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2014年 5月に読んだ本

●6977 ダボス会議に見る世界のトップリーダーの話術 (ビジネス) 田坂広志 (東洋経) ☆☆☆☆
 
ダボス会議に見る 世界のトップリーダーの話術

ダボス会議に見る 世界のトップリーダーの話術

 

 

題名を見て、あの田坂さんがハウツー本を書いたのか?と驚き、怖いもの見たさで手に取ったが、やっぱり田坂さんは田坂さん、本書の本質は話術を超えた言霊の重要性であり、副題である『言葉を超えたメッセージの戦い』が主題であった。

(しかし、田坂信者はこれでOKだが、題名に釣られて読んだ人は、何をどう語るか?よりも誰が語るか?である、なんて読まされたら、怒り出すんじゃないだろうか)

結局、本書は名だたる世界の権力者、有名人、賢者たちを田坂理論で語り直した内容であり、僕は結構楽しめたのだが。

 

 ●6978 ゴースト≠ノイズ(リダクション)(ミステリ) 十市社 (東京創)☆☆☆

 

 

KDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)の人気作品を加筆訂正の上上梓。ただ個人的には、読みにくい題名とペンペームだけで嫌になってしまい、なかなか読みだせないでいた。(本の雑誌で関口絶賛だったんだけれど、これももはや神通力はないし)

その上、舞台が高校生活とくると、おじさんはなかなか世界に入り込めない。しかし本書の本質は、主人公一居士架とヒロイン玖波高町の、それぞれの家族の謎の物語である。(これまた何という読みにくい名前だ)

個人的には高町の謎の方がメインに感じたのだが、これはもうイヤミスというより辛ミスとでも言うべき、辛い話である。一方架の謎は、正直あざといギミックが施されていて、嫌になってしまった。

たぶん、本書は高町の謎に焦点を絞った短編か中編にすれば、もっとすっきりした作品になったのではないだろうか。

 

●6979 秘 密  (ミステリ) ケイト・モートン (東京創) ☆☆☆☆

 

秘密 上

秘密 上

 

 

秘密 下

秘密 下

 

 

サラ・ウォーターズの文体、ロバート・ゴダードのプロットで書かれた現代英国ミステリ、と言うべきか。伝統の力を思い知らされた傑作。

現在と過去が交互に描かれるプロットとそこで描かれるキャラクター造形の素晴らしさが、有機的に物語とリンクするのがさすが。

こういうのを読むと、残念ながら日本ミステリの小説としての未熟さ(逆に言えば英国伝統の凄さ=でも作者はオーストラリアなんだけれど、英国連邦健在と思うべきか)を感じてしまう。

実はあまりの文章の素晴らしさ(たぶん、訳者の青木純子が素晴らしい)に、満点をつけたい気分だったんだけれど、残念ながらゴダードをこれだけ読んだものには、下巻に入って、トリックがほとんど解ってしまった。

しかし、それでも本書はトリックが解った前提で味わうべき描写や伏線がたっぷりあって、英国ミステリの底力を感じてしまった気がする。ケイト・モートンはこれで38歳。恐るべき才能だ。

 

 ●6980 書かずにはいられない (エッセイ) 北村 薫 (新潮社) ☆☆☆★

 

書かずにはいられない: 北村薫のエッセイ

書かずにはいられない: 北村薫のエッセイ

 

 

「読まずにはいられない」に続く90年から05年までのエッセイをまとめたものらしいが、前作は待望の北村エッセイに期待してしまって肩に力が入りすぎたのか、あまり楽しめなかった。

今回は、中盤にかなり書評が入るので前回よりは読めたが、やはりそれほどは楽しめなかった。北村というミステリマニアと文学者が同居する人物と自分とのミズマッチに愕然としながら、かつての丸谷才一福永武彦の方が違和感がなかったのは、自分のせいなのか、北村のせいなのか、一度きちんと考えなければなあ、と感じてしまった。

