2017年6月に読んだ本

●7754 羊をめぐる冒険 (フィクション) 村上春樹 (講談社) ☆☆☆☆★

 

羊をめぐる冒険

羊をめぐる冒険

 

 

 村上春樹のおすすめ神7を作っていたら、突然初期の三部作を読み返そうか、という気になった。最初は「羊」。もしも、記憶が正しいならば、僕は大学生の頃、当時入っていた「SRの会」の書評で「青春への長いお別れ」を描いた傑作と紹介されていて、つい手にとってはまってしまった。

 その頃の僕は本家の「長いお別れ」も好きだったので、本書を比べながら読み、ラストの鼠と僕の対決シーンを、テリー・レノックスVSマーロウに重ねて読んだ。しかし、今回再読すると、わりとラストがバタバタしていて、イメージと違っていた。まあ、そういうもんだ。記憶と言うやつは。

 再読して感じたのは、文章の若さ。それは良さでもあり、物足りなさでもある。でも、やっぱり本書は僕にとって村上ワールドの伴走を決定づけた、宝のような作品である。

 

●7755 風の歌を聴け (フィクション) 村上春樹 (講談社) ☆☆☆☆

 

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

 

 次が本書。読んですぐ感じたのは、今度はヴォネガット影響。マーロウ以上に、ヴォネガットの大好きだった僕は、これで一発でやられた。しめった日本文学(偏見?)ではなく、LAの乾いた文体が、時代の雰囲気を見事に切り取ったと。

 しかし、再読して驚いたのは、当時感じたほどヴォネガットぽくなかったところ。まあ、デレク・ハートフィールドの部分は、キルゴア・トラウトっぽいのだが。しかし、これまた、ハートフィールドのモデルは、トラウトではなくハワードだと知って、驚いてしまった。

 当時の印象は、和田誠イラストの「猫のゆりかご」だったのに、かなり違っていた。やっぱり、記憶ってやつはそういうものなんだ。ふむふむ。

 内容はストーリーは期待していなかったが、著者が翻訳を拒むのも分かる気がする。でも、それでもこの実は暗くて死の香りのするショートノベルが僕は好きだ。

 

●7756 桜疎水 (ミステリ) 大石直紀 (光文社) ☆☆☆★

 

桜疎水

桜疎水

 

 「中国行きのスローボート」で挫折してしまい、方針変更で、ミステリマガジンで紹介されていた本書が簡単に手に入ったので読み出した。著者は未読だったが、名前だけは知っていた。何度も、色んな賞を受賞したがブレイクしない苦労人だと。その著者がついに推理作家協会賞を本書の冒頭の「おばあちゃんといっしょ」で獲ったらしい。

 全6編の短編集だが、さすがにベテラン、文章が安定していて読ませる。舞台はすべて京都。川が絡んでいる。ただ、内容はコンゲームが3編。恋愛、犯罪、ホラーが各一編とバラエティーに富んではいるのだが、一定のトーンがある。

 個人的にはホラー作品以外は全部合格点だが、残念ながらB+からAーという感じで、突出した者がない。まさに、著者の本質かもしれない。残酷だが。で、舞台も共通だし、一部事件や登場人物もかぶっているので、お約束の・・・・は残念ながらなかったのです。

 

●7757  幻のマドリード通信 (ミステリ) 逢坂 剛 (講談社) ☆☆☆★

 

幻のマドリード通信

幻のマドリード通信

 

 

逢坂剛のベストを選ぼうと想ったのだが、初期の短編集でどれが傑作か、というよりどれを読んだか?がはっきりせず、少し読んでみることにした。で、本書はごく初期のスペイン内線もので、正直若書きといわれてもしょうがない。

 しかし、そこはまるでディーヴァーのように、どんでん返しに次ぐどんでん返し。その熱意?は認めたい。ただ、短さと文章力不足で、キャラがまだ深くないので、何かゲームをやっているみたいだが。

 日本人がテーマとなる「カディスからの脱出」が一番面白く、「カディスへの密使」のラストには、思わず笑ったが。

 

●7758 水中眼鏡の女 (ミステリ) 逢坂 剛 (集英文) ☆☆☆★

 

