2016年 4月に読んだ本


 ●7416 暗幕のゲルニカ (フィクション) 原田マハ (新潮社) ☆☆☆☆

 

暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ

 

 

原田マハは多作家で、正直当たり外れがあるのだが、今のところMOMAを中心とした絵画シリーズ「楽園のキャンパス」「ジヴェルニーの食卓」「モダン」そして本書は、内容や登場人物がゆるやかに重なりながら、ひとつの大きなアート世界を描いており、傑作揃いだ。

本書も前半は素晴らしい。「モダン」で描かれた、9・11のもう一つの物語は、現在のISを代表とするテロとの戦いとアートの力を、あのピカソゲルニカをして描こうとした力作だ。

ただ、僕はひとつの芸術作品として、ゲルニカを見るとき、あまりに政治性、メッセージがあからさまに強烈であり、これをアートと呼ぶべきかは、昔から戸惑っていた。

しかし、本書はその背景の物語、ピカソの肉声の物語を、ドラ・マール(ピカソの愛人にて「泣く女」等々のモデル)の視点から描くことで、芸術を越えた存在にまでゲルニカを昇華することに成功した。まさに原田マジックだ。

だたし、現在のパーツ(9・11以降)のNYでのゲルニカ展の物語の後半に、バスク解放戦線?のテロリストの誘拐事件を持ってきたのは、やりすぎというか、ミスマッチだったと思う。現実の闘いではなく、アートの戦いに徹すべきだったと思う。

というわけで、国連安全保障理事会の壁を飾るゲルニカのレプリカのことは初耳だったし、この結末も良く出来ていると思うのだが、残念ながらゲリラ事件によって、画竜点睛を欠いた気がする。

あと、米国大統領をジョン・テイラーイラク大統領をエブラヒーム・フスマンと表記するのもセンスがない。この内容ならば、ブッシュ、フセインと書くべきだろう。どうも原田には、名前に関するセンスがない。

しかし、毎回思うのだが、今回もドラ・マールの肖像だけでなく、写真家の彼女が記録したゲルニカの作成過程や、国連ゲルニカのレプリカ、等々が瞬時でネットで実物を見ることが出来た。これは、やはり素晴らしい時代というしかない。

 

 ●7417 倶楽部亀坪 (対談) 亀和田武坪内祐三 (扶桑社) ☆☆☆

 

倶楽部亀坪

倶楽部亀坪

 

 

この評価は僕の主観的なもので、作品の価値とは違うことをまず明記しなければ。予想はしていたのだが、この二人の対談は、僕の一番苦手な東京の過去の物語に向かってしまい、部分部分は面白くても、全然感情移入できなかった。

坪内は雑誌「東京」出身だし、亀和田は小林信彦フリークなのだから、こうなるのは解っていた。だからこそ、間に挟まった大阪と沖縄の話が、逆に面白かった。しかし、坪内より10歳年下の亀和田の方が、全然若く見える。

 

 ●7418 千日のマリア (フィクション) 小池真理子 (講談社) ☆☆☆☆

 

 

千日のマリア

千日のマリア

 

 

倶楽部亀坪

倶楽部亀坪

 

 

旦那の方は完全に見限って、探偵竹花の新刊すら無視しているのだが、嫁の方にはまだ少し未練があって、時々手を出してみる。

そして60歳を超えて小池が上梓した「モンローが死んだ日」は素晴らしい筆致で描かれた、老いと恋愛の物語だったが、正直長すぎた。この題材で長編はきつい。当然だが、そこには物語を駆動させる仕掛けも力もないのだから。

で、本書は「モンロー」の少し前に上梓された短編集で、54歳から9年かけて描いた八編、ということで、堪能した。それは老いと喪失の物語であり、生と死、愛と性の物語であり、短い作品の中に長い長い時間が閉じ込められている。

ネットでは「修羅のあとさき」が絶賛されているが、この痛い痛い物語を僕は簡単には読めなかった。幸せとは、結局主観の問題であり、読みながらイーガンの「しあわせの理由」を思い起こした。どんなに、悲惨であろうとも、客観的に醜くても、主観の問題なのだ。だからこそ、恐ろしくもおぞましい。そう、これは「ハーモニー」に続くテーマだ。

