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2016年 12月に読んだ本

●7567 池上彰の戦争を考える (企画) (角川書) ☆☆☆★

 

池上彰の戦争を考える

池上彰の戦争を考える

 

 

写真を豊富に使ったムック本。そういえば、ボスニア等々内容のいくつかは、テレビ東京の特集で観ていて、池上の硬派の部分が感じられる良い企画だった。ただ、こうやって本にした場合、本書のテーマである太平洋戦争に関しては、だいたい90%は知っている内容なので、面白かったとはさすがに言えない。

しかし、知識の整理=復習にはなったし、何よりたぶん池上がターゲットとしている若者へのメッセージとしては、偏向が少なく、ビジュアルをうまく使った良書だと思う。

 ●7568 女のいない男たち (フィクション) 村上春樹 (文春社) ☆☆☆☆★

 

女のいない男たち

女のいない男たち

 

 

前作「多崎つくる」が、イマイチの内容だったうえに、文芸春秋連載時のタバコ事件でミソをつけてしまった?ので、ずっと読まずにいたんだけれど、文庫本になったので買おうと思ったら、ブックオフで380円で見つけてしまった。

で、冒頭の「ドライブ・マイ・カー」を読んで、良いではないか!とうなってしまった。文体が引き締まっていて、一気に引き込まれた。そして「イエスタディ」と「独立器官」。この三作には、奇妙なしかし存在感のある三人の女性と、三人の男性(主人公)が登場し、それぞれ人物造形もシチュエーションも全く違うのだが、間違いなく地下の奥深いところでつながっている。「ノルウェイ」の「アフターダーク」バージョンというか。喪失というより、欠落の方がしっくりくる物語たちだ。

そして、次の「シェラザード」は、掲載紙もモンキーに変わり、ファンタジー要素が強くなる。さらに、問題の「木野」。これが本作品集における「かえる君」にあたる、奇妙なオカルティック小説だが、今回は特に怖い。そして、最後に短い書下ろしの表題作。まるで、あとがきのような。

というわけで、読み終えて思うのは、本書は村上が明確に、サージェントペパーのように、コンセプトアルバムとして、短編作品を書き、意図的に並べた短編集だと感じる。そして、それは見事に成功し、ひとつひとつは特別つながりがないのに(時々登場人物がかぶる)喪失と欠落をかかえて生きていかなければならない、村上ワールドが見事に描き出されてる。

 

 ●7569 オールド・テロリスト (フィクション) 村上龍 (文春社) ☆☆☆★

 

オールド・テロリスト

オールド・テロリスト

 

 

両村上を狙ったわけではないのだが、ひょんな拍子で、本書を読んでいないことに気づき、ネットの評価も高く、図書館ですぐ手に入ったので読みだした。というのも、本書の主人公が、あの「希望の国エクソダス」のルポライターだ、というのが気になったからだ。村上龍も春樹ほどではないが(「限りなく」を読んでないのだが)ある時期までは、リアルタイムタイムでかなり追っかけてきた。

(今、勘定したら、小説=長編・短編集53冊中24冊を読んでいた。70年代の「コインロッカー」80年代の「愛と幻想」、90年代の「イビサ」と時代を象徴する傑作を書いてきた、と20世紀は思っていた)

物語はあの「昭和歌謡大全集」&「半島を出でよ」のテロリストたち?がシリアスかつ老人として甦り、それを「トパーズ」的キャラ&文体で描いた、という確かに龍にしか書けない、不気味な傑作である。

ただし、四年も連載したせいか、中盤が必要以上に長くなってしまい、テロより「トパーズ」的な人々の物語が悪目立ちして、疲れてしまった。たぶん、この半分の長さで十分だったと思う。惜しい。残念な作品。

 

●7570 本格力 (企画) 喜国政彦&国樹由香 (講談社) ☆☆☆☆★

 

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

 

 

マンネリ気味だったとはいえ、本棚探偵シリーズが終了したのは、残念だった。と思っていたら、こんな分厚い夫婦合作?が届いた。

内容は雑誌メフィストの連載で、マンガも含めていくつかのパターンがあるのだが、メインはH1グランプリと名打った書評で、マニアの坂東善博士(喜国?)と素人高校生りこ(国樹?)の二人が本格古典ミステリを、毎回テーマに沿って数冊本音で書評するというもので、27回も続く。で、本格古典(しかも海外)というのがミソで、正直◎はめったにでない。

褒めるか無視するしかない、現在の書評状況で、きちんと欠点を書く、ということがいかに重要か再確認した。最近古典を見直している僕も、やはり幻の名作に傑作なし、という地点にもう一度戻るのか?と思ったのだが、これは海外本格古典としたのが悪い。これだけの辛気臭い古典を読み通した二人に拍手。

