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2015年 1月に読んだ本

●7149 最終陳述 (ミステリ) 法坂一広 (宝島社) ☆☆☆☆

 

最終陳述

最終陳述

 

 

あまり期待せず読み始めたのだが、さすが現役の弁護士ということで、法廷知識が半端
なく、裁判員制度の問題点を見事に描いており、一気に読まさせされた。物語は検事の
立場から描かれるが、検察庁という組織の内包する「悪」の描写が、リアルで怖い。

しかも、本書は検察告発の書ではなく、弁護士や判事(とその組織)の悪もきちんと描いており、バランスがいい。もちろん、裁判員自身の問題も。(しかし、90年代に司法試験合格者がみんな弁護士になってしまい、検事のなり手がいない、という司法の危機を描いた法廷ミステリを読んだが、現状は全く逆転しているようだ)

ミステリとしても後半のどんでん返しの連続は良く出来ているし、特に検事がさりげなく仕掛ける、犯人おびき出しの罠が巧妙で、驚いてしまった。

しかし、読了してストーリーには文句がないのだが、大傑作というには何か物足りない。そう、この事件や司法の内包する課題を描き切るには、まだ少し筆力が足りないのだ。重厚さが足りない。

そして、その最大の原因は、ヒロインであるはずの貴子を始め、主要登場人物の造型が足りない点にある。人物描写が軽いのだ。特に船戸と美也子は、もっとうまく描いてくれないと、せっかくのリアリティーが台無しになりかねない。

まあ、そうはいっても、第一作と二作で、そのキザなワイズクラックの連発を酷評された著者の作品とは思えない、真摯かつ面白いミステリではあった。次作に期待したい。

 

●7150 所轄魂 (ミステリ) 笹本稜平 (徳間書) ☆☆☆☆

 

所轄魂

所轄魂

 

 

正月早々読んだ二冊のミステリが、同じテーマを扱いながら、その処理が全く逆で、興味深かった。テーマはともに警察組織の内包する悪=冤罪の構造。(その他、色々相似点はあるのだが省略)そして「最終陳述」は、それを組織の問題とし、本書は個人の問題とする。

しかし、それ以上に前者は、法廷ミステリとしての論理に重点を置き、本書は人物描写や捜査のリアリティーに重点を置いているのが、小説としての肌触りを全く異にしている。そして、今現在の僕の気分としては、どちらも傑作ではあるが、本書に軍配を挙げたいのだ。

本書のテーマは、表面的には親子である。妻を亡くし、呆然自失のあまり捜査一課から、志願して所轄に下った父親と、その背中を見て育ったキャリアの息子が、ある連続殺人で同じ帳場で働く、というありえない?設定。

これではまるで立場は逆だが、「相棒」じゃないか、と思い、当然親子の確執が描かれると思ったのだがさにあらず。何と親子は仲睦まじく、リスペクトしあって捜査にあたるのだ。正直、この出来過ぎの息子の設定はリアリティーがなく、本書の最大の弱点かも知れない。

しかし、親父の方は正に所轄魂という刑事で、他の面々と共に良く描かれている。この人物描写の厚さが、本書と「最終陳述」の最大の違いであり、笹本の筆はエンタメとして過不足なく登場人物を見事に描き分けていく。

ただ、ミステリとして見た場合、あっと驚くトリックはないし、犯人は刑事の地道な捜査で追いつめられていき、そこにも驚きはない。

そして、最後の最後に意外性を持ってくるのだが、これはかなり無茶だし、犯人の動機に説得力が足りない。しかし、読んでいる間はそんなことは、全く気にならず物語に没頭できる、まさにエンタメの王道なのだ。何か、良く出来た時代劇を観た気分だ。(父子鷹、というのがあったな)

笹本は「越境捜査」だけを読んできたが、このシリーズも追いかけてみようと思う。少なくとも「隠蔽捜査」とタメは張れるし、それ以外は(僕が読んだ限りでは)最近スカスカの今野敏よりは、数段上かも知れない。山岳小説も読んでみようか。

 

●7151 工作舎物語 (NF) 臼田捷治 (左右社) ☆☆☆★

 

工作舎物語 眠りたくなかった時代

工作舎物語 眠りたくなかった時代

 

 

副題:眠りたくなかった時代。あの松岡正剛率いる工作舎初期のノンフィクション。80年代工作舎のニューサイエンス本に、大きな(本当に大きな)影響を受けた僕としては、待ってました!という本だったのだが、何と本書はデザインの本なのである。正確に言えば、松岡(と杉浦康平)の周りに集まった、若き才能たちが日本のエディトリアル・デザインというジャンルを作り上げていく物語。

まさにそれは梁山泊の物語なのだが、残念ながらたぶんその道では超有名な人々が、祖父江慎くらいしか僕には解らないのである。しかも、松岡自身は82年に工作舎を去っており、僕が影響を受けた80年代後半は、あの「遊」ですら松岡編集ではなかったんだ。

そうか工作舎が世の中に与えた影響は、思想哲学よりもデザインの分野だったんだ。後半当然の如く言及される、香山リカの存在がちょっと気持ち悪い。(ごめん)

 

●7152 フィルムノワール/黒色影片 (ミステリ) 矢作俊彦 (新潮社)☆☆☆★

 

フィルムノワール/黒色影片

フィルムノワール/黒色影片

 

 

何と前作「The Wrong Goodby」から10年たったとは。というわけで、二村シリーズの新刊の舞台は香港だった。(かなり無茶な展開だけど)テーマは題名からわかるように映画。

で、いきなり冒頭から本物?の宍戸錠が登場。これはもうチャンドラーではなく、「気分はもう戦争」の気分。無茶で当たり前。というわけで、ワイズクラックに広東語と、マニアックな映画トリビアが飛び交う本書を、とても落ち着いて楽しむことが出来なかった。(まあ、このテーマは苦手であるし)

「引擎/ENGINE」も「傷だらけの天使」も合わなかった。もはや矢作をミステリ作家と考えては、だめなのだろうか。

江口寿史が素晴らしい?表紙を描いているのだが、印刷二週間前でまだできていない。このときの矢作とのやりとりが、ネットにアップされていて、大爆笑) 

 

●7153 素行調査官 (ミステリ) 笹本稜平 (光文文) ☆☆☆
 
素行調査官 (光文社文庫)

素行調査官 (光文社文庫)

 

 

このところ、これだけの多作を続けながら、(とりあえず僕が読んだ本の)レベルが高い著者に感心してしまい、新しいシリーズを手に取ったのだが、やっぱり著者も神様ではなかった。

本書は駄作とは言わないが、やはり失敗の部類だろう。笹本のミステリ=警察小説の場合、その設定と人物描写、そしてリアルな捜査が三本柱だと思う。今回も監察官が主役なのは、横山以降別に珍しくはない。

しかし、著者はここにエリートキャリアと、彼が雇う元探偵(高校の同級生)を絡ませるのだが、これでは、さすがに嘘くさくなってしまう。(特にキャリアの描き方が所轄魂の息子みたいに、薄っぺらい正義漢なのが辛い)

ただ、それでも人物や捜査の描写は、さすがに厚く読ませるのだが、今回は肝心のミステリとしての謎がおそまつ。たぶん、設定ばかり優先して、謎の設計図が後回しになったのだろうが、これではいきあたりばったり、としか言いようがない。ストーリーに切れが無く、とにかく読み終えるのに時間がかかってしまった。

 

●7154 ハイパフォーマー 彼らの法則 (ビジネス) 相原孝夫(日経P)☆☆☆

 

ハイパフォーマー 彼らの法則 (日経プレミアシリーズ)
 

 

「ハイポ」(ハイパフォーマー)という言葉を学んだのも、一條先生からだった。というわけで、いつも選抜教育に関しては興味が合ったので、本書を手に取った。

冒頭、ハイパフォーマーの特長として「できる人は暇といい、普通の人は忙しい、という」と描かれていて、このあたりにはかなり共感できた。「ポジティブ病の国、アメリカ」という視点も面白い。

そして、著者はハイポのポイントは「好循環の起点」にあるとする。これまた、複雑系理論(正のフィードバック)から納得できる。だが、本書はここからぐだぐだになる。

仕事をゲームとして楽しむ、だとか失敗訓練だとか、確かに間違ってはいないが、別に新しくも何ともないことが、脈絡もなく延々と羅列されるのだ。一体この人の頭の中の論理構造はどうなってうんだろうか?とあきれてしまう。

ま、それは193ページで描かれる弊社の姿を読めば、想像がつくだろう。別に間違ってはいないが、いまさらSo-What?と言うしかない。

 

●7155 当たり前の経営 (ビジネス) 野田 稔 (ダイヤ) ☆☆☆★

 

 

帯が、「働き方改革」でワークライフバランスを正したら、生産性が上がり、増収増益
になった!有給休暇取得率95%、残業1日1時間、とあり、今のトリンプの状況が頭
をよぎり、鼻白んでしまったが、内容はかなり違った。

本書のポイントは、住商情報システム(SCS)とあのCSKという、全く風土が違う会社の合併の物語なのだ。(合併して、SCSKが生まれた)そして、ピンチをチャンスにとばかり、同社の代表取締役会長兼CEOである中井戸信英氏は、この合併を機に、経営改革を大胆に推し進めた。

その中身は、業績をよくすることを一義としたものではなく、ITベンダーが、今に言うホワイト企業になるための改革だった!ということだが、個人的には合併の物語が非常に面白く、また勉強になった。

ただし、著者自身がその当事者(コンサル)なので、ちょっとうまく行きすぎ、美しすぎる部分も多いのだが。ところどころはさまる、著者の師匠である新将命の第三者的なクールなコメントが、全体を引き締めているが。また、最後に女性の活用がでてくるが、厳しさの導入(修羅場が人を育てる)とクリティカルマスを創る、という発想には共鳴した。

 

 ●7156 筒井康隆コレクションⅠ48億の妄想(SF)日下三蔵編(出版芸)☆☆☆☆
 

 

全集にしては変わったチョイスだな、と思ったのだが、文庫で絶版になっている作品を中心に選んだとのことらしい。

僕らの世代にとって、筒井、星、小松の文庫本が絶版になるなど想像できなかったのだが、90年代の消費税導入のインパクトはそこまで大きかった、ということらしい。

(ようは値段を変えるためにカバーをかけ替えたり、シールを貼ったりする価値がないとみなされた作品は全て絶版となった。だから、その愚を避けるため、面倒だけれど書籍は外税表示なのだ。我慢せねば)

本書は「48億の妄想」「幻想の未来」「SF教室」(これは未読)に、初期のNULLの作品が収録されている。「48億の妄想」は、とてもこれが半世紀前の作品とは思えない。(何せ、竹島をめぐって日韓戦争が勃発してしまうのだから)

作家の想像力の凄さに驚愕するしかない。(個人的には、内容が「俺に関する噂」とちょっとゴッチャになっていた)

「幻想の未来」は、非常に好きな作品だったと記憶しているのだが、どうやら最終章のインパクトが強かったようで、前半がこんなグロテスクな話だとは、忘れていたので、驚いてしまった。文体はちょっと硬いが、これまた古さを全く感じさせないのは、凄いとしかいいようがない。

そして「SF教室」。これは、僕が買った80年代の全集にも収録されていず、初読なのだが、いったい誰が顧客なのか戸惑ってしまう。子供向けのようだが、内容は高校・大学生向けといっていいほどレベルが高い。

この時代に既にニューウェーブとして、バラードやオールディスが紹介されているのだ。というわけで、筒井はデビュー当時から、凄まじかったということを再確認できる、贅沢な一冊。 

 

