読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

2014年 3月に読んだ本

●6938 機龍警察 未亡旅団  (ミステリ) 月村了衛 (早川書) ☆☆☆☆

 

 

待望のシリーズ第四作。しかし、前作のクオリティーを果たして維持できるのか、との思いは杞憂であった。本書もまた傑作である。

過去三作で、姿、ライザ、ユーリ、と三人の機龍兵搭乗要員の過去を描いてきて、今度はどうするのか?と思っていたら、特捜部の由起谷と城木の過去がテーマであった。舞台は前作に続いてロシア、チェチェンなのだが、さすが日本のトム・ロブ・スミス?手慣れたものである。

圧倒的な臨場感と人物造形で今回も一気に読ませる。なぜか、著者の他のシリーズでは感じないのだが、本シリーズの月村の筆力はもはや完成の域だ。それを理解した上で、敢えて言うなら、本書はあくまで今までの延長線の作品であり、そろそろ新しい飛躍が欲しい気もする。

まあ、贅沢な悩みではあるのだが、由起谷の過去はちょっと近未来ミステリにしては、古臭いのではないだろうか。城木の物語は、意外性もあってなかなか読ませるのだが、やはり次回はキャラクターの過去を超越した、もっと大きな物語を期待したい。

いや、当然そうなると思っているのだが。今回はほとんど出番のなかった、世界的な悪の組織?と、警察内部の敵、この2つの物語である。(しかし「黒い未亡人」って実在していたんだね)

 

 ●6939 彼女がその名を知らない鳥たち(ミステリ)沼田まほかる幻冬舎)☆☆☆☆

 

彼女がその名を知らない鳥たち

彼女がその名を知らない鳥たち

 

 

正直、最初の数十ページで本を投げ出した。それほど、ヒロインの十和子とその内縁の夫の陣治の造形は醜悪で、読むに耐えなかった。(陣治はまるで「九月」の服部の劣化バージョン)

超自己中女と下品お下劣男。グロテスクなシーンはほとんどないのだが、これなら心理的に立派なイヤミスである。しかし、ネットでも、前半はきつかったが読み通してよかった、という評価が結構あり、何とか気を持ち直して読み続けると、申し訳ない、今回はネットの勝ちだった。

十和子と黒崎、そして水野の関係は、それこそ吐き気を催すほど醜悪だが、後半物語に殺人が登場し、うだうだとした下水道の淀みの臭気漂う物語は、突然サスペンスフルなミステリに豹変する。

そして、そして最後の最後に、本書は何と究極の純愛小説であったことが分かるのだ。嗚呼。もちろん、その純愛の姿は、常識人には異形としか言いようがない。しかし、これもまたグロテスクなまでに変形はしているが、愛であることは間違いないのだ。

まさに、汚いはきれい、なのである。今回も沼田に脱帽である。もう一回読みたいとは思わないが。

 

 ●6940 痺れる (ミステリ) 沼田まほかる (光文文) ☆☆☆☆

 

痺れる (光文社文庫)

痺れる (光文社文庫)

 

 

著者の今のところ唯一の短編集。全体にレベルは高く、一筋縄ではいかない作品ばかりだが、冒頭の「林檎曼荼羅」が一頭抜けている。

痴呆症になった老女が、記憶をあちこち飛ばせながら語り続けて、最後にはとんでもない物語となる。その混濁した意識の流れが、僕には「あなたの人生の物語」の裏バージョンに見えてしまった。傑作である。(あ、ツツイの「敵」も想起した)

その他、「テンガロンハット」に笑い、「TAKO」のおぞましさに唸らされ「普通じゃない」「エトワール」あたりも、面白く読めた。ちょっとオチをつけすぎの作品もあるが。(たとえば「ヤモリ」や「レイピスト」、それに「TAKO」もそうだ)
 


 ●6941 無伴奏ソナタ (SF) オースン・スコット・カード (早川文)☆☆☆☆

 

 

図書館にある旧版が、文字が小さい上に汚れていて、読む気がしなかったのだが、今回新訳によって再版された。これも「エンダー」の映画化のおかげである。

まずは、その後の長大なるエンダー・サーガ(僕は「エンダーのゲーム」「死者の代弁者」「ゼノサイド」「エンダーの子供たち」「エンダーズ・シャドウ」と全部読んだつもりだったのだが、今調べたら、あと2冊あった)の原点である短編だ。

