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2017年 1月に読んだ本

●7595 有栖の乱読 (エッセイ・書評) 有栖川有栖 (ダ・ヴィンチ) ☆☆☆☆☆

 

 

有栖の乱読 (ダ・ヴィンチブックス)

有栖の乱読 (ダ・ヴィンチブックス)

 

 

いつものように、図書館が(当然)閉館するお正月は、読む本がなくなり、こんな懐かしい本を取り出した。(もちろん、今年も事前に図書館でかなり仕込んだのだが、半分以上は読み通せなかった)

場所は、去年浦和駅に出来た北口の蔦谷書店。その半分が、スタバのカフェになっていて、そこでラテを飲みながら、本書を読み出した。実は初めてだったのだが、まわりの棚は閲覧可能の図書館になっていて、雰囲気もいい。朝の一時間ほどで本書を再読し、午後再び寄ったら満杯で、つい隣のベックでまたラテを飲んだ。

本当は書評などつけるつもりもなかったのだが、ふとこのブログをスタートしたことを思いだし、本書を使えば、このブログの主旨?説明になると考えたのだ。

本書の55ページ、著者の学生時代にこんな文章がでてくる。

 

同じ学年にK君という男がいた。彼は年間に読む本が200冊を超すという推理研きっての猛者で、かつ国産もの翻訳ものを問わず、本格ミステリが好きな部員とも、ハードボイルドやスパイ小説が好きな部員とも、対等以上に話ができるという、抜群の守備範囲を誇っていた。

しかも、たた読み飛ばすだけでなくて克明な読書ノートをつけており、さすがに上には上がいるものだな、と感服した。

 

そうこのK君が僕なのです。そして、高校時代からつけていた(最初はもちろん鉛筆書き)ノートが、40年以上すぎてなんとか7500冊を達成することができました。で、今還暦を間近にし、一念発起し新しいPCを買い込み、娘に教わりつつ、なんとか昨日立ち上げたのがこのブログなのです。

途中二度ばかり危機がありましたが(社会人になった年と、英語もできないのに海外で仕事をすることになった年)なんとかとぎれずに、ここまでくることができました。98年以降はデータベース(といってもメモ帳だが)化してあるので、少しづつアップしていきたいと考えています。まだ、ブログに慣れていないので、ミスはご容赦ください。

ブログスタートの動機のひとつは、最近の年末ベストの選択が非常に変で、このままではミステリファンが減ってしまう危機感を強く感じているからです。少しでも心あるファンの指標になるような、ブログにしていきたいと思っています。

今後ともよろしく。あけおめ。(実は本書は今年五冊目です)

 
●7596 不条理な殺人 (ミステリ) アンソロジー (祥伝社) ☆☆☆☆★

 

 

たまたま収録作家が豪華なので手に取ったが、平成10年と古い作品。ただどうやら最近幻の名作として復刊されたようだが(本書は旧作)さもありなんという、高レベルのアンソロジー。まず冒頭の山口雅也の「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」がハイテンションのスラップスティック・ミステリで一気に読ませる。ここまでやるか、という内容だが、このネタ元はきっとマルクス兄弟のあの映画だと思う。

次の有栖川有栖の「暗号を撒く男」は、唯一の正統派パズラーなのに、オフビートでおかしい。加納朋子の「ダックスフントの憂鬱」は、ちょっとダークで好みではない。西澤保彦の「見知らぬ督促状の問題」は、何とタック&タカチシリーズの一編でたぶん既読だが、相変わらず論理が冴えて、彼の場合はダークさが魅力。

恩田陸の「給水塔」は、ホラーでネットの評価も高いのだが、もう少しうまく書けた気がする。倉知淳の「眠り猫、眠れ」は、奇怪な行動をとって亡くなった父親(不連続殺人事件の影響?)のホワイダニットで、手堅く哀しい。若竹七海「泥棒稼業」と柴田よしき「切り取られた笑顔」の二作だけが、ぴんとこなかった。

そしてネットで評価が高い近藤史恵「かぐわしい殺人」は僕にはちょっと説得力不足。さらに、最後の法月綸太郎「トゥ・オブ・アス」は「二の悲劇」の原型(といわれても、さっぱり思い出せない)の力作。「誰彼」のようにやりすぎになる一歩手前で、どんでん返しの連続を鮮やかに決めた。ある偶然を逆手にとったラストが鮮やかで、本書のベスト。

というわけで、すべて90年代後期の作品で、みんなまだ新人に毛が生えたレベルだったのに、全員大家に成長し、現役でバリバリやっているところに、感動さえ覚える、まさに幻の傑作短編集。

 

●7597 公方様のお通り抜け (歴史小説) 西山ガラシャ (日経新)☆☆☆☆

 

