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2014年 6月に読んだ本


 ●7001 天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ(SF)小川一水(早川文)☆☆☆☆☆

 

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

 

 


 ●7002 天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク1(SF)小川一水(早川文)☆☆☆☆☆

 

天冥の標8 ジャイアント・アークPART1
 

 

実は7000は、間違いなく日本SFの金字塔(たぶん個人的にはオールタイムベスト)になるであろう、このシリーズの新刊を第一巻と同時に読もうと思っていた。

「エンダーズ・シャドー」や「ゾーイの物語」のように、名作SFをサブのキャラクターの視点で語り直す、というのは米国SFではひとつのパターンとなってきたが、本書はさらにすごい。第一巻から800年の時を行きつ戻りつして、ついに第八巻は、第一巻の物語を、怪物として描かれたイサリ(矢広勇理!)の視点から語り直し、ここからは新しい物語となる。

しかし、作者はこのシリーズが始まった5年前から、ここまで考えていたんだ。こうやって続けて読むと、同じセリフが何度も現れて、その緻密な構築美には感嘆するしかない。そして作者の張り巡らした大胆な伏線の妙に、驚嘆するしかない。素晴らしい。

しかも、Ⅰのラストは読み返しても、あまりにも救いがなかったのだが、Ⅷでは(ちょっと甘い気もするが)希望が少し復活している。しかし、地球人の二名やラストのカヨの正体、更には意味不明のプロローグ等々、未解決な謎や新しい謎もてんこもり。ああ、やっぱり本当は完結してから、読むべきなのだろうか。

そして、このシリーズの本質が、檜沢千茅(の子孫のイサリ)と、児玉圭吾(の子孫のカドム)の800年の時を超えた愛の物語であったことに気づくとき、目頭が熱くなる。これこそ21世紀の新しい「火の鳥」の誕生だ。

 

 ●7003 パインズ -美しい地獄-(SF)ブレイク・クラウチ(早川文)☆☆☆★

 

パインズ -美しい地獄- (ハヤカワ文庫NV)

パインズ -美しい地獄- (ハヤカワ文庫NV)

 

 

一応SFとしたが、本書のジャンルが何になるのか良くわからない。著者は「ツイン・
ピークス」をイメージして書いたとのことだが、雰囲気は似ていても、物語の内容は全
く違う。

パインズという田舎町で目覚めた主人公は、事故で記憶喪失に陥ったことに気づくが、町全体がどこか狂っていて、彼が何とか外部と連絡をとろうとしても、必ず邪魔が入ってしまう。

古典ミステリ、アイリッシュの「消えた花嫁」+「プリズナーNo6」という感じなのだが、そのニューロティックなスタイル、信用できない語り手は「シャッターアイランド」をも彷彿させる。

しかし、その真相が明らかになったとき、残念ながら、驚きより、おいおい、それはないだろう、の気持ちが強かった。真相をズバリ見抜いた訳ではないのだが、騙される快感とは程遠い感じ。超有名なSF映画と似たテーストなんだけど、やっぱこれは乱暴でしょう。

 

●7004 ジェフ・イメルト GEの変わりつづける経営 (ビジネス) デビッド・マギー (英治出) ☆☆☆☆

 

ジェフ・イメルト GEの変わりつづける経営

ジェフ・イメルト GEの変わりつづける経営

 

 

「GE 世界基準の仕事術」に触発されて、本書(09年)を見逃していたことに気付いて、早速読んでみた。そうか、イメルトがウェルチの後継となった四日後に9、11が起きたんだった。

そして、エンロンサブプライム、と貧乏くじを引き続けたように見えた彼が、ウェルチ時代より売上を60%伸ばし、利益を倍増させていたとは。(その割に株価は低迷したようだが)

本書は正に、ウェルチとイメルトという双生児のようで、全く対照的な二人のリーダーを描くことで、GEという巨大企業の不易流行をも描き出すことに成功している。

詳細は省くが、イメルトはウェルチより、長期的でイノベーションを重視する。(ウェルチがリーダーシップセンターならイメルトはグローバルリサーチセンター)しかし、両者とも教育に10億ドルを投じることに変わりはない。

しかし、イメルトは成果よりプロセスを、業績より倫理を重視し、特にテクノロジーのイノベーションを最重要視する。その成果のひとつが、エコマジネーションとして、今花開きつつある。(ここにはBOPと同じく、社会変革とビジネスの両立があるように見える、のだが)

