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2012年 8月に読んだ本

●6498 愚民社会 (思想哲学) 大塚英志宮台真司  (太田出) ☆☆☆

 

愚民社会

愚民社会

 

 

①「任せて文句を垂れる社会」から「引き受けて考える社会」へ。②「空気に縛られる社会」から「知識を尊重する社会」へ。③「行政に従って褒美を貰う社会」から「善いことをすると儲かる社会」へ。

相変らず、宮台のコピーは下品だけど、解りやすく力がある。だのに、全体としてはなんで、こんなに読みにくくて解りにくいのだろうか。

本書で言えば、大塚のほうが少なくとも何を言っているのかは解る。でもねえ、一体この対談は何を言いたかったのだろうか。なんだか、宮台の本を読むのがすごく疲れるようになってきた。

 

 ●6499 ツリー・ハウス (小 説) 角田光代 (文春社) ☆☆☆☆

 

ツリーハウス

ツリーハウス

 

 

対岸の彼女」以来の角田。本書が上梓されたときの評判の高さに惹かれて、予約しようとしたら既に何百冊も予約があってあきらめたのだが、2年待つとこうやって手に入るんだ。

「対岸」はうまい小説だと思ったが、山本文緒の「恋愛中毒」などと同じように、あざとさも感じてしまった。つくりものめいているのだ。しかし、確かに本書は全く違う物語であり、スケールが大きい。

満州からの引揚者である藤代家の三代記としては「赤朽葉家の伝説」、あさま山荘からオウムまで昭和の事件と風俗(新宿)の変遷を描くという意味では「白夜行」を、そして戦後=昭和の総括としては橋本治の「巡礼」を想起させた。

全体を覆うのは、どうしようもない切実なまでの喪失感である。家族の絆も、国家のアイデンティティーも、土地や商売、そしてあらゆる規範や常識、すべてに確信が持てずに、借り物のような人生を懸命にただ生きてきた祖父母。

それは自殺をとげた主人公の叔父の基三郎のデラシネという言葉に象徴され、祖父母が破壊した庭に生えていた木に作ったツリー・ハウスと、祖母と主人公が訪れた大連の広場の大木に繋がる。

読み終えて思うのは、プロットは「対岸」と同じく良く出来ているが、この物語にはわくわくするような要素は何もない。ヒーローも英雄も誰も出てこない。ただ、逃げ続けた(ニセモノの)夫婦の物語だ。

そして、その偽善と真摯が昭和といううたかたと重なり、圧倒的な喪失感は今の時代そのものと重なってしまう。ラスト、ちょっと説明的になりすぎた気もするが、心に重いものを突きつけながら、一縷の清涼感も与えてくれる不思議な作品であった。

そうショーマストゴーオン。終わりなき日常を生きる知恵と強さこそ、今必要なのであろう。

 

●6500 ぼくらは都市を愛していた (SF) 神林長平 (朝日新) ☆☆☆★

 

ぼくらは都市を愛していた

ぼくらは都市を愛していた

 

 

著者は日本SF界の同世代のリーダーでありながら、どうにも縁が遠かった。たぶん読んだことがあるのは「あなたの魂に安らぎあれ」と「完璧な涙」だけではないだろうか。

しかも、両作ともテーマは僕好みであるはずなのに、なぜか次を読みたいと思わなかった。たぶん、一番大きいのはその無機質な文体が合わなかったことだろう。そうでなければ、神林の世界と飛浩隆の世界にそれほど差があるとは思えない。

本書は作家生活30周年であり、かつ震災と伊藤計画の死に強くインスパイアされた作品ということで、それがひさびさに僕が著者の作品を読んだ理由でもある。しかし、読み出して驚いたのは「天狼新星」との相似である。(なぜ、だれもいわないのだろうか)

本書は「天狼」と同じく、二つのストーリーが交互に語られる。ひとつは公安職員、綾田カイムが殺人事件を追うパートであり、もうひとつは綾田ミウ情報軍中尉の戦闘日誌である。そして二人は二卵性双生児と言っただけで、いかに本書が「天狼新星」と似ているかは解るはずだ。

もちろん、僕はそれを批判するのではない。これだけ、プロットが似ていても、その語り口はかなり違う。特に本書にはディックの影響が強い。主人公及び世界自体の存在・実存の不確実性。世界の壁が次々剥がされていく眩暈感。ああ、これは「インセプション」の世界だ。(SPECのお遊びまで出てくる)

しかし、しかしだ。僕は作家としては新人の「天狼新星」の方が読みやすかった。例え専門(創作)用語が頻発しようが、読みやすかった。いったい、これはどこに問題があるのだろうか。これは僕個人の問題だろうか。

(当時、神林と同じく日本SF界の王道を歩んでいた大原まり子も、初期短編集は愛読していたのだが、代表作と言われる「ハイブリッド・チャイルド」で解らなくなってしまった。山田正紀も最高傑作と言われる「エイダ」が解らない)

それとも、実は我が世の春のように見える、日本SF界の本質的な問題なのだろうか。

 

 ●6501 消失グラデーション (ミステリ) 長沢 樹 (角川書) ☆☆☆☆

 

消失グラデーション

消失グラデーション

 

 評判の横溝賞受賞作を、やっと入手して一気に読んだ。予想通り冒頭からけれんたっぷりの展開。だけど、僕はそのけれん、というか主人公の行動があまりに変なので、大森と同じく、大きなトリックは予想がついてしまった。