公方様のお通り抜け

公方様のお通り抜け

 

 

日経小説大賞作品を読むのは、初めて。まあ、そのくらい僕のビジネス小説への興味は薄いのだが、本書は題名から分かるように歴史小説。ただし、そこは日経、何と尾張家の庭園を、TDLならぬテーマパーク?に変えてしまうという、イベント&ガテン時代小説なのだ。(商人=算盤小説もちょっと入ってる)

新人らしからぬ達者な筆で、サクサク読めてしまうが、正直コクは足りない。江戸落語のように、とよく評価されているが、残念ながら僕にはよく分からない。人物造形に深みはない。でもまあこういうハッピーエンドの物語も、正月早々気分のいいもので、合格点とした。次はこの手は使えないので、逆に期待したい。

 

●7598 日本沈没 上 (SF) 小松左京 (小学文) ☆☆☆☆☆
●7599 日本沈没 下 (SF) 小松左京 (小学文) ☆☆☆☆☆

 

日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)

日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)

 
日本沈没 下 (小学館文庫 こ 11-2)

日本沈没 下 (小学館文庫 こ 11-2)

 

 

ついに読む本がなくなり、本書に手をつけた。どうも、未だに子供っぽくベストセラーには天邪鬼になってしまう。まあ、大概はそれでOKなのだが、今回は大失敗だ。

本書は73年に上梓された。73年と言えば、終戦から30年、そして今から40年以上前で、現在より戦争の方が近い。国鉄や大蔵省やソ連が存在し、もちろん携帯もネットも存在しない。だのに、本書は今の小説として、何ら古くない。いや、未だに来たるべき未来、いや悪夢を先取りしている。

筒井の初期の「48億の妄想」や「俺に関する噂」を再読したとき(SF)作家の創造力の凄さ、鋭さに驚愕してしまったが、本書はその比ではない。予言の書であり、黙示録である。思えば小松は73年に本書を上梓し、95年に関西大震災と遭遇してしまった。(そこから、鬱病を患ったと聞いている)そして、11年、3・11のあと7月に永眠した。予言の重みに耐えられなかったように。

実際、本書の科学面はずば抜けている。プレート・テクニクス理論はさすがに知っていたが、そこに量子力学のトンネル効果を混入させていることに驚いた。江崎がノーベル賞をとったのも73年なのだ。そして、本書にでてきる地震の最大値は、マグネチュード8.6であり、ご存じのように東日本大震災マグニチュード9であり、本書で繰り返される、過去になかったことが、ついに訪れたのだ。

本書は06年に文庫化され、小松の弟子とも言える堀晃が解説を書いているのだが、そのラストが恐ろしい。「阪神大震災から10年以上が経過した。「日本沈没」で描かれた「日本人を襲う最悪・最大の災害」を「物語」として体験することの意味は大きい」これは、もちろん3・11以前の文章である。

ただし、本書の評価は一冊の本=予言の書としての評価であり、単純に小説として楽しむには、いくつも疵がある。小野寺は主人公ではなく、狂言回しにすぎず、結局感情移入すべき主人公が本書にはいない。だから、正直読みにくいのだが、一方ではだからリアルと言える。

そして、たぶんメタファーとして描かれる二人の女性の、場違いで逆に古くさいいかにも小松的な人物造形も好みではない。映画は藤岡弘=小野寺、松坂慶子=玲子という設定だったが、この二人をメインにしては、物語は破綻する。いや、下巻はもはや小説というより、ポリティカル・シミュレーションだろう。

上巻では主人公と感じていた、田所博士ですら、後半はある理由でフェイドアウトしてしまうのだから。以上、純粋にSF小説として、楽しめたとは言えない、というかそれを現実が許さない、恐るべき予言の書であった。

 

●7600 英雄の条件 (ミステリ) 本城雅人 (新潮社) ☆☆☆☆

 

英雄の条件

英雄の条件

 

 

発売時に出遅れて、予約をあきらめたのだが、わりと早めに図書館の棚でゲット。サッカーに八百長あれば、野球にドーピングあり。正直、このふたつがテーマの小説をわざわざ読みたくはない。著者の「マルセイユ・ルーレット」も読み出してすぐ、八百長がテーマとわかりほおり出した。

ただ、今回は正月なので他に本がない。しょうがないので、読み続けたら、何とか主人公津久見の妻の恭子の魅力もあって、読み通すことができた。

寡黙でストイックな松井のようなメジャーリーガー津久見は、本当にドーピングをやったのか?謎は単純だが、エージェントや新聞社を巻き込んだからくりは、結構複雑。だからいいとはいわないが。この陰謀は、ちょっとリスクが大きすぎるのでは?