個人的には、全てが傑作だとは思わなかったが、「落花生を食べる女」が、老いというものの本質を描いてベスト。本当に身につまされる、というか心に沁みた。さらに、掉尾を飾る表題作と「凪の光」が良かった。

こうやって三作を眺めると、あかり、美千代、より子、という三人の女性の、造型が素晴らしいことに気づいた。

しかし、かつて「羊をめぐる冒険」で、20代に長いお別れをした喪失の経験から、ずいぶん遠いところに来てしまった、とつくづく思う。嗚呼。

 

●7419 小林カツ代栗原はるみ (NF) 阿古真理 (新潮新) ☆☆☆☆

 

小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代―(新潮新書)

小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代―(新潮新書)

 
小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)

小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)

 

 

副題に、料理研究家とその時代、とあるように、表題の二人だけでなく、その草分けともいうべき、江上トミ、飯田深雪、入江麻木(何とロシア貴族の妻にして、小澤征爾の義母)等々から、女性の社会的地位の変化にともなって、料理研究家がどのように変わってきたか、いや家事というものとその概念をどう変えてきたか、について語った好著。

料理人の本と言うと、「美味礼賛」がすぐ思い浮かぶが、辻や土井(本書でもなぜか土井親子だけ登場)とは違った、女性を中心とした料理研究家の歴史に僕は全く無知で、特に表題の二人の社会に与えたインパクトには、改めて驚いてしまった。

そして、彼女たちが開放し自由にしてきた、家事=料理の家事伝承が再び危機となってきていることも。

ただ、個人的にはこの共通点(簡易、合理的)と相違点(プロか主婦か)を併せ持つ、小林と栗原の存在を非常に大きく感じたこともあり、この二人に絞って、もっと人物を掘り下げてほしかった気もする。(小林が料理の鉄人陳健一に勝った時のビデオって手に入るのだろうか?ぜひ、見てみたい)

また、やはり料理の本に写真がないのは味気ない。ちょうど、大宮そごうの猫のトリマーの待ち時間に読んだので、そのまま三省堂の料理本コーナーに直行したら、二人の本は見つけられず、本書の最後に出てくる、高山なおみが一番目立っていた。

 

●7420 戦後70年七色の日本 (NF) 堺屋太一 (朝日出) ☆☆☆★

 

堺屋太一が見た 戦後七〇年 七色の日本

堺屋太一が見た 戦後七〇年 七色の日本

 

 

堺屋太一という名前は、僕の中で決してネガティブではないのだが、ずっと消化不良のままになっており、少しでも消化するために本書を手に取った。

とは言っても、上記の表題の前に小さく「堺屋太一が見た」とついている上に、著者名の前に「自伝」とあり、さらに七色というのは、冒頭の著者の七色の人生と掛けていて、良く考えるとかなり傲慢?な本である。

そして、それが著者の本質とは言わないが、一面であることも事実であろう。ようは、とんでもない自信家なのだ。(まあ、榊原英資と似たものを感じるが、こっちはやっぱり大阪でストレートだ)

で、七色とは最初の想像力豊かな少年と、次の建築家を夢見る学生というのは、インチキ臭いが、3=官僚、4=エコノミスト、5=作家、6=歴史家、7=政治家、である。一番の目玉のイベントプロデューサー(万博)が入っていないのが意外だが、これは全てにかかっているのかもしれない。

そして、僕が消化不良に陥るのは、著者は本当に凄いのだが、本人も書いているが、あまりにも色々やりすぎて、本質が見えにくくなっているのと、何かきちんとやり切れていないことが結構あったり、一方万博のようにバブリーなイメージも感じてしまうことにある。

まあ、よく言えばダヴィンチみたいな人(さすがに、劣化バージョンだろうが)なのである。例えば、「油断」や「豊臣秀長」のような小説も、その切り口・コンセプトは斬新だが、お世辞にも小説として優れているとは言い難い。「峠の群像」もドラマとしては、それほど面白くなかった。