冒頭の「敵のゲートは下だぞ」のセリフに目頭が熱くなってしまう。なんだかんだ言っても「アルジャーノン」と同じ、完璧な短編だ。長編はその世界を膨らませただけで(何と短編ではバガーという言葉がでてこない)本質は全てこの短編の中にある。ビーンもメイザー・ラッカムもアンシブルも、何もかも懐かしい。

一方、名作と言われながらも未読だった表題作は、正直言って古臭くて、物足りなかった。あ、それから解説に素人を起用するのは、どうもねえ。カードをアシモフ、クラーク、ハインラインと比較されても、困ってしまう。

 

 ●6942 猫鳴り (フィクション) 沼田まほかる (双葉文) ☆☆☆☆

 

猫鳴り (双葉文庫)

猫鳴り (双葉文庫)

 

 

これは、ジャンル分け不可能な作品だ。ミステリでもホラーでもない。でも間違いなくまほかるの作品である。

捨て猫モンを巡る3つの中編が収められているのだが、第一話において、子供を流したばかりの信枝が、拾った猫を何度も何度も捨てようとするシーンには、その描写が淡泊であればあるだけ慄然としてしまう。そして、ラストの藤治のセリフに、ほっと深いため息をつくのだ。

第二話では、一話の後半にでてくる変な少女アヤメと、行雄という引きこもりの物語。ネコは脇役にしかすぎないのだが、その「絶望」を巡る物語は、深い印象を残す。

そして、逆に最後の物語は、これはもうモンの死の物語、と最初から解ってしまい、信枝の死という意外性はあっても、まほかるにしては予定調和に見えてしまった。

 

 ●6943 星新一 少しふしぎ傑作選 (SF) 瀬名秀明編 (集英社) ☆☆☆

 

 

正確に言うと、集英社みらい文庫という新書サイズの本。何と総ルビである。瀬名の方針で有名な作品はほとんどないのだが、読んでいてオチが全部わかってしまったので、きっと既読なんだろう。

正直、この年になって読む星の作品はちょっとつらい。(特に長めの作品)まあ「おおいでてこい」や「午後の恐竜」クラスなら問題ないのだが。(最近テレビで観た、星の作品集もひどかったなあ)

 

●6944 杉下右京の密室 (ミステリ) 碇 卯人  (朝日新) ☆☆☆
 
杉下右京の密室

杉下右京の密室

 

 

ミステリのノベラーゼイションを読むのは、学生時代友人に無理やり読まさせられた「刑事コロンボ」以来だろうか。(そういえば「ケイゾク」も読みだしたのだが、本当に描写が書割で、すぐリタイヤしてしまった)

まあ、それに比べればかなり読みやすく、作者の正体も鳥飼否宇だと聞いていたので、最後まで読み通すことができた。テレビとは関係なく、密室テーマの中編が二編収録されている。

「大富豪の密室」は、離島モノ。大がかりなトリックはまあ許せても、犯人の設定がパターン通りで、動機が全くダメ。(まあ、時々「相棒」でも、あんまりな動機があるが)

「屋上の密室」は、もう少し丁寧なつくりだが、トリックがちょっと無理でしょう。まあ、好感のもてる出来ではあるが、アマゾンの評価はちょっと高すぎる。ファンが書いてるんだろうけど。

 

●6945 腕貫探偵 (ミステリ) 西澤保彦 (実業日) ☆☆☆★

 

腕貫探偵

腕貫探偵

 

 

だいぶ遅れてしまったが、法月の「盤面の敵はどこへ行ったか」の影響で、読みたくなった「腕貫探偵シリーズ」を、やっとひさびさの大阪出張中に読み終えた。今や西澤の一番の売りのシリーズのようだが(シリーズ第五作が昨日上梓されたので、今日図書館に予約に行く予定)奇妙な安楽椅子探偵シリーズである。

名前も解らない腕貫さんとは「市民サービス課出張所事件簿」ということで、櫃洗市(人名と町名が相変らず読みづらいのは、何の拘りなんだろうか?まさか「大いなる助走」オマージュじゃないよね)のあちこちに出没しては、様々な市民の相談を受け、謎を解決する。

そして、その様々な市民の様々なシチュエーションの様々な謎が、安楽椅子探偵が陥りがちなワンパターンを避けているのは確かである。

いや、本書の場合あまりにもパターンが変わりすぎて「化かし合い、愛し合い」や「スクランブル・カンパニー」のような、ダークな作品を読むと、それが著者のある一面であることは理解しているはずなのに、やはりギョッとしてしまう。