で、これを言ってはお仕舞いかもしれないが、本書の魅力は実はそこにはなく、夫婦愛なのだ。最初なんでこんなカップルがありえる?裏があるのだろうか?と思っていたら、表も表。

ベタをさらにベタにすれば、それはそれで魅力的と、最後の夫婦告白シーンでは、つい目頭が熱くなってしまった。津久見がロスのメジャーリーグを目指した理由には、呆然としてしまった。やられた・・・・

というわけで、まあ甘いけれどこの採点でしょうがないか、と思っていたら、正直ラストのラストの津久見の告白で、ワンランク下げようかと思った。何とか踏みとどまったが。

これは違う。気持ちは分からないでもないが、こんなところ(ドーピングの公聴会)で、こんなことを言ったら駄目だろう、津久見。これが「英雄の条件」な訳がない。もし、そこを強調したいなら、別のやり方でなやらないと。

 

●7601 半 席 (時代ミステリ) 青山文平 (新潮社) ☆☆☆☆

 

半席

半席

 

数年前、 著者の松本清張賞受賞作「白樫の樹の下で」を縄田一男が強烈にプッシュしていて、早速読んだのだが、文体がぶつ切れのように感じて、小説を読んだ気がしなかった。(まさか僕より一回り上だとは思わなかった)そして、あっという間に直木賞をとってしまい、不思議なこともあるんだ、と思っただけだった。

ところがご存じのように、本書は「このミス」4位である。何だこりゃ!とぶっ飛んでしまったが、これは立派なミステリの連作短編集である。今年も「このミス」は立ち読みですませてしまったが、本書を選んだことだけは評価する。

冒頭の「半席」こそ、ちょっと動機にリアリティーがないが(その分、なぜ老人が真冬の筏の上で駆けだし、池に飛び込んで死んだか?という謎は魅力的だが)その後「真桑瓜」「六代目中村庄蔵」「蓼を喰らう」と、全く同じ構造の作品が続く。

まず主人公(お江戸の見抜く者、というより聞く者=リューアーチャー)片岡直人に上司の内藤雅之から、本業以外の頼まれ仕事がくる。なじみの七五屋で店主が釣った魚に舌鼓を打ち、翌日なぜか謎の沢田源内との会話でヒントをつかみ、下手人のなぜ?ホワイダニットを、直人は本人に語らせることに成功する。

この四編では「真桑瓜」がベスト。しかし、江戸時代に70歳を超えた現役の老人旗本たちがわんさといて、色々?悪さを働き、その「なぜ?」を毎回探し当てる、という設定は、コロンブスの卵であり、リアリティーがあって、妙におかしい。

ここまで見事にワンパターンだと(安吾捕物控を思い起こす)これはもう、素晴らしい様式美である。また、内藤と源内も、非常に魅力的だ。さらに、七五屋で披露される季節の肴の蘊蓄の魅力もあって、松井今朝子の並木拍子郎シリーズを思い起こした。

そして、最後の二編「見抜く者」「役替え」は、源内が行方不明となり、パターンも大きく変わり、めでたく大団円となる。素晴らしい。ぜひ、TVドラマ化してほしい。(最初のうち、単行本なのに毎回同じ説明が繰り返されるのは、ちょっと閉口したが)

 

●7602 日本以外全部沈没 パニック短編集 (SF) 筒井康隆(角川文)☆☆☆☆

 

日本以外全部沈没―パニック短篇集 (角川文庫)

日本以外全部沈没―パニック短篇集 (角川文庫)

 

 

日本沈没」を読んだ後、偶然図書館で、かなり美本+大きな文字の本書を見つけて手に取った。表題作以外も「日本列島七曲り」「農協月へ行く」「アフリカの爆弾」のような短編集の表題作が続き、胸焼けがしそう。(もちろん、ほとんど既読)

筒井の場合、パニック小説=スラップスティックであり、短編集に一編ならいいけれど、これだけ並ぶとちょっともたれる。しかし、僕が筒井の短編のベストのひとつと感じる「ヒノマル酒場」も入っていて、これは是非再読してみたいと思った。(今の僕の気分では、筒井の短編ベスト3は「鍵」「死にかた」「ヒノマル酒場」である)

で、何とか読み通したが、正直「新宿祭」「日本列島七曲り」「アフリカの爆弾」のような初期疑似イベント作品は、残念ながらもはや読むに堪えない。しかし、「ヒノマル」や「農協」は、数段ステップアップ=ソフィストケートされていて、再読がきく。特にやはり「ヒノマル」は、こういうパターンではほぼ完璧の作品と再確認した。

