2017年 7月に読んだ本

●7671 黒い波紋 (ミステリ) 曽根圭介 (朝日新) ☆☆☆★
黒い波紋

黒い波紋

 

 このところ、コツコツと安打(内野安打)を重ねてきた著者だが、残念ながら今回も単打止まり。長打、本塁打にはまだまだ足りない。もし、文庫書下ろしなら、ちょうど満足という感じかな。

自然死した老人の息子が、遺品の中からあるものを見いだし、政治家を恐喝することになるのだが・・・という物語。まあ、内容はせこいし、人の命が軽すぎるが、クイクイ読ませるのは確か。

そして、最後に(はっきり書いていないが)ちょっと驚くオチが2つ。だけど、その根本にある、2つの事件のつながりが(これまた書いていないが)単なる偶然、というのは、やはりいかにも弱い気がするなあ。

 

●7672 誰が歴史を歪めたか (対談) 井沢元彦 (祥伝文) ☆☆☆☆
誰が歴史を歪めたか―日本史の嘘と真実 (祥伝社黄金文庫)

誰が歴史を歪めたか―日本史の嘘と真実 (祥伝社黄金文庫)

 

副題が、日本史の謎と真実。題名から類推するような猛々しい内容ではなく、古い本だが(2000年)楽しめた。何しろ対談相手が凄いメンバーだ。梅原猛、森浩一、陳舜臣小松左京小室直樹高橋克彦田中優子山本夏彦半藤一利呉善花、というオールスター。(図書館で高橋克彦の本を検索していたら、本書を見つけた)

特に(予想通りではあるが)梅原、小松、小室、といった博覧強記の知の巨人と、井沢の「逆説」(言霊、怨霊、穢れ、等々)とは非常に波長が合い、対談が弾んでいる。もちろん、一人一人の分量が少ないので、物足りなさも残るのだが、気楽に読むには最適ではないだろうか。

そして、森、陳、小松、小室、山本、といった人々は、鬼籍に入ってしまった。(梅原と半藤は元気だなあ)ぜひ、今度は磯田との対談を読んでみたい。

 

●7673 同い年ものがたり (エッセイ) 佐高信 (作品社) ☆☆☆
“同い年

“同い年"ものがたり

 

 

結局、最後まで読んでしまったが、変な本である。<世代>と<人物>で語る昭和史、が副題で、昭和をいくつかの世代=同い年に区切って、100人近くの人物について書いているのだが、どこが昭和史かよく分からない。(一番古いのが、大正生れの村山富市

まず、選び方がよく分からないし、内容も短くて、著者の好き嫌い(しかし、それも何か婉曲な書き方)を書いているようにしか思えない。ひどい人(張本勲)など、名前しか紹介されない。で、好きな人?は新たに章を立てて長く書く。

どうも、僕は著者がよく分からないし、好きになれない。

 

 ●7674 黄昏の囁き (ミステリ) 綾辻行人 (講談文) ☆☆☆★
黄昏の囁き (講談社文庫)

黄昏の囁き (講談社文庫)

 

 綾辻の神7を作ろうと思ったら、作品が少ない上に、「囁き」三部作の内容が区別できない、というか思い出せない。すなわち評価できない。「殺人鬼」が未読なことは赦してもらうが(僕はホラー、特にスプラッターは大の苦手)これでは7冊選べないので、読み直すことにした。(一応、既読のはず)

このシリーズからだいぶ後、同傾向の「最後の記憶」がでて、これはまあ標準作だったが、それが傑作「アナザー」につながった、と想っている。

で、やっぱりホラーは苦手なので、一番パズラー色が濃いとネットに書かれていた、第三作の本書から逆に読み出した。

結論は微妙というか、傑作とは言えない。93年の作品だから、文章が若書きなのはしょうがないとしても、ストーリーが単調である。まあ、その分読みやすいが。で、ミステリー的なトリックは、二段構えになっているが、意外ではあるが、美しくない。