でも、実は今日図書館で、辻村深月のエッセイを見つけて、ラッキーと思ってパラパラ立ち読みしたのだが、どうにも違和感があって結局借りなかった。世代の問題以上に、何かエッセイというスタイルが、僕と合わなくなってきているのかもしれない。

 

●6981 天地雷動  (歴史小説) 伊東 潤 (角川書) ☆☆☆☆★

 

天地雷動 (単行本)

天地雷動 (単行本)

 

 

正直あまり期待していなかったせいもあるが、一気に読まされた。本書は傑作だ。

帯に著者が「結末が解っているのに面白い小説を目指した」と書いていたが、本書はまさに結末(武田騎馬隊が織田の鉄砲隊に大敗北⇒滅亡)こそ誰でも知っているが、良く考えるとそこに至る道筋は、あまり知られていない「長篠の戦」を、あますところなく描いた作品である。

一般常識として、信玄が病に倒れて織田は息を吹返し「長篠の戦」で武田は滅亡、とつい考えてしまいがちだが、少し歴史を勉強すると、そんな単純な話ではないことは解ってくる。ただ、僕にとっては、その歴史の空白をここまできちんと精緻に描いた小説とは、今まで出会わなかった。著者の狙いは抜群である。

しかも、著者はそのカウントダウンを、勝頼、家康、秀吉、そして武田方の名もない雑兵親子、の四つの視点でカットバックで描くのだが、これがまた素晴らしい効果、緊迫感と立体感を物語に与えることに成功している。

勝頼と信玄恩顧の宿老たちの確執、信長と家康の駆け引き、そして秀吉は信長に命じられた鉄砲3500丁という難題に、知能を絞って立ち向かい、武田の兵は兵農分離以前の兵の、本質と悲哀を炙り出す。

さらに信長の天才の前での、凡人家康と秀吉が知らずして互いを尊敬し合ったり、最近は人格者と描かれることが多い秀長が「のぼう」のように描かれたり、読みどころは満載。

そして、物語は信長の周到なシナリオ通りに、詰将棋のようにクライマックスに収斂していき、武田家の名だたる宿老たちが、あれほど対立してきた勝頼のため、次々と討ち死にしていくシーンは感動的ですらある。

さらにはいくつもの苦い結末、通奏低音として流れる玉薬(黒色火薬)の重要性、等々まだまだ言いたいことはいくらでもあるのだが、この辺でやめよう。

本書は著者の良い部分を集めたような傑作であり、確かに人物造形等々はやや類型的で物足りないこともないが、その圧倒的な臨場感、スピード感を評価して、ぜひ次回の直木賞をとってほしい。個人的には本書なら全く文句がない。 

 

●6982 オービタル・クラウド (SF) 藤井太洋 (早川書) ☆☆☆☆

 

オービタル・クラウド

オービタル・クラウド

 

 

Gene Mapper」に続く今度は堂々たる?ハードカバーだ。前作のテーマは、生物学=バイオだったが、今回は題名からわかるように、宇宙=Jaxaである。そこにCIA、中国、北朝鮮、さらにはイランまで絡むのだが、やはり著者は新しい。

その上、今回はスケールが数段アップしている。そしてスタイルは伝統的でも、題材(スペース・テザー)やキャラが全く新しい。登場人物はある意味天才ばかりなのだが、それが嫌味にならないのが著者の長所か。

正直斬新すぎて、良くわからないところも結構あるのだが、そこは欧米の最先端(例えば、チャイナ・ミエビル)などとは違って、何とかギリギリストーリーについていける。

その新しさに、リアリティーがきちんと付け加わっているところが、素晴らしい。例えば、ラストでスペース・テザーがちゃんとビジネスとなってしまうところなど、良く出来ているし、やっぱり新しい。

