2014年 4月に読んだ本
●6959 探偵が腕貫を外すとき (ミステリ) 西澤保彦 (実業日) ☆☆☆★
シリーズ前作は番外編とは言え、文庫書下ろしだったのに、今回はまたソフトカバーに戻った上、内容は短編四作の薄っぺらさ。ということは、やはりこのシリーズ、確実に人気が出てきているのだろう。
しかし、その内容は正しく(またか?の)西澤印。妙に理屈っぽくて、時々ダークテースト爆発。「贖いの顔」は結局凄い偶然だし、「秘密」も「いきちがい」も、何か論理がずれている。「どこまでも停められて」も、こんな面倒なことをやるだろうか。
だのに、なぜか読んでしまう。まあ、世の中ではキャラクター(グルメ)ミステリとして読まれているのだろうが、確かに妙にマニアの琴線に触れる部分があるんだよねえ。(それにしても、本の雑誌・関口は褒めすぎ)
●6960 本当の仕事の作法 価値観再生道場 (対談) 内田 樹・名越康文・橋口いくよ (メディ)☆☆☆
何だか如何にも「ダヴィンチ」という感じの軽いノリで、こっちはのれなかった。特に橋口いくよ、という作家?は何か違和感を感じて気持ち悪かった。名越も同世代で、サブカル体験は重なるが、どうにも違和感がある。
内田の対談本には、時々全然のれないのがあるのだが(養老や橋本との対談)どうも、個人的には内田は実務(仕事)と関係ない世界について、じっくり読んだ方が共感する。
今回は、今の若者がまず「ミニマムを聞く」というのは(ようは、まず何日休めるか、何点必要か、を確認し、ちょうど点数をとる=必要以上のことをやらないのが利口=クール)まさに実感で、思わず笑ってしまったが。
●6961 GE 世界基準の仕事術 (ビジネス) 安渕聖司 (新潮社) ☆☆☆☆★
御存じのとおり、GE(ウェルチ)マニアだった僕は、20冊以上のGE本を読んできた。しかし、さすがにウェルチ引退後はあまり新刊も上梓されず(僕が知らないだけかもしれないが)御無沙汰していたのだが、本書は今=イメルト時代のGEの姿を知るには最適の傑作と感じた。
まず、著者の履歴がユニークだ。三菱商事、UBS証券を経て、何と50歳の時にGEに転職、そして一年後にGEキャピタル日本法人のCEOに抜擢されるのだ。
そういう履歴だからこそ、GEに対する素直な驚きが多々描かれているのに、僕のような20年以上GEを追いかけているフリークにとっては、あっけないほど古い(ウェルチ時代の)記述がないのだ。
だからこそ、GEの不易流行が良くわかる。事業売却やリーダーシップ、人材開発への執念とも言うべき取組は変わらないが(ただし、その裏付けの思想は、外部から来た著者の目で驚きを込めて丁寧に語られ、圧倒的に説得力がある)
例えばウェルチの定めたGEバリューは、グロース・バリューに見事にソフィストケートされ、ワークアウトも当時の僕の理解とはかなり変わっている。そして、何より新しいイニシアティブとして、人材ワークアウトとでもいうべき「アシミレーション」や「スキップレベル」等々興味深いものが満載だ。
申し訳ない、ウェルチが引退してもGEの進化は止まっていなかった。いや、さらに凄味を増したような気さえする。時代はウェルチ・藤森コンビ?からイメルト・安渕に既に変わった。
やはり僕らは、アップルやグーグルの本もいいが、まずはGEを勉強すべきだろう。(アマゾンはWMの延長で勉強すべきと思うが)
内容に関して、他にも書きたいことがいくらでもあるのだが(例えば何回も出てくる「エレベーター・スピーチ」)最後に驚きを通り越して驚愕したのは、著者が学生時代僕と同じミステリ・マニアの団体「SRの会」に入っていた、という記述。これは、本当に驚いた。意味の解らない人には申し訳ないが。
