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2016年 6月に読んだ本

●7455 ママ、手紙を書く(ミステリ)ジェームズ・ヤッフェ(創元文)☆☆☆☆

 

ママ、手紙を書く (創元推理文庫)

ママ、手紙を書く (創元推理文庫)

 

 

日経新聞の日曜の有栖川有栖の、ミステリの登場人物に関するエッセイを愛読している。素人にもマニアにも受ける内容となっていて、うまいなあ、と毎回うなってしまう。

もちろん、ほとんどは読んでいるのだが、エッセイの影響で、ヤッフェのママシリーズの長編を読まなければ、と思っていたら、何と図書館で四冊全部をゲットしてしまい、早速読みだした。

もちろん、短篇集「ママは何でも知っている」は既読だが、ケメルマンの「九マイル」へのオマージュであり、都筑の「退職刑事」の原型である、という歴史的価値は認めても、実はミステリとしてはあまりいい印象が無かった。

ところが90年代後期、いきなり長編が四冊訳されて、その中の一冊(たぶん、眠りだと思う)を読み、ひさびさの正統派パズラーと感銘を受けたはずなのに、そのままで終わってしまった。たぶん、当時は地味に感じたのだろう。

で、本書だが、メサグランデという南部の田舎町とその大学教授たち、というスノッブな雰囲気がうまく描かれていて、スイスイ読んだ。そこに通奏低音として流れる差別の問題が、結末に絡むのもうまい。ただ、ミステリとして見た場合、おいおいこのトリックを今更使うかよ?という感じで、ちょっと物足りない。

ただし、その後ママが真犯人に仕掛ける罠が、結構きつくて恐ろしい。デイヴはまいってしまったろう。と思っていたら、最後に表題の手紙が更に炸裂。やっぱ、すごいや。で、たぶんその手紙は、配達されない、というわけで、リドルストーリーになっているのもうまい。これは残りの三冊も読みます。

 

 ●7456 その可能性はすでに考えた (ミステリ) 井上真偽(講談N)☆☆☆

 

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

 

去年、ゲテモノ系?で評価された「ミステリー・アリーナ」は、予想以上の論理の素晴らしさに、大絶賛したが、もう一方の雄?の本書は、ダメだった。最初から本書のテーマらしい、奇蹟の証明=謎が解けないことの証明、という論理が良く理解できず、そのラノベ的バカバカしいキャラクターの洪水と合わせて、読んでいて苦痛だった。

こういうミステリを読むと、何か無駄なことをしている、と感じてしまう。古典回帰の気分が強まるなア。

 

 ●7457 日本を揺るがせた怪物たち (NF) 田原総一郎 (角川書)☆☆☆★

 

日本を揺るがせた怪物たち

日本を揺るがせた怪物たち

 

 

政界の怪物:田中角栄中曽根康弘竹下登小泉純一郎岸信介、財界の怪物:松下幸之助本田宗一郎盛田昭夫稲盛和夫、文化人の怪物、大島渚野坂昭如石原慎太郎、これではあまりにも普通の選択で、ひまつぶしにはもってこいだけれど、新しい情報・驚きはほぼなかった。

岸も最近読んだところだし。敢えて言うと風見鶏に対する、中曽根の返答が、凄いというか、とぼけてると言うか。これに比べると、小泉は単純と言うか、若いというか・・・・

 

●7458 人間を磨く (ビジネス) 田坂広志 (光文新) ☆☆☆☆

 

人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」 (光文社新書)

人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」 (光文社新書)

 

 

副題:人間関係が好転する「こころの技法」。田坂さんの新刊です。あとがきによると「知性を磨く」「人は誰もが多重人格」と本書で、三部作完結?とのことです。

今回もまた「エゴを見つめる」話や「自信がないと謙虚になれない」等々、いつものフレーズが続くのですが、その解説がいつもより丁寧、かつ著者の若き頃の挿話がたくさん語られる(ほとんどは失敗話)のも、ファンには見逃せない。

ただ、その結果、いつものスマートかつ論理的で、自然に腹に落ちてくる文章ではなく、かなりゴツゴツした印象があるのですが、それもまた良しでしょうか。最後が、解釈の問題になるのも、ニーチェ主義者の僕としては納得です。

このあたりは、キャリアキャリアとうるさい、若手に読んでもらいたい。(しかし、発酵と腐敗の科学的な定義が、人間に役立つか役立たないか、だとは。そういえば宇宙論における人間原理は否定されたのだろうか?)

