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2013年 12月に読んだ本

 ●6873 書楼弔堂 破暁 (小説) 京極夏彦 (集英社) ☆☆☆★
 
書楼弔堂 破暁

書楼弔堂 破暁

 

 

京極堂の新作を待ちくたびれている間に、新しいシリーズが届いた。正直、著者の他のシリーズや時代小説には惹かれないのだが、今回は明治の古本屋が舞台、ということで、京極堂のテーストを感じ、期待して読みだした。

主人公の高等遊民は、関口より能天気で、古本屋の主人は京極堂を思わせる。(中禅寺の先祖と思ったら、最終話を読んだ限りでは違うみたいだ)ただ、客の一人一人(有名人)に唯一の本を薦めるという物語は、京極版日常の謎、という感じだが、如何せん少々くどい。

勝海舟がでてきたあたり、期待したんだけれど、やっぱりこれでは、素直に面白かったとは言えないなあ。(ネットでは、京極の他の作品の登場人物が大勢出てきたらしいのだが、正直僕には理解不能)

 

 ●6874 五峰の鷹  (歴史小説安部龍太郎 (小学館)  ☆☆☆★

 

五峰の鷹

五峰の鷹

 

 

直木賞受賞後第一作。またしても海賊の物語なのだが、歴史小説の難しさを感じた。一応戦国初期の時代設定なのだが、中盤までは有名な武将もほとんど登場せず、単純な時代小説として読むしかなかったのだが、正直キャラクター設定が薄っぺらくて(善男善女ばかり)物語にのれなかった。

後半時代が動いて、元就や信長が出てくると、やっと物語に勢いがでるのだが、結局最後は息切れしてしまった感じか。歴史小説で戦国時代と幕末維新が面白いのは、やはり魅力的なキャラクターが最初から準備されているからだろうか。

本書は著者がずっとテーマとしてきた、ポルトガルとの南蛮貿易に関して違った視点から取り組んだとも言えるが、ちょっと中途半端な物語になってしまった気がする。

 

 ●6875 リクルートを辞めたから話せる、本当の「就活」の話 (ビジネス) 太田芳徳 (PH新) ☆☆☆☆
 

 


いかにも際物っぽいタイトルだが、リクルートらしい骨のある本である。もちろん僕は就活ではなく、ビジネスマンの立場で本書を読んだ。

企業が学生に求めるのは「突き抜ける経験」(金井先生の「一皮むける経験」と同じと説明されている)と「論理的に物事を考え話せること」とし、前者ではアルバイト先でいろんな目標を立てさせ成功体験をつませる。

後者はエッセイを徹底的に書かせ続ける、というのは、就活だけでなく、(残念ながら?)社内トレーニングにおいても、なかなか的を射ていると感じた。

もちろん、著者の意図は僕の勝手な読み方とは違うところにあるので(大学の就活担当者が、自ら経験していないことを無視して学生に教える、というとんでもない不毛な作業を繰り返している、という告発?)細かいところでは異論もあったが、上記の本質は深く考えさせられてしまった。

研修で成果を出すには、実務での成功体験がキーであるならば、そもそも研修は何のため?実務以外に、突き抜けた経験を与えることは可能なのか?そもそもそれに意味があるのか?

●6876 ポーカー・レッスン(ミステリ)ジェフリー・ディーヴァー(文春文)☆☆☆☆

 

ポーカー・レッスン
 

 

恒例の年末ベストもほぼ出揃ったが、国内があんまりなんで(文春の「教場」はないし、このミスの「ノックスマシン」なんて、マニアじゃなかったら意味解らないだろう?)目立たない?が、海外はもはや恒常的に好みとずれてしまっている。

で、安パイとしてはデイーヴァーとコナリーになってしまう。本書は「クリスマス・プレゼント」(06年のマイベスト)に続く第二短編集だが、正直前作の驚きはない。もちろん駄作というわけではないのだが、いくら職人芸と言っても、ここまでワンパターン?にひっくり返されると、解ってしまうし、飽きてくる。