既存の日本SFの伝統から自由だ。まあ、クラークやニーヴンの宇宙SFは、何と牧歌的だったのか、と思わざるを得ない。

 
 ●6983 あなたの知らない和歌山県の歴史 (歴史) 山本博文 (洋泉社) ☆☆☆

 

あなたの知らない和歌山県の歴史 (歴史新書)

あなたの知らない和歌山県の歴史 (歴史新書)

 

 

偶然、図書館の新刊リストに本書を見つけたのだが、当然ながら?予約はゼロ。で、かわいそうなので?予約をいれてみた。内容は別にどうというものでもない。まあ、やっぱ和歌山県の歴史はそんなにわくわくしない。

2つだけ。北の方は解らないのだが、和歌山に住んでいるのに、まわりに徳川好きは誰もいなかった。

55万石というのは、かなりゲタを履かせており、年貢の取り立てが非常に厳しくみんな徳川をうらんでいた、などと子供の頃によく聞かされた。祭りのかけごえ「ちょうさんじゃい」が、「逃散」だったことに大人になってから気づいたりした。

最後に「南高梅」がとりあげられ、南高=南部高校のことと、きちんと書いていた。

 

 ●6984 とりの眼ひとの眼 (エッセイ) とり・みき (ちく文) ☆☆☆★

 

とりの眼ひとの眼 (ちくま文庫)

とりの眼ひとの眼 (ちくま文庫)

 

 

ちくま文庫の別の本を読んでいて(この本は挫折)巻末のリストで本書を見つけて、速攻ゲット。しかし、本書の内容は期待したSFマンガではなく、90%以上原田知世なのだ。それも15歳のころの。まあ、そんな時代もあったよな、とつぶやくのみ。

 

 ●6985 本棚探偵 最後の挨拶 (エッセイ) 喜国雅彦 (双葉社) ☆☆☆☆

 

本棚探偵最後の挨拶

本棚探偵最後の挨拶

 

 

前作はさすがにネタ切れを感じたのだが、今回は(まあ、内容のレベルに凸凹はあるが)高テンションがかなり復活していて、結構楽しめた。ローソクの最後の炎かしらん。珍しく、バカバカしい内容ほどのれたのだが、以下の2つが最高。

ひとつは「四十二年後からの使者」で、これはもう少年探偵団ファン?には絶句というか、これを実際にやるとはさすがに驚いた。

そして、もうひとつは「もう一つの世界」で、「リーでーす!」「ダネイでーす!」「二人合わせて、エラリー・クイーンでーす」には再び絶句。


 
 ●6986 刑事失格 (ミステリ) 太田忠司 (創元文) ☆☆☆

 

刑事失格 (創元推理文庫)

刑事失格 (創元推理文庫)

 

 

これも何かで書評を見て、創元文庫にシリーズ四冊が収められた(最新「無伴奏」だけはハードカバー)ことを知り、一気に全部借りてきた。解説で池上が結構力を入れていて、どうやら本書を、あの坂東齢人(後の馳星周)が本の雑誌で褒めたことがあったらしい。

著者の作品は、少し前評判になった「ルナティック・ガーデン」を読んだが、正直「ブルータワー」ほどではないが、SFとして古すぎて評価できなかった。

で、本書はハードボイルドらしいのだが、著者はもともとは新本格ミステリとしてデビューしたようだ。クイーンとロス・マクが好き、ということなのだが(それじゃ法月だろう!)正直本書にロス・マクのテーストはない。

どちらかというと、若い刑事のイタサを描いた青春ミステリとでもいうべき内容だ。文体はコクはないが、平易で好感が持てる。ただ、本書に限っては謎の構成が雑すぎる。この謎をリアリティーを持って描くのには、倍の分量と素晴らしい文体が必要だろう。例えば「さむけ」のような。

 

 ●6987 Jの少女たち (ミステリ) 太田忠司 (創元文) ☆☆☆

 

Jの少女たち (創元推理文庫)

Jの少女たち (創元推理文庫)

 

 