また、西澤のパズラー短編に良く感じる、ミステリセンスの良さやロジックの確かさに反して、何かやりすぎというか、ボタンを掛け違えてる感というか、消化不良感が本書でも顕著な気がする。どこか、不必要にオフビートなんだよね。

やっぱ、この端正さの裏からついはみ出る過剰さが、西澤の本質なんだろうなあ。安楽椅子と言えば、西澤の敬愛する「退職刑事シリーズ」より、本書の方が僕は楽しめたが、やっぱり傑作と断言するには、何かひっかるんだよね。まあ、シリーズ全作読み切るつもりだけれど。

 

●6946 キアロクロース (ミステリ) 織江耕太郎 (水声社) ☆☆☆

 

キアロスクーロ

キアロスクーロ

 

 

聞いたことがない出版社から上梓された作品だが、本の雑誌で関口が褒めていて、つい読みだした。キアロクロースとは、戦後すぐに作られた政財界の大物・黒幕や各界のスター等のVIPが集まるクラブのこと。

その地下には、日本を動かす大物たちの会議室があり、そこで殺人がおきる。という話だが、何より本書のテーマは、戦後の原発行政の告発にある。その密談の場がキアロクロースなのだ。

しかし、読み終えて、何か消化不良というか、中途半端な思いが消えない。一応前半はまだ読ませるのだが、後半の復讐譚となると、思わせぶりな表現ばかりで話はどんどん拡散してしまい、で結局予想通り、というかあまりにも予定通りのラスト。

やはり、こういう重たいテーマに真剣に挑むなら、変にミステリなどにせず、きちんとNFで描くべきではないだろうか。まあ「レディー・ジョーカー」くらいのレベルなら許せるけど。

 

 ●6946 腕貫探偵、残業中 (ミステリ) 西澤保彦 (実業文) ☆☆☆☆

 

腕貫探偵、残業中

腕貫探偵、残業中

 

 

不思議な話だが、第一作より本書の方がミステリとしては完成度がかなり高い。(相変らず、時々あまりにダークなオチに慄然としてしまうが)

シチュエーション的には、今回は腕貫探偵のアフター5の話が多く、また探偵の恋人も登場し、二人の共通点がグルメということで、やたら食事シーンが多いのだが、それが本質的な違いに結びついたとは思えない。

6篇収められているのだが、冒頭の「体験の後」はトリックが鮮やか。まあ、何か仕掛けがあるのは気づくし、動機が納得できないが、いきなりショッキングな作品。

次の「雪のなかの、ひとりとふたり」は本書のベスト。一枚の写真に写った、天井に雪の積もった車からの推理が素晴らしい。まあ、トリックはある基本パターンの応用ではあるが。

「夢の通い道」は、僕の大好きな記憶(喪失)もの、だが解決があまりにもビター。これじゃ飴村ワールドじゃないか。怖すぎる。

というわけで、最初の三篇はかなり高いレベルだけれど、後半の3篇は悪くはないが、ちょっと落ちるかな。あ、最後の「人生いろいろ」は、良く考えたら探偵が電話でしか登場しない。それが、次の腕貫探偵が登場しない櫃洗シリーズ「必然という名の偶然」の前振りだろうか。

 

 ●6947 必然という名の偶然 (ミステリ) 西澤保彦 (実業文) ☆☆☆★

 

 

というわけで、腕貫探偵は出てこないが、櫃洗市シリーズとして登場人物が結構重なっている第三弾。内容は今までとそう変わらない(ということは、このシリーズ腕貫さんがいなくても結構成り立ってしまう?)のだが、不思議なことにミステリとしては本書が一番完成度が低く感じてしまった。

相変らず理屈っぽく、時々ダークなのだが、どうにもミステリとして、うまくまとまっていないんだよね。切り口はいいんだけれど、展開というか結末が強引すぎる。櫃洗=ヒツセン=必然、ということらしいけど、その必然性にこそ問題があるように感じる。

次は文庫書下ろしの「モラトリアム・シアター」で、図書館で入手は当分不可能。(在庫二冊なのに、僕の順番は20番目。たぶん半年以上待たなければならない)どうしよう?自腹で買うべきか。悩むなあ。

 

●6948 ユニクロ帝国の光と影 (NF) 横田増生 (文春文) ☆☆☆☆

 

ユニクロ帝国の光と影

ユニクロ帝国の光と影

 