そして、いつものように田坂さんは、さらっと怖いことを書く。日常、何気なく使っている言葉は、深層意識に想念として浸透していく。「卒業しない試験」は追いかけてくる。いやあ、特に後者は実例が浮かんで、怖い怖い。

 

●7459 ママのクリスマス(ミステリ)ジェームズ・ヤッフェ(創元文)☆☆☆★

 

ママのクリスマス (創元推理文庫)

ママのクリスマス (創元推理文庫)

 

 

長編第二作。ここでは、ついにママがメサグランデに引越しし、早速いくつもの友達の輪を作っている。ただ、デイヴとは同居していないが。で、今回起こる事件は、ユダヤ人がクリスマスに、キリスト教の神父を殺害する、という宗教的な、すなわち南部では、センセーショナルな事件。

ただ、ミステリ的には今回もちょっと弱い。そして三回ひっくり返して、最後は神(どの神なのだろうか)への告白という形で、今回もママは本当の真相を、デイヴには伝えない。このあたりはうまいが、やっぱり今回はミステリとして地味。

まあ、いかにもクイーンの弟子と言う感じで、ダイイングメッセージを何回もひっくり返すのだが、個人的にはのれなかった。

また、キャラクターが立っているので、読み易いのだが(翻訳が素晴らしいと感じる)マープルを真似た、近所の人の例えは、やめてほしいなあ。これ、本当にいやだ。

 

 ●7460 俳優パズル(ミステリ)パトリック・クェンティン(創元文)☆☆☆☆★

 

俳優パズル (創元推理文庫)

俳優パズル (創元推理文庫)

 

 

いやあ、これは噂に違わぬ傑作。まだまだ読み残しがあると痛感。クェンティンも読み続けよう。本書は「迷走パズル」でアルコール中毒から立ち直った?ピーターが、本職の演劇プロデューサーとして「洪水」という新作を立ち上げようとする物語。

すなわち、女優デビューするアイリスとピーターの、再起と成長の物語であり、それだけでもキャラが立っていて、テンポが良く素晴らしく読ませる。しかし、本書はミステリとしても、あっと驚くサプライズを最後に用意してあり、これが演劇の内容や役者の過去と見事にリンクしていることに、脱帽である。

最後にある事件が起きて、「洪水」の主役が交代し、その代役が本職より素晴らしい演技をたった一週間の稽古で身に着け、見事に大成功、新しい天才現れる、とハッピーエンドに終わるのだが、最初は良かったなあ(それまで、ピーターは不幸の連続に襲わられていたため)と思うのだが、いやあ、やっぱりこれはないだろう、とも当然思った。

ところが、最終的に謎が解けると、何とこのシーンのネガとポジが入れ替わって、世界が変貌してしまう素晴らしさ。犯人と被害者の、過去の列車の中でのさりげない会話の行き違いが、見事な伏線になっている素晴らしさ。

冒頭のカーの出来そこないのような、オカルトストーリーを読んだときはどうなることか、と心配したのだが、それはすぐ解決してしまい、演劇が成功するまでの群像劇(恋愛物語)と、そこに発生する殺人、そしてある事件で主人公が倒れ、クライマックス=初日に突入、という素晴らしいプロット展開。

そして、最後に前作に続いて指摘しなければいけないのは、天才探偵兼影の主役であるレンツ博士の存在感と、世界一物わかりのいい警官、クラーク警視の存在。まあ、普通はありえないだろうが、二人がいなければ、この綱渡りの物語は、成立しない。