さて、本書は阿南シリーズ第二弾。阿南は既に刑事をやめている。しかし、題名のJがJUNEの頭文字だと知っただけで、脱力してしまった。舞台は何と初期のコミケ。いまさら、JUNEとやおいの違いのうんちくを語られてもねえ。

途中で著者の年齢が僕と同い年であることに気づいたが、本書に描かれる80年代のサブカルチャーの風景は(ゲームを除いて)僕も同時体験したものだ。特に音楽と少女マンガ(三原順!)は、瓜二つ。

ただし、ミステリとしては全くダメ。あと二冊読むべきか悩んでしまう。解説は何と坂東齢人。しかし、やっぱり僕はミステリと多作は両立しないと思うなあ。本書は安易すぎる。

 

●6988 峠越え (歴史小説) 伊東 潤 (講談社) ☆☆☆☆

 

峠越え

峠越え

 

 

申し訳ないが、家康にあまり興味がないし、今まで彼が主役の面白い小説を読んだ経験もない。(アマゾンで比較されている山岡荘八はさすがに未読だが、後の二冊「影武者徳川家康」も評判ほどではないし、「覇王の家」はひどい駄作と思う)

ただ、「天地雷動」が予想をはるかに超えて面白かったので、本書も読みだした。そして、冒頭から一気に引き込まれた。やはり著者は今絶好調だ。

本書は、徳川家康の生涯屈指の正念場と云える伊賀越え(本能寺の変で混乱する畿内から三河本国への脱出行)をクライマックスに置きながら、桶狭間、姉川、三方ケ原、長篠などの過去の戦を振り返る場面を挟んで、家康の前半生を描き出している。

メイキング・オブ・家康である。そして、素晴らしいのは途中に挟まる有名なエピソードのひとつひとつに、著者の新解釈が加えられていることで、真偽の程は解らないが感心してしまった。(例えば桶狭間の信長の勝因は家康にあった?)

ただ、メインの峠越え(現在)の間にはさまる、枝葉の話(過去)が面白すぎて、時制がいったりきたりしてしまい、ちょっと読むのが煩わしく感じた。

そして、個人的に本書を傑作としながらも「天地雷動」より下とすのは、最大の謎=本能寺の真相が、最近何人かの作家が書いたあるアイディアの応用編となっていて、その作者の工夫(家康の罠)がちょっとリアリティーが足りないからである。

まあ、でも本書も傑作であり、これで直木賞をとっても全然問題ないと思う。伊東は本当に化けたと感じる。

 

●6989 知性を磨く 「スーパージェネラリスト」の時代 (ビジネス) 田坂広志 (光文新) ☆☆☆☆★

 

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

 

 

もう一冊の田坂さんの新刊は、ある意味集大成とも言うべき入魂の一作。サンタフェ研究所のジョージ・コーワン博士の語ったスーパージェネラリストが本書のテーマであるが、まあ、その概念自体は「宇宙船ビーグル号」のネクシャリストと同じで別段新しくはない。

かつて90年代に小室直樹が上梓した膨大な啓蒙書。これらは、悪く言えば内容がいくつも重複していた。しかし、僕にはそれらは小室直樹という巨大な知恵の森の中で聴くポリフォニーに感じた。重複していても、角度を変えると新たな光が当たり、新たな知恵が創出される巨大な森。

今、僕にとってその小室に一番近い存在は田坂さんだ。確かに本書の内容の90%以上が、今までの田坂さんの著作の内容と重複する。しかし、今回はその内容をスーパージェネラリストというテーマに沿って、リミックス=編集し直している。

前半は知性と知能、知恵と知識の違いを語り直し、後半は「7つのレベルの思考」を語り直す。(個人的には「志とは具体的なものである」という言葉に膝を打った)