ただ、このパターンはまったときは、最高に面白く、クイーンやカーの回は楽しく読んだ。素人のりこの評価が結構鋭い。「三つの棺」など全く同感。残念なのは、やはりこれだけ長くやるならば、国内本格(正史や鮎川哲也土屋隆夫などぜひ今からでもやってほしい)や、海外の本格以外や、最近の本格もやってほしかった。で、最高なのは、あいだみつおならぬ、みすおの、だってほんかくだもの。これはもう、脱力して笑うしかない。

 

●7571 知られざる出版「裏面」史 (インタビュー)元木昌彦(出版人)☆☆☆☆
 

 

ネットでよく見かける、こわもての元週刊現代編集長の、雑誌メディアを作ってき13人へのロングインタビューだが、僕は花田紀凱末井昭、井家上隆幸、の三人しか知らなかった。全員が団塊の世代以上で、ちょっと僕には古くて解らないことが多々あった。(一番驚いたのが、末井と坪内の元妻との不倫事件。どう考えても坪内の方が若くていい男なのに・・・・)

で、内容は古き良き時代の雑誌梁山泊物語と、やっぱり出てくる左翼・ゲバルト&人事抗争物語で、後者は光文社のノンフィクションの時もそだったけど、疲れてしまう。本当に面倒くさい。もちろん、雑誌の裏側は面白いのだけど、もはやこんな時代はこないでしょう。

しかし、団塊の世代の引退が日刊紙を壊滅状態に追いやり、キオスクもまた次々姿を消す。これは、まさにリアルな出来事であり、これが次は雑誌、書籍まで行くのだろうか?

 

●7572 生産性 (ビジネス) 伊賀泰代 (ダイヤ) ☆☆☆☆

 

 

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

 

「採用基準」は、リーダーシップの本であり、その続編?は「生産性」とは、さすがに著者は目の付け所がいい。日本の誇る生産性は、工場=現場における生産性であり、その結果、生産性=アウトプット/インプットの分母=コスト削減になってしまっていることへの警鐘は、鋭いと感じる。

確かに工場の段階で、クリエイティブなアウトプット向上などは不可能であり、自然に生産性をあげるためには、無駄なコスト削減が歩留りの向上に向かう。しかし、それでは本当の生産性向上にはならないのだ。

生産性をあげると効率を追い、クリエイティビティーがなくなる、のではなく、リスクをとって、圧倒的なアウトプットを実現できたとき、生産性がマックスになるのである。しかしマッキンゼーはPPTのプレゼンは禁止で、会議メンバーはPPTを読むだけで、発表者の説明なしで、いきなり議論に入る、というのには驚いた。

 

●7573 悪魔を憐れむ (ミステリ) 西澤保彦 (幻冬舎) ☆☆☆☆★ 
 
悪魔を憐れむ (幻冬舎単行本)

悪魔を憐れむ (幻冬舎単行本)

 

 

 年末ぎりぎりに、なんとあのタック&タカチシリーズの新刊(短編集)が届いた。世の中では、2012年の「身代わり」以来の新作と騒がれているが、個人的には再読も含めて12年に「西澤祭り」をやったので、ある程度この長いシリーズのストーリーは頭に入っていて、西澤の凄さを堪能した。というか、最近では腕貫探偵の方が目立っているが、やはり西澤の原点はこのシリーズだな、と再確認した。中編、短編がそれぞれ二編、合計四編が収められているが、特に中編が両方とも素晴らしいでき。


もうベスト10は終わってしまったが、個人的には「真実の10メートル手前」を抜いて、本書が国内ミステリの今年のベスト。今のところは。冒頭の「無間呪縛」は、オカルティックな事件の、機械トリックをレッドヘリングとしながら、恐ろしい結末へと読者を導く。これこそ、究極のプロバビリティーの犯罪であり、本作のベストの出来。素晴らしい。

もちろん、ある人物の狂気のような執着や、結末のある人物のもうひとつの貌、などはまさに黒西澤全開で、良く考えるとありえないだろう、となるのだが、ここは西澤ワールドだから、仕方がない。素晴らしくキャラが立っていて、素晴らしく論理的で(論理のアクロバット)素晴らしくダークなのは、四作品とも共通しているが、本編はやはりベスト。

とは言っても、次の表題作も冒頭のショッキングな事件から、こんな無茶苦茶な事件が最終的に見事に論理的に解かれるカタルシスも、遜色なく素晴らしい。ここでも先の3つの特徴は健在だが、この中編二作は、こ のところのシリーズのテーマ(それはタック&タカチの親子関係に顕著)抑圧・束縛・操作からの解放・暴発が、通奏低音として流れていて、かなりいたい。続く短編「意匠の切断」は奇抜な動機は、ある程度予想がついたし、偶然の連続がやや気になるが、これまた素晴らしくダークなのに論理的だ。

そして、やっとボアン先輩が登場する最後の「死は天秤にかけられて」は、お得意の「九マイル」パターンの掛け合いで、これまたダーク&ロジカルで感心してしまう。以上、四編で下手な長編数冊分のミステリ要素がてんこ盛りで詰め込まれていて、個人的には満点でいいのだが、まあ西澤ワールド内でしか許されないだろう点も、正直かなりあるので、この採点とした。でも本書は傑作だ。西澤、恐るべし。