 

●7461 敗者列伝 (歴史) 伊東 潤 (実業日) ☆☆☆★
 
敗者烈伝

敗者烈伝

 

 

歴史上の二十五人の敗者を描いた、エッセイ?。正直言って、読み物としては十分楽しんだが、内容的にはあまり新しい視点はなかった。(桐野利秋の造型が面白かったくらい)

そうはいっても、ガチガチの歴史本ではないのだが、とりあげられた人物の多くを著者が小説として描いており、僕もその多くを既に読んでいるので、必然的に新しい視点は出てこないのだ。

ただ、後半を読む限り、著者は大久保を描くのではないか、という気がしてきた。西郷を描いた「武士の碑」は、成功したとは言い難い(というか、西郷を描き切った傑作を僕は知らない)ので、今度は期待したいと思う。

 

●7462 殊能将之 未発表短編集 (フィクション) (講談社) ☆☆☆★

 

殊能将之 未発表短篇集

殊能将之 未発表短篇集

 

 

13年に49歳の若さで亡くなった殊能将之。僕は大森絶賛の「黒い仏」は全く認めないが(さらに言えば、デビュー&出世作ハサミ男」もピンとこなかったのだが)横溝正史への新しいオマージュとも言うべき「美濃牛」は好きだった。

そしてなにより、殊能は超マニアのペンネームというイメージだった。何せ、アヴラハムデビットスンやジーン・ウルフ、さらにはポール・アルテまで(ということは仏語)原書で読破してウェブで書評を公開している、ということだったから。

で、本書と同時にそのブログをまとめた「殊能将之読書日記」も上梓されたのだが、予想通り歯が立たなかった。

で、本書なのだが、短編小説はボツ原稿ばかりなので、大森がどれだけ褒めようが、その程度のもの。ただ、最後に収められた「ハサミ男の秘密の日記」は、作家殊能将之ができるまで、という感じで、どこまで真実かは知らないが、興味深く、面白く読めた。

講談社の編集さん頑張ってるんだ。これじゃ、まるで「重版出来」。これと巻末の大森の超私的解説だけで、ファン=マニアは楽しめる。「ハサミ男」を読み直して、DVDを見てみようか。

で、結局彼がなぜ亡くなったかは、良く解らないのだが、兄の死の三日後に亡くなった、ということは自殺なのだろうか。うつ病だったのかしら・・・・

 

●7463 ゼロの激震 (SF) 安生 正 (宝島社) ☆☆☆★

 

ゼロの激震 (『このミス』大賞シリーズ)

ゼロの激震 (『このミス』大賞シリーズ)

 

 

動物パニック小説「生存者ゼロ」は粗削りだったが、パワーを感じた。次作「ゼロの迎撃」は、北朝鮮コマンドをリアルに描き、文章も格段の進歩を遂げた。そして、満を持したゼロシリーズ第三弾、だったはずなのに、どうも肩に力が入り過ぎたのか、物足りなかった。

青臭い人物造形と白々しい会話や、技術説明が過度に優先され、肝心のパニック描写が迫力を欠いているのだ。著者は実際の建築会社の技術師ということで、自分のフィールドにのめり込み、力を入れ過ぎてバランスが崩れてしまったのかもしれない。

東京大噴火から地球全体の危機。人類の傲慢さが、自然の怒りを呼ぶ。その壮大な構想は良かったのだが、今回はちょっと空回り。たぶん、次作が正念場となるのではないだろうか。(やはり「日本沈没」を読んでおかないと、こういう小説をきちんと評価できない気がしてきたなあ)

 

●7464 朝日のような夕日をつれて21世紀版(戯曲)鴻上尚史論創社)☆☆☆☆
 
朝日のような夕日をつれて 21世紀版

朝日のような夕日をつれて 21世紀版

 

 