尚、これだけ褒めながら採点が満点でないのは、ちょっとGEという会社の描写が素晴らしすぎるから。世の中、そんなに単純ではないはず。でも、間違いなくここにはひとつの「あるべき姿」がある。
●6962 無縁旅人 (ミステリ) 香納諒一 (文春社) ☆☆☆☆
「幸」に続いて、書下ろしの警察(刑事)小説。今回のテーマは「ワーキングプア」であり「ネットカフェ難民」である。相変らず結構地味な刑事たちの物語だが、じっくりと読ませる。
ただ「幸」に比べると、インパクトが足りないなあ、と正直思っていたのだが、途中で出てくる「伊達直人」の使い方など、やっぱりうまいなあ、と感心してしまった。特に犯人が特定される「貝殻細工のストラップ」に関しては、「砂の器」の「紙吹雪」を思い起こすほど、印象的であった。(ちょっとほめ過ぎかなあ)
トリックは、実は腕貫探偵でも書いた基本パターンなのだが、意外性はそれほどでもないが、うまくはまっていると思う。やはり著者の実力は本物だ。今年は少しづつ読み込んで、全巻制覇を目指したい。
●6963 仮面同窓会 (ミステリ) 雫井脩介 (幻冬舎) ☆☆☆
昨年頭に来たのは、せっかく入手した「検察側の罪人」のネット(アマゾン+読書メーター)の書評が最悪で、結局読むのをやめたら、年末各種ベストにはいってしまったこと。やっぱりネットを信用してはいけないのだろうか。(僕は荒筋を読んで嫌になったので、ベストの方がおかしい気もするのだが、まあ負け犬の遠吠え)
で、本書もまずアマゾンでは☆2つが二人で、読書メーターも酷評ばかり。で、やっぱり躊躇していると、読書メーターには、高い評価も出てきた。で、今度は後悔しないように、一気に読んでみた。
結果は微妙。書評に複雑でわかりにくい、というのが多かったが、それはあり得ない。複雑なのではなく、描かれた内容が(雫井脩介という作家のイメージが変わるほど)ぶっ飛び過ぎなのだ。
本書には2つの大きな罠・ギミックが仕掛けられているのだが、そのひとつの解決には、唖然としてしまった。よくこんなバカなことを考えるもんだ。(僕は「霧越邸」を思い起こした)
これでは、西澤流ダークワールドを飛び越え、飴村トンデモワールドまで届いてしまった。したがって、本書は単なる駄作ではなくバカミスであり、まあこんな作品を評価する人がいてもかまわない。(付き合いたくはないが)
●6964 金色機械 (伝奇SF) 恒川光太郎 (文春社) ☆☆☆☆★
恒川と言えば「夜市」「草祭」を読んだが、うまいとは思っても、幻想・ホラーというジャンルにそれほど興味がないので、そのままだった。(確かWさんが好きだったような)
本書は北上が褒めていたのだが、出遅れてしまいあきらめていたら、その後騒がれなかったせいか予約が伸びてなくて、簡単に借りられた。で、結論は傑作だ。今年度だけでなく伝奇小説のオールタイムベスト級の大傑作だ。
イーガンやチャンも素晴らしいが、やはり本書のような、半村良の衣鉢を継ぐ日本的な伝奇SFに対しても、もっと光が当たるべきだ。ウォルター・ミラー・ジュニアの「黙示録3174年」と比較したくなるほど、本書は壮大なクロニクルSFであり、その狂言回しが「金色機械」なのだ。
また、その時制を自在に操るプロットの妙にも、うならされる。いくつかの複雑な謎や家系やつながりを、これまた複雑な時制の中で、ここまで解り易く描くことのできる筆力には、感嘆するしかない。
こういう題材は、最近なら夢枕獏にあったが、申し訳ないが筆力が違う。特にラストの処理の哀愁には、目頭が熱くなってしまった。ただ、せっかくここまで壮大な物語なのに、ちょっと小さくまとめた気もして、満点にはしなかったのだが、それは僕のカテゴリー・エラーのような気もする。