 

●7574 いまさら翼といわれても (ミステリ) 米澤穂信 (角川書)☆☆☆☆★
 

 

で、その「真実」に続く米澤の新刊は、これまた2010年の「ふたりの距離の概算」に続く古典部シリーズの短編集だった。その間に米澤は「満願」(これは僕は評価しないが)「王とサーカス」「真実の10メートル」と三年連続ホームランをかっとばし、まさに日本ミステリの名実ともにナンバーワンに躍り出てしまった。

だのに、まだラノベシリーズを続けるのか、とも感じたのだが、冒頭こそその大人の文体に戸惑ったが、内容はやはり西澤と同じく素晴らしかった。キャラが立ち、論理的で、西澤ほどではないが、作品によっては子供なりにかなりダークで面倒くさい。

結論から言うと「鏡には映らない」がミステリとしてベスト。過去の事件が、あるきっかけでネガとポジが見事に反転し、恐ろしい真実が浮かび上がる。それが、奉太郎の性格と結びついているところがミソ。ここで描かれるダークさは、西澤と違ってリアルでありえるのが怖い。

冒頭の「箱の中の欠落」と「連邦は晴れているか」は、ともに日常の謎。前者は論理はなかなかだが、ホワイ?が描かれていないのが弱い。(まあ、潔いとも言えるが)後者も悪くないのだが、最後の説明が解りにくい。もっとスパッとやれないか。

しかし、それでも米澤が初期に古典部や小市民シリーズで繰り返した、かなりへたくそな日常の謎(あ「さよなら妖精」もそうだった)よりは、格段にレベルが上がっている。成長したのは、文体だけではないのだ。

あと「わたしたちの伝説の一冊」は、伊原の漫画にかける情熱を描いて、読ませるが、正直ここでのダークな部活の覇権争いは、大人の目からは読むに堪えない。面倒くさい。

個人的には、ミステリとは言えないが、奉太郎の省エネスタイルを形作った、過去の事件を描いた「長い休日」と、それと絶妙につながる、千反田えるを描いた表題作の、ラスト二連発が素晴らしかった。もちろん著者はそこを狙っているのだろうが。

しかも、後者のラストは、リドルストーリーになっていて、千反田の将来については、判断を保留のまま、本書は閉じられてしまう。ネットでは、批判が多いが、ここはいきなり結論はダメだと思う。作者の計算勝ち。

というわけで、どうやら古典部はまだまだ続きそうだが、もう一方の小市民シリーズは、ついに冬が「ミステリーズ」に連載ということだが、どうも冬ではなく、番外編のよう。(雑誌が本屋で全然見つからない)ということは、米澤先生らしく、トップになっても、初心忘れるべからず、とふたつのシリーズは続けるようだ。こうなったら、あとは東川の烏賊川市シリーズの新刊が読みたいぞ!

 

●7575 沈黙法廷 (ミステリ) 佐々木譲 (新潮社) ☆☆☆☆

 

沈黙法廷

沈黙法廷

 

 

表紙は、宮部の「ソロモンの偽証」を思わせる重厚さだが、内容はある不幸な女性を描いて、作者名を隠せば、薬丸か葉真中の新刊、と言った方がぴったりくる。まあ、これは書いてもいいだろうが、最後まで内面をきちんと描写されないヒロインは、木嶋某がモデルのように見えるが、それが微妙にずれてくるのがミソ。

被疑者の元恋人、警察、検察、弁護士、マスコミ、さまざまな視点から彼女が描かれることで、彼女の存在が矛盾だらけに見えてくるのに、人間の弱さと本能的な正義感を勘案すると、この矛盾こそが真実に見えてくるのが、素晴らしい。どこまで、作者が計算したのかわからないが、はっきりせず、整合性がないこと自体が、リアルであり、その結果ワーキングプアやマスコミのひどい実態、何よりも老齢の小金持ちの独身男性の、情けなさと気持ち悪さ、が見事に炙り出されている。

惜しいのは、新聞連載ということもあったのか、裁判小説の限界か、中盤(法廷シーン)に繰り返しが多く、必要以上に長くなってしまった点。そして、それに反してラスト数ページでバタバタと片がついてしまう真犯人、ある人物の中途半端な描き方、さらに主人公とヒロインの愛の成就(まあこれはエンタメだから許せるけど)。

というわけで、冷静に考えると、かなり欠点の多い作品だが、舞台が何と赤羽と浦和ということもあり、臨場感溢れて一気に読まされたこともあり、このちょっと甘い採点となった。あと、検察の見込み捜査の怖さも、痛感させられた。

 

●7576 小松左京さんと日本沈没 秘書物語(エッセイ)乙部順子(産経新)☆☆☆

 

小松左京さんと日本沈没 秘書物語

小松左京さんと日本沈没 秘書物語

 

 

小松左京の数々の追悼本において、何度も言及、登場したのが左京の秘書?の著者であり、ずっと記憶に残っていたので、本書が発売されすぐに手に取ったが、正直内容は全然ピンとこなかった。

まあ、推測だが著者はSFの人ではないのだよね、たぶん。まあ、そこが左京の大きさであり、結局腰が定まらなかった理由だろうが。さて、年末年始、ついに「日本沈没」を読んでみようかと図書館で借りてきた。やはり、普通の人にとって、小松左京は沈没の人なんだろうか?