水中眼鏡(ゴーグル)の女 (集英社文庫)

水中眼鏡(ゴーグル)の女 (集英社文庫)

 

 

逢坂の初期の特徴に、精神分析を扱った作品群があるのだが、どうも記憶が曖昧で、本書は読んだはずなのだが、評価が思い出せない。ただ、タイトルの女性のショッキングな姿だけは覚えている。

三つの中編が収められていて、どれも力作だが、これは評価が難しい。「百舌」を再読した時と同じだ。当時、僕は「百舌」のトリックに驚いてしまって、それ以降逢坂の「ベスト」は「百舌」としてきた。

しかしTV化に合わせて、再読したら、いまやそのトリックは結構使われていて、しかも切れ味が足りない気がしてしまったのだ。まあ、作品に罪はない。で「水中眼鏡」も、基本トリックが今ではパターンとなっていて、驚かない。(基本はバリンジャー)

で、これまたせっかくこのトリックを使ったら、もっとうまく使えたのではないか、と感じてしまったのだ。たぶん、当時は意味が分からない人が続出したほどの、驚愕のトリックだっただのだろうに。時は残酷だ。叙述やプロットトリックは、バリエーションが使いやすいので、困ってしまう。たぶん僕も初読時は驚いたのだろうが。

 続く「ペンテジレアの叫び」は、オチが読めてしまうし、ネットで評価の高い「悪魔の耳」は、○○○を使えば何とでもなってしまうので、僕は評価できない。

 

 ●7759 クリヴィツキー症候群 (ミステリ) 逢坂剛 (講談文) ☆☆☆
クリヴィツキー症候群 (講談社文庫)

クリヴィツキー症候群 (講談社文庫)

 

 著者の力の入った文庫あとがき(著者の分身である、岡坂神策が主人公の短編集)もあって、期待したのだが、はずれ。これでは、逢坂の神7が作れないなあ。題名からスペイン内戦をテーマとした5編が収められているのだが、過去の内戦秘話と現在の殺人事件が、うまくつながらない作品がほとんどだ。

 著者の趣味のスペイン内戦に関して、いくら素人を超えた内容でも、これではミステリとして評価できない。(「幻影ブルネーテに消ゆ」、のオチにはマニアは逢坂らしいとニヤリとするが、必然性は弱い) 困ったなあ。岡坂シリーズは長編に逃げるとして、精神分析シリーズはカットかしら。それとも神6にする?

 

●7760 ウィークエンド・シャッフル (SF) 筒井康隆 (講談文) ☆☆☆★
ウィークエンド シャッフル (講談社文庫)

ウィークエンド シャッフル (講談社文庫)

 

 

筒井の神11を作っていたら、短編集(特に中期の傑作群)が内容が思い出せず(さすがに「バブリング創世記」は覚えていたが)図書館で借りようとしたら、新装版(大文字)の文庫が、本書くらいしか存在しない。本屋の店頭もそんな感じなら、大いなる損失ではないか。断筆、復活後の筒井の作品だけで評価されるのは、つらい。

しかし、本書は僕の記憶では傑作集だったはずなのに、正直それほどでもなかった。やはり、時の流れは速く、あの鬼神の様だったツツイの衝撃度も時が和らげてしまう。そう、あの岸田唯幻論が、現実そのものになってしまったように。

「如菩薩団」「ジャップ鳥」「旗色不鮮明」「さなぎ」といった作品は、今からだとワンアイディアで、説明的すぎる。当時はそのアイディアだけで笑えたんだろうけど。表題作や「モダン・シュニッツラー」も、当時は斬新だったろうスタイルが、今や色あせている。

 で、今回時の流れを耐えた傑作は「佇むひと」。これは、アイディアを超えて、一つの独自な世界観を作り上げていて、時の浸食は全くないし、これからもないだろう。こういう読み方も面白いので、ツタヤでツツイの文庫本を探してみよう。

 

 ●7761 1973年のピンボール (フィクション) 村上春樹 (講談文) ☆☆☆★
1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

 