 ●7157 失踪都市 所轄魂 (ミステリ) 笹本稜平 (徳間書) ☆☆☆
 
失踪都市: 所轄魂 (文芸書)

失踪都市: 所轄魂 (文芸書)

 

 

というわけで?シリーズ第二弾は、新刊本である。冒頭の死体の発見シーンや、同じような事件が連続して起きていることが明らかになるあたりは、一気に引き込まれた。が途中から急速にトーンダウン。何となく陰謀の黒幕が見えてくるのだが、これはいけない。これを使ったら、何でもアリ。夢オチ、地震オチ、に近い。

やはり、笹本も人の子で、これだけの量産を支えるためには何でもアリ、ということか。まあ、笹本の場合それでも人物描写は丁寧なので、ラストの真犯人とのやりとりなど、それなりに読ますのだが、やっぱりこれはだめ。禁じ手。当分、越境調査シリーズだけにしよう。

 

 ●7158 機龍警察 火宅 (ミステリ) 月村了衛 (早川書) ☆☆☆
 

 

今や絶好調の機龍シリーズ初の短編集だが、今回はちょっと躊躇。というのも、圧倒的に分量が足りないのだ。245ページで8編だと、平均30ページ。このシリーズは書き込みが命なので、どうにも不安だったのだが、残念ながら的中。この分量では、シリーズの複雑な世界観を描けるわけがない。

まあ、「火宅」「勤行」といったところが、読みやすく、面白かったが、この両作は正直言って、機龍は登場しないし、またその必要もない普通の警察ミステリだ。

 

●7159 TATSUMAKI特命捜査対策室7係(ミステリ)曽根圭介講談社)☆☆☆

 

TATSUMAKI 特命捜査対策室7係

TATSUMAKI 特命捜査対策室7係

 

 

「藁にもすがる獣たち」「殺人.COM」と連続して、渋いヒットを重ねた著者。しかし、残念ながらB級テーストが強すぎて、なかなかブレークスルーとは言い難い。

本書も、おまえもか!的な題名、設定の上、表紙も何か戸梶を思わせるまさにB級テーストど真ん中で、嫌な予感がしつつも、何とか手に取った。で、やっぱり内容は既視感ありまくり。(途中で新○○○がでてきたときは、さすがに嫌になった)

もちろん、B級ミステリとしては読ませるのだが、げっぷが出てしまい、一気には読めずにぐだぐたした上、都合で数日所感を書けずにいたら、見事に細部を忘れてしまった。当分、警察小説は自粛することにする。

 

●7160 ファースト・ペンギン (ビジネス) 大西康之 (日経新) ☆☆☆

 

ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦

ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦

 

 

昨年は、スポーツにおける柳澤健とビジネスにおける大西康之という、同世代の信頼できるライターと出会えたのが大きな収穫だった。二人とも行き届いた厚い取材を、見事な文体と対象との絶妙の距離感で、素晴らしい作品に仕上げるところが共通していた。

しかし、残念ながら本書は物足りない。何が物足りないのか、良く考えたのだが、まずはその前に週刊ダイヤモンド孫正義特集を読んでいたので、単純にスケールが小さく感じた。(まあ、アリババの上場益10兆円と比べれば、何でも霞んでしまうのだが)しかし、たぶん問題の本質はそこにはない。

一番の問題は、主人公たる三木谷の像を、著者がきちんとつかめていないことだと思う。冒頭では、外見とは別に孫が礼儀正しく三木谷が傲慢に描かれるのだが、途中の楽天イーグルス買収のあたりでは、ホリエモンに対して、当時マスコミで喧伝された通り、三木谷は優等生として描かれる。この矛盾は最後まで解決されず、三木谷の本質がぶれまくるのだ。

そして、もうひとつ、これは「不格好経営」と同じなのだが、楽天もまた梁山泊の如く、若くて優秀で凄い奴らが大勢集まり、本書でも次々描かれるのだが、結局それは記号にすぎず、彼らもまた人間としての像をきちんと結ぶまもなく、退場してしまうのだ。