 

羽田国際空港で柳井氏を見たことがある。イミグレから小走りに出てきた後を、スーツを着た女性(たぶん秘書?)がバタバタ追っかけるシーンを見て、イメージ通りやんちゃな人なんだなあ、と感じた。(同時に山田優も見かけたのだが、こっちは細くて背が高くて絶句だった)

で、ずっと気になっていた本書を、文庫化もあって読んでみた。著者の筆力はなかなか確かで、やめられずに一気読み。まあ、ユニクロ及び柳井批判は予想通りなのだが、筆者はあまり声高に叫ばずに、しかし読者にきちんと言いたいことを伝えることに成功している。

ただ、巻末の柳井氏のインタビューが結構いい内容で、今までの批判とかけはなれた人物像のイメージが強いのは、どう受け取ればいいのだろうか。このインタビューの分析だけは、著者にちょっと意地の悪さを感じてしまった。

(文庫化によって東京地裁の判決が載っているのだが、名誉棄損裁判はユニクロが敗訴していたんだ。もし、この記事・本がなかったら、今朝の日経のユニクロ1,5万人正社員化、の記事もなかったのかもしれない。やはりマスコミは大事なのか)

しかし、こんなことを書くと著者に怒られるのかもしれないが、個人的にはSPAというビジネスモデルの解り易い解説と、ユニクロとZARAの比較がツボだった。本社のまわりに工場と倉庫を集約するZARAのビジネスモデルは、アマゾン並みに斬新に感じた。

(中国で作ったジーンズを、いったん飛行機でスペインの倉庫に集めて、また飛行機で東京に送る、というのに驚愕。そうか、飛行機におけるバックホールなんだ)

また、GAPの衰退に関する記述も、量は少ないが興味深かった。

 

●6949 トライアウト (フィクション) 藤岡陽子 (光文社) ☆☆☆★

 

トライアウト

トライアウト

 

 

WEB本の雑誌で特集していて、その経歴の面白さ(と母校出身作家)につられて、本書を手に取った。(もともと報知新聞の記者だったのに、記者をやめてタンザニア?に留学し、帰国後看護学校に入り直し、作家デビュー。どうやら子供もいるらしいが、本書の可南子と同じくシングルマザーなのかは不明。こんな変な経歴は、永井するみ以来だ)

その経歴と同じスポーツ新聞の記者可南子がヒロイン。で、トライアウトの取材で出あった元甲子園のエース深澤との物語に、可南子の息子と(なかなか正体を明かさない)父親の物語が絡む。

WEBでの評価は非常に高く、さすが元新聞記者というべき、読みやすく癖のない文体なのに、正直言ってなぜか物語に集中できなかった。著者の経歴に比べるのは変だが、何か全体に予想外にあっさりしているんだよね。

著者のシャイネスかもしれないが、どうもそうでない気がしてしまう。このテーマをあっさり書かれてしまうと(特に深澤の言動が、思わせぶりな割に淡泊)どうも消化不良が残る。

息子に父親が誰か明かさない母親、というのは個人的には良くイメージできないなあ。あと、モデルが解りすぎるのも気になる。野村はともかく、古田は嫌な気がするんじゃないだろうか。

 

 ●6950 小さな異邦人 (ミステリ) 連城三紀彦 (文春社) ☆☆☆★

 

小さな異邦人

小さな異邦人

 

 

今のところ、著者の遺作というべき短編集。ということなので、テーマも質も玉石混交を覚悟していたのだが、逆にいかにも著者らしい捻ったミステリばかりで、やはり著者の本質はミステリ作家なんだ、と再確認した。

著者の経歴の初期と後期は読み込んでいるのだが、直木賞を受賞したあたりで、藤田などと同じく恋愛小説家になったと思い込んで、中期の作品がほとんど未読なのだが、もう一度きちんと読み返すべきかもしれない。

内容の目玉はラストの表題作らしいのだが、後期にやたら多くなった変な?誘拐ミステリの一遍であり、これまた良くこんな変なこと考え付くもんだ、とは思ったが、ミステリとしては評価しにくい。

00年から09年まで「オール読物」に掲載された作品ばかりだが(ということは他社からも作品集がでるかもしれない)「無人駅」や「風の誤算」や「さい涯てまで」は、まるで清張の作品かと思わせる面白さと古臭さ。