「知価革命」も、僕には具体性が足りない。で、個人的に堺屋から一番影響を受けたのは、石田光成の新しい見方を含めた「日本を創った12人」=歴史家としての顔、だったと思うのだ。

政治家としては小渕の死によって、その実力は未知数だし、何より橋下応援団として、いい影響を与えられなかったのが痛い。まあ、これは榊原にも言えるのだが。

溢れる才能を、思う存分生かしたのが、本人だけが楽しんだだけなのか、本書を読んでも、やはり消化不良だ。まあ、女子プロレスが好きだったり、お茶目な一面に好感ももてるのだが。

 

 ●7421 学校では教えてくれない日本史の授業 謎の真相(歴史) 井沢元彦 (PH文) ☆☆☆★

 

 

戦国史の授業篇が、予想以上に面白かったので、文庫版を借りてきたが、こっちはうまくまとまっていない上に、前半があまりにも使い回されたネタが多くて、イマイチ楽しめなかった。(山本勘助ネタはもう封印すべき?だろうし、柿本人麻呂ネタは、やはり自分の処女作「猿丸幻視行」に触れないといけないでしょう)

面白かったのは二つ。大阪城を、予定通り信長が造っていたら、岐阜(岐山)、安土(平安楽土)に続いて、どんな名前を付けただろうか(凡庸な秀吉とは違って、大阪とは名づけなかっただろう)という問いかけ。答えは書いていないが、鄭和なんてどうだろうか。

もうひとつは、江戸城大阪城の比較。江戸城は幸せな城。なぜなら、北条も徳川も戦わずして、開城したというのはこじつけ臭いが、大阪城が不幸な城、というのは良く解る。

顕如、秀頼、慶喜、と落城=敗戦であり、顕如慶喜は逃げることによって、生きながらえたが、身代りに大阪城は炎上した。秀頼は言うまでもなく。というのは面白い視点に感じた。

 

 ●7422 愚者たちの棺 (ミステリ) コリン・ワトスン (創元文) ☆☆☆

 

愚者たちの棺 (創元推理文庫)

愚者たちの棺 (創元推理文庫)

 

 

北欧ミステリブームに続いて、英国ミステリの古典発掘が盛んだ。本書も本邦初紹介。コリン・ワトスンなんて、聞いたことがなかった。

その活躍時期から、デヴァインと比較されたり、解説でもユーモアミステリということで、クリスピンやウィングフィールドに例えられたりしているが、これはレオ・ブルースでしょう。それも、ビーフではなく、キャロラス・ディーンもの。

ただ、本書は処女作で仕方がないのかもしれないが、コンパクトなわりには整理されていなくて、読みにくい。最後に大技がないことはないが、謎の設定や動機が雑で、今のレベルではとても楽しめない。

 

●7423 男の貌 (フィクション) 夢枕 獏 (ゴマブ) ☆☆☆
 
男の貌 夢枕獏短編アンソロジー

男の貌 夢枕獏短編アンソロジー

 

 

何とゴマブックスの本。獏の初期の短編を集めた短編集で、テーマは題名そのもの。なんだけれど、これは戦略ミス。

「仕事師たちの哀歌」「鮎師」「風果つる街」からそれぞれ二編、「餓狼伝」から一編収められているが、それぞれ連作短編集(特に「鮎師」「風果つる街」は傑作)のせいか、一遍だけ抜き出しても、イマイチ盛り上がらず、えっここで終るの?という感じだった。

 

 ●7424 ハンニバル戦争 (歴史小説) 佐藤賢一 (中公社) ☆☆☆☆

 

ハンニバル戦争

ハンニバル戦争

 

 

もはや小説は見放した佐藤だったんだけれど、やっぱりハンニバルは特別で読みだしたが、そう言えば佐藤には「カエサルを撃て」という塩野の描くカエサルと全く逆の長編があって、全然楽しめなかったのを思い出した。