本田宗一郎と藤沢武雄、井深大盛田昭夫、本書でも三木谷の弱点として、相棒が存在しないことが挙げられているが、これはひとつの物語としてみたときも、同じく弱点なのだ。

もし、群像劇を描くならこの数倍の分量がいるだろう。しかし、たぶん著者自身が京セラやシャープと違って楽天のビジネスの本当の凄味、面白さを理解できていないために、結局記号としての人物の羅列に堕してしまったのではないだろうか。描くべき物語がはっきりしてなくて、プロットがきちんと計算されていないのだ。特にラストがイマイチ。

 

●7161 ミンコット荘に死す (ミステリ) レオ・ブルース (扶桑文) ☆☆☆☆

 

ミンコット荘に死す (扶桑社ミステリー)

ミンコット荘に死す (扶桑社ミステリー)

 

 

キャロラス・ディーン第三作。ミステリとしての謎は「死の扉」以上に良く出来ている。個人的には「アクロイド」と「乱れからくり」を想起した。やはり、著者はミステリのことが良く解っていて、ディヴァインなんかよりよほどセンスがある。

問題は、このシリーズの本質である、英国流ユーモア・ドタバタ・カントリーミステリのゆっくりとしたテンポが僕に合わないこと。ここはやはり初期の、ビーフ部長刑事シリーズの作品にターゲットを変えることにしよう。

 

 ●7162 黒龍荘の惨劇 (ミステリ) 岡田秀文 (光文社) ☆☆☆★
 
黒龍荘の惨劇

黒龍荘の惨劇

 

 

著者は僕の中では、時代小説作家だったのだが、その略歴を良く読めば、ミステリ作家であった。本書は「伊藤博文邸の怪事件」に続く、明治を舞台とした時代ミステリ。今回も冒頭の手記発見のシーンや、伊藤博文山県有朋が登場したり、凝ったつくり。だのに、肝心のミステリとしての謎が、あまりにも荒っぽいんだよね。

まあ、京極でも使いそうなトリックなんだけれど、京極ならこの数倍かけて、じっくり書き込むだろう。しかし、いくら明治初期でも、このトリック通用するだろうか?ブラウン神父の名作を、無茶苦茶大がかりにアレンジしたものなんだけれど。

 

 ●7163 怪しい店 (ミステリ) 有栖川有栖 (角川書) ☆☆☆★

 

怪しい店

怪しい店

 

 

冒頭の「古物の魔」が非常に惜しい作品。この犯人の意外な動機は抜群だと思う。ただ全体に長すぎるのと、火村&有栖の作品にしてしまったせいか、その奇妙な味を生かし切れなかった気がする。

うまくやれば、シーラッハの「犯罪」のような味が出せたのではないだろうか。(「遠海事件」のテーストもある?)続く「燈火堂の奇禍」と「潮騒理髪店」は、「九マイル」系のミステリで、著者はやっぱりこういうのが得意なんだ、と改めて感じた。

出来は中クラスだけれど。倒叙ミステリの「ショーウィンドウを砕く」と表題作「怪しい店」も手堅いが、ちょっと物足りない。

 

 ●7164 賢者の戦略 (政治外交) 手嶋龍一・佐藤優 (新潮新) ☆☆☆☆

 

賢者の戦略 (新潮新書)

賢者の戦略 (新潮新書)

 

 

この対談も三冊目だが、(誰かがアドバイスしたのだろうが)手嶋のラスプーチン発言が激減していて、非常に読みやすくなった。

ただ、内容は何と言うか現実の動き、変化が激しすぎて、ちょっと読んでいて疲れてしまった。難しい時代になったもんだ。(本当にF・フクヤマに馬鹿野郎!と言いたい)

冒頭はウクライナ問題であり、ここは正に佐藤のホームゲーム、独壇場であり、そのウクライナ善、ロシア悪、と単純に割り切ることなどとてもできない歴史の闇と、これまた善悪を超越したプーチンの凄味に疲れてしまった。