 

●7577 セイレーンの懺悔 (ミステリ) 中山七里 (小学館) ☆☆☆

 

セイレーンの懺悔

セイレーンの懺悔

 

 

このミス大賞出身の作家のツートップとして、著者と柚月を追いかけてきたが、二人とも量産しすぎて難しいところまできてしまった。で、何とか柚月は乗り越えられそうだが(本の雑誌の17年ベストが「慈雨」というのには驚いた。柚月を選ぶなら「あしたの君へ」の方でしょう。まあ、ミステリではないが。本の雑誌編集部には、ミステリが解っている人がいないなあ)中山は、もうあきらめました。

そうは言っても、量産で鍛えられたのか、中山の筆は冴えて、偽装誘拐事件のニュースショーの大誤報を、TVクルーの立場からグイグイ読ませる。ここだけなら、本城のブンヤものと並ぶリアリティーと迫力だ。ただし、そのマスコミ=大衆批判はリアルではあるが底が浅く、結局、主人公もヒロインも、何をも解決できないのだが。

で、どんでん返しの王様としては、やはり最後でひっくり返すのだが、まあこれが安易というか、偶然と言うか。意外性のための意外性であり、学生やヤンキーたち、被害者の家族や近所の人々、そしてマスコミ、弁護士、さらに何より事件を消費尽くす大衆たち。この小説に出てくる人々の汚さに、いやになってしまう。愚か者には、神々自身も勝てない、はアシモフだったっけ。

 

 ●7578 ぼくのミステリ・クロニクル(エッセイ)戸川安宣(国書刊)☆☆☆☆☆

 

ぼくのミステリ・クロニクル

ぼくのミステリ・クロニクル

 

 

読んでいて、胸が締め付けられた。これは、希代の名編集者の語りおろしクロニクルであると同時に、ほとんど同じ時代を生きた、ひとりのミステリマニアとしての、僕の歴史と見事に重なってしまうのだ。

宇山、戸川が新本格というか、日本ミステリのツートップであったことは間違いなく、たぶん早川ではなく、創元推理文庫からスタートした僕にとって、一番影響が大きかったのは、戸川(とかつては厚木淳)であったのだ、と再確認した。

無名の北村薫の企画の、日本探偵小説全集。鮎川哲也と13の謎と有栖川有栖のデビュー。SRの会で会った時から目立っていた、天才松浦正人。そして、鎌倉でお会いした、鮎川先生と戸川氏(北村薫山口雅也我孫子武丸麻耶雄嵩、等々)何もかもがなつかしい。

こんな本を読んでしまうと、あったかもしれないもうひとつの人生を、どうしても夢想してしまう。(個人的には、有栖川有栖と岩崎正吾の軋轢が興味深く、また鮎川哲也の奇妙な結婚生活と、ある意味悲惨な晩年には驚かされた。さらに都筑の挿話ときたら・・・こんなの書いていいの?)

 

●7579 重要事件で振り返る戦後日本史 (歴史)佐々淳行(SB新)☆☆☆★
 

 

じつは「私を通り過ぎた政治家たち」「マンドンナたち」を先に読みだしたのだが、両方とも途中で投げ出してしまった。よく考えれば、○○は素晴らしい。●●はとんでもない野郎、のレベルの(内容の薄い)話を延々聞かされても、全然面白くない。ただ、本書は戦後史のおさらいにはなった。まあ、相変らず最近の佐々は自慢話が多すぎるのだが。最後のオオム事件での、日野原と江川紹子の勇気には感心したが。

 

●7580 メフィストの漫画 (企画) 喜国政彦&国樹由香講談社)☆☆☆☆★
 
メフィストの漫画 (講談社文庫)
 

 

いやあ、こういう作品まで文庫化されてしまった。内容の7割は漫画です。しかし、内容はマニアにはたまらない。(大森も書いているが、有栖川有栖をはじめ、実在の登場人物が、ちょっとかわいすぎるが)とにかく、対談で山口が書いているように、喜国のネタは濃すぎる。数ページの漫画にネタを詰め込みすぎ。クラクラきてしまう。

で、解説で大森が言うように、これってSFファンにおける「不条理日記」だったのか。あまりにも画風が違うので、気が付かなかったけれど、そういわれればそうかもしれない。あと、吾妻には古本ネタはなかったような・・・あ、決定的な違いは、吾妻は説明しないところか。まあ、これはSFとミステリの本質の違いかもしれないけど。