また、雑誌記事で読んで興奮した、アマシャム買収もでてくる。そして、何よりインフラストラクチャー及びグローバル重視の経営は、日立や東芝のお手本であったのだろうと感じる。

ただ、不満も少しある。これはもう時期的なもので、しょうがないのだが、本書で何度ももちあげられる成功事例、NBCユニバーサルを本書の出版後イメルトは売却してしまったので、ちょっと鼻白んでしまうこと。

そして、リーマンショックの時の、イメルトとバフェットの会談あたりは、もっと劇的に描いてほしかった気がする。(ちょっとあっさりしすぎ)しかし、読了して思うのは、やはりGEのDNAは変革である、ということだ。

一條先生から教わったのが「How GE transformsitself」であったが、イメルトも共同執筆者として書かれたHBRの論文は「How GEis disrupting itselfe」という題名であった。

 

 ●7005 知の巨人 荻生徂徠伝 (歴史小説) 佐藤雅美 (角川書) ☆☆☆

 

知の巨人  荻生徂徠伝 (単行本)

知の巨人 荻生徂徠伝 (単行本)

 

 

著者は、経済時代小説とでもいうべきジャンルを作った作家だと思っていたのだが、最
近は捕り物帳も多いようで、いったい何を読めばいいかわからず未読だった。そこへ、本書が上梓され、「天地明察」や「風狂奇行」のような勉学?の話も結構好きなので、まずは本書から読みだした。

しかし、どうなんだろうか、その作戦は失敗だったように思う。まず荻生徂徠という主人公にあまり魅力を感じない。というか、なかなか感情移入できるキャラが見つからないのだ。まあ、著者は時代考証の緻密さが特長らしいのでカテゴリーエラーなのかもしれないが、先の二冊とはここが決定的に違う。

そして、本書が取り扱う学問=朱子学も、正直あまり魅力的でない上に、途中から良くわからなくなってしまう。もう少し解り易く書いてほしい。で、結局あまり大きな事件も起きず、何となく中途半端で終わってしまった気分。まあ、僕が理解できなかっただけかもしれないが。

 

●7006 講談 英語の歴史 (言語学) 渡部昇一 (PH新) ☆☆☆☆

 

講談・英語の歴史 (PHP新書)

講談・英語の歴史 (PHP新書)

 

 

著者は僕にとって、理解しずらい人物だ。同姓異人が何人かいる気さえする。最初に意
識したのは、もちろんあの「知的生活の方法」だが、それ以来ポリティカルな面ではほ
とんど意見が合わないのに、彼のふたつの著書は僕に大きな影響を与えた。

一冊は「ドイツ参謀本部」であり、これはたぶん所感を三回くらい書いてるので、今回は僕のハンドルネームが、モルトケであることだけで終わらせよう。

で、もう一冊が「アングロサクソンと日本人」であり、特にその中の英語の歴史、というか本質には、ガツンと頭を殴られたような衝撃を感じた。ようは本来イギリスはヨーロッパの端っこの田舎でありギリシア語を嚆矢とする欧州言語の中でも、一番遅れた言語である、という事実に驚愕してしまったのだ。

そう確かに、英語は綴りと発音が一致しない変な言語である。(その理由の詳細は本書で確認ください)本書は「アングロサクソン」のひとつのテーマであった「英語の歴史」について、新たに語り直した新書である。

ポイントは英語には、古英語、中英語、近代英語の三種類があり、古英語とはケルト族や、イギリスに住み着いた、アングロサクソン族が使った、やまと言葉であり、それは今のドイツ語に非常に近いらしい。(男性・女性名詞があったり、複雑な動詞変化があったり、等々)

しかし、ノーマン・コンクエスト、いわゆるノルマンディー公による英国征服があり、英国貴族は根絶やしになり、貴族はフランス語を使うフランス人、庶民は英語を使うイギリス人として、明確に分かれてしまった。

ところがジョン失地王によって、フランス領がほとんどなくなった結果、英国のアイデンティティーが逆に明確になり、言葉も融合を始める。すなわち、動作のような具体的な言葉は古英語が使われ、抽象的な言葉はフランス語が移入されたのだ。