そして表題作である。もちろん、読んだことはあるのだが、内容はすっかり忘れていた。たぶん、本家を読まずにパロディだけ読んだので、さっぱり意味がわからなかったのだろう。本家を読めば、ほぼ同じ形で登場する田所博士の言動が、全く逆の意味になっており、苦笑を禁じ得ないが、当時は分かるはずもなかった。

これだけ読むと努力の小松、才能の筒井のような感じがするが、40年近く両者の作品とつきあった結果、今は僕は逆に感じている。

その他では、初めて書籍化された「黄金の家」が、正統なタイムパラドッックス物で楽しめた。さらに、全く期待していなかった「ワイド仇討」のシュールな展開に驚かされた。ラストのグロテスクさは、僕の好みからはやりすぎだが、この頃の筒井だから仕方がないだろう。 

 

●7603 ビートルズは眠らない (エッセイ) 松村雄策 (ロッキ) ☆☆☆☆

 

 

ビートルズは眠らない

ビートルズは眠らない

 

 本屋で文庫本の本書の新刊を見つけ、その場で図書館に予約を入れたら、単行本の在庫が既にあるとのこと。これも、最近よくあるパターン。文庫の解説と美本+コンパクトは魅力だが、早く読みたいので単行本で我慢。

内容は91年から03年までの、ロッッキングオンにおける著者のビートルズ関連の文章をまとめたもの。そして、それはほぼ忘れられかけていたビートルズに対する、新しい世代のファンの登場と、新技術によるビートルズの再発見の時代であったのだ。僕は、全く理解していなかったが。

ポール、ジョージ、リンゴが次々来日公演を成功させ、彼ら自身がいったん捨てざるを得なかったビートルズに原点回帰し、デジタルリマスター作品が、相次いで世界的に大ヒットした。そして、ジョージの死。

高校時代、音楽の99%はビートルズだった。わざわざ注文して、彼らの物語をむさぼり読んだ。そして、その情熱はいつもどこかでくすぶっていたのだが、そもそも時代認識ができていなかったことを痛感した。

それでも、ひさびさに読んだ、スチュ(スチュアート・サットクリフ)、ブライアン・エプスタインの物語は、時が止まった、いやよみがえった気がした。

 

●7604 テレビの黄金時代 (NF) 小林信彦 (文春文) ☆☆☆☆☆

 

テレビの黄金時代 (文春文庫)

テレビの黄金時代 (文春文庫)

 

筒井を読んだら、小林が読みたくなった、ら、何とすぐ返却棚で美本の本書を見つけた。SF御三家も筒井のみ。そして、本書で活躍する、巨泉、永、もまた鬼籍に入った。二人が健在なだけに、その喪失が怖い。 

しかし、02年の本の文庫だから、まだ小林の作品をきちんと追いかけていた時代のはず。なのに、なぜか内容に記憶がない。もともとはキネ旬の本だったので、見逃してしまったのか。もちろん、内容は様々の著者の作品で、勝手知ったる世界だが、本書はその決定版というか、集大成というべき傑作である。

日本のテレビ、というかバラエティーショーの歴史は、本書にもあるように、「光子の窓」(昭和33年)「夢であいましょう」「シャボン玉」(36年)「11PM」(40年)「ゲバゲバ90分!」(44年)と、僕の誕生・成長に合わせて、黄金時代を謳歌する。

そして、小林の場合、そこに井原髙忠と組んだ「九ちゃん!」の話が、いつものように加わる。そうやって、本書を昭和&小林の総集編として楽しんでいるうちに、本書の持つもうひとつの側面に、嫌でも気づかされた。

これらの番組で活躍するタレントを、当時ほぼ独占していたのが渡辺プロ。そして、渡辺プロはその力の大きさ故、傲慢になっていくのだが、それはまるで今のJにうり二つに感じるのだ。02年の小林は、それを意識していたとは思えないのだが。

そして、終盤ついに渡辺プロと井原は対立し、戦争となる。そのとき井原の打った手が何と「スター誕生」だったのだ。そして、生まれた新人を、サンミュージックホリプロ田辺エージェンシー、等々の井原の盟友に預け、育て上げる。この作戦は大成功し、渡辺プロの独占状態はあっという間に崩れてしまう。

これって、当たり前の芸能史なのかもしれないが、アイドルに興味がなく、「スター誕生」を見たことがない僕は、全く知らなかった。驚いた。そして、本書のラスト、黄金時代以降の優れたバラエティーショーが、いくつか取り上げられ解説される。その最後の番組が「SMAP×SMAP」なのだ。・・・・

 

余談だが、ウィキの小林の著作を確認していたら、小林と松村雄策の「ビートルズ論争」というのが、目に飛び込んできた。いったい、どこまでつながるんだ。内容は小林の「ミートザビートルズ」に関する、松村の批判だが、内容的には小林の圧勝と言えるだろう。