 

●7581 天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2 (SF) 小川一水 (早川文)☆☆☆☆

 

 

ついに全10巻の9巻まできた。しかし、最終巻「青葉よ、豊かなれ」の刊行は何と18年とのこと。来年はなし。というわけで(今回もかなり遅れて、内容を思いだすのに手間取ったが)来年末は、今までの再読にあてて、最終巻(そうはいっても、たぶん数冊になるんだろうが)に備えたいと思う。

既に刊行7年目を迎えた本シリーズは、個人的には間違いなく、国内SFオールタイムベストである。この先、どんな結末がまっていても、それは変わらない。Ⅷ新世界ハーブCで明かされた、この世界の正体=Ⅰメニーメニーシープのラストのとんでもない謎の完璧な解明、だけでおなか一杯である。

ただ、本書だけを評価すると、セアキとイサリの思いは分かるし、そこに作者のメッセージがあることも解るのだが、人間?はそんなに簡単に恐怖と怨念を超えることができるのだろうか、と感じてしまう。そして、ラストの新展開、いまさら必要だろうか?(ひょっとしたら、カルミアンの正体?)ここは、ミスチフで十分ではないだろうか。

 

●7582 自生の夢 (SF) 飛 浩隆 (河出新) ☆☆☆☆★

 

自生の夢

自生の夢

 

 

ひさびさというか、待望の飛の新作は、残念がら廃園の天使ではなく、NOVA等々に書いた短編を集めたものだった。

が、冒頭の「海の指」で頭を張り飛ばされた。何だ!これは?やはり、ものが違う。何という、異形で壊れたイメージだ。それでいて、リアルに恐ろしく、かつまたなぜか懐かしい。ハムカツに参ってしまった。何だ、このイメージの氾濫は。諸星大二郎つげ義春山本直樹、そして電脳コイル。ゴルディアスの結び目。ソラリス。いや、もう凄いとしか言いようがない。

そして、表題作を中心とした<忌字禍>の連作は、正直良く解らない部分も多いのだが、モチーフは虐殺器官であり、ストーリー展開は「あなたの人生の物語」「ゴルディアス」等々を思わせた。その他「星窓」や「はるかな響き」など、小松左京が書きそうな、ハードなアイディアSFなのだが、飛の表現は圧倒的に新しいのだ。まあ、だから量産が効かないのだろうが。

今年のSFは、「夢見る葦笛」がダントツのベストと思っていたのだが、上田には申し訳ないが、相手が悪かった。作品の平均値や解り易さ(葦笛も決して解り易い、単純な話ではないが)は葦笛の方がはるかに上だが、もうとにかく本書は存在自体が屹立しているのだ。その稀有の世界感は、あの「ラギッドガール」につながっている。

満点にするには、たぶん僕の理解が追い付いてないことがひっかかるだけ。次も何年でも待ちます。自由に書いてください。満足のいく作品を。そういう作家がいるだけで、素晴らしい。

 

●7583 ヤマンタカ 大菩薩峠血風録 (伝奇小説) 夢枕獏 (角川書)☆☆☆★

 

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

 

 

いまさら「大菩薩峠=机竜之助」かよ、という感じであんまり触手が動かなかったのだが、読みだしたら竜之助より、新撰組土方歳三の物語、という感じで、原作がどうなのか知らないが、時代設定は合っていて、そうくるか!と驚いた。(読了後、あとがきで確認する限り、獏が勝手に土方を登場させたみたい)

そうは言っても、ここで描かれる血に飢えた?土方は、司馬の描いた冷徹なオーガナイザーとは真逆のキャラクターで、かなり違和感があるのだが。(まあ、沖田の描き方はもっとひどくて、こりゃファンからかなり文句がでるのでは)

で、内容は武闘大会の剣豪バージョンで、さすが格闘シーンを描かせたら第一人者の獏は読ませるのだが、一方でこのパターン(「餓狼伝」も「獅子の門」も)は、いつの間にかどんどん強さがインフレーションし、「リンかけ」「聖闘士星矢」状態に突入し、いやもう誰が勝とうとどうでもいいよ、と今回もなってしまった。まあ竜之助と土方が生き残るのは、解っているのだし。


もちろん、獏も色々工夫はしているのだが、途中で面倒くさくなってきた。内容的に一番近いのは「妖星伝」かもしれないが、SF要素はないし、新聞連載のせいか描写にも縛り?があって、駄作ではないし、珍しく一巻で終るのだが、やっぱりちょっと冗長に感じる。はやく、キマイラを完結させてください。

 

●7584 英国一家、日本を食べる (NF) マイケル・ブース (亜紀書)☆☆☆

 

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 

 

大ヒットして、続編やアニメなどが続々作られたと記憶しているが、13年の作品で簡単に図書館の棚で見つけた。しかし、内容はそれほどでもない、というか日本食に関しても、日本文化に関しても、かなり底が浅くて、読んでいて退屈だった。