 
内外の古典ミステリを上梓し続ける、論創社という会社がどんな会社なのか知りたくて、ネットサーフィンを続けていたら、何と鴻上の戯曲まで出していることに気づいた。(論創社弓立社と関係あるのかしら)

僕にとっての鴻上の戯曲(文章)の最高傑作は、初期の「ハッシャバイ」と「モダンホラー」であり、そのインパクトは強烈であった。ただ、その後はなぜか感銘を受けることは少なくなり、岸田賞をとった「スナフキンの手紙」あたりから、めったに読むこともなくなった。

そして、本書はたぶん世間では鴻上の最高傑作と言われている「朝日」の21世紀バー
ジョンだ。ただ、やはり今回も途中までは、イマイチのれなかった。

しかし、この戯曲の巧妙なところは、おもちゃ=ゲーム会社が舞台であり、僕が昔読んだバージョンでは、ルービックキューブがテーマであり、その確率が地球誕生の確立とリンクされていた。(ような気がする)

それが今回は、バーチャルリアリティー・ゲーム「ソウル・ライフ」となる。進化するゲームは、人類の進化と重ねられる。そして、後半の畳みかける展開は、眩暈を起こさせる。

そう、これは「ハッシャバイ」の所感に僕が書いた「明るいドグラマグラ」的な、眩暈である。さらに、ラストは小川勝巳的な、恐るべきオチが待ち構えている。ひさびさに、戯曲で興奮した。

 

 ●7465 逆説の世界史2 (歴史) 井沢元彦 (小学館) ☆☆☆☆

 

逆説の世界史 2 一神教のタブーと民族差別
 

 

副題:一神教のタブーと民族差別。世界史1は、正直対象が広すぎて、通時的なゆるさが、テーマの恣意性を感じさせて、あまりのれなかった。

しかし、今回は(たぶん意識的に方向転換して)今、世界史的に一番重要、いや喫近の課題であろう、ユダヤ・キリスト・イスラムの宗教、すなわち差別と闘いの歴史を描き、それが今も脈々と生きているどころか、ひょっとしたら臨界点を迎えそうなことを、リアルに感じさせる一冊となった。

とは言え、旧約・新約聖書コーランの世界の解説は正直読み物としてはつらい。子供の頃見させられた映画も、全然つまらなかったが、宗教的信念や背景がないと、読み続けることさえ苦痛だった。

ただ、その中でも漠然と感じていた、ユダヤ人差別の問題の本質と、シーア派スンニ派の違いがかなりクリアになったのは(特に後者)収穫と言える。

そして、物語は十字軍を描き、イスラム帝国オスマン帝国)の栄華と没落を描き、キリスト国(ピューリタン)による産業革命が描かれ、ここは当然マックスヴェーバーの出番となる。

というわけで十字軍に関しては、正直記述が全然足りないのだが、こちらは塩野の十字軍物語三部作を読んでいるので、復習として非常に解り易かった。

また、ヴェーバーにおいては、井沢もはっきり小室直樹を引用している。何と井沢=逆説シリーズに、僕の歴史・宗教の師匠であり、バックボーンである塩野と小室の二人が、登場してしまった。これは日本史では無理だっただろう。いやあ、やはりつながるのは、面白く楽しい。

 

●7466 カリスマ鈴木敏文、突然の落日(ビジネス)毎日新聞経済部(毎日新)

 

 

本来、本書をここにあげるべきではないのかもしれないが、今月最初は順調だったのだが、途中から実務がメチャメチャハードになり、全然本が読めなくなったのでつい冊数を稼いでしまった。

内容は「シャープ」と同じ、毎日新聞のネットチームが、ブログに加筆して書いたものだが、正直急いだせいだろうが、内容はほぼネットと同じで、新しい情報は全くない。復習には役に立つが、あまりにも内容が薄いので、評価は不能としておこう。

 

●7467 灯火が消える前に(ミステリ)エリザベス・フェラーズ(論創社)☆☆☆☆

 

灯火が消える前に (論創海外ミステリ)

灯火が消える前に (論創海外ミステリ)