 スタウォーズがそうであるように、三部作の宿命として、二作目はネガティブになるのだろうか。本書も、たぶん三回目の再読だが、前後の作品に比べ印象が薄い。実際ストーリーはほとんどなく(主人公の生活の合間に、鼠が彼女と別れ街を出て行く)後半のピンポールも、視覚的には印象的だが、唐突でもある。

確かに、この作品を長編として、著者が認めたくない気持ちも分かる。もちろん、双子や配電盤のように印象的なイメージやフレーズも多くある。ただ、やはり「風の唄」の二番煎じに思えてしまうのは、しょうがない。

驚いたのは、冒頭に直子という女性がでてきたこと。僕は村上の小説に具体的な名前が初めて出たのは「ダンス・ダンス・ダンス」からだと思っていたので、ぎょっとした。(しかも、よく調べてみると、「ダンス」は「ノルウェイ」よりあとで、たぶん「ダンス」で五反田くん、という名字がでてきたのに、昔驚いたのだろう)

というわけで、あまり本書を積極的に支持はできないが、たぶん当時、佐野元春の歌詞と村上春樹のフレーズが、僕の二大カッコイイだったのだろう。若いということは、そういうものだ。

で、全然関係ないのだが、「風」や本書を読んでいると、突然山田正紀の「神狩り」を思い出した。再読すると、実はスカスカだけど、それでもフレーズは光り輝いている。それが、小説と呼べるかは別にして。

 

●7762 北斎の罪 七つの謎の輪 (ミステリ) 高橋克彦 (天山出) ☆☆☆★
北斎の罪―七つの謎の環 (Tenzan Selection)

北斎の罪―七つの謎の環 (Tenzan Selection)

 

高橋克彦もベストを作ろうと想ったら、肝心の浮世絵三部作の記憶が曖昧で、順番に読もうと想ったら、本書が最初に手に入った。内容は初期の短編集で、ホラー・伝奇と浮世絵ミステリが、4:3の短編集。

で、はっきりしたのは僕が高橋の伝奇小説が、やはりきらいだということ。「竜の柩」のモトネタの短編とか、仰々しくて、古くさくて、どうにも好きになれない。「ムー」とかが好きな人にはいいのだろうが。

一方、浮世絵ミステリはなかなか面白い。特に表題作が、北斎漫画の本質と北斎の罪?を描いていて読ませる。「贋作の裏側」も、よく出来ている。ただ、「百物語の殺人」は、アリバイトリックより鶴屋南北の怪談の裏話の方が面白いが。

 

●7763 写楽殺人事件 (ミステリ) 高橋克彦 (講談社) ☆☆☆☆
写楽殺人事件 (1983年)

写楽殺人事件 (1983年)

 

 さて、本題。本書は乱歩賞受賞作で、当然既読、だけれどほとんど記憶がない。当時は小峰元の「アルキメデス」を抜いて、歴代一位の売り上げだったという。ただ、本書は写楽の正体の仮説が面白く、現実の殺人はつまらない、というまるで井沢元彦の「猿丸幻視行」みたいな作品、というイメージだったが、まさにその通りの作品だった。

しかし、予想以上に面白かったのは、数ある写楽別人説を、分かりやすく簡明に作中で解説してくれる点、単なる写楽の正体だけでなく、事件自体が複雑な贋作ものである点、そして、なにより秋田蘭画や源内、意次、蔦谷、らを絡めた、著者の架空の?説の魅力にある。

一方、現実の事件の弱さ、陳腐さは、この手のミステリのお約束、というか当時の乱歩賞の悪癖で、著者の性にするのは可愛そう。今なら、贋作ミステリとして、もっと洗練されたものに、できるだろう。

で、本書ではすぐ排除される斉藤十郎兵衛説が、現在では有力となってるみたいだが、もう一度著者に現状を整理してほしい。

 

●7764 北斎殺人事件 (ミステリ) 高橋克彦 (講談社) ☆☆☆☆

次は三部作、第二弾にして、推理作家協会賞受賞作。内容は本書も「写楽」と同じく、浮世絵ミステリ(本書の場合は北斎=隠密説)、贋作事件、現実の殺人の3つのパートがあるが、それぞれが前者の20%増しくらいで、レベルが上がっていると想う。評価が同じなのは「写楽」に少し甘くしたから。本書は傑作だが、★追加する木にはならなかった。