塩野が「ローマ人の物語」で2巻を費やして描いたのが、カエサルポエニ戦争だった。情けないハンニバルが出てきたらどうしよう、と怖れたが、それは杞憂。しかも、本書の視点はスキピオの方で(いきなりマンガチックなスキピオの登場には引いてしまったが、徐々に修正)前半がカンナエ(ローマの敗退)で、後半があのザマである。

これはちょっと端折りすぎと思ったが、やはりハンニバルの物語は面白く、一気に読んだ。ただし、たぶん意識的に歴史的な鳥瞰描写を避けているため、塩野や司馬の客観描写に慣れている僕には、歴史の流れや戦闘描写が解りにくい。(塩野のうまさを痛感)

そのおかげで、等身大のスキピオが素晴らしく描けている、とまでは言えないが、それでも最近の佐藤の作品の中では、珍しくキャラクターがたっている。

また、塩野が描かなかった(少なくとも僕には記憶がない)スキピオの経歴(肉親3人をハンニバルに殺される)をハンニバルと重ね、ハンニバルに徹底して学ぶ物語は、なかなか面白く、説得力があった。選挙集会でスキピオが立候補し、イベリアの指揮官に選ばれるシーンは、本書の白眉である。

最後に余談。僕はハンニバル=バルカ家が、いつもジオン公国と重なってしまうのだが、新カルタゴにバル・ハモン山という名の山が出てきたときには笑ってしまった。まさか?解る人だけ解ってください。

 

 ●7425 平成講釈 安倍清明伝 (フィクション) 夢枕 爆 (中公社)☆☆☆

 

平成講釈 安倍晴明伝

平成講釈 安倍晴明伝

 

 

著者の陰陽師シリーズは読まないことにしているのだが、本書はそのとは別の「仰天・生成元年の空手チョップ」と同じ、語り下ろし?作品とのことで、なかなか小説が今月も読めないので、冊数稼ぎ?に読みだした。

つもりだったのだが、これがなかなか苦戦。まさか獏の作品が、読みにくいと感じるときがくるとは、思いもしなかった。やはり、僕は陰陽師(ファンタジー?)が本当に苦手なのだ。

 

●7426 桜と富士と星の迷宮 (ミステリ) 倉阪鬼一郎 (講談N) ☆☆☆

 

桜と富士と星の迷宮 (講談社ノベルス)
 

 

黄金の羊毛亭の書評で、大きく評価されていたので、読んでみたが、僕には何が面白いのか良く解らなかった。こういう変なミステリに対する感覚が、羊毛亭とは違うことを痛感。

著者の作品の中では、仕掛け本とかバカミスとか言われるシリーズのようだけれど、結構真面目なバカミス、という感じで、僕にはかなり痛い。

著者の作品を初めて読んだのは、奇妙な自伝「活字狂想曲」が一部で評判になったときで、ミステリ?としては、これまた一部で評判になった「田舎の事件」を読み、興味がなくなっていた。

それが何と十五年ほどで100冊以上を上梓する、多作家になっていたとは。まあ、一番影響受けたのは「カリブ諸島の手がかり」の訳者としてかな。

 

●7427 本当は謎がない「古代史」 (歴史) 八幡和郎 (ソフ新) ☆☆☆★

 

本当は謎がない「古代史」 (SB新書)

本当は謎がない「古代史」 (SB新書)

 

 

著者の本は二冊目だが、前回と同じく、良く言えば超論理的、悪く言えば、それを言っ
ちゃあお終いよ(ちっとも面白くない)という本。基本的に正論なのだが、解らないこ
とは解らないで終っているので、色んなロマン?が否定されるだけで、正直歴史が味気
なくなってしまう。

(古代における日本は単一民族ではなく、驚くほど様々な雑多な民族という指摘は全く同感だが)

弥生と縄文の考え方や、日本縄文(三内丸山)の特殊性の否定、邪馬台国の否定、あたりは非常に論理的で賛同できたのだが、継体朝の否定、聖徳太子の実在、不比等の否定、大化の改新天智天皇)の肯定、等々、最近話題になった新説は、ことごとく否定されていて、本当につまらない。嗚呼。