松村としたら、著書でも強調していた、今頃当時のビートルズを語る奴(への憎悪)をついぶつけてしまったようだが、それを小林相手にやってはいけない。日本で一番いけない相手。

 

●7605 マエタケのテレビ半生記 (自伝) 前田武彦 (いそっぷ) ☆☆☆★

 

マエタケのテレビ半生記

マエタケのテレビ半生記

 

 

「黄金時代」が衝撃的に面白かったので、隣にあった本書(和田誠の表紙が魅力的で)まで読み出した。内容や登場人物はほとんどかぶるのだが、予想通り残念ながらそこに、永、巨泉、青島、らと並んで小林の姿はない。

「ゲバゲバ」で二人を小林が仲介?したシーンも残念ながらない。あくまで、客観的に歴史を語れば、そうなるのが当然なんだろうが、やはり物足りない。となると、そもそもマエタケの芸風が合わなかったことを思い出す。

夜のヒットスタジオ」は大嫌いだったし、そもそもマエタケが小説やら映画やら音楽を語ったことがない。知性が感じられない。と思っていたのだが、確か映画解説もやっていたので、そういう芸風だっただけなのだろうが。

というわけで、すいすい本書も読んだが、正直コクがたりない。まあ、小林と比べるとかわいそうだが。しかし、最大の問題は、マエタケがTVから干された「バンザイ事件」の描き方、である。もし、ここで書かれていることが本当なら、それはあまりにも無防備かつ、無意識の傲慢さの結果としか言えない。

まあ、そのあとお天気マンとして、復活したのには驚いたが、そういう時代の嗅覚だけは、やはり認めなければならない。そして、彼ももはやいない。 

 

●7606 ロッキング・オンの時代 (NF) 橘川幸夫 (晶文社) ☆☆☆★

 

ロッキング・オンの時代

ロッキング・オンの時代

 

 

全くの偶然だが、今月は松村に続いて「ロッキング・オン」創刊メンバー4名のうち二人の本を読むことになった。ただ、松村の場合はビートルズという共通項があったのだが、著者の場合は存在すら知らず、読み終えてもどうにも消化不良だ。

僕にとっては、ロッキング・オン渋谷陽一であり、しかも雑誌ではなく、彼のFMラジオを80年代、達郎や佐野元春と同じくよく聞いていた。そして、ケイト・ブッシュスタイル・カウンシル、アズテック・カメラ、という当時の僕のブリティッシュ・ロック好みができあがった。(ジャパンだけは、何度聞いても分からなかった)

残念ながら、ロッキング・オンという雑誌に思い入れはないし、本書の舞台である70年代は、僕にとって早すぎる。当時は拓郎命(中学)からビートルズ(高校)に変わりつつある頃にすぎない。だから、本書を読んでも、あまり感じるところがないのだ。

そもそも音楽の書評?って、どうやるの?という感じで、本書収録の文章も、僕にはさっぱりひびかない。音を表現するには、もっと工夫と知識が必要だと、つくづく思う。

内容も、音楽でも、歴史でも、個人を描くでもなく、中途半端だと感じた。で、バブル崩壊以降、気づけばロッキン渋谷は、とんでもないメジャー・マイナーになっていた。最近、あのCUTもロッキンオンだと気づいた。で、もちろんロッキンオンで一番の好物は、渋谷の個人雑誌サイにおける、北上と大森の闘う書評だった。

閑話休題。やはり、今度は渋谷の実像に迫るものを読みたい。未だに時々、日経にコンサートのレポートをさらっと載せる渋谷は、ある意味僕のあこがれだ。当時、田舎者の僕にとって、村松と渋谷が面白がり方の先生だったと感じる。

余談だが、ラジオで渋谷が言った「ケイト・ブッシュスティーヴィー・ニックス中島みゆきを理解できれば、女を理解できる(いや、女は絶対理解出来ない)」という言葉は、40年近く忘れたことがなかった。が、昨年末中島みゆきの、夜会=「橋の下のアルカディア」を観て、初めてその言葉の真の恐ろしさを知った。

 

●7607 幻視時代 (ミステリ) 西澤保彦 (中公文) ☆☆☆☆★

 

幻視時代 (中公文庫)

幻視時代 (中公文庫)

 

 

そう言えば、最近西澤で外れた経験がない、と思いつき、図書館で文庫の美本を探すと、本書が見つかった。(10年の作品で、14年に文庫化)聞いたこともない作品だったが、読み出して一気に引き込まれた。そして、読了後満足のため息をついた。

