2017年 8月に読んだ本

●7679 濱地健三郎の幽なる事件簿 (ミステリ) 有栖川有栖 (角川書)☆☆☆★

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 心霊探偵・濱地健三郎を主人公とする短編集。傑作「幻坂」に2編出ていた、とのことだが、うっすらとしか記憶にない。濱地は、死者の念が見えるという、榎木津のような断定だが、本書はホラーではない。(全然怖くない)かといって、西澤お得意の特殊設定ものでもない。

じゃ、何かと言われると、著者も後書きで苦労しているが、うまく表現できない。というか、ストーリーはホラーよりミステリによっているが、心霊現象のしばりがゆるすぎて、ちょっとパズラー時には弱いのだ。

ただ、キャラクターは立っていて、文章も良くて、クイクイ読めるので、何か後味はホラーと逆のテースト。後半の「霧氷館の亡霊」と「不安な寄り道」が、まずまずだったということは、やっと著者もこの設定の使い方が慣れてきたということか。

「幻坂」が傑作だっただけに、少し物足りないが、読んで損はないと想う。火村のアンチテーゼのような、濱地探偵の次に期待。

 

●7680 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 (歴史) 磯田道史 (NHK) ☆☆☆☆
「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

 

 磯田=江戸の専門家?と司馬遼太郎というのは、イメージが合わなかったのだけれど、そう言えば、磯田は竜馬について書いていた。しかし、やはり磯田の表現能力は素晴らしい。わかりやすい。あっという間に読んでしまった。

司馬史観は、明治を善、昭和を悪(鬼胎)としすぎることに、違和感をずっと感じていた。(だから、僕の「坂の上の雲」への評価は少し厳しい)しかし、こうやって、「国盗り物語」=織田信長から、昭和まで論理的に順に説明してもらうと、決して司馬は単純にそう考えたわけではなく(当たり前か)この国の陥りがちな悪癖(調子に乗ること)への警鐘であったのだ。

磯田が「花神」が司馬のベスト、というのもなかなか気が合うなあ。まあ、僕は竜馬を上にするが、花神も大好きだ。ただ、題名は磯田道史の「司馬遼太郎入門」の方が正しい気がする。

 

●7681 ここから先は何もない (SF) 山田正紀 (河出新) ☆☆☆

 

ここから先は何もない

ここから先は何もない

 

 

 

題名はボブ・ディラン。内容は著者があとがきで書いているように、あの「星を継ぐもの」への不満の解消するために書いた、とのことで、小惑星で何万年前の人骨?が発見される、というのは何度読んでも魅力的だ。また、もうひとつの動機として70年代著者が中間小説誌に、まだなじみのないSFをどうやって書こうとしたか、は本書の冒頭の銀行のシーンで見事に生かされていて、すっと物語に入れた。

そこから、あれよあれよと一癖のある、しかし犯罪者ではないメンバーが集合し、謎の解決のため、米軍基地に進入するあたりは、まるで「火神を盗め」のようで、わくわくした。しかし、今回は主人公がハッカーというのがくせ者で、物語は電脳空間で推進力を失ってしまう。(少なくとも僕には)

というわけで、前半はひさびさの大傑作か、と想ったのだが(神、進化、生命、とてんこもり)途中から訳が分からなくなった。結局、本書は神シリーズ、シンギュイラリティー版、なのか?

山田正紀は不思議な作家だ。大好きだし、かなり読んでるつもりだが、この一冊というのがないし、最近のは雑すぎる気がする。でも、早いうちに何とか、山田正紀おすすめ神7を作りたい。小松左京と同じで、どうにも思い出せない作品が多いのだ。

 

 ●7682 真夏の雷管 (ミステリ) 佐々木譲 (角川春) ☆☆☆★ 

真夏の雷管

真夏の雷管

 

 道警シリーズ第八弾、とのことだが、たぶん僕はこのシリーズを3,4冊読みながらも、派手で雑だなあ、と感じて、読まなくなっていた。ただ、新刊夏枯れの今、ネットの評判も良さそうなので手に取った。(一方、真保の新刊はあまりネットの評判が悪くて、やめてしまった)結論から言うと、警察捜査小説としては、テンポよく一気に読ませる。ただ、ミステリとしては、あまりにもひねり、けれんがない。まあ、87分署みたいに文庫で一発だったら、これでいいのかもしれないが。さて、佐々木も神7作れるのだが、道警シリーズも警察官の血も、僕の場合入らなくて、初期の戦記物ばかりになりそうなんだよね。

 

 

  ●7683 NHKニッポン戦後サブカルチャー史 (社会学) 宮沢章夫 (NHK) ☆☆☆☆ 
NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論

NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論

 

  少し前、NHKで宮沢がやっていたTV番組の続編のノベライズ、らしい。僕は今回は見逃してしまった。で、大森の「SF」は何を夢見るか?が読みたかったのだが、内容はまあ当たり前で、それほどでもない。 逆に期待していなかった、泉麻人の「深夜テレビの背徳」が、オールナイトフジに偏らず、結構自らの体験とシンクロして楽しんでしまった。まあ、あと都築響一の「ヘタうま」で、ひさびさの蛭子のマンガ(当時僕は結構好きだった)を見て、今の蛭子との落差に今さら愕然とする。 


●7684 サザンオールスターズ 1987ー1985 (音楽) スージー鈴木 (新潮新) ☆☆☆☆  
サザンオールスターズ 1978-1985 (新潮新書)

サザンオールスターズ 1978-1985 (新潮新書)

 

 「クワタを聴け!」(中山康樹=亡くなってしまった)を読みながら、本書に手を出したのは、副題の年代。そうこの時代こそが、僕の学生時代であり、サザンとの蜜月であった。(正直、後期の「TSUNAMI」の評価にはぞっとする)個人的に、自腹で買ったLPは「ヌードマン」と「カマクラ」で、「メロディ」と「バイバイマイラブ」がベストと想っていた僕には、気持ちのいい評論だった。そうそう、もう一本、シングルを中心にしたテープのベストも、すり切れるまで聴いたのだが、その時のベストは「C調言葉」と「涙のアベニュー」。 


●7685 芸能人と文学賞 (企画) 川口則弘 (KKB) ☆☆☆☆ 
芸能人と文学賞 〈文豪アイドル〉芥川から〈文藝芸人〉又吉へ

芸能人と文学賞 〈文豪アイドル〉芥川から〈文藝芸人〉又吉へ

 

  又吉のダイヒットが著者に、本書を書く期待を与えた。本来は直木賞男の著者が、細かいことはいわずに、芸能人の文学賞受賞うんちくを繰り広げるのだが、これが想ったより数が多くて、そのほとんどが記憶にあるのに驚く。(鈴木いずみが、こういう取り上げられ方をするのには、違和感があるが)

というわけで、最後の方はさすがに飽きてしまったが、著者の本の中では、一番楽しめたかもしれない。

 

●7686 ライプツィヒの犬 (ミステリ) 乾 緑郎 (祥伝社) ☆☆☆☆

 

ライプツィヒの犬

ライプツィヒの犬

 

 

個人的には「完全なる首長竜」以来、著者に注目している。そして、地味だが「鷹野鍼灸師」「機巧のイヴ」「思い出は満たされないまま」等々、ジャンルにとらわれず、着実に書き続けてきた。で、本書を読みながら、ついに著者もブレイクか?と期待を抱いた。

冒頭は、東ドイツにおける謎の殺人事件の描写で、それが一気に現在の日本にフラッシュバックして、主人公(劇作家・演出家)が、東ドイツの伝説の劇作家ギジの芝居を見に行き、途中で抜け出して、ギジ本人と桐山という謎の青年と出会うシーンから一気に物語に引き込まれた。

東ドイツというと須賀しのぶだが、著者はそれに劣らず、見事に東ドイツの演劇学校

(主人公が留学することになる)を描く。ただ、小説としては素晴らしいのだが、無理矢理ミステリ、というか殺人にした部分が、雑というか、分かりやすいというか、やや残念な出来。

というのも、メインの謎が(途中で予測がつくが)「俳優パズル」等々で、使い古されたもので、しかもそれがうまくはまっていない。でも、やっぱり本書は物語として素晴らしいし、キャラクターも立っていて、ブレイクは無理だろうが、少し甘い採点をしてみた。次作こそ、さらに期待。筆力は申し分なし。

 

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