 

 

「カクテルパーティー」に感心してしまったフェラーズだが、矢継ぎ早に論創社から、ノンシリーズが上梓された。素晴らしい。

本書は46年の作品で、題名からわかるように灯火管制がトリックに大きく絡むのだが、描かれるのは戦時中とは思えない、上流階級のスノッブなホームパーティーであり、まさにコージーミステリの元祖のような作品。

また、相変らず作品はコンパクト、さらに登場人物は少ないのに、その濃密な人物描写に圧倒された。

ミステリとしては、真犯人はそれほど意外ではなく、最後のトリックもやや小粒(ただ切れ味は良い)だが、何よりクリスティーやデヴァイン同様にラストたった半ページで謎解きが終わるのは、クイーン的パズラーに慣れた人間には、あまりにもあっけない。

パズラーと考えなければ、切れ味鋭いエンディング、とも言えるのだが。まあ、マープルやポアロがでてこないのは評価できる。ここに本当の探偵がでてきたら、浮きまくる。

実際、主人公アリスの夫が、ラストでいきなり名探偵となって謎を解いた(らしい?)のだが、結局は、真犯人の告白で終わる、という皮肉な展開は、フェラーズがかなりミステリの様式に意識的な作家だった、ということかもしれない。

71冊というクリスティーに匹敵する膨大な作品を残したフェラーズだが、この作風なら可能と感じる。ちょっと甘い採点かも知れないが、さらなる翻訳に期待したい。

 

 ●7468 ワタクシ、直木賞のオタクです。(エッセイ)川口則弘(バジリ)☆☆☆☆
 
ワタクシ、直木賞のオタクです。

ワタクシ、直木賞のオタクです。

 

 

ブログを長く愛読している著者の、五冊目のリアル本。まあ、さすがにネタ切れの感もあるが、僕も同好の士ではあるので、楽しく読めた。ただ、僕は学究的な薀蓄には興味がないので、古い話はちょっとつらい。

東野圭吾の「もうひとつの助走」の記憶がないので「毒笑小説」を読んでみようと思ったのと、ひさびさに、あの鮎川哲也の「死者を笞打て」に、懐かしさを感じたのと、服部まゆみの「この闇と光」を今度こそ読んでみようと思ったこと、くらいかな。

それより、このところ全くつまらなかった、直木賞候補が偶然発表になり、伊東潤荻原浩(共に五回目)原田マハ(3回目)湊かなえ米澤穂信(2回目)という、濃い候補が揃った。

伊東と原田にとってほしいが、相変らず直木賞はその作者のベストを見逃してしまう。伊東は「天地雷動」原田は「ジヴェルニーの食卓」で、とっくにとっていなければならないはず。ほんとは。

 
 ●7469 小説王 (フィクション) 早見和真 (小学館) ☆☆☆☆★

 

小説王

小説王

 

 

本の雑誌の新刊予定で本書を見つけたとき、すぐ思い起こしたのは、あの(暑苦しい?)マンガ「編集王」だったのだが、図書館で本書を受け取ると、まさに表紙は土田世紀の「編集王」であるだけでなく、本文に挿絵まであり、ああそうか本書は小学館ビッグコミックスピリッツのコラボなんだ、と納得した。

さて、早見であるが、推理作家協会賞をとった「イノセント・デイズ」は正直良く解らなかった。

小説としての力は認めるが、ミステリとしては破綻している、と感じた。で、僕にとっては関係ない作家となったのだが、このテーマで北上次郎大絶賛、ときたら(最近、北上とは合わないのだが)やはり手に取ってしまう。

で、やっぱり、熱い。暑苦しい。だのに一気読み。暑苦しいわりには、きちんと設計図、伏線が張られている。(まあ、そこが計算高く感じる人もいるだろうが。僕は俊太郎親子の関係にそれを少し感じた)

冒頭、何気なく描写される、出版社の入社面談(ホスト)と、ファミレスでのバイト(元カノ)の2つのシーンが、中盤の主人公の挫折を乗り越えていく、2つの大きなドライバーとなっている点に感心してしまった。