アマゾンで誰かが書いていたが、このレベルの傑作が、年間ベストで完全に無視される状況は、確かにおかしい。ミステリというジャンルが拡散されすぎたのか、単純に作品が多すぎるのか、きちんとしたジャンル批評が成立されていないと思う。西澤レベルのベテランでも、全作品を読んでいる評論家がいない、のだと思う。

冒頭が魅力的だ。主人公悠人が、ある故郷の写真展で、18年前の地震とそれに遭遇した自分の写真を見ることになる。ただし、その写真の右端には、ありえないものが写っていた。同級生の風祭飛鳥。しかし、それはありえない。なぜなら、飛鳥はその4年前に殺されていたからだ。

そこからストーリーは、22年前の学生時代に一気にフラッシュバックする。そして、高校の文芸部を舞台にした学生時代が描かれる。正直、ラノベ主流の現在、学生時代を楽しく読ませてくれる力量のある作家はめったにいないのだが、西澤は別格と再認識した。キャラクターが最高に立っている。(まあ、年齢が近いからだろうが)

特に、なぜか平石貴樹を読んでいたり、綾辻行人の出現に熱狂する、ミステリオタク(現在は作家になっている)オーケンがいい味だしています。22年前の殺人、18年前の地震、を描きながら、本書は終盤おまちかねの、悠人とオーケン、それに編集者の長廻、の三人による爆喰い・酩酊推理合戦となる。

で、このレベルが高いのだ。何度も、何度も推論がひっくり返され、やり直しとなるのだが、デクスターみたいに、もうどうでもいいや、とはならない筆の冴え。本書の一番のキモは、既に数年前に癌で亡くなっている、悠人の母親の存在と原稿が、事件の重要なキーとなること。

このあたりは、「Yの悲劇」を彷彿させて、ゾクゾクする。また、「配達されない手紙」は、鮎川の「宛先不明」を思い起こさせる。そして、たどり着いた真相は、悪魔の仕業としかいいようがないものだった。(ただし、本書はダーク度に関しては、従来の西澤の30%と、たぶん意識的に薄味で、これも論理合戦をうまく強調している)

正直、既に死んでいた少女の正体は、物足りないというか、説得力が足りない。殺人事件の真相も、いつものように多重解決の中で一番面白いわけではない。いや、本当にこれが真実なのか、最後までフラフラする。

しかし、それがいいのだ。その結果、様々な人物の何気ない言葉、行動の真の動機が確定せず、物語はダブルミーニングにあふれるのだ。ああ、きっとこれは西澤流のクイーンとクリスティーの融合、なのではないだろうか。

閑話休題。あと問題は、内容をイメージさせず、SFと誤解させる上に、ださいダジャレでもある題名。どうか、多くの人が、この隠れた傑作に気づいて、楽しんでもらえば、このブログを立ち上げた意味があった、と感じる。(ちょっと採点が高すぎるが、やや意識的にこうした)

 

●7608 ジェリーフィッシュは凍らない (ミステリ) 市川憂人 (創元社) ☆☆☆★

 

ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない

 

 

昨年の鮎川哲也賞受賞作にて、このミス10位。まあ、スチーム・パンク=歴史改変世界における雪の山荘+そして誰もいなくなった、というオリジナリティーは評価しても良いし、鮎川賞の中では面白かったのも確か。でも、これは褒めすぎでしょう。正直、とても合格点は出せない。

まず一番の問題は、申し訳ないが文体。これでは、とてもスチームパンクを描くことなど不可能。最後まで、素人っぽい文章を読むのに難儀した。さらに、ミステリ的にもかなりロジックが雑。選考委員の辻真先が激賞しているが、まさに辻の作品のように、自分勝手でツメが甘く、読みにくい。(正直、北村、近藤、辻、という選考委員はいかがなものか)

犯人の正体など、もう少しうまくやれたんではないか、と思うし、真相を犯人側から再構築するラストも冗漫。たぶん、著者にとっては次の作品が勝負になるだろう。単なるマニアの一発芸だったのか、次のステップへの習作だったのか、そこではっきりすると思う。

トリックやシチュエーションは、なんとなく「スカイジャック」を思い起こしたのだが、文章力がケンリックとは、雲泥の差なんだよね。

このミスで復活した覆面座談会では、本書と「虹を待つ彼女」の二作が、新人賞では図抜けたツートップ、ということだったようだが、僕の評価は後者の方が遙かに高い。そして、その真贋は両者の次作であきらかになるだろう。作家としての、文章の力、人物造形力に、圧倒的な差があると断言しておこう。

 

●7609 松谷警部と向島の血 (ミステリ) 平石貴樹 (創元文) ☆☆☆★

 

松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

 

 

「目黒の雨」「三鷹の石」「三ノ輪の鏡」に次ぐ第四作にて、たぶん四部作完結。そして、いつもこのシリーズは僕を悩ませる。あの「誰もがポオを愛していた」を書いた大学教授が、引退後満を持してスタートした、今や日本ですら絶滅寸前の本格パズラー。