作者は結構楽しんでるみたいだけれど、まとめて読まされる方はねえ。まあ、ここまで徹底されると(後期のクイーンの短編のような、パズルそのものの作品もある)感心するしかないが、これまた今年のベストにはしたくないなあ。(今更、分厚いキングを読
む気にもならないし)

 

●6877 幻 夏 (ミステリ) 太田 愛 (角川書) ☆☆☆☆

 

幻夏 (角川書店単行本)

幻夏 (角川書店単行本)

 

 

デビュー作「犯罪者」は力作だったが、残念ながら食品会社がこんな犯罪を犯すはずがないという一点で評価がし難かった。第二作の本書も、またも同じパターン。

小説としてのリーダビリティーは抜群だし、冤罪の告発という動機=テーマ設定も骨太で悪くない。誘拐される少女の造形や、その家族のエリートたちの自分勝手な論理もリアルだ。

特にラストのTV番組を活用した盛り上がりは「模倣犯」や「犯人に告ぐ」を思わせる迫力がある。(それにしては結末がちょっと地味なのだが、終章のリリシズムがカバーしている)

しかし、本書にもまた、あまりにも大きな瑕疵があるのだ。しかも、冒頭に。23年前のある事件の関係者(少年)が、成長して刑事になり、偶然今起きている事件の担当として、その2つの事件のつながり(共通の記号)に気づく、これはいくらなんでもありえないだろう。

しかし、この物語はその偶然がないと成り立たないのだ。細部には著者らしい(「相棒」らしい)こだわりの論理(例えばオーセベリ号の一等客室の件や、ランドセルの中身の件、等々)が良く出来ていて、なかなか好みなのだが、やっぱりこの偶然は認めるわけにはいかないなあ。

TV脚本と小説では、僕のリアリティーに対する許容範囲が違うのだろうか。

 

●6878 第三の時効 (ミステリ) 横山秀夫 (集英文) ☆☆☆☆★

 

第三の時効 (集英社文庫)

第三の時効 (集英社文庫)

 

 

このところ、どうも良いミステリと出あわない上、年末ベストの内容が納得いかない結果ばかり(去年の「64」「機龍警察」「ソロモン」は凄かったのに)で、嫌になっていたところに本書が目について、つい読みだしたらやめられなくなった。

まあ「この警察小説がすごい」ベスト1の作品だから、当たり前なのだが。しかし、ひさびさに読み返して、新たに気付いた点も多い。

まず、当たり前なのだが、本書はそれまでの著者の作品と違って、刑事が主人公である点。普通はこれが当たり前なのだが、横山の場合はこっちが異色に感じてしまう。

そして「64」のインタビューで著者が語っていた「主人公に負荷をかける」という創作スタイルが、本書を読むことで良く解った。本当に登場人物に、これでもかと負荷がかかり極限状況に追いつめられ、そこからサスペンスだけでなく、人間心理の奥底の本質が炙り出されるのだ。だから深い。

ただ、こうやって読み返すと、文章は削りに削ってかなりシンプルだ。そのせいか、少し説明不足というか、かなりあぶなっかしい作品もある。「ペルソナの微笑」や「沈黙のアリバイ」は、ちょっと無茶な展開だし、何より表題作もこんなこと本当に可能なのか、正直疑問が残る。(そのあたりの批判もWEBに結構あるが)

しかし、僕はエンターテインメントのけれんとして、許容範囲としたい。その読者を驚かせようとするサービス精神に脱帽するしかない。初読時は確か「密室の抜け穴」がベストだったが、今回は「囚人のジレンマ」をベストとしたい。ライバル関係の裏の暖かさを、甘さを抑えてうまく描いていると思う。「64」の次は、本書の続編を切に希望。

 

 ●6879 大山康晴の晩節 (NF) 河口俊彦 (新潮文) ☆☆☆☆

 

大山康晴の晩節 (新潮文庫)

大山康晴の晩節 (新潮文庫)

 