最初のミスデレクションだけだと弱いし、真の回答は、ちょっと動機に無茶がありすぎる。(ただ、このトリックが、のちに「アナザー」につながったのかもしれない)

以上、たぶん綾辻以外の作家の作品なら、もう少し甘くなるかもしれないが、綾辻がこれでは駄目な気がする。って、勝手なものだが。

 

●7675 暗闇の囁き (ミステリ) 綾辻行人 (講談文) ☆☆☆★
暗闇の囁き (講談社文庫)

暗闇の囁き (講談社文庫)

 

 続いて第二作だが、今度も微妙。本書も間違いなく再読なのだが、内容はほとんど覚えていない。なのに、当然かもしれないが、ミステリ(+ホラー)としての設計図はほぼ途中で分かってしまった。主人公の過去との関わり方(絵本)というのが、「黄昏」よりも、よく出来ているとは感じたが、もう少しうまい使い方があったように感じた。

たぶん、本書は著者も言うように「悪を呼ぶ少年」=双子、に今や大流行のあるネタをぶち込んでいるのだが、現時点から言うのは反則の気もするが、せっかくの素材を、文体が生かし切れなかった気がする。(それと、読み逃したのかもしれないが、冒頭の惨殺事件の犯人は結局誰なんだろう?)

というわけで、本書もまた神7に入れる気にはならなかった。「十角館」「迷路館」「時計館」「暗黒館」「アナザー」までは当確なのだが、あと「奇面館」を無理に入れても、やっぱり一冊足りないなあ。「緋色」に期待できるかなあ?

 

●7676  緋色の囁き (ミステリ) 綾辻行人 (講談文) ☆☆☆☆
暗闇の囁き (講談社文庫)

暗闇の囁き (講談社文庫)

 

 ついに、第一作。でやっとギロギリ合格か。再読なので、しょうがないが、たぶん初読当時は、この結末にかなり驚いたと想う。

囁き三部作を通しての文句、文章の稚拙さ(なぜか、三作目の黄昏が一番感じたが、読んだ順番か)や、警察の無能さ、さらには本書の隔離された女子高の寄宿舎、というベタな状況、等々は認めなければならないが、本書にはやはり驚きと、それを支える論理のアクロバットがある。

僕は「ユリゴコロ」を思い出してしまった。もちろん、そこまでは届いていないが。(また、このトリックは変形しながら、緋色・黄昏・アナザーと続いている感じで、読んだ順番は間違えた感じ)

というわけで、やっと綾辻の神7が、ぎりぎりだけれど作れそうだ。

 

●7677 スティグマータ (ミステリ) 近藤史恵 (新潮社) ☆☆☆☆
スティグマータ

スティグマータ

 

 「サクリファイス」から続く、シリーズ第五作で、何と図書館で一年以上待って、一気に読んだ。残念ながら今までの作品の詳細は忘れてしまったが、登場人物たちには何とか覚えがある。

そして、何より、いかにも欧州っぽい複雑なサイクルレースの世界が、リアルにビビッドに描かれていて、読み出したら止まらない。

問題はいつも、そこに絡む「死」犯罪の部分で、どうもやりすぎのような気がしてしまう。今回も、細かい伏線も張っているが、犯人の動機にイマイチ納得できない部分が残る。それでも、本書は爽快なスポーツ小説であるだけで、十分だが。

 

●7678 乱歩と清張 (エッセイ) 郷原 宏 (双葉社) ☆☆☆★
乱歩と清張

乱歩と清張

 

 一昔前ならば、松本清張=社会派が、乱步=本格派を滅ぼした?という妄言を信じる人もいたかもしれないが、実際には本書にあるように、乱步は清張を大きく評価していた。ただ、それが「一人の芭蕉」だったかどうかはわからないが。

まあ、特に乱步側は面白く読めたが、本書にはそれほど新しい記述はなかった。また、宇山なき今、書かれるべきなのは、その後の冒険小説と新本格の80~90年代の物語だが、それを書ける人がいるのだろうか。