また、ここで、アイヌ差別について語るか?という感じで、かなり自分勝手な印象。一番問題なのは、日本食の描写がちっともおいしそうに感じないこと。まあ、だから英国は、とは言わないでおくが、キャチャーなタイトルと、藍色をフィーチャーしたこれまたキャッチャーな表紙、以外に感心するところはなかった。

 

●7585 松本城、起つ (SF) 六冬和生 (早川J) ☆☆☆

 

松本城、起つ

松本城、起つ

 

 

大森絶賛の歴史改変SFだが、どうにものれなかった。もちろん、あの「みずは無限」
を書いた著者だから、「異星人の郷」のような格調高い作品は望まないが、やっぱり
このラノベ的な文体が合わない。で、今回は作品のキモである、歴史改変のロジック
が正直よく分からない。マーカー(主人公)の意味がよく分からないのだ。

 

●7586 刑罰0号 (SF) 西條奈加 (徳間書) ☆☆☆

 

刑罰0号 (文芸書)

刑罰0号 (文芸書)

 

 

著者は今はなきファンタジー大賞出身だと思うが、どうにも書いてる小説のジャンルがイメージできずに、ずっと読まずに来た。しかし、しぶとく生き残り、本書は本格SF?と評判が高い。

が、読み出してすぐ「ジャッジメント」を思い出した。世間では「代体」と比べられることが多いが、それは技術的なことにすぎず、小説としてのレベルは、遙かに及ばない。正直、冒頭なぜ被爆者の話がでるのか、よく分からなかったが、一応とんでもないラストへの伏線ではあった。

ただ、次の「疑似脳0号」の陳腐さは如何ともしがたく、その後もパターンが繰り返され、飽きてくる。確かに物語は「ジャジメント」的復讐法の物語から、どんどん予想外にエスカレーションするが、いかにも無茶ぶりが多くて、美しくない。

そして、何よりSF的部分、0号の科学的論拠が下手すぎる。たぶん、大森をはじめとしたSFプロパーには受けないだろうし、本書はそうあるべきだと思う。ネットの評価は結構高いが。

 

●7587 モネのあしあと (芸術) 原田マハ (幻冬新) ☆☆☆☆

 

 

副題:私の印象派鑑賞術。題名からわかるように、「ジヴェルニーの食卓」の裏話のような内容で、小説と重なる部分も多いし、一方ではある程度の知識がないと読みこなせない。正直、「ジヴェルニーの食卓」を呼んでいない人には、どうかと思う。

ただ、短い新書なのに、ふんだんに写真(絵画&風景)を使っているので、いちいちネ
ットで確認せずにすむ。まあ、個人的には結構楽しんでしまったので、この評価。できれば、残りの三篇も補足して一冊にしてもらいたかったけれど。

 

●7588 新・リーダー論 (政治経済) 池上彰佐藤優 (文春新)☆☆☆☆★

 

 

副題:大格差時代のインテリジェンス。この対談も三冊目だが、調子が出てきた、というか、大統領選に関しては池上も詳しく、内容がかみ合ってきた。たぶん、収録自体はトランプ勝利が確定する前だろうから、内容はかなり修正がかかっていると思う。


それでも、佐藤はトランプの勝利をかなりの確率で見込んでいたのではないか、と思わざるを得ない内容だ。佐藤の博覧強記には驚くしかないのだが、一方では相変わらず胡散臭さも抜けず、なんでこんなに自信を持って言い切れるんだろう、と鼻白んでしまうことも多かった。しかし、今回は脱帽である。

「トランプが大統領になった場合注目すべきなのは、新政権がどういう諮問会議を作るかです。大統領に直結して、議会での手続きが不要で、いわばまったく無責任な立場で参加できるのが諮問会議。この会議のメンバーに誰がなるか」

「少々乱暴に米国をWASPが支配する国と考えた場合、WASPが共和党に自分たちの利益を代表させようとしても、ラティーノや黒人の支持が得られないから、選挙では絶対に勝てない。かといって、民主党の政策も受け入れがたい。するとWASPにとって、誰が大統領になっても自分たちの利益を確保する方法、民主的な手続きを得ない迂回路をつくっておくことが重要になります」

「その意味で、トランプは非常に便利な存在です」こんな説得力のある陰謀論?を初めて読んだ。怖い。

 

●7589 エラリー・クイーン 推理の芸術 (評論) フランシス・M・ネヴィンズ (国書刊) ☆☆☆☆☆

 

エラリー・クイーン 推理の芸術

エラリー・クイーン 推理の芸術

 

 

かつて、本書の原型である「エラリー・クイーンの世界」を読んだ時は(当時はジュニアがついていた)今の米国にも、クイーン=本格パズラーの研究者がいるんだ、とうれしかったが、内容は驚くものではなかったのか、あまり覚えていない。(あのバールストン・ギャンビットも後で気づいた)まあ、当時の僕は、後期の作品の本質が理解できていなかったのが問題だったのだろうが。