例えば、牛肉はビーフで牛はオックス。豚肉はポークで、豚はピッグ。間違ってもオックスやピッグを食べるとは言わない。食卓に関する言葉は、上層階級の使うフランス語が残り、農民が使う英語は生きている動物に残ったのだ。

なるほど!そして、シェイクスピアが登場し、英国の発展と同時に近代英語が確立し、世界後に進化する過程で文法が明文化され、ますます単純化する一方、発音とスペルの統一は見送られることとなったのである。

以上はほとんど復習であって、ディテイル以外は意外ではないのだが、その間こちらが、カエサルや英仏戦争等々をかなり勉強したので、その理解の回復は早かった。

ただし、英国が(もちろん米国も)実は田舎、という感覚は、西洋史をたいぶ勉強した今の僕には、もはや常識になっていて、その分「アングロサクソン」を読んだ時の衝撃は今回はなかったが、それはしょうがないのだろう。

それから本書はあの名著「文明の海洋史観」の、前提として読むべき本なのかもしれない。

 

●7007 下戸は勘定に入れません (ミステリ) 西澤保彦 (中央公) ☆☆☆☆

 

下戸は勘定に入れません

下戸は勘定に入れません

 

 

変な題名だけれど、マニアの方にはお分かりのように、モトネタはコニー・ウィルスの「犬は勘定に入れません」。そう、西澤と大森は高知つながり、ってマニア以外にはほとんど意味不明。

本書は、西澤お得意の特異設定SFミステリ。(本来大森はこういうパターンが嫌いなはずなのに、ってもういいか)

特異体質?の主人公ともう一人が、酒を飲むと、もし過去の同じ日に同じ酒を二人で飲んだことがあれば、その場面にタイムスリップする、という、説明してもたぶんよくわからない変な設定で、これが話が進むと、何とさらに複雑な話になっていくのだが、一応ちゃんとミステリになっているところが、今回は素晴らしい?かな。

まあ、相変らずダークパワー全開の部分もあるのだが、腕貫探偵シリーズの新作にやや物足りなさを感じていたので、今回はちょっと甘い評価。まあ、でもよくこんな変な話を考え付くもんだ。

 

 ●7008 道を視る少年 上 (SF)オースン・スコット・カード(早川文)☆☆☆☆

 

道を視る少年(上)

道を視る少年(上)

 

 

これも「エンダー映画化効果」だろうか。カードの新作がひさびさに訳された。しかし
題名や表紙からイメージするのはSFというよりファンタジーで、グズグズしているう
ちに、というか下巻を入手する前に、返却日がきてしまいあわてて読んだ。

正直ファンタジー部分は、カードらしく理屈っぽいけどリーダビリティーたっぷりなのだが、それほどには思わない。しかし、各章の冒頭で語られるハードSF、恒星間移民船のストーリーが短いけれど、ワクワクしてしまう。さて、この二つのストーリーがどう絡んでいくのか。下巻に期待。

 

●7009 男ともだち (小説) 千早 茜  (文春社) ☆☆☆

 

男ともだち

男ともだち

 

 

本年度直木賞候補、なんだけどねえ。「眠りの庭」が予想外に素晴らしかったので狂喜してしまったのだが、やはり著者はミステリを書いたつもりはなかったんだろう。

残念ながら本書は僕の苦手なタイプの小説で、文章はうまいとは思うが、楽しむことはできなかった。こういう人間関係がリアルに感じられる人って、本当にいるんだろうか。

 

 ●7010 天下統一  (歴史) 藤田達生 (中公新) ☆☆☆☆

 

 

著者の集大成とでもいうべき一冊であり、著者が最近の歴史小説やドラマにどれだけ影
響を与えたのかが良くわかる作品となった。ただ、その一方で少し内容が広範囲になってしまい、気楽に読める内容ではなく、かなり集中力が必要となる。

さらに言えば、調べてみて驚いたのだが、僕は著者の作品はかなり読んでおり、そういう意味では上記と裏腹に、本書にそれほどの驚きは感じなかった。(清州会議の後、実は秀吉はしばらくの間信雄をたてていたというのは、言われれば当然で目から鱗が落ちたが)

そして、著者の最大の功績は、封建幕府の本質としての本領安堵を、土地は将軍から預かるもの、すなわち国替えという仕組を編み出した信長の新しさと、それを実現した秀吉、家康の実行力にある、としたことだと思う。