 

●7428 ブロントメク! (SF) マイクル・コーニイ (河出文) ☆☆☆☆

 

ブロントメク! (河出文庫)

ブロントメク! (河出文庫)

 

 

何と「バラークシの記憶」に続いて、コニイの代表作(英国SF協会賞受賞作)まで新訳(山岸ではなく大森)で上梓された。こりゃ、全作あるのかな。

で、サンリオ版では解説に大森が書いているように、カバーは加藤直之の無骨なブロントメクだったのに、今回は「ハローサマー」と同じく、ヒロイン・スザンナがフューチャーされていて、全くイメージが違う。

正直言って、内容は良く憶えていないのだが、僕の中ではやはり「ハローサマー」の方が上だった。ただ、再読して、風変わりな異生物と自然環境、ヨット、ロマンス、と両者の基本コンセプトは同じながら、登場人物が本書は大人で、雰囲気はかなり違う。

巨大コングロマリット対村人(ゲリラ)たちの戦い、というのは如何にも70年代SFだが、アモーフという生物の特徴から、本書はアイデンティティーがテーマの思弁的SFとも言える。(もちろん、イーガンのレベルから見れば、それは稚拙なのだが、その分読みやすい)

しかし、その意外な結末は、残念ながら必然的であり、見破ってしまった。そして、本書はコニイ版のソラリスであったと気づいたのだ。(再読なのだから、当たり前だが、完全に忘れていたし、たぶん初読時も、オチをあてただろうと感じる)

また、前半は大森の訳が初めて素晴らしいと感じるほど、物語に感情移入したが、後半は少々だれてきた。しかし、それでも、僕にとってコーニイではなくコニイは、なぜか甘酸っぱい記憶であり、異世界なのに懐かしく、涙腺が緩くなる。「カリスマ」も読んでみたい。再読だけれど。

 

●7429 サブマリン (ミステリ) 伊坂幸太郎 (講談社) ☆☆☆

 

サブマリン

サブマリン

 

 

これまた、今は全く興味がない伊坂だが、唯一の個人的な大傑作「チルドレン」の続編、ときたら、やはり読まずにはいられない。

で、読了後大きく後悔。読まなければよかった。僕が変わったのか、伊坂が変わったのか。「チルドレン」ではあんなに素晴らしかった陣内さんのキャラクターが、ただのうざいおっさんに激変してしまった。

ネットでの絶賛の嵐の中、一人冷静なレビュアーが、このもやもや感は何だろう、と嘆いていたが、正に同感。正直、小手先で書いている気がする。二度と伊坂は読まないだろう。

 

 ●7430 世界史で読み解く現代ニュース(歴史)池上彰・増田マリア(ポプ新)☆☆☆

 

 

決して雑でひどい新書ではないのだが、14年9月の本だが、内容が他の池上の本とかぶりまくっていて、それほど楽しめなかった。田坂さんや、小室直樹の本は、かぶる=つながるで、さらに面白いのに、この違いは何だろう。やっぱり時事問題は腐るのが速いのか。

冒頭、中国の南進問題を、鄭和の大航海に重ねたり、中東やクリミアの問題(イスラム国がちょっと出てくる)をオスマン帝国=トルコと重ねるのは、佐藤優との対談で何度も読んだし、次のフランス革命に関しても、佐藤賢一との対談本と完全にかぶっている。で、最後が地球温暖化なんで、ちょっと嫌になってしまった。

面白かったのは、ルイジアナケイジャン=フランスというのは、フォレストガンプ等々で良く知っていたつもりだったが、ルイジアナ=ルイ(王)の土地、という意味だとは、全然知らなくて驚いてしまった。(あ、でもこれまた佐藤賢一との対談であったような気がしてきた・・)

 

 ●7431 新・地政学 (歴史社会) 山内昌之佐藤優 (中公新) ☆☆☆☆★

 

 