そして、本書はその新訳かと思っていたのだが、良い意味で完膚なまでに裏切られた。クイーン信者にとっては、何と熱く、痛く、衝撃的な本だろうか。それは、「世界」ではまだ生存していたダネイに気を使ったのと、著者のつきあいの度合から、リーの記述が非常に少なかったのだが、前者はダネイもなくなり、後者はリーとバウチャーの大量の書簡がオープンになったことで、劇的に変わってしまった。

そして、クイーン信者にとっての最大の試練、汚点であった、代作問題=大量のペーパーバックオリジナルの真相が、ついに明かされたのである。それは、単純な金儲けではなく、その本質は痛切であった。基本的に後期において、リーとダネイのコンビは、実質的に既に解消されていたのだ。その文学観の違いにおいて。

繰り返される口論。争い。そして、各自(特にリー。ダネイにはEQMMがあった)が色んな試み=従来のエラリー・クイーン・コンビ以外の試みを、勝手に繰り返した。これが、代作問題の本質だったのだ。エラリー・クイーンは既に崩壊していた。信者にとってはつらいが、残念ながらそれが真実なのだ。

しかし、晩年「顔」「最後の女」「心地よく秘密めいた場所」において、コンビは復活した。のだがリーには、すでに時間は残されておらず、「間違いの悲劇」はダネイのシノプシスのまま残され、誰の代作の原案ともならなかった。(ということは、代作はスランプに落ち込んだリーが主導したのだ)ああ、何と真摯かつ痛切な福音書だろう。本書は。

 

●7590 花の下にて春死なむ (ミステリ) 北森 鴻 (講談文) ☆☆☆☆

 

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

 

 

年末、「突変」の続編や、宮部の短編集、大阪城を描いた歴史小説集、等々全部投げ出してしまい、結局北森の「香菜里屋」シリーズを読み始めた。かつて、書いたように僕は本書を米国行きの飛行機の中で読んで感心した。しかし、本屋で「香菜里屋を知っていますか」という短編集を見つけてしまい、本書とごっちゃになっていた。

それがきちんと調べれば、本書、「桜宵」「蛍坂」「香菜里屋」の四冊が、同じお店と
主人公=工藤のシリーズであることに気づき、さらに驚くべきことに、予約なしで四冊とも図書館で入手できたのだ。そして、著者の急逝によって、シリーズはこれ以上書かれることはない。

本書は上記のように「香菜里屋」を舞台に、マスターの工藤が常連客たちの不思議な物語を、安楽椅子探偵として解決する、という「黒後家蜘蛛の会」のパターンを踏襲しているのだが、お客が常に同じでも別でもなく、ゆるやかにつながっている点と、ストーリー展開がワンパターンを避けるようにかなり工夫されている点と、何より謎の複雑さ、解決のひねりが本家を凌駕している。

もうひとつの魅力である料理のレシピと描写に関しては、本家はどうだったのか、あんまり記憶がない。

で、第一作が表題作(協会賞受賞)であり、これが本書のラストの「魚の交わり」とリンクしてザ・ウォール的展開となるが、個人的には後者の方が、悲惨ではあるが気に入った。正史のある作品を彷彿させるラスト。ともに評価はAー。

次の「家族写真」は、題材はいいがちょっと論理の展開が弱いというか隙がある。基本このシリーズは駄作が少ないのだが、驚くべきトリックもなく、論理のアクロバットが勝負なのだが、結構そこに隙がある作品も多い。B+。

そして、本書の最高傑作「終の棲み家」。シンプルだからこそ、美しい。A。「殺人者の赤い手」は、子供の都市伝説を使っているが、少しひねりすぎ。ラスト、いまいちぴんとこない。B+。

「七皿は多すぎる」は、題名はケメルマンなので、西澤テイストの強いこのシリーズだから、頑張ってはいるんだけれど、ちょっと複雑すぎる、まさに西澤的作品。B+。

 

●7591 桜 宵 (ミステリ) 北森 鴻 (講談社) ☆☆☆★

 

桜宵 (講談社文庫)

桜宵 (講談社文庫)

 

 

冒頭の「十五周年」が、前作と同じく最終話の「約束」とつながる構成を今回もとっているのだが、それほど成功していない。前者は、面白いがちょっと無茶ぶりだし、後者は北森にしては、ダークすぎて好みではない。評価は両方B+。

次の表題作は、ある植物の特殊性に目をつけた刑事の妻の行動が恐ろしい、はずなのに、西澤と違って北森は暖かい物語にしてしまい、それがいいのか悪いのか微妙。途中、民俗学の先生とやらの話がでてくるのが、ご愛敬。B+。