とにかく恒川のイメージを全く変えてしまう、今年のSFナンバーワン候補の傑作だ。ちょっと本が分厚いが、文章は平易で一気に読める。ぜひ、少しでも多くの人に読んでもらいたい傑作だ。
●6965 百舌の叫ぶ夜 (ミステリ) 逢坂 剛 (集英文) ☆☆☆☆
テレビドラマ化、ということで図書館に予約しようとしたら、出遅れてしまったようで、自腹で買ってきた。86年の作品で、逢坂は同年「カディスの赤い星」で直木賞を受賞し本書と合わせて、彗星のように登場したのだった。もう30年近く前だが。
ただ、個人的にはその前に81年に「裏切りの日日」を読んでいる。ハードボイルドとパズラー(トリック)がごちゃまぜになった、当時は珍しい変な作品で妙に記憶に残っている。
ずっと公安シリーズの第一作は「裏切り」だとばかり思っていたのだが、テレビでは無視されているようで、今回確認したら主人公が違っていて、ウィキではシリーズ序章となっていた。
で、本書なのだが、「カディス」も傑作だが、当時は本書に驚愕してしまい、逢坂の代表作としてはこちらをずっと挙げてきた。しかし、時の流れは恐ろしいもので、本書の最大のウリであった百舌の正体も、当時は驚愕しただろうが、今ではこういうパターンはいくらでもあり、残念ながらそこまで驚かなかった。(まあ、途中でやや思い出してきたせいもあるが)
もうひとつのウリである、意外な犯人もまた途中で予想がついた。(これも思い出したせいかも)やはり、解説で船戸が変化球と呼んでいる作品は、時の浸食を受けやすい。そして、つくづく思うのは、たぶん当時僕は公安警察というものが良くわかっていなかったということだ。
シリーズ6冊、全部読んだはずなのだが、本書も含めてほとんど記憶がないのにはあきれてしまう。TVのキャスト、倉木=西島、大杉=香川、美希=真木、というのはドンピシャだと思う。(しかし、本書のトリックをどう映像化するのだろうか。何か夢絡みで全然筋が違っている気もするのだが。写真がICチップに変わっていことに意味はあるのだろうか)
はてさて、残りの作品を自腹で再読するべきか、大いに悩むところである。(第二回も観たが、伏線がかなり丁寧にはっている。また百舌と美希が遭遇するシーンも活字と違う面白さ。原作を読んだ人間に丁寧な伏線の妙にプラスして原作にない謎を描くことができれば、大傑作と言えるだろう)
●6966 刹那の街角 (ミステリ) 香納諒一 (角川文) ☆☆☆★
本書は、警視庁捜査一課の通称中本軍団の活躍を描く短編集。著者は島田一男をイメージしながら書いた、とのことだが、個人的には藤原審爾の「新宿警察」と似たテーストを感じた。
作品的には誘拐事件をトリッキーに描いた「知らすべからず」が抜群の出来。まあトリックはこのところ何回か書いた基本形の応用だが、その処理のセンスが抜群だ。猫にはまいってしまった。
その他表題作や「女事件記者」「十字路」あたりも読ませるが、正直人情話がかなり入っていて、一時の刑事ドラマのノリで、ミステリとしての味が淡泊で、僕としてはイマイチ評価しずらい。やっぱ、警察小説は「第三の時効」によって、そのハードルが一気に上がってしまった気がするなあ。
●6967 ナイン・ドラゴンズ (ミステリ) マイクル・コナリー(講談文)☆☆☆★
このところ、ハラーやマカヴォイの作品が続いていて、ひさびさのボッシュの長編。タナーにも、サムスンにも、ボッシュにもあるのに、スカダーにないものはななに?というなぞなぞ(今作ったんだけど)の答えは「娘」。