そして極め付きは「白雨」で、花葬シリーズを思わせる、との評価も多いが、このネタは著者お得意?であり、おいおいまたやっちゃったの?という感じかな。

 

 ●6951 タンポポの雪が降っていた(フィクション) 香納諒一 (角川文)☆☆☆☆

 

タンポポの雪が降ってた (角川文庫)

タンポポの雪が降ってた (角川文庫)

 

 

01年刊の著者の初期の非ミステリの短編集。(たぶん「ガリレオの部屋」に繋がる作品集)冒頭の表題作や何編かの作品は、少々若書きの感じが強い。また解説の吉田伸子が絶賛する「大空と大地」も悪くないが、そこまでとは思わなかった。

一番ずしんときたのはWEBでも評価の高かった「不良の樹」だ。そして「海を撃つ日」。これに「歳月」を加えると、僕は恋愛小説よりも、兄弟(兄妹含む)と親子の物語に魅かれたのだ。

そして、このテーストはかつての白川道のものであり、著者の個人的な(初期の)最高傑作は「ただ去るが如く」であったことを思い出した。いずれにしても、著者の実力はもっと評価されるべきだと強く感じる。

(去年の「幸」は、予想通り年末ベストでは全滅。まあ、題名がひどすぎたのかもしれないが)

 

●6952 ディープエンド (ミステリ) フレドリック・ブラウン (論創社) ☆☆☆

 

ディープエンド (論創海外ミステリ)

ディープエンド (論創海外ミステリ)

 

 

何と、あのフレドリック・ブラウンの40年ぶりの新訳。ブラウンには未訳の作品がふたつあって、そのひとつが本書で(もう一冊は、エド・ハンターシリーズ)マニアの間では、幻の傑作として評判だったらしい。(本当かな)

僕はブラウン=創元文庫のイメージが強すぎて、ハードカバーには妙な違和感がある。で、内容なんだけれど、これは短編ネタだと思う。長編にするには、意外性が足りない。

そして、何よりダメダメなのは主人公の恋愛?部分。これは、全部カットすべきでしょう。(当時はこれで通用したのかもしれないけど)そうすれば、奇妙な味の短編にならなったかもしれない。やはり幻の傑作など、そう簡単にはないのだ。

 

 ●6953 バカに民主主義は無理なのか? (思想哲学) 長山靖生 (光文新) ☆☆☆

 

バカに民主主義は無理なのか? (光文社新書)

バカに民主主義は無理なのか? (光文社新書)

 

 

普通だったら、さすがにこんな題名の本は手に取らないのだが、著者はSF方面の人であり、傑作「戦後SF事件史」の作者でもあることから、逆にどんな内容か気になって、つい読みだしたが、これは失敗。

正直、個々の話の内容は解らないでもないが、全体に統一感がなく、何が言いたいのか良く見えない。おじさんの(ちょっと知的な)繰り言、という感じ。

特に第2章と第4章は、倫理社会と日本政治史の教科書丸写し、という感じで読んでいて、飽きてきた。

 

 ●6954 二歩前を歩く (ミステリ) 石持浅海 (光文社) ☆☆☆

 

二歩前を歩く

二歩前を歩く

 

 

何か石持は迷走しているなあ、と強く感じてしまった。本書はある会社の小泉という研究員が出くわす、オカルト現象の謎を解く連作短編集。なのだが、何とHOWは全く無視して、WHYに特化しているのだ。

まあ、それもひとつのアイディアかもしれないが、個人的には、これは禁じ手じゃないのか、と感じてしまう。短編集の中に、そんな作品が一編混じってるレベルなら、面白いかもしれないけれど、全部このパターンでは、リアリティーも何もあったものではない。

 

 ●6955 満 願  (ミステリ) 米澤穂信 (新潮社) ☆☆☆★

 

満願

満願

 

 

冒頭の「夜警」がなかなか渋い出来で、おお米澤まで警察小説か、と思ったら、ノンシリーズでテーマもバラバラの短編集でちょっとがっかり。

でも次の「死人宿」も、とても古典部や小市民シリーズの作者とは思えない大人の文体で、さすが米澤は実力者だと再確認したのだが、次の「柘榴」がいけない。これは、ラノベ・ダークテイスト全開で、僕の好みではない。

さらに続く「万灯」はオチは面白いがリアリティーがなく、オカルトテーマの「関守」は意外性が足りない。で、最後の表題作は、よくこんなことを考えるなあ、という意外なトリックではあるが、ちょっと無茶な気がしてしまう。