 

何で読みだしたのか定かではないのだが、これは掘り出し物。面白くって一気に読んだ。将棋と言えば、先崎学大崎善生のNFを読み漁った時期があったが(僕はこういう天才たちの物語が結構好きなのだ)本書は大山の晩節に焦点をあてながら、将棋界の変遷を見事に描き出す。

何より、棋譜が全く読めない僕も一気に引き込まれる文章が素晴らしい。そして、そこで描かれる大山の生々しい巨大な姿には、恐れ入るしかない。現場感覚の多くのエピソ
ードには、素晴らしいリアリティーがある。

しかし、WEBでいろいろ調べてみると、著者に関しては毀誉褒貶いろいろあるようだ。(「月下の棋士」の原作者というのには、驚いたが)

しかし、棋士としては平凡であった著者の文章が非凡であることだけは、間違いない。例えその素晴らしさが、伝説を意識的に作り上げたとしても、一読者として僕はOKだ。

 

 ●6880 北条早雲 青雲飛翔篇 (歴史小説) 富樫倫太郎 (中央公) ☆☆☆☆

 

北条早雲 - 青雲飛翔篇

北条早雲 - 青雲飛翔篇

 

 

「軍配者」で培ったノウハウをもとに、今度は本丸を描きたした。ということは、この後信玄、謙信も描くのか。ただ、本書の続編が15年上梓予定とか。このペースじゃ三人描くには何年かかることか。

早雲に関しては、司馬の「箱根の坂」は、その有り得ない歴史(あまりにも遅咲き)をきちんと説明できていないし、何より物語として(作者の年齢のせいか)躍動感がなく物足りなかった。

本書は後者に関しては言うことがない。相変らず、一気に読ますリーダビリティーには感心するしかない。ただ、物語は始まったばかり、という感じもあって、まだまだきちんと評価はしずらい。

果たして、「軍配者」にどんな上積みがあだろうか。(伊東潤も新作「黎明に起つ」で早雲を描いていて、こちらは「ふたり道三」のように、早雲の生い立ちの謎に迫っているとのことなので、ぜひ読み比べてみたい)

 

 ●6881 瓦斯灯  (ミステリ) 連城三紀彦 (講談社) ☆☆☆☆
 
瓦斯(ガス)灯

瓦斯(ガス)灯

 

 

連城の訃報はショックだった。これで、栗本、泡坂、と僕にとっての「幻影城」作家は全滅である。(島崎は元気みたいだが)そういうときに、ちょうどうまく本書を見つけた。

84年、直木賞受賞直後の短編集で、なぜか未読なのだが、「戻り川」「変調」「華やかな喪服」と同じ黒の装丁が懐かしい。(たぶん、直木賞受賞作を読んで、著者はミステリ作家ではなくなった、と勝手に思い込んでいたんだろう)

冒頭の表題作は、イマイチ安蔵の気持ちが理解できなかったが、続く「花衣の客」に驚いた。いったい糞真面目な顔して、何という小説を書いているのか。(まさか、こんな妖艶な作品が、○○ー○とは)これぞ連城というトンデモ作品。(何せ今のところ、最後の長編があの「造花の蜜」)

続く「炎」「火箭」は、まあ平均作だが、何と本書の最後には、あの「親愛なるエス君へ」が収録されていた。(そうか、これが元本だったんだ。僕は確か綾辻の編んだ傑作集で読んだはず)

おいおい、こんなところに入れたら、浮きまくりだろう。でも、だからこそ、連城なんだろうが。合掌。

 

●6882 人生の棋譜、この一局 (NF) 河口俊彦 (新潮社) ☆☆☆☆

 

人生の棋譜 この一局

人生の棋譜 この一局

 

 

さっそく図書館で見つけて読みだしたが、やっぱり面白くて一気読み。ちょうど90年代前半を描いているのだが、日本経済のバブル崩壊と同じく、将棋界にも激震が走り、怒涛の時代だったようだ。