ただ、ボッシュの娘の存在は、このところ出番のなかった元妻エレノア以上に、すっかり忘れていた。そして、解説で予告されるボッシュ最大の事件。まあ、正義の味方にとって家族の命というのは最大のアキレス腱。(確かMIでもそんな話があった)
物語は一見地味な酒屋の主人殺しから、いきなり舞台が香港にとび、一転誘拐された娘マデリンの奪回劇となる。まさに、ボッシュ版「96時間」という感じで、スピーディーな展開には驚くが、残念ながら「96時間」が丁寧に思えるほど、展開が雑で大雑把。
あらすじに書かれた「ボッシュの人生最大にして、最悪の悲劇」が下巻の冒頭で起きてしまうが、それにしては描写が淡泊すぎる。やはりこれはないだろう。(余談だが、何となく次の「新宿鮫」でも、同じようなことが起きる気がする)
ラストの二段階のひっくり返しなどは、さすがコナリーという感じだが、やっぱりずっと苦悩に満ちたボッシュの世界と付き合ってきた者にとっては、このノンストップの物語は、違和感ありまくりの異世界だ。
まあ、本作を褒める人がいてもいいけれど、僕はちょっと評価できないなあ。相変らずのページタナーぶりには感心するし、後半ハラーやマカヴォイまで登場するのも楽しいが。
●6968 雨のなかの犬 (ミステリ) 香納諒一 (講談文) ☆☆☆★
「刹那の街角」と同じく、初期の短編集。当時のレギュラーキャラクターだった、探偵碇田が主人公のハードボイド短編集。ただし、今の著者の充実ぶりを知るものにとっては、申し訳ないが本書は若書きであって、必要以上に肩に力が入っていて、文体が過剰にスタイリッシュだ。
そして、その割にはミステリとしてのひねりが足りない。まあ、そうは言っても、表題作や「黄昏に還る」「待つ」といった作品は結構楽しめたのだが。
●6969 私に似た人 (ミステリ) 貫井徳郎 (朝日新) ☆☆☆
貫井の新作は、がらりと趣向を変えたシリアス路線。小口テロが日常茶飯事となった日本において、テロに関わった人々(加害者、被害者、傍観者)を「乱反射」のようにオムニバスで描く、という正直言って僕が嫌いなパターン。
このパターンを貫井のようにうまい作家が使うと、必ずある程度の出来にはなってしまう。ただ、今回もそうだが、読了後結局何だったんだよ、という感じになりがち。
よほどの独創性がないと、表層的な作品に堕してしまう。そう、伊坂の作品のように。(このダールのパロディの題名もやめてほしい)
●6970 代 償 (ミステリ) 伊岡 瞬 (角川書) ☆☆☆
北上絶賛の伊岡の「教室に雨は降らない」を読んだとき、うまいなあ、とは思ったのだが、どこか違和感を感じてしまい、それ以上読み進まなかった。今回、偶然新刊が手に入ったのだが、これはもう違和感ありまくり。
イヤミスという言葉は使いたくないが、よくもこんな嫌な話を書いたもんだ。で、それを読ませてしまう文体はやっぱりうまいのだが。
ただ、本書の場合嫌な物語以上に嫌だったのが、優柔不断で嫌になる主人公を、なぜか頭脳明晰や親友や、美貌の先輩たちが支える(無償の愛?)という、有り得ない設定。ちょっとこれは途中で耐えられなくなった。
●6971 知の武装 (政治経済) 手嶋龍一・佐藤優 (新潮新) ☆☆☆☆
副題:救国のインテリジェンス。二人の対談も三冊目。相変らず手嶋のラスプーチンにはちょっと引いてしまうが、内容はマスコミの表層的な記事に飼い慣らされたものにとっては相変らず刺激的だ。
安保としての東京オリンピック、飯島訪朝の謎、スノーデン事件の本質(プーチンがスノーデンを嫌っていることと、その本質には驚いた)、尖閣問題、TPP(日本政府のしたたかさにびっくり。やるじゃん)、話は変わってイギリス、ソ連のインテリジェンスの共通項、CIAとバチカンのインテリジェンス、そして日の丸インテリジェンスとして、感動的な石光真清の物語。