というわけで、期待値が高かったので、残念ながら物足りない出来。

 

 ●6956 炎の影 (ミステリ) 香納諒一 (ハル文) ☆☆☆★

 

炎の影 (ハルキ文庫)

炎の影 (ハルキ文庫)

 

 

既に書いたが、実力者香納諒一をきちんと読んでみようと思って、関口が解説で絶賛している本書(「幻の女」のすこし後の作品)を手に取った。(既に著者の作品を十六作も読んでいたので、年内に全巻制覇を目指そうと企んでいる)

かなり長い作品なのだが、脇役までキャラクター造形が良く出来ていて、あっという間に読み終えた。御巣鷹山ジャンボ機墜落事件が隠し味で効いていたりして、なかなか満足できる出来なのだが、何か物足りなさも感じる。

結局この小説の本質は、関口も書いているように「任侠小説」なのだ。(西部劇でもいいかもしれない)で、「任侠小説」としては本書は、長く複雑すぎるのだ。ここは白川の「海は涸いていた」みたいに、もっとシンプルに描いてほしかった。

 

 ●6957 ジェフ・ベゾス (ビジネス) ブラッド・ストーン (日経B) ☆☆☆☆ 

 

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

 

 

副題:果てしなき野望。ゲイツジョブズ、に続くIT界の神の座は、どうやらペイジでもザッカーバーグでもなく、ベゾズで確定のようだ。本書はそのベゾスの伝記の決定版、ということらしい。

正直ベゾスのIRに対するスタンスを考えると、その伝記に期待するのは難しい。しかし、本書はその厳しい?状況の中で、まあ頑張ったのではないだろうか。単なる礼賛本に堕することなく、例えば第10章「ベビー用品をめぐる仁義なき戦い」などは独自の取材で、アマゾンのえげつなさ(恐ろしさ)を抉り出していると思う。

ただアマゾンの成長の物語としては、それほど目新しい内容はない。後半の今話題のクラウドの先駆けAWSや、キンドル誕生の物語はさすがに面白いが、前半は米国流のSCMのいい加減さや、人間関係のギスギス感が圧倒的で、これに比べればユニクロなんてかわいいものに感じてしまう。

結局そんな混沌の中から、WMに続く世界制覇を目指す流通業が誕生できたのは、創業者の先を見通すビジョンと、ぶれない頑固さであることは間違いない。しかし、本書を読めばそんな美辞麗句の裏の現実も良くわかるし、ビジネスとは結局弱肉強食の戦いである、というシンプルな本質が炙り出される。

しかし、僕の本書のツボはまたしても本質からずれているが、アマゾンとWMの相似であった。そもそも、ベゾスはサム・ウォルトンを尊敬していながら、企業文化(顧客視点、価格へのこだわり、質素倹約等々)だけでなく、人材を次々引き抜いて、ついにはWMから訴えられる、というのはあきれてしまう功利主義だ。

しかも、彼の愛読書「私のウォルマート商法」の「優れたアイディアを競争相手から拝借する」という文章にアンダーラインを引いて、経営幹部に回覧したというのだから笑うしかない。

また、ベゾスがリー・スコットのベントンビルの実家に招かれるシーンも興味深い。(スコットの妻のリンダは、ベゾスの大ファンだという)全てを詳細に理解する必要はないが、次世代のリーダー最右翼に飛び出したアマゾンの全体像をイメージするには、本書はある程度役に立つだろう。

僕もアマゾンの強みをSCM、フルフィルメントだと思っていたが、鈴木さんのいうアルゴリズムの凄さも少し理解できたような気がする。そして、その象徴がAWSではないだろうか。(今日の日経で特集されていたけれど)

 

●6958 モラトリアム・シアター produced by腕貫探偵 (ミステリ) 西澤保彦 (実業文) ☆☆☆★

 

 

シリーズ第四弾は、文庫書下しの長編ということで、結局自腹で購入。腕貫探偵でどうやって長編を描くのかと思っていたら、彼は裏に引っ込んで、やはり女大富豪探偵月夜見ひろゑが登場。

で結局本書は、良くも悪くも西澤ミステリの典型のような作品。個々のロジックへのこだわりは面白いのだが、全体にバタバタと複雑で(乱雑かな)構築美がない上に、今回もダークテイスト全開なのだ。

最後のどんでん返しは、さすがにある程度気が付いてしまった。大富豪探偵の必然性が、ここにあったのだ。