また、その挫折というのが、TVドラマ「重版出来」(視聴率悪かったみたいだが、個人的には今クールナンバーワン。満島=黒柳は別格)のあるエピソードと全く同じで、思わずKGが松重豊、俊太郎が安田顕に重なってしまった。

のだが、テレビとはその後の展開が真逆で、なかなかカタルシス満杯。特にホストと元カノが素晴らしい。最後の結婚式が、●●賞の「待ち会」を兼ねるなんて、やり過ぎな気もするが、まあここまできたら、過剰と暑苦しさで勝負するしかない。

色々突っ込みどころもないではないが、少なくとも僕は「火花」なんかより、本書を支持しよう。まあ、ラストのオチも、やりすぎだが。

 

●7470 聖女の遺骨求む (ミステリ) エリス・ピーターズ(光文文)☆☆☆★

 

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)

 

 


 
有栖川有栖の日経の連載は絶好調。「戻り川心中」の苑田岳葉に唸ったら、今度は「シンデレラの罠」のミときた。マニアックだけれど、たまらない。(確か連城はジャプリゾが好きだった気がする)

しかし、ここにきて未読の大物がでてきてしまった。(山田風太郎も未読だが、チョイスがマニアックすぎる。ここは「妖異金瓶梅」のあの人を選ぶべきでは)それが、本書から始まる、修道士カドフェル・シリーズで、あの現代教養社文庫で膨大なシリーズが訳されていたが、さすがに手が出なかった。

本書は光文社の復刻版。一読、まあ人気があるのも解る。読み易いし、カドフェルのキャラも立っている。(まわりの人物は、ちょっと類型的で物足りないが)しかし、申し訳ないが、ミステリとしては緩い。

まあ、これはもう歴史ミステリ、日本なら捕り物帳の宿命かもしれないが、近代警察=科学捜査が敵役に存在しないと、ミステリとしてはいかにも恣意的で緩くなる。まあ、あと少し付き合ってみようと思うが。

薔薇の名前」よりは、はるかに読み易いが、基本的に僕はキリスト教に興味がない、とつくづく感じた。ところで、有栖川の連載の最終回は、学生アリスと作家アリスの対談、なんてどうだろうか。

 

●7471 砂丘の蛙 (ミステリ) 柴田哲孝 (光文社) ☆☆☆

 

砂丘の蛙

砂丘の蛙

 

 

実力があるのに、なかなかブレイクしない柴田だが、最近はちょっと書き過ぎの感が強い。本書は「黄昏の光と影」に続く、ベテラン刑事片倉と相棒柳井のシリーズ第二作で、今回も9年前の事件の背景を暴く。

柴田の筆力で、地味だけれど不可思議な事件を解明しようとする、刑事たちの群像劇に引き込まれる。しかし、ミステリとしては、何のフックもなく、ただ聞き込み等々で、ずるずると謎が解けてしまうのは、やや物足りない。

そして、最後に明かされる真相は、残念ながら実際のある事件をモデルとした、派手だけれど、かなり安易なもの。これをやったら、何でも描けてしまう。

冒頭のバスで被害者とある少女が出あうシーンが、あとで伏線としてきいてきたり、おばあさんの勘違い?が、これまた伏線だったり、光るところもあるのだが、そもそも片倉が刺された理由等々、いいかげんな部分もまた多い。

ここは、作者の実力を惜しんで、厳しい採点としておく。ぜひ、「国境の雪」のような傑作を再び書いてほしい。

 

●7472 スキャナーに生きがいはない(SF)コードウェイナー・スミス(早川文)☆☆☆☆★

 

 

米国SF界に燦然と輝く二人のカルト作家、それがスミスとティプトリーである。(ラファティーも加えるべきかもしれないが、やはり二人の劇的な経歴をと比べると分が悪い)そのことが、如何にこのジャンルを、知的で豊饒なものとしたことか。

