかもしれない。

確かに今読んでも、第一部のマジック・ショーの部分はスラップスティックが過ぎて、イマイチだし、第二部の作中作「11枚のトランプ」も、そこまで凄いとは今回も感じなかった。

しかし、今回感銘を受けたのは第三部。ここが正にクイーン流のフーダニットになっていて、なぜ初読時にはそう感じなかったのか、正直理解に苦しむ。数々の伏線が見事に回収されるのは素晴らしいとしかいいようがない。

世界国際奇術家会議の描写が、解決とうまく結びついていないと考えたのだろうか。確かに個人的な好みとしては、もう少し奇術趣味を押さえて、純粋パズラーに集中してほしかった。

しかし、これは少数意見中の少数意見だろう。それでは泡坂じゃなくなってしまう、と怒られそうだ。

 

●6620 乱れからくり (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆☆
 
乱れからくり (創元推理文庫)

乱れからくり (創元推理文庫)

 

 

こうやって名作の再読をしても、いつもは恐ろしいことに8割方内容を忘れていることが多い。ところが、本書はほぼ100%内容を憶えていた。(従って、純粋なミステリを読む楽しみは、残念ながらかなり減退)

これを、どう考えるべきか。正直、本書の構造はかなり単純であり、本質はトリック小説なのだ。従って、犯人が誰か、ということを知っていると、ほとんどの謎は解けてしまう。

色々伏線はあっても、それはいわゆる論理のアクロバットというより、物理トリックの謎の解明に奉仕される。というわけで、こうやって再読することで、僕の中の本書の評価は「11枚のトランプ」と逆転してしまった。

しかし、初読時にこの大掛かりなトリックに驚愕したことは確かなのだが。それと、本書は「亜シリーズ」や「11枚」のような、スラップスティック・ギャグが殆どなく(舞子の存在はギャグだけど)シリアス路線だったのも、当時は高得点だったんだろうと思う。(まあ、隕石という冒頭のとんでもない発端の上に、ギャグを重ねたら収拾がつかなくなっただろうが)

こういうのは困ってしまうなあ。しかし、今回アマゾンの書評に、なぜ著者は文句を言われるに決まっている、隕石による事故などを冒頭で使ったのか?(実はここは単なる自動車事故でも、ストーリー上問題はない)についての鋭い分析があり、感心してしまった。(アマゾンで感心したのは初めて?)

詳しくは書けないが、隕石は本書が「Yの悲劇」ではない、という作者のフェアプレイ宣言なのだ。作者は、小説としての完成度より、ミステリとしてのフェアプレイに拘ったのだ。

こう考えると、やはり本書は愛おしい愛おしい作品と感じてきた。(それから、本書に出てくる館の名前から、東川の「館島」が本書へのオマージュであることに気づいた)

 

●6621 湖底のまつり (ミステリ) 泡坂妻夫 (創元文) ☆☆☆☆
 
湖底のまつり (創元推理文庫)

湖底のまつり (創元推理文庫)

 

 

「11枚のトランプ」「乱れからくり」に続いて第三長編の本書が、幻影城から上梓されたとき、当時のミステリマニアたちは、その作風の大転換に戸惑い、裏切られた気持ちになったものも多かった。

当然、本書の評価はイマイチだったと思う。で、僕はどうだったのか?というと良く思い出せないのだが、結構楽しんだけどやっぱり「乱れからくり」に比べれば小粒、という感じだったように思う。(当時僕は「11枚」を評価していなかった)

そして、結局泡坂は「11枚」や「乱れからくり」のようなコテコテ?の本格パズラーはその後は一作も書かず、本書のような耽美的、幻想的なミステリを書き続けた。

そう、ずっと思って疑わなかった。しかし、こうやって再読して、本書がいかに現在の新本格ミステリに影響を与えているかを理解して愕然としている。

プロットトリックも●●トリックも、今や世の中に氾濫してしまったが、本格的な嚆矢と言うべき作品は本書なんだ。

「11枚」の作中作が最後に繋がる、というのも今や連作ミステリのルール?のようなものだし、「乱れからくり」は究極のマニュピレイトである。やはり、泡坂は偉大であった。この3作、どうやって順序をつけたらいいか解らない。

 

●6622 江神二郎の洞察 (ミステリ) 有栖川有栖 (創元社) ☆☆☆☆☆

 

江神二郎の洞察

江神二郎の洞察

 

 

著者から本書が贈られて来たとき、即これを今年最後に読もうと決めた。感傷的かもしれないが、そうすべきと思ったのだ。冷静に読めるかどうかは、自信がなかったけど。

なぜなら、本書は僕らの大学時代が正にモデルの学生アリスシリーズ初の短編集であるだけでなく、著者の幻の処女短編「やけた線路の上の死体」が、初めて著者自身の作品集に収録されたからなのだ。

86年鮎川哲也編「無人踏切」に収録されたこの作品の舞台は、何と和歌山県南部町、すなわち僕の故郷なのである。これだけでも、もう冷静には読めない。その他にも、水口や松ヶ崎等々、懐かしい地名が頻発する。あれからもう30年たってしまったのだ。

作品としても、レベルは高い。特に「四分間では短すぎる」は「九マイル」へのオマージュとして完璧の出来である。

唯一の書下ろし「除夜を歩く」で、アリスと江神さんの間でかわされるミステリ論議も興味深い。何となく後期クイーン問題ゲーデル問題)で悩み続ける法月綸太郎に、反証可能性があればいいんだよ(ポパー)と諭しているような感じがした。

最後の「蕩尽に関する一考察」の論理の飛躍は正に泡坂的であり、何よりここで麻里亜が推理研に参加し、次巻につづくとなる構成が素晴らしい。残念ながら麻里亜のモデルは、僕には思いつかないのだけれど。


12年度は280冊。月ごとにデコボコはあったけれど、まあ数だけは稼ぎました。しかし、まさか東川を読むことで、泡坂を再読し、有栖川で終る、という本格ミステリのおさらいのような一年の締めくくりになるとは思わなかった。