そして、次はやはりイスラム国。神聖ローマ帝国が、神聖でもローマでも帝国でもなかったように、イスラム国もまた、イスラムでも国でもない。

しかし、それ以上に中東を舞台とした、ロシア、中国、イラン、サウジ、そして今注目のヨルダンらの複雑怪奇なパワーゲームと、アメリカのシリアにおける大失敗を理解してしまい、疲れてしまった。

そして、北朝鮮を中心とした東アジアの危険なパワーゲーム、さらには、集団的自衛権を巡るジレンマを理解してしまい疲れてしまった。

そして、そして、最後に語られる「反知性主義へのレジスタンス」において、何とか空元気を出してみることにした。知性が善とは限らないが、反知性は悪だ、と言い切ってしまおう。

 

●7165 人喰い (ミステリ) 笹沢左保 (双葉文) ☆☆☆☆

 

人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)

人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)

 

 

90年代、双葉文庫から出ていた日本推理作家協会賞受賞作全集14。正直、何で突然こんな本(既読)を図書館から借りてきたのか解らないのだが(痴呆?)たぶん、笹沢の傑作として、僕はいつも「招かれざる客」「霧に溶ける」「人喰い」「真夜中の詩人」の四作を挙げるのだが、実は本書だけその内容、トリックを全く思いだせないのだ。

(しかし、今回解説でその四作のうち、「真夜中」を除く三作が笹沢がデビューした60年に上梓されたことに気づいた。もう一作は未読の「結婚て何さ」なので、読んでみようか?)

冒頭から、第一第二組合の労働争議が舞台となり、時代を感じさせるのだが、笹沢はそこに哀愁漂う恋愛要素をかなり入れ込み、何とか前半は読ませる。しかし、後半は、派手なトリック満載で、リアリティーはどっかにいってしまうのだが、「霧に溶ける」も正にそんな話で、これはこれで若かった僕には魅力的だったんだろうと思う。

(そういう意味では、トリックは一発勝負だが、小説として読ませる「真夜中の詩人」
 が今のベストかもしれない)

正直トリックは、意外な犯人も密室トリックも前例があるのだが、まあここまでやってくれるとうれしくなってしまうのも確か。(クリスティーやクイーン、某文芸作家の有名作品に前例があるのは、解説に書いている通り)というわけで、評価はあくまで当時におけるもの(歴史的価値を込み)であって、今共時的に評価すると、ちょっとつらい作品ではある。

 

●7166 松谷警部と三鷹の石 (ミステリ) 平石貴樹 (創元文) ☆☆☆☆

 

松谷警部と三鷹の石 (創元推理文庫)
 

 

平石貴樹と言えば「だれもがポーを愛していた」である。たぶん有栖川有栖の作品と並んで平石の作品は、和製クイーン流本格パズラーだと思う。その最高傑作が「ポー」である。(探偵役の更科ニッキは。たぶんニッキー・ポーターだし、スポーツが題材になるのはポーラ・パリス、なんて言ってもマニア以外には解らない)

ただ、こういう作風は量産がきかない上、平石は現役文学教授のため、その作品は少なかった。ところが、最近こっそり?創元文庫書下ろしで松谷警部(というか白石巡査)シリーズが上梓されはじめたのだが、解説によるとどうやら平石が定年退職(教授に定年あったっけ?)した、ということらしい。

というわけで、本書もぎっちり中身が詰まったロジカル・パズラーなのだが、トリックがクイーンというより鮎川哲也を思わせる出来。まあ、正直言って地味な展開ではあるのだが、こういうパズラーをゆったり読むのも、たまにはいい。

ただ惜しむらくは、全体に人物描写が淡泊な中に、何人か濃すぎる人がいるので、犯人がわかってしまったんだよね。第一の殺人シーンの怖さは特筆ものだが。それに被害者の堀越の性格がどうにも納得できないなあ。