それでも正直あまりにも同じ内容が繰り返されると、読むスピードが早くなってしまうのだが、そこがまだ小室の域に届いていなくて、満点はやめにした。

でもラストには今まで書かれていなかった田坂さん自身の、若いころの具体的な話がいくつか書かれていて、なかなか興味深かった。

そして、はっきり書かれていないが、途中に出てくるアポロ13号の話は、福島に対するアンチテーゼであろう。そして、本書こそ内田樹のいう「ミニマムを問う若者」に対する、田坂流の回答である。

 

●6990 角川映画 1976-1986 日本を変えた10年(NF)中川右介(角川書)☆☆☆☆

 

 

恐ろしいことに、角川映画をきちんと映画館で観た記憶がない。(まあ、僕が本格的に映画館で封切作品を見だしたのは80年代後半だから、角川映画とはずれている)で、ビデオや録画で何度も観たのも「蒲田行進曲」と「時をかける少女」だけだと思う。

別に角川映画に反発していた分けではないが、アイドル映画には全く興味がなかった。だのに、そんな僕でも、本書は非常に楽しく面白く読めた。著者は僕の一歳年下で、ほとんど同世代。さらにその著書を調べると、クラッシックからアイドルまで守備範囲が広く、何よりミステリにも造詣が深そうだ。

まさに村松イズム、同世代の共感を感じてしまった。しかし、ここで描かれる角川春樹の天才の姿、愛すべき肖像は、どこまで事実なのだろうか。いやたぶん田坂さんのいう多重人格の、ある意味突出した事例が彼なのかもしれない。

しかし本書を楽しく読み終えても、やっぱり観たいと思う角川映画はないんだよね。あ、それから森村はともかく、乱歩ではなく横溝正史ブームを起こしてくれたことには感謝してもしきれない。本当は「虚無への供物」を、映画化してほしかった気もするのだが。

 

●6991 殺意の構図 探偵の依頼人 (ミステリ) 深木章子 (光文社) ☆☆☆★

 

殺意の構図 探偵の依頼人

殺意の構図 探偵の依頼人

 

 

前作「螺旋の底」は評判が良かったんだけれど、僕はあんまりピンとこなかった。で、本書もまたネットの評判は上々。確かに前作よりは好感が持てる。ただし、個人的には努力賞というところか。

基本設定というかトリックは、小杉健治の有名作品と相似だと思う。ただ、そこにあまりにも複雑な要素を色々詰め込みすぎて、インパクトが逆に弱まった気がするのだ。もっとラストの意外性を、うまく生かす書き方があったのではないか、と感じてしまう。次作に期待したい。

 

 ●6992 不滅の名作ミステリへの招待 (企画) 中川右介 (七つ森) ☆☆☆☆
 
不滅の名作ミステリへの招待

不滅の名作ミステリへの招待

 

 

クラッシックや歌舞伎の本を、多く上梓してきた著者が書いた、名作ミステリの紹介本。最近、色々似たような企画本があるのだが、どうもこの拡散したミステリをまとめることは、今や至難の業のようで、あちこち引っかかってなかなか楽しめない。

独自性を出そうとするのか、著者のけれんに違和感を感じる一方、絶版ものは外す、という縛りも多くて、これまた代表作のチョイスに違和感を感じてしまう。しかし、本書は大丈夫。

何せ、一番新しいのが「羊たちの沈黙」で、その前は「ジャッカルの日」まで遡ってしまう。紹介された名作は42冊、まさに名作中の名作で、未読は「太陽がいっぱい」しかない。(もちろん映画の方は何回も観ている)

クラッシック、歌舞伎、ミステリ、に共通するのは著者が言う様式美。(僕は昔よく構築美と言っていたが)各章の末尾に書かれた、次は何を読む?がセンスが良くて、同感しきり。しかし、角川映画やアイドルの様式美はわかったような、わからないような。ここが、ヘビメタなら完璧だったのに。

 

 ●6993 セカイからもっと近くに (評論) 東 浩紀 (東京創) ☆☆☆☆

 

 