まず、升田、大山の二大巨頭が相次いで亡くなり(この大山逝去の部分が前作と重なるのだが、僕は逆にそこが興味深く読めた。こっちの方が先に書かれているので、著者の編集作業が良くわかるのだ)中原と米長の最後の決戦があり、谷川を挟んでいわゆる羽生を中心とした新人類が台頭してくる時期。

本書は正に羽生の七冠の前年で幕を閉じるのだ。新時代を暗示して。素人目だが、著者はやはり抜群の文章で、バランス感覚に秀でている。旧世代の迫力に憧憬を維持しながらも、新世代を暖かく(良い意味で批判的に)見守る。

ちょうど、先崎や大崎が描いた時代の前の激動が、ビビッドに理解できた。著者は自称四流であってもやはり勝負師。例えば村山の才能に早くから注目していたり、勝負の流れを、時代を読むプロの眼が素晴らしい。素人には見えない、暗黙知の世界を見事な文章で垣間見せてくれるのだ。

たぶん、いろんな批判のように、本書の物語には河口のフィルター、世界観、ひょっとしたら願望がはいっているのかもしれない。しかし、僕は別に将棋研究家ではないので、彼の世界観を存分に楽しむことができた。まさに将棋界の司馬遼太郎である。

ただし、残念ながら著者には作品が少ない。著者の本領は長期連載の「対局日誌」にあるんだろうが、図書館で覗いてみたら、棋譜ばっかりでさすがに二の足を踏んでしまった。どうしようか。

 

●6883 日の丸女子バレー (NF) 吉井妙子 (文春社) ☆☆☆★

 

日の丸女子バレー ニッポンはなぜ強いのか

日の丸女子バレー ニッポンはなぜ強いのか

 

 

副題:ニッポンはなぜ強いのか。北村薫本の雑誌で今年の三冊に本書を挙げていて、たまたま図書館で見つけて読みだした。

北村は、あの大松はスパルタではなかった、というようなことを書いていたが、本書は東洋の魔女だけでなく、東京からロンドンまでの日本女子バレーの軌跡をオリンピックごとに八章に分けて描いたもの。

まあ、ある程度リアルで観ていたものとしては、イメージしやすくて一気に読んだが、柳澤のレスリングや河口の将棋を読んだ後では、正直甘ったるくて腹にもたれる。対象との距離というか突っ込みが甘いんだよね。

本来なら、山田VS小島の確執やプロ化の挫折あたりに人間臭いドラマがあるはずなのだが、簡単にスルーしてしまった感じ。ナンバーの記事なら楽しく読み飛ばせるのに、と思ったら、本書の半分近くが本当にナンバーの記事だった。

 

●6884 日本の論点 (政治経済) 大前研一 (プレジ) ☆☆☆★

 

日本の論点

日本の論点

 

 

何か宮台にも似た題名の本があったが、やはり傲慢・明言のイメージとこの題名は良く似合う。いや、褒めてるんです。本書はプレジデントの連載をまとめたものだが「ビジネスマンはこのレベルの知識を持ちなさい」という帯にギョッとして読みだした。

内容は多岐にわたっていて簡単には書けないが、確かにここに書かれている内容についてこれないようでは、ビジネスマンとしてちょっと困ってしまう。大前の意見にも新味はないが、知的刺激を感じながら面白く読めるのも確かだ。

ただ雑誌連載なので、ひとつのテーマの突っ込みは足りないし、全体の構成もバラバラ感は否めない。そして、このところずっと気になっている、アベノミクスへの曖昧なスタンス(もちろん大前は反対なのだが、野口ほど明確に批判をしないんだよね)が、どうにも消化不良。大前らしくない。

 

●6885 風の王国1 落日の渤海 (歴史小説) 平谷美樹 (角春文) ☆☆☆

 

風の王国(一)落日の渤海

風の王国(一)落日の渤海

 

 