本書は佐藤がいるかもしれないが、全体にプーチンに詳しく、その凄味が十分伝わる。だからこそ、本当は今のウクライナ問題を語ってほしい。手嶋は時々テレビで見かけるが、深夜でもいいからテレビでやってくれないかなあ。
●6972 逆流・越境捜査 (ミステリ) 笹本稜平 (双葉社) ☆☆☆☆
待望のシリーズ第四弾。もはや堂場舜一や今野敏以上にいろんなシリーズを書きまくっている著者だが、隠蔽捜査と同じく越境調査シリーズだけは、きちんと読むことにしている。
裏金、パチンコ、公安とタブーに挑戦してきたシリーズが、今回挑むのは政治家。いいところついているし、今回は鷺沼、宮野、福富、井上に、紅一点彩香が加わり、なかなかいい感じ。
まあ、このあたりテレビ化を意識しているのかも知れないが、宮野=寺島進は動かせないとして、やっぱ福富も登場させないと、今回はストーリーが成り立たない。そして、これまで悪を悪で征する感じだった本シリーズは、今回全く逆の展開を見せる。
それが良かったのかどうかは微妙なのだが、やはり本シリーズには一読の価値はある。こうなったら、挫折した著者の山岳シリーズにも再チャレンジしてみようか。
●6973 刑事の約束 (ミステリ) 薬丸 岳 (講談社) ☆☆☆☆
夏目シリーズ第三作にして、「刑事のまなざし」の続編というべき連作ミステリ。今回はじっくり書き込んだのか「無縁」「不惑」「被疑者死亡」「終の住処」どれをとっても、高いレベルで読ませる。
ただ、厳しく言えばミステリとしては意外性が足りなく、著者の狙いもそこではなく、人情の意外性に力を入れているようだ。それはそれで悪くはないがやっぱり僕は、これだけだとやや物足りない。
そして、ラストの表題作は「約束」というテーマが、意外性を狙いすぎて空回りしたきらいがある。というわけで、やや甘い評価だが、薬丸にしては過剰過ぎない点を、逆に今回は評価してみた。
●6974 暗い越流 (ミステリ) 若竹七海 (光文社) ☆☆☆★
協会賞を受賞した表題作を中心に編まれた短編集。どうやらネットによると、ひさびさの若竹作品のようだ。五編のうち葉村晶シリーズ二作品が、冒頭と掉尾を飾るが、何と彼女ももはや四十歳。
まあ、そんなことはどうでもいいが、表題作も含めて、悪くはないがどうにも中途半端で突き抜けたものがない。ビターテーストというが、最近ではこのくらいでは驚かない。
●6975 弔い花 長い腕Ⅲ (ミステリ) 川崎草志 (角川文) ☆☆☆
文庫書下ろし。本書にて長い腕三部作完結。なんだけれど、結局このシリーズ第一作の魅力的な設定を、ニ、三作とうまく生かすことができなかった。本書も時制が現在と過去を行ったり来たりするわりには、ミステリとしての意外性が欠如している。
去年「疫神」が全く評価されなかったのには閉口したが、著者は間違いなく実力者だ。次作に期待したい。(このシリーズの設定って、キテレツ大百科ダークバージョンなんだよね)
●6976 蜩ノ記 (時代小説) 葉室 麟 (祥伝社) ☆☆☆
直木賞受賞作。著者の作品は、日経で縄田が一押しだった「秋月記」を読んだが、悪くはないが、あまりピンとこなかった。その後、著者は何度も直木賞を落選し続け、ついに本書で受賞。
というわけで、図書館に三冊もあったので、最近時代小説を読んでないなあ、と思って読みだした。乏しい時代小説の知識から感じたのは、藤沢周平の影響だ。ただ、藤沢に比べると、文体に艶がなく人物造形が物足りない。
結局、優等生の模範解答のような作品で、欠点はないが魅かれる部分もほとんどない。