従って、大いに喜ばなければいけないのに、どうにも楽しめないのだ。特に前作に続いて今作も合格点を出せなかった。で、問題はパズラー的ロジックが薄まっているのではないことなのだ。逆に濃密になりながら、単純にそれが面白くない、というかそれ以前に非常に読みにくいのだ。

その原因として、やたら多い登場人物がきちんと描き分けできていない気がする。キャラクターに、感情移入しずらいのだ。また、現実にはかなり派手な連続殺人(しかも、相撲取りの)なのに、なぜか地味で一本調子に感じてしまうのだ。

たぶん、全体に古くさいのかもしれない。特に今回は、多くの登場人物の故郷、北海道での因縁話が動機に絡んでくるところは見え見えなのに、必要以上にその部分が長く複雑で、いらいらしてくる。

被害者に残された口紅の跡、等々部分的に光るロジックも多々あるのだが、犯罪の全体構成が、大ざっぱで非現実的に感じてしまう。そして、何より著者の昔からのファンにとっては、松谷警部の正体+あの更級ニッキの扱い方を、もう少しうまくやれなかったのだろうか?もったいない、と感じてしまうのだ。

 

●7610 井原高忠 元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学(インタビュー)恩田泰子(愛育社)☆☆☆☆

 

井原高忠 元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学

井原高忠 元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学

 

 

小林の「テレビの黄金時代」で紹介されていた、井原の自伝「元祖テレビ屋奮戦記」は残念ながら図書館になく、代わりに本書をゲット。09年の本で、著者は読売新聞記者(僕より8歳下なので、井原のリアルはたぶん未体験)で、小林の本にインスパイアされて、井原へのインタビューを敢行したようだ。

井原は14年に亡くなるので、何とか間に合った感じである。ちなみに、途中で井原に対する敬愛を込めた長文を寄稿している、井上ひさしも10年に亡くなっている。

井原を無理矢理一口で表現すれば、財閥の末裔のエピキュリアンにして、プロフェッショナルの塊とでも言おうか。とにかく、これまた現在は絶滅した貴種であることは間違いない。外見は上品なやしきたかじんで、やっぱりこわもてだが。

本書の特徴はふたつ。ひとつは、著者はやはり小林をリスペクトしているのか、最後に井原がヒッチコックマガジンに連載した「ショウほど素敵な商売はない」が小林の解説つきで、全文収録されていること。これだけでも、本書は読む価値がある。

そして、その文章は僕が生れた頃なのに、今でも全く通用する切れ味である。また、内容は、俗化する日本(ショウビジネス)への厳しい指摘にあふれており、80年51歳で引退してしまうのも、さもありなんと感じさせる。

また、途中で井原は同じくヒッチコックマガジンに連載されていた、二人のエッセイを引用するのだが、これが虫明亜呂無のスポーツと相倉久人のジャズなのだ。当時のヒッチコックの原稿料はただも同然、と聞いているのだが、小林の二十代での編集者としての辣腕ぶりを垣間見た気分。

そして、もうひとつは、やはり渡辺プロとの戦争。本人がはっきり、その意図と戦略を書いているので間違いない。やはり、こんな凄いことが、テレビの歌番組の裏側で実際に起きていたんだ。井原の蛮勇と強さに感服するしない。

というわけで、井原という不世出のテレビ屋の全貌とは言わないが、実際の声をきちんと書き留めた、意義のある本だと思う。

 

●7611 幻惑密室 (ミステリ) 西澤保彦 (講談文) ☆☆☆★

 

幻惑密室―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

幻惑密室―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

 

 

 西澤の「タック&タカチ」と「腕貫探偵」の二大?シリーズは、全作品読んでいるのだが、もうひとつ「チョーモンインシリーズ」という大きなシリーズがあり、未読であることに気づいた。

西澤の出世作と言えば「七回死んだ男」であり、その結果か元からの資質かしらないが、西澤の初期作品には、SF特殊設定?をとる作品が多く、僕は「人格転移の殺人」を読んで、もうこのパターンはいいやと避けていた。

そして、チョーモンインは超能力の存在を前提とした、パズラーなのだ。というわけで、故水玉画伯の文庫表紙(かなり恥ずかしい)も伴って、なかなか手が出なかったのだが、読み出せば一気に引き込まれた。ワンマン社長が新年会?に呼び出した、二人の愛人と二人の冴えない社員、この四名の視点から語られる物語は、とんでもなく非現実的な状況を、無理矢理読ませるさすがの筆力。