まあ、トリック自体は悪くはないが、同じパターンをいくつも取り込むのは、どうかな?と思う。しかし、それでも本書のスタイルは魅力的だ。

普通これだけコテコテの学園スポーツミステリ(バスケットボール部が舞台だが、構造はもろ「エースをねらえ」)を描かれると、いい加減にしろよ、となるはずなんだけど、それを不思議な文体で救っている。

とても新人とは思えない筆力だ。横溝賞では、柴田よしき、小川勝巳、に続く逸材ではないかと感じる。惜しむらくは、ラストの処理がゴタゴタしてしまって、ヒカル君というキャラをうまく生かせていない。

ここは、スパっと終わらせて「羊たちの沈黙」のようにするべきだったのではないか。以上、ちょっと甘いけど期待値も含めた採点。

 

 ●6502 すばらしき愚民社会 (社会学) 小谷野敦 (新潮文) ☆☆☆☆

 

すばらしき愚民社会 (新潮文庫)

すばらしき愚民社会 (新潮文庫)

 

 

というわけで?アマゾンで「愚民社会」を調べたら、本書が出てきて、すぐに図書館に予約。まあ、宮台の「愚民社会」とは全く違う、下世話なエッセイだが、正論でもある。

最近そういえば呉智英の「バカにつける薬」シリーズを読まなくなった(見かけなくなった?)のだが、著者こそが下品さと粘着質をパワーアップした呉智英だなあ、と思っていたら、あとがきを読むと二人は交流があるらしい。

ひとつひとつの文章は面白く読んだが一気にまとめて読むには、味が濃すぎる。ちょっと次は間隔を空けないとねえ。

 

 ●6503 はじめての宗教論 右巻 (社会学) 佐藤 優 (NHK) ☆☆☆☆

 

 

宗教の役割とは、「見える世界」「見えない世界」をつなぐ回路である。人が死及び死
後の世界を理解できない以上、世の中には「見えない世界」が存在する。近代は「見え
ない世界」を無理やりに無意識下に押し込んだが、根本的に問題は解決していないのだから、それは時々表面に出てきてしまう。

そして、現在われわれの身の回りにはスピリチュアルのような宗教とは名のならない、宗教が蔓延している。という問題意識は正しいと思う。

西欧においてキリスト教とは単体で存在しているのではなく、ギリシャ古典哲学、ローマ法と三つの要素からキリスト教文明の総合体は成り立っている。これを「コルプス・クリスティアヌム」と呼ぶ。

日本人は明治時代に実学としてのローマ法のみを輸入し、それを西欧だと捉えてしまい、キリスト教文化とギリシア古典哲学が抜け落ちてしまった。その結果、欧米人とはローマ法(テクネー:技術)を越えた腹を割った話し合いができない、というのは目から鱗だった。

ルネッサンスとは、ギリシア・ローマへ還れという運動であり、ここではじめて中世という考え方がうまれる。還るべき古典と現在の間にはさまれた中世というのは、ろくなものではない、という意味があった。

しかし、16世紀の宗教改革にはルネッサンスのような啓蒙主義とつながるものはない。スコラ哲学によって緻密に構築させた神学体系では救われない。教会も腐敗している。だからこそ、イエスが唱えた素朴な原始教会に戻ろう、というこちらは反知性的な運動であった。

ルターやカルバンの文章は、当時のスコラ哲学の水準からはかなり低かった。というのも驚きだった。まあ、でもルターを蓮如と考えれば良いのか。

 

●6504 満つる月の如し (歴史小説) 澤田瞳子 (徳間書) ☆☆☆

 

満つる月の如し 仏師・定朝

満つる月の如し 仏師・定朝

 

 

これまた縄田絶賛なのだが、合わなかった。ただし、今回は小説のうまさというより、
題材が全く僕と合わなかった。

文体自体は良いと思うし、書評も結構好意的なものが多い。題名から解るように、これは藤原道長の時代の仏師定朝の物語なのだが、まあこの時代の小説で面白いと思ったことは殆どない。

まず、登場人物の人間関係が複雑で良く解らないし、飢餓や略奪が頻発する中、色恋と歌にばかり精を出す時代背景も感情移入しずらい。平安時代というのは、確かに闘いを忌み嫌うという意味では今の日本と繋がっているが、それ以外は本当にこれは同じ国のことなのだろうか、と思えてくる。

 

 ●6505 プロムナード (エッセイ) 道尾秀介 (ポプラ)  ☆☆☆

 

プロムナード

プロムナード

 

 

著者がこんな小説書いていたかなあ、と思ったらエッセイだった。しかし、何でポプラ社から?という気もするが。で、いつも書いているように思うが、エッセイの所感は書き辛い。まあ、若いのに達者だなあ、と思うのだが、如何せんミズテリに関する部分があまりに少ないので、それほど楽しめなかった。

 

●6506 新月譚 (小説) 貫井徳郎 (文春社) ☆☆☆★

 

新月譚

新月譚

 

 

アマゾン等々の書評で、極端に毀誉褒貶、評価が分かれている。女流作家を描いた作品なら、篠田節子桐野夏生に先行作がある。また、ここで描かれるドロドロの愛憎劇は、「恋愛中毒」や「ツ、イ、ラ、ク」を思わせる。

しかし、これだけの長丁場を一気に読ませる著者のリーダビリティーは特筆もの。貫井は本当にうまい作家になったと思う。ただし、やはり手放しで褒めるわけにはいかない。

本書の2つの謎、女流作家が急に素晴らしい作品を書くようになった理由と、いきなり絶筆した理由は、前者は面白く読んだが意外性は全くない。だが、そんなところが問題なのではない。

読み終えