2017年 11月に読んだ本

 ●7704 覆面作家 (ミステリ) 大沢在昌 (講談社) ☆☆☆★

 

覆面作家

覆面作家

 

 大沢在昌は、長編タイプなのだろう。短編集はあまり記憶にないし、最近の「鮫島の貌」も期待外れだった。で、本書は大沢らしき作家が主人公=一人称の短編集で、連作ではないが、同じトーンで貫かれている。まあ、現代の怪談とでもいうか。

正直、ミステリとしてはもう一歩なのだが、そのリーダビリティーというか読みやすさには感心した。あっという間に読んでしまった。最後の題名「不適切な排除」には笑ってしまったが。

 

●7705  ミステリー・クロック (ミステリ) 貴志祐介 (角川書) ☆☆☆

ミステリークロック (角川書店単行本)

 
「硝子のハンマー」は傑作パズラーだった。そして、プロットにも工夫があるがその面白さを支えていたのは、機械的な密室トリックであったところが、逆に新しかった。しかし、榎本&青砥のコンビでシリーズ化され(しかもTV化され)たのには驚いた。しかも、今度は密室トリックばかりの短編集で、「鍵のかかった部屋」は、わりと楽しんだと記憶する。

ただ、このコンビがお笑い系に行くとは最初は思わなかった。で、「狐火の家」では、ますますファース味が濃くなり、正直楽しめなかった。そして、三冊目の短編集である本書が上梓された。

で、残念ながら今回も楽しめなかった。けっこう分厚くて力が入ってると思うのだが、相変らずのファース味だけでなく、僕には致命的な欠点が感じられてしまうのだ。それは言うまでもなく、密室がとことん機械的トリックに終始していることだ。その結果、物語がものすごく細かくなり、謎の解明途中に、もういいやとなってしまうのだ。

よく考えれば「狐火」もそうだった。そろそろ著者には、このパターンを脱してほしい。何か作者だけが楽しんでいて、読者は置いてきぼり、という感じだ。

 

●7706 松田聖子中森明菜 (評論) 中川右介 (朝日文) ☆☆☆☆

 

 

確かに、本書の副題の通り、この二人の存在は、1980年代の革命だった。冒頭で松本隆が「聖子をビートルズとすれば、明菜はストーンズだね」と書き、まさにその通りと思いながら、一方では僕はビートルズと明菜が好きだった。

まあ、明菜の絶頂はあまりにも短かった気がするが。「飾りじゃないのよ涙は」「ミアモーレ」「赤い鳥逃げた」「デザイア」の頃の明菜は神がかっていた。確かに。

 

●7707 SFの書き方 (評論) 大森望 (早川書房) ☆☆☆☆

 

 

実作の方は読んでないので、インチキだが、相変わらず大森の文章は読ませるし、豪華な作家陣の文章も凄い。特に山田正紀新井素子は、さすがの貫禄、というか本当に変だ。で、若い小川や冲方が、わりときちんと厳しかったりする。

 

●7708 逆説の日本史23: 明治揺籃編 琉球処分廃仏毀釈の謎  (歴史)井沢元彦小学館)☆☆☆

 

 

このところ、調子の良かった「逆説」だが、今回は残念ながら褒められない。いや、琉球処分廃仏毀釈など、今まであまり脚光が当たっていなかった部分を詳しく書いたのは、評価できると思う。問題は前半である。
 
本書のなんと半分近くにわたって、朝日、韓国、批判が展開されるのだ。いや、書いている内容は、正しいと思う。ただ、本書は「逆説の日本史」であり、その半分を使って、現代の話を延々とするのは、あとがきで言い訳をしているがシリーズのファンとしては、とても納得がいくものではない。残念。
 
 

●7709 戦の国 (歴史小説) 冲方丁 (講談社) ☆☆☆☆

 

戦の国

戦の国

 

 
 
決戦シリーズから著者の作品を集めて、加筆修正した本。僕は決戦があまり好きでないので(2回挫折した)冲方ファンとしてはうれしい本。で、まあ「天智明察」や「光圀伝」には及ばないが、なかなか面白く読めた。

6人の武将のうち、織田信長上杉謙信(デュ・ゲクランみたい)大谷吉継が、クールで良かったが、明智光秀は納得できないものが残った。まあ、でも十分堪能した。