と思っていたのだが、正直殺人が起き、いつものレギュラーが活躍しだしてからは、急にテンポがおちる。特に語り手の保科の、オタクっぽいモノローグの連続には参ってしまった。ここは全部カットでOKだと思う。

また、今回(実は作者の言う時系列通りに、この長編の前日談の短編を先に読んだ)の超能力が、ハイヒッパー、ヒップワード、ベイビーワード、とややこしく(ようは言葉で幻覚を見せる?)そのわりには、あるトリックがわかれば、犯人は自ずから導き出されてしまうのだ。

というわけで、本書は長編にするべきではなかった。駄作ではないが、トリックもストーリーも、中短編が向いている。そうであるなら、なかなかよく出来てる、ということになったかもしれない。それは無理なら、せめて7掛けにスリムにすべきだろう。

もう少し(最初の三冊)は読むつもりだが、次回はそこが改善されていることを望む。まあ、三冊目は短編集なので、問題はないだろうが。

 

●7612  実況中死  (ミステリ) 西澤保彦 (講談文) ☆☆☆☆

 

実況中死―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

実況中死―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

 

 

 著者の言うとおり、短編をもう一編読んで、長編第二作の本書を読み出した。前作よりはましな気もするが、長さはほとんど同じ。本書も、7掛にできるなあ、と感じた。神麻、保科、能解、のレギュラー三人組?は正直あまり好みではない。

ただ、本書で感嘆するのは、西澤のミステリへの愛である。ああ、そうか、これがやりたかったんだ、という真相は、色々突っ込みたくなるが、よくここまでやった、という気がする。確かに、この犯人?には驚かされた。

実は今回もテレパシーの特殊設定が面倒くさいのだが、ラストの驚きは強烈で、たぶんキャラクター小説を逆手にとった、西澤のトリックが爆発する。シリーズ二作目で、こんなリーサルウェポンをかまして、大丈夫なのだろうか?(本書でも、「幻視時代」と同じく、盗作が大きなテーマとなるが、西澤にトラウマでもあるんだろうか?)

というわけで、細かいトリックや伏線は多々あれど、今回はある大きなトリックを著者が一心に目指した、ということで、合格点としたい。途中で、ミステリ作家の保科が、いまどき意外な犯人なんて無理だ、と嘆くシーンがあるのだが、今回はSF特殊設定を使いながらも、見事に意外な犯人?を実践してくれた。

 

●7613 念力密室 (ミステリ) 西澤保彦 (講談文) ☆☆☆☆

 

念力密室!―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

念力密室!―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

 

 

シリーズ最初の短編集で、予想通りこのパターンは短編に合っている。というわけで、満点とは言わないが、なかなか密度の濃い作品集になっている。

「念力密室」この短編が、シリーズ最初の作品。で、僕もまずこの作品を読んだのだが、正解だった。とにかくこの主人公3人の関係を説明するのは非常に難しく、僕も所感でわざと避けているのだが、この短編を読めばすんなり頭に入るようになっている。チョーモンインやカンチョーキの意味も分かる。

作品としては、密室トリックが念力によるもの、という前提には最初あきれるが、著者の狙いは、ホワイダニットにあると分かってくる。今回の動機も、なかなか面白いが、最新作「悪魔を憐れむ」によく似た傾向の短編があったので、僕は分かってしまった。

「死体はベランダに避難する」これも、パズラー=論理はよく出来ているが、犯人が分かってしまうのがもったいない。まあ、フーダニットじゃないんだけれど。被害者のある性癖もちょっと苦しいかな。

「鍵を抜ける道」鍵を巡っての論理はよく出来ている。しかし、これは田の作品もそうだが、人間関係に無茶があるように感じる。

「乳児の告発」笹沢佐保の名作を彷彿させる誘拐もの。これまた、偶然の人間関係に鼻白むが、ラストは西澤ダークパワー全開で、ぞっとする。

「鍵の戻る道」これはちょっと、いくら犯人が変人でも、動機に無理がある。「念力密室F」最後の作品は毛色が違って、どうやら将来への伏線ということで、解決がない。まあ、壮大なる設計図はいいのだが、たぶんこれ読む方は覚えられないなあ。

以上、全作品西澤らしいロジックの冴えはあるのだが、正直人間関係や動機がぶっとびすぎたり、偶然にすぎたり、ひっかかる。ようは、パズラーに徹して、他の要素はフェイドアウトということだろう。で、そのためにこそ、このリアリティーゼロの主人公たちが、論理に淫した世界を作り上げるのだ。

しかし、西澤は「実況中死」のように、その世界を逆手にとったりするのだから、油断がならないのだが。このシリーズ、今後も少しずつ読んでいきます。

 

以上、1月は19冊でした。ベスト本は「テレビの黄金時代」です。