副題:現実から切り離された文学の諸問題。本書のテーマはいわゆるセカイ系の限界ではなく、可能性の考察。セカイ系=身の回りの現実と壮大な世界がいきなり繋がってしまいその間にあるはず(あるべき?)国家や社会がスキップされる物語。それを解明するために、東が持ち出した作家は四人。

新井素子と家族の問題。法月綸太郎と恋愛の問題(これは、やはり後期クイーン問題とすべきでは?)。そして、これまた解り易い、押井守とループの問題。(正しく、うる星やつら2の世界)最後に、小松左京と未来の問題。

確かに新井素子は正にセカイ系の元祖なのに、家族(疑似も含む)だけはちゃんと描いていたというのは分かるし、ここに悩める作家、法月を持ってくるのはセンスが良い。(ただし、一番読んでいるはずの法月の作品の内容が、一番思い出せないのには閉口。情けない)

また、僕はTV版のうる星やつらはあまり見ていないのだが、著者が言うようにマンガ版=女の子の物語、TV版=男の子の物語、というのは良くわかる。そうか、だから押井と高橋留美子は合わなかったのか。ビューティフル・ドリームだけの問題ではないんだ。

で、本書で一番面白かったのは、小松左京のマザコン。これは正鵠を突いている。まさに、小松に感じる古臭さが、そこにある。でも逆にだからこそ、もう一度「果てしなき流れの果に」を読み返し、未読の「日本沈没」にチャレンジしたくなった。夏休みにでも。

 

 ●6994 天国の破片 (ミステリ) 太田忠司 (創元文) ☆☆☆★

 

天国の破片 (創元推理文庫)

天国の破片 (創元推理文庫)

 

 

結局、シリーズ第三作も読みだした。相変らず文章はうまくて、一気に読めた。そして今までの作品の中では、個人的には本書がベストに感じた。登場人物のすべてが(結構嫌な奴が多いのだが)薄っぺらく見えながら、実はうまくしたたかに描かれていると思う。(コンビニの阿南の同僚の佐藤が気に入った)

ただ、ミステリとしてはかなり粗い出来だし、何より、冒頭のコンビニ強盗に50万円用立ててしまう阿南の行動が、あまりにもリアリティーがないように感じる。せめて、五万円にしようよ。まあ、ここまできたら「無伴奏」もよむつもりだけれど。

 

●6995 だから日本はズレている (社会学) 古市憲寿 (新潮新) ☆☆☆

 

だから日本はズレている (新潮新書 566)

だから日本はズレている (新潮新書 566)

 

 

結局「絶望の国の幸福な若者たち」を読まずに、本書を手に取ってしまったが、ちょっと後悔している。本書の内容のほとんどには同意するが、一方ではSo-What?という気分が抜けない。

結局表層的で軽いし、おじさん、若者、どちらに対しても(無意識かしら?)上から目線で、なかなか感情移入しずらい。一応社会学と上には書いたが、居酒屋議論のレベルに感じてしまう。

まあ、スマート家電の批判や、ソーシャルに期待するな、という論旨には同感するが、やっぱSo-What?だし、後半はちょっと違和感を感じる文章が多かった。

 

 ●6996 無伴奏 (ミステリ) 太田忠司 (創元文) ☆☆☆★

 

無伴奏

無伴奏

 

 

シリーズ第一作「刑事失格」が91年、最新作の本書が11年、ということで20年かけて大事に紡がれてきた四作。主人公の阿南も、同時に年をとり、今は浜松で介護士をやっている。

その阿南の、今まで何度も語られてきた父親との確執にけりをつける物語。というわけで、シリーズ集大成というわけか、かなり力が入っているが、文体は相変らず平易で気持ちがよく、あっという間に読める。

ただし、今回もまたミステリとしての謎が弱い。作者はもはやこのシリーズで、ミステリを書きたいのではないのかもしれないが。

 

●6997 ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち (SF) 仁木 稔 (早川J)☆☆☆☆

 

 

著者の作品というかHISTORIAシリーズは初読だが、少なくともこの五中編が収められた作品は傑作だ。そして、新しい。妖精や亜人と呼ばれる人工生命が、労働や代理戦争で使われる歴史改変世界

それはまさに飛浩隆「グランヴァカンス」の世界であり、傑作「はじまりと終わりの世界樹」は「ラギッドガール」の変奏曲のようである。惜しむらくは、ストーリーテリングが飛や伊藤計画の域まで達していなく、長谷のレベルにとどまっている、というのは長谷に悪いか。

そして、解説を読んで本書の妖精や亜人が、あの「オメラスから歩み去る人々」の生贄の少年に等しいことに気づかされた。なるほどなあ。

 

●6998 巨鯨の海 (時代小説) 伊東 潤 (光文社) ☆☆☆★

 

巨鯨の海

巨鯨の海

 

 

なかなかうまく行かない。図書館で一年以上待ち続けて、やっと本書を入手したのだが、期待が高すぎたのか(確か、この時代小説がすごい一位)最近の作品に比べて楽しめなかった。

表題からわかるように、本書は僕の故郷のさらに南の太地の鯨漁がテーマの連作集だ。ただ、僕がある程度捕鯨の歴史を知っていることを差し引いても「旅刃刺の仁吉」以降は、物語にひねりが足りない。素材に頼りすぎに感じる。

最後の「弥惣平の鐘」は実際の遭難事件を小説化したものらしく、迫力があったが。

それから、これはしょうがないのかもしれないが、古い作品ほど紀州弁が変。まあ地元の人間しかわからないが、紀州弁は関西弁とはかなり違う。(でも紀州弁をしっかり再現すると、意味が解らなくなる気がしないでもないが)

 

 ●6999 盲目的な恋と友情 (小説) 辻村深月 (新潮社) ☆☆☆★

 

盲目的な恋と友情

盲目的な恋と友情

 

 

これまた、ある意味凄い小説で、一気に読まされたのだが、やはり僕の好みとはずれてしまう。本書や「私の男」が持つ、淫靡な腐臭は、どうにも耐え難い。

同じ物語を、二人の女性の視点から、前後に分けて描く、というのは悪くないが、どうしても、ミステリ的な構造が、ありふれていて、せっかくの物語が中途半端になってしまった気がしてしまう。

ミステリ的な構造に拘らず、二人のずれを徹底的にネガとポジで描ききった方が良かったのではないか。まあ、それでも「つなぐ」なんて似非な作品よりは、よほどこっちを評価したいが。

 

 ●7000 迷子の王子 君たちに明日はない5 (小説) 垣根涼介(新潮社)☆☆☆☆

 

迷子の王様: 君たちに明日はない5

迷子の王様: 君たちに明日はない5

 

 

さて、来月は7000番に何を読もう、なんて考えているうちに、今月読みすぎて7000に届いてしまった。でも、ちょうど本書がシリーズ第五作で完結、ということで7000を捧げることにした。

「ワイルドスル」や「ヒートアイランド」で、冒険小説に新しい風を吹き込む一方、著者は何とリストラ請負業という本シリーズを上梓して、僕らの意表を突いた。シリーズは、マンネリをはらみながらも順調に続いたが、前作(第四作)「勝ち逃げの女王」で、新しい展開を手に入れ、シリーズピークの傑作となった。

それを受けての最終巻の本書は、何といきなりカネボウ(本書ではコフレ)と花王(ワコウ)がモデルで、びっくり。(前作から、モデルがはっきりわかる作風になっている)それはちがうぞ、という部分もあるのだが、何とか良い話にまとまって一安心?

次のモデルはシャープ、そして具体的には解らないが、本屋チェーン、と続いて、最後は何と「日本ヒューマンリアクト」の解散から物語ははじまる。真介と陽子と北村。それぞれの未来に乾杯。お疲れ様でした。