そのスミスの全短編を、三冊にまとめる企画の第一弾が本書だ。一応「鼠と竜」「ショイエル」の主要二短編集は既読だが、せっかくなので読んでみようと手に取り「マーク・エルフ」に痺れてしまった。

いやあ、これはエヴァンゲリオンだ。空から少女が降ってくる、というのはラノベSFの常套手段だし、少女に照れる殺人機械というのも笑ってしまうが、ヴォマクト一族の始祖フォムマハト三姉妹の長女、カーロッタは、僕の中で惣流・アスカ・ラングレー、戦い敗れていくアスカとシンクロしてしまった。

もちろん、人類補完機構なのだから、庵野は意識的なのかもしれないが。その他、表題作は相変らず、意味を超越して心揺さぶるし(改めて、スミスの説明しない、強い意志を作品集全体で感じた)

「人々が降った日」のシュールで衝撃的なイメージの奔流に圧倒され、「鼠と竜のゲーム」と「スズダル中佐の犯罪と栄光」は、猫にまいってしまった。特に後者の「猫の国」には・・・これはク・メルに再会するためにも、次巻「アルファ・ラルファ大通り」も読まなければ。

 

●7473 日本SF・幼年期の終り (企画) 早川書房編集部(早川書)☆☆☆☆

 

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

 

 

副題:「世界SF全集」月報より。スミスの訳者である、伊藤典夫浅倉久志の僕に与えた影響の大きさを確認しようと、図書館で訳書を検索していたら、こんなものが引っかかった。

1968年から71年まで四年かけて編纂された、世界SF全集の月報をまとめたもので、07年に上梓されている。(その経緯は、良く解らないが)内容的には、光瀬龍がいかにも「百億・千億」を上梓したところ、という感じで、輝いている。

福島正実の、スペオペへの屈折した視線も面白く、三輪秀彦のミステリ・SFと文学の関係の洞察力にも驚いた。(近い将来、SFはミステリと同様に、純文学作家の貧欲な好奇心の奴隷になることは、必然である)

しかし、全てに感じるのは、みんな若く熱いのに、殆どが既に亡くなっている、奇妙な時間感覚だ。それを狙ったわけではないだろうが、68年から07年、すなわち21世紀への時の流れが、本書には図らずも内包され、光瀬龍の星間文明史にも匹敵する、無慈悲な時の流れを感じさせるのだ。

そして、もうひとつ。こうやって、SF全集を刊行順に眺めてみると、如何に戦略的、かつ画期的な全集であったか、つくづく感じる。福島正実に関しては、同時代感覚がないし、誹謗中傷も良く聞くが、やはりこの全集は凄いと思う。

文学や東欧・ソ連への大胆な歩み寄り。一方では、意識的なスペースオペラの軽視。まず初回配本がハックスリイ「すばらしい新世界」とオーウェル「1984年」で、三万部売り切った、というのが凄すぎる。何という戦略眼だろう。

そして、次がレムの「ソラリス」と「砂漠の惑星」なのだ。嗚呼。そして、ヴォクト、ウィンダム、とまだ米国SFが出てこない。やっと第五回配本で米国作家登場なのだが、何とスタージョン「夢見る宝石」「雷鳴と薔薇」とブラウン「火星人ゴーホーム」「みみず天使」なのである。

何という過激な趣味の良さであろうか。で、次が再び英国に戻ってオールディスとバラードなのである。時代は、正にニューウェイブ真っ盛り。で、次も米国ではなく、日本のSF(短編)現代編となる。

このあとは、イマイチ戦略がぶれたり、ずれたりし始めるが、ここまでは完璧。素晴らしいと言うしかない。(あ、ヴォクトは一応米国作家だった。正確にはカナダ人だが。ただ、内容的には、スタージョンと同じく、英国的な屈折・暗黒面を強く感じるが。それが、ひっくり返って、明るくなってしまったのが、ブラウンか。違う気もするが)