読む本がなくなり、たまたま出張時ホテルで観た、BSフジの二人の対談が、これはもうTVのレベルをはるかに超えて素晴らしく(やっとチェチェン問題とシリア問題の本質が分かった気がする)一時間半ほど釘付けになったことを思いだし、本書を自腹で購入。往復の新幹線で読み切った。素晴らしい。

たぶんTVと内容がかぶると思ったら、それは最小限で(活字媒体の凄さを痛感)さらに素晴らしい内容だった。山内は、昔帝国に関する本を読み、日本のハンチントンと感じていたが、本当に凄い学者だ。

しかも行動する。そして、佐藤。池上の解り易いが薄っぺらな新書に続いて読んだせいもあって、彼の対談者としての凄さを思い知った。手嶋や池上はもちろん、山内とも、加藤陽子とも福田和也との対等(以上)に語ってしまうその博覧強記にはあきれるだけ。

返す返すも田中真紀子を恨みたいが、その裏腹にそのままだと佐藤の本を読むことができなかったことも確かだ。今、はっきりしているのは、共産主義に続いて、民主主義の終末が近づいていることだ。それが、第二次とは全く形の違う第三次世界大戦に繋がらないことを、祈るのみ。

 

 ●7432 図書館の殺人 (ミステリ) 青崎有吾 (東京創) ☆☆☆☆

 

図書館の殺人

図書館の殺人

 

 

デビュー作「体育館の殺人」(鮎川哲也賞受賞)は、パズラーとしてはなかなか筋が良く楽しめたのだが、学園ミズテリという設定がいかにもラノベそのもので、次を読もうとは思わなかった。

必要以上に平成のクイーンと評されたのも、おいおいクイーンがラノベかよ、という感じで引いてしまった。ただ、第三作の本書の評判がいいので、つい手にとってみた。

相変らず、パズラーとしては筋が良く、細かいところに気が配られている。架空の小説、というネタも、マニア心をくすぐる。でもやっぱり、このラノベスタイル&キャラクターは、いかがなものか。

しかも、第一作の時はあまり感じなかった、というか覚えがないのだが、思いっきりギャグ満載なのだ。やっぱり、東川や米澤は良く出来ている、と思ってしまった。世代の違いかもしれないけど。

で、今回はやはりクイーンなのだが「フランス白粉」、すなわち消去法なのだ。しかも、意外な犯人。ということで、大丈夫かよ?と心配したのだが、やはり最後でこけた。この動機はないでしょう。無理。少なくとも、ラノベでは描けない。

というわけで、ラストの長い解答と解説への敬意と、米澤のように将来ラノベを卒業してくれることを期待して、甘目の採点。

 

 ●7433 つかこうへい正伝 (NF) 長谷川康夫 (新潮社) ☆☆☆☆☆

 

つかこうへい正伝 1968-1982

つかこうへい正伝 1968-1982

 

 

予想はしていたが、凄いものを読んでしまい、呆然としている。本書はつかの歴史=68年から82年までを、つかと一緒に活動した著者が、内側から描いた傑作。(ラストの蒲田行進曲のフィナーレの写真の中で、著者だけを僕は知らなかった)

そしてその82年に、就職し上京?した僕は、紀伊国屋ホールで、劇団最後の「熱海殺人事件」を階段席で縮こまりながら、一人で見ているのだ。いきなりスポットライトが僕のすぐ上の席にあたり、大山金太郎=加藤健一がマイウェイを歌いだし、驚愕そして陶然としてしまったことを思い出す。

その後僕はあっというまに北陸に異動となり演劇とは縁がなくなってしまったが、何のことはないこの年が終わりだったのだ。やはり、自分は予め失われた世代だったとつくづく思う。(いや、単に田舎者だっただけかもしれないが)

ここには、ひとつの時代が込められている。そして、つかという希代のトリックスターの矛盾に満ちた実像を、著者は見事に愛憎を込め、いや超越して、リアルに描いてくれた。

少なくとも、立川談志と談四楼とは、えらい違う。そしてまた、われらの世代の旗手、鴻上ともえらく違うのだ。その巨大な虚栄と才能の前に立ちすくむのみ。