風の王国全10巻が完結。北上次郎が絶賛し、この時代小説がすごい、でも高い評価を得た。個人的には、著者には愚直なハードSF作家というイメージが強かったのだが(「エリ・エリ」や「運河の果て」は、宇宙と神に挑んだ努力賞SFだった、気がする)何と高橋克彦の衣鉢を継ぐ、蝦夷歴史作家となっていたのか。

しかし、実は本書の前に図書館で偶然前作「義経になった男」全四巻を手に入れて読みだしたのだが、あえなく一巻で挫折してしまった。で、本書なんだが、西暦900年代の東日流国と渤海に目を付けたのは、網野ファンとしては慧眼に感じた。

しかし、やはり小説がうまくない。(まあ、SFのときもそうだったのだが)なかなかキャラに感情移入ができない。また思ったより伝奇要素が強くて、それにも違和感を抱いてしまった。

というわけで、まだ一巻なんだけれどどこまで根気が続くか、自信がなくなってきたなあ。

 

●6886 静おばあちゃんにおまかせ (ミステリ) 中山七里 (文春社) ☆☆☆

 

静おばあちゃんにおまかせ

静おばあちゃんにおまかせ

 

 

収録の各短編の題名が「静おばあちゃんの知恵」「童心」「不信」「醜聞」「秘密」となっていて、思わずニヤリ。(それぞれブラウン神父シリーズの短編集の題名。順番がちょっと違うけれど)

で、確かに世評通りミステリ部分はまずまずかも知れないが、どうにもそこまで持っていくまでの刑事と女子大生の物語(まるで、かつての赤川次郎)が、イマイチ下手なんだよねえ。ラストのサプライズも、もはや小林泰三の二番煎じでしょう。

 

 ●6887 大江戸恐龍伝 第三巻 (伝奇小説) 夢枕 獏 (小学館) ☆☆☆★
 
大江戸恐龍伝 第三巻

大江戸恐龍伝 第三巻

 

 

いきなり「ゑれき丸」が完成してしまい(このあたりのリアリティーはかなり怪しいのだが)一行は琉球へ。

というわけで、二巻に比べれば話は動き出したのだが、やはりちょっとゆるくて、もう少し短く書けるんじゃないか、とイライラしてしまう。(「空海」の頃は、このゆるさ=長さが物語にちょうど合っていたのだが)次巻はやっと「ニルヤカナヤ」に到着しそうだけれど。

 

 ●6888 脊梁山脈 (小説) 乙川優三郎 (新潮社) ☆☆☆

 

脊梁山脈

脊梁山脈

 

 

本の雑誌の年末ベスト(最近はほとんど気にしないのだが)に選ばれた本書を、図書館の棚で見つけて借りて帰ったら、大仏次郎賞受賞の報が入り、読みだした。

著者の作品は初めてなのだが、時代小説作家と思っていたので、その濃密な筆致に戸惑った。本書は初の現代小説らしいいが、舞台は終戦後とかなり古く、戦争の傷跡の回復の物語である。(いや、回復は出来ないのだが)

しかし、主人公が日本の古代史の謎を解き明かしていくパーツと、二人の女性との恋愛パーツがあって、どうにも僕にはバランスが悪かった。

主人公のいわゆる高等遊民としての生き方も、申し訳ないが僕にはピンとこない。ただ、文章力は大したもんだと感じたので、時代小説を読んでみようと思う。

 

 ●6889 臨 場  (ミステリ) 横山秀夫 (光文文) ☆☆☆☆
 
臨場 (光文社文庫)

臨場 (光文社文庫)

 

 

第三の時効」と並んで、横山作品の中でミステリ度の高さが双璧と言われる本書。実は僕は初読時には、それほどとは感じなかったのだが、こうやって再読すると、本書もまたまぎれもない傑作だ。

主人公はTVでは内野聖陽が演じた倉石検視官。検視官が主人公である以上、事件が長引くとストーリーが破綻するという制約があり、著者が色々工夫しているのが再読して良くわかった。

「赤い名刺」「餞」「十七年蝉」等々、主人公は別にいてうまく物語に奥行を出している。二つの別の事件が絡むパターンも多いが(難しいと思うのだが)うまく処理できている。

ただ「声」のように、ちょっと趣向倒れの作品があるのと、相変らず文体がシンプルかつ説明が少ないので、「眼前の密室」の鈴虫のように、意味が解らないことも時々あった。(まあ、これは僕が悪いのだろうが)このあたりが、「第三の時効」に比べるとやや物足りない。

また、このシリーズは毎回倉石の事件への係わり方に変化をつけているため、脇役のレギュラーメンバーが明確ではないのだが、さすがにTV版ではそこをばっさり変えているのが、どうなのだろうか。(TV版はほとんど見ていない)

 

 ●6890 せいめいのはなし (科学) 福岡伸一 (新潮社) ☆☆☆☆

 

せいめいのはなし

せいめいのはなし

 

 

著者の「生物と無生物のあいだ」は、生命を存在ではなく現象と観た量子力学的?生物学として新鮮だった。ただ、その後の著作は同じ内容を薄くして使いまわしている(失礼)感じがして、いつの間にか読まなくなってしまった。

で、図書館で本書を見つけて何となく読みだしたのだが、内容は今回も使い回しに近いのだが(後半新しい知見も出てくる)やはり、面白い。まあ、対談の相手が内田、川上、養老、ならば、ある程度の面白さは保障されるが意外に朝吹真理子(将棋が大好きで、羽生との記憶の話が面白い)との記憶を巡る対談も面白かった。

記憶は捏造されるとは良く言われるが、ここまで具体的に証明されると、もう。これはやはり「動的平衡」と「フェルメール、光の国」くらいは読まなければいけないか。

 

●6891 スタート! (ミステリ) 中山七里 (光文社) ☆☆☆★

 

スタート!

スタート!

 

 

僕の信頼度はもはや黄色から赤に変わりかけている著者だが、本書は設定があまりにも魅力的で、つい手に取って読みだした。で、その設定なのだが、何とあの「かえる男」(本書では「災厄の季節」となっているが、これは原題。やっぱり「かえる男」はクイーンの「九尾の猫」を意識している)の映画化の話なのだ。

病で余命いくばくもない世界的巨匠が、最後の作品に選んだのが「かえる男」というわけで、内容が真面目であればあるほど「かえる男」を読んだものには、オフビートなブラックジョークとなってしまう。

というわけで、たぶん映画マニアには著者の現状批判など、たいして面白くもないだろうが、僕は結構楽しく一気に読んでしまった。

問題は、ミステリにしてしまったこと。ミステリとしての部分がひどくはないのだが、あまりにもオーソドックスで、全体のトーンと合っていないんだよね。ここはひとつ何か破天荒なものが欲しかった。贅沢かもしれないが。

 

●6892 皇帝フリードリッヒの生涯 上 (歴史) 塩野七生 (新潮社) ☆☆☆☆
 
皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

 

 


●6893 皇帝フリードリッヒの生涯 下 (歴史) 塩野七生 (新潮社) ☆☆☆☆

 

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

 

 

本の雑誌のWEB版で発売日を確認し、図書館に予約、というやり方がうまく行って、何と塩野の新刊(12月18日発売)を年内にゲット。

(予約一番というのはうれしいんだけれど、その後もあんまり予約が伸びていないのは何か寂しい。また「ペテロの葬列」も意外に簡単に手に入ってしまったんだけれど、たぶん9割は合わないと思うので複雑)

ローマとルネッサンスという塩野の二大ワールドをつなぐ中世の物語。正直言って主人公のフリードリッヒ二世に関しては(菊地良夫の「神聖ローマ帝国」を読んだはずなのに)全く記憶がない。

しかし、読みだすとひさびさの塩野の小説は、やはり円熟の筆致で、ややこしい背景も含めて長大な物語を一気に読ませる。そして、多くの人も同じだと思うが、フリードリッヒは信長、さらにチェーザレにそっくりだと感じるのだ。

先見性、中央集権、論理、経済、そして無宗教でプラグマティズム。(マキャベリズムと言うと矛盾するか)特に全く新しい仕組みを作り上げ、宗教=封建制と戦うという二点において、皇帝は信長に酷似する。

ただ、皇帝にも起きた本能寺は幸い失敗に終わったのと、結局皇帝は強大な軍事力を最後まで持てなかった(持たなかった?)点が違うが。しかし、皇帝と対立し続ける代々のローマ法王の憎々しげな描写は、まさに塩野の面目躍如。

ここは、どうしても義昭が重なってしまうが、法王の方がスケールがはるかに大きいか。そして、彼女の言う信長が叡山焼討によって日本の宗教(武力)勢力を滅ぼしてくれた幸せ、に思いを馳せるのだ。

正直、描く対象としてはカエサルほどの大きさや魅力はない。(塩野自身の思い入れもそこまで感じられない)チェーザレよりは歴史的には大きいのかもしれないが、本書もチェーザレと同じく皇帝の内面描写が全く無いことによって、リアリティーは担保されるが、少し冷たい感じがしてしまう。

ただ、初期の作品である「チェーザレ・ボルジア」よりは、本書の方が格段に余裕と自信を持った書きっぷりで、そこをカバーしている。「ローマ人」が終わったとき、大きな喪失感を感じたが、良く考えるとその後も塩野は長編を上梓し続けている。

「ローマ亡き後の地中海世界」の特に下巻が詰まらなかったので(十字軍というテーマもあまり好きになれなくて)その後の「十字軍物語」三巻の存在を忘れてしまっていた。これは読まなければ。(どうもエッセイはイマイチなんだよね)

 

 ●6894 その鏡は嘘をつく (ミステリ) 薬丸 岳 (講談社) ☆☆☆☆

 

その鏡は嘘をつく

その鏡は嘘をつく

 

 

これまた年末ギリギリに間にあった新刊。「刑事のまなざし」(結局テレビは全然見なかった。ただ、次回作があまちゃんコンビの「隠蔽捜査」というのには驚き)の続編ということだったので、短編集だとばかり思い込んで読んでいたら、途中でやっと長編なことに気づいた。

(これは二時間スペシャル用だろうか)夏目、敏腕検事、犯人の3つのストーリーが徐々に一本に絡んでいくプロットは、若干偶然が強すぎるが、なかなか読ませる。何より、このシリーズは、著者の業とも言うべき犯罪被害者がほとんど出てこないので、純粋にミズテリを楽しめる。

とはいっても、本書で扱われる医療の問題もまたかなり重たくて、やっぱり著者は社会派なのだが。

で、肝心のミステリなのだが、動機等々に工夫はあるのだが、若干地味。意外性という意味では物足りない。しかし、これはこれでいいんだと思う。今年は個人的には薬丸にMVPをあげたい。

 

●6895 イン・ザ・ブラッド (ミステリ) ジャック・カーリー (文春文)☆☆☆★

 

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

 

 

実は図書館で出遅れて、本書はすぐ自腹で購入して読みだしたのだが、どうにものらなくて投げ出していた。でも、結局ここまで海外ミステリにこれという作品がなく、しょうがなく最後まで読み通した。

コナリー、ディーヴァーの両横綱に対して、小結くらいの位置づけで何とかカーリーの新作は上梓され続けているのだが、ハードカバーにならないところ(読者としてはGOODだが)が、微妙な地位を表わしている。

本書はシリーズ第五作だが、今までの作品とはかなり毛色が違っていて、ネットでも毀誉褒貶が激しい。まず、本書の弱点はこのシリーズ最大の売り(と僕が考える)主人公カーソンの兄貴のジェレミー(レクター博士以来のキャラ)が今回登場しないこと。(過去ジェレミーが登場しなかった「毒蛇の園」もイマイチだった)

しかも、その穴を埋めるべきカーソンが今回は絶不調、情緒不安定で全く感情移入しずらい。ここは完全に著者の計算ミスだと思う。このあたりに、ディヴァーとのプロとしての差を感じてしまう。

その結果、なのかどうかは良くわからないが、本書はとにかく読みにくいのだ。もちろん、ストーリーが複雑で盛り込みすぎなこともあるが、これはエンターテインメントとして大問題だと思う。(翻訳のせいもあるのだろうか?)

もちろん、ミステリとしての仕掛けはげっぷがでるくらいたっぷりなのだが、どうにもなかなか読み進めなかった。テーマ(人種差別、宗教)が重いというのもあるが、やっぱり全体にゴタゴタしているのと、キャラに魅力が足りないせいだと思う。

ただ、メインの意外な犯人一本に絞ってしまうと、やっぱり大味な作品になってしまいそう。更に言うと、ラストで明かされる冒頭の謎も、ちょっとぶっ飛びすぎている。これなら、別の描き方が必要だろう。

カーリーもちょっと難しいところに来てしまった、という感じ。ああ、ついに今年は海外ミステにこの一冊を見つけられなかった。まあ、絶対量が少ないんだけれど。

 

●6896 アリス殺し (ミステリ) 小林泰三 (創元社) ☆☆☆★

 

アリス殺し (創元クライム・クラブ)

アリス殺し (創元クライム・クラブ)

 

 

これまた著者のミステリに対する信頼は、僕の中では風前の灯なのだが、年末ギリギリに本書が届いた。正直言って、小林版「生きる屍の死」のような、特殊設定ミステリをうまく?楽しめるか自信がなかったのだが、読了してやっぱり微妙な出来。

ミステリとしての超?論理の展開は、如何にも小林らしく良く考えられているとは思うのだが、それがミステリとしての面白さに直結しているかは、疑問符がついてしまう。

会話や世界設定が、アリス・ファンには楽しめるのかもしれないが、僕は疲れてしまった。時々顔を出す、グロテスクな描写も、好みじゃない。まあ、○○○の正体は、うまく伏線を張っているとは感じたが。

 

 ●6897 動的平衡 (科学) 福岡伸一 (木楽舎) ☆☆☆☆

 

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

 

 

「生物と無生物のあいだ」を読んだとき、すぐ著者が本書のあとがきの冒頭にでてくる「マリス博士の本」の訳者であることを思い出した。それほど、マリス博士は印象的(奇矯?)だったのだが、著者の本職顔負けの文章力に驚いたことも大きい。

というわけで、著者の原点とも言うべき本書もまた、圧倒的に読みやすい。内容は、正直いつもの話が多いのだけれど、いろいろ考えさせられることが多かった。

生命は遺伝子があれば生まれる物ではない。池田はその+αを「構造」と言い、福岡は本書で「時間」と呼んだ。たぶん、生命とはその両者を含みながら、ダイナミックに情報を交換し続ける「現象」なのだろうが、それをうまく表現する言葉がないのがもどかしい。

生命体=細胞は次々と代謝されるので、記憶物質は存在しない。記憶とはそのときそのとき創り出される思い出にすぎない、というのは前作に続いて衝撃的だが(その結果、嫌なことばかり思い出していると、記憶は嫌なことしか残らない)少し詰めが甘い気もする。惜しい。

その他タンパク質の分解の話や、ES細胞と癌細胞の相似、等々ひとつひとつの挿話は興味深いが、もう一段上の生命論をもっと詳しくやってほしい気もした。そうすると、こんなに読みやすくはなくなるのかもしれないが。(しかし、著者の量子力学的?人間ドック否定論には笑ってしまった。シュレーディンガーの猫をここに引用するか?)


13年は以上275冊でした。今年も冊数だけはある程度稼ぎましたが、内容は軽い本ばかり。特に後半は途中で投げ出す本が続出してしまい、集中力の衰えを痛感しました。でも、横山の旧作だと集中力はかなり復活するので、世の中の流れと僕の好みがずれてきたんだと、つくづく思ってしまう。来年は古典を読み返そうかな。