これこそ、我が国の中世から近世への脱却の本質だと感じる。でも、これは小室直樹も書いていたような気がするなあ。しかし、今谷明の後継はやはり著者と言うべきだと感じる。

 

 ●7011 イン・ザ・ヘブン (SF) 新井素子 (新潮社) ☆☆☆☆

 

イン・ザ・ヘブン

イン・ザ・ヘブン

 

 

新井素子にとって、ひさびさの短編集ということだが、バラエティーに富んでいるのと
裏腹に、正直作品に出来不出来の波(というより、その文体が時に耐えられなくなる、
が正解かもしれない)があったのだが、まずは楽しめた。

冒頭の表題作が個人的にはベスト。ここには「あたしの中の」から「チグリスとユーフラテス」までつながる、著者の一番良い部分がある。(やさしさに秘められた、残酷な諦観というか、いわゆるヴォネガットの、人類への怒りを込めたラブレター、の逆バージョンと言うべきか)

あとは「つつがなきよう」「あけみちゃん」「ノックの音が」あたりが面白く、最後の「テトラポットは暇を持て余しています」には、ひっくり返ってしまった。

 

 ●7012 ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 (ミステリ) トマス・H・クック (HPM)☆☆☆☆

 

ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密

ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密

 

 
 
このところ、マンネリを避けるためにも毎回趣向を変えてきた著者だが、正直言って成功したのは、やはり従来の路線に近い作品だったと思う。というわけで、別に開き直った訳ではないだろうが、本書は正にクック節ど真ん中の、暗くて静謐で劇的な作品。

自殺したノンフクションライターの死の動機を求めて、友人の文芸評論家が死者の作品の舞台を訪れ、少しづつ死の真相に近づいていく、というまるで記憶シリーズのようなプロット。

しかも、その作品というのが残虐事件ばかりで、なかなか痛い。特筆すべきなのは、主人公が文芸評論家ということもあって、様々な作家が引用され、クックの文芸趣味が全面に溢れている点。

まあ、そういう意味ではミステリというより、例えばグリーンの「ヒューマン・ファクター」あたりにテーストが近い。ただ、少し残念なのは、最後の結末が記憶シリーズなどとは違って、意外性がほとんどないこと。

まあ、これは意識的なのかもしれないが。そして、やっぱりこの暗い話にしては、ちょっと長すぎる気がすること。こんなに長いと滅入ってしまう。ファン以外にはちょっと薦めにくい。

 

 ●7013 民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた
       (政治経済) 朝日新聞「カオスの深淵」取材班 (東洋経) ☆☆☆

 

民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた

民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた

 

 

題名、テーマはなかなかキャッチャーで、的を射ているが、内容は正直薄っぺらい情報
のパッチワークにすぎない。雑誌やブログなら、これでいいのかもしれないが、正直本
にする必然性を感じなかった。

これでは、溢れる情報の上っ面を共時的に並べてみただけにすぎない。浅田の夢見たスギゾキッズは、見事なまでに中身のないダンスを踊り続けている。

本書で唯一、共時性=歴史を語っている、サンデル教授の存在が救いだ。まあ取材班がどれだけ気づいているかは、わからないが。ああ、例えばあの「21世紀は警告する」シリーズのような、骨太な作品を求めることはもはや不可能なのだろうか。知の衰退は、どこまで続くのだろうか。

 

 ●7014 道を視る少年 下 (SF)オースン・スコット・カード(早川文)☆☆☆☆

 

道を視る少年(下)

道を視る少年(下)

 

 

ファンタジー要素が強かった本書は、下巻に入ってどんどんSF要素が増えてくる。特
に各章の冒頭で語られるハードSF部分(実は、結構トンデモSFだと思うが)が、下
巻になって、どんどん本筋(ファンタジー)とリンクしてくるのは、さすがにうまい。

正直、ちょっと主人公たちのタイムトラベル能力が解りづらいのだが、これもハード部
分とつながっていて、びっくり。まあ、一番驚いたのは「消耗体」の正体で、これには
見事にやられた。

また、本書の基本設定(壁の存在)は驚くなかれ、あの「進撃の巨人」にそっくりである。また、基本アイディアは「2001年宇宙の旅」の、モノリスを思わせる。しかし、残念ながら本書はたぶん、長大な物語の序章にすぎないことが解る。果たしてシリーズはきちんと訳されるのだろうか。