「犬のお告げ」題名はチェスタトンだが、内容は何とリストラがらみで、これまたかなり無茶なストーリー。B+。「旅人の真実」これも必要以上にひねりすぎて、わかりにくくなっている。工藤の親友兼ライバルの香月登場。

というわけで、このシリーズ特徴である、適度に論理的で、キャラが立っていて、読ませるが、駄作もない代わりに、突出した傑作もない、という典型的な作品集。また、論理、キャラ、料理(酒)とくると、まさに西澤テーストなのだが、北森の場合、そこまでダークにはなれないのが、特徴を弱めているのかもしれないなあ。

 

 ●7592 蛍 坂 (ミステリ) 北森 鴻 (講談社) ☆☆☆★

 

螢坂 (講談社文庫)

螢坂 (講談社文庫)

 

 

シリーズものの宿命というか、やはり三冊目となると、ミステリとしては弱くなる。冒頭の表題作の仕掛けも、残念ながら陳腐としか言い様がない。B。「猫に恩返し」は、前半のネコの物語が面白いが、後半はちょっと無理筋。B+。「雪待ち人」は、珍しくダークだけれど、偶然すぎる。B。

「双貌」は、何と記述トリックを使っていて、きれいに決まったとは言いがたいが、ミステリ的には一番。Aー。「狐拳」は妙に複雑にねじれていて、好みではない。B。

ということで、一冊ごとにミステリとしての評価は下がるのだが、一方ではキャラになじみが出てきて、読むのに苦痛はないので、せっかくだから四作制覇しよう。評価はミステリとしては、ワンランク落ちることを容赦ください。

 

●7593 香奈里屋を知っていますか (ミステリ) 北森 鴻 (講談社)☆☆☆

 

香菜里屋を知っていますか (講談社文庫)
 

 

「ラストマティーニ」老バーテンダーの失敗の理由は、意外ではなく、可もなく不可もない出来。B。「プレジール」ミステリとしてはとりえはないが、ある主要キャラクタ
ー三人の結婚の話であって、読んでしまうしかない。B。

「背表紙の友」古本にまつわる犯罪?に関しては、まあ面白いが、その後の展開はちょっと偶然すぎる。B+。「終幕の風景」これはちょっと解決がないので評価できない。で、ラスト書き下ろしの表題作。

個人的には、必ず「メインディッシュ」のネコがでてくる(工藤はイヌといつも描写されるし)と思ったのだが、何と蓮丈那智と冬狐堂がでてくるとは驚きだが、それが全然落ちてないのには、逆にあきれて驚いてしまった。残念なラスト。

 

●7594 800年後に会いに行く (SF) 河合莞爾 (幻冬舎) ☆☆☆☆★

 

800年後に会いにいく

800年後に会いにいく

 

 

期待していた香菜里屋四部作が、残念ながら盛り下がってしまったのだが、16年の最後の最後に、期待以上の大傑作にあたり、少し幸せな気分。著者は横溝賞出身のミステリ作家だが、確か二冊くらい読んで、あまりのミステリ音痴に嫌気がさして、読まなったのだが、不思議と毎回印象的なシーンがあり、そうか本書のようにSF仕立てにすれば、著者の長所が生きるんだ、と納得した。

本書の魅力は3つある。ひとつはタイムトラベル(のように見せかけた?)800年未来のパンデミックで滅びかけている地球(のメイという少女)と主人公旅人との、地球を救うためのやりとり。(少しインチキ臭いが)

そして、次が科学的蘊蓄であって、進化論に関する色んな説や、自由意志=人間には意志や感情はなく、反応に脳=心が後付けで理由を与える、という有名なリベットの実験。さらには、それをAIの心の発生と結びつける豪腕。等々、僕好みの蘊蓄が相次ぐのだ。

そして、最後にあまりにも平凡かつ素直な主人公と天才ヒロイン=マリアのベタな恋愛小説。

読み終えて、満足のため息をついたのだが、ネット時代の悪いところで、本を読む前と後で、ついネットを確認して反省会を実施してしまう。そうすると、もちろん肯定的意見が多いのだが、なるほど、と思う欠点も多々見えてきて、最初は満点だったのだが、この評価となった。

まず、壮大なストーリーのわりには、やたら登場人物が少なく(セカイ系のバリエーション?)物語世界に緻密なリアリティーが感じられない。また、登場人物も旅人こそ意図的だが、その他の人物造形もラノベ的に底が浅い。

「セブン・トランペッツ」というテロにある人物がかかわるのも、説得力がない。最後に、これは長所かもしれないが、キーとなる伏線がわかりやすいのだ。マリアがあることを事前に知っていたり、PCの電源を抜くと、ウィンドウズがストップしたり。(するわけがない)

いや、それでも本書を読んでいる間、僕は幸せだった。ただ、冷静に考えると、本書を飛や上田の上位に置くことはありえない。またSF的な考証は、正直心許ない。ということで、ミステリ扱いし、「虹を待つ彼女」の上に置くと、とてもしっくりきた。

2016年は以上、226冊でした。