というのも、やはりこれまた「写楽」と同じく、レベルは上がっても、贋作は動機が納得できないし、現実の殺人もちょっと無理すじ。ただ、今回もまた「北斎=隠密説」が素晴らしいのだ。

本書とは知らず、何となくきいていて、そんな馬鹿な?と想っていたのだが、こうやって緻密に論証されると、ほとんどが状況証拠ではあるが、説得力がある。特に北斎=武士、なんてこれで証明終りではないだろうか。そして、確かに蔦谷の時代のどの本にも、北斎の幕府批判はでてこない。

間宮林蔵という先輩もいることだし、やはりこの時代、北斎芭蕉、のように自由に旅をした人物は、幕府の手のもの、という考え方は、案外納得できて、驚いてしまった。何せ僕の北斎のイメージは、杉浦日向子の漫画か、映画の緒形拳くらいだから、隠密とはかけ離れている。杉浦日向子に聴いてみたかった。(どこか、書き残していないのか?)

スターウォーズの法則は、今回は当てはまらず、第二作が一作目を超えた。できれば、本書から登場する探偵、塔馬双太郎を主人公に、贋作も殺人もなしで、高木の「成吉思汗」のように、歴史ミステリ一本で書いてほしかった。それだけの、魅力はある題材だ。時代の限界とは言え、いかにももったいない。

 

●7765 広重殺人事件 (ミステリ) 高橋克彦 (講談社) ☆☆☆☆
広重殺人事件 (講談社文庫)

広重殺人事件 (講談社文庫)

 

 三部作の掉尾を飾るのが広重。そして、結論から言うと、ミステリとして一番優れている。今回も又、浮世絵の謎、そして贋作事件とくるのだが、もうひとつが現実の殺人ではなく、自殺なところが特徴。

ここからは、若干ネタを割るが、冒頭いきなり主人公津田の妻、冴子の自殺というショッキングな事件がおき、その上津田も終盤妻を追って自殺してしまう、というとんでもない展開なのだが、それが今までの不自然な殺人事件より、よほどうまく処理されている。

惜しむらくは、冴子の自殺の動機が弱いこと。ここは、心臓移植等々もっと金の掛る不治の病ならば、すべてはうまくおさまったのに残念。

で、一番といいながら評価が三作一緒なのは、浮世絵の謎が、「写楽の正体」「北斎隠密説」に比べて、あまりにも地味なこと。まあ、広重自体が絵はともかく、どんな人だったのか、僕にも全く予備知識がない。だから「天童広重」=山形天童に、東北に行った形跡のない広重の絵が多く残されている、という謎はたっぱり地味でしかない。

謎の結論は「広重は○○○○」だった、というもので、結構意外だし、今回もまた状況証拠はたっぷりあって、説得力は一番あるくらい。また、明治時代の赤色に関する考察も、目から鱗だった。(書いていないが、旭日旗も関係あるのでは?)

だから、三部作一気に読めば、本書が一番面白いはずなのだが、いきなりこれ一冊だと、その面白さが伝わるか不安なのだ。

でもやはり、この三部作は必読の傑作であり、写楽しか読んでいなかった僕は反省すべき。これで、やっと高橋の神7がそろった。

 

●7766 探偵さえいなければ (ミステリ) 東川篤哉 (光文社) ☆☆★
探偵さえいなければ

探偵さえいなければ

 

「謎解きディナー」の大ヒット以降は、シリーズ短編量産体制に入ってしまった著者に興味はあまりなかったのだが、本書はひさびさの烏賊川市シリーズということで、しょうがなく手に取ったが、ひどいできだ。

5つの短編が収められているが、評価できる作品がひとつもない、というのは初めて。特に2-3の作品は、馬鹿にしているのか!と本を投げそうな出来。おなじみのキャラと、すっかりなじんでしまった寒いギャグ、時々感じるマニア的くすぐり、そして何より全部読んできた烏賊川市シリーズだから、最後まで読み切った。

他の作品なら3編目で、投げ出しただろう。次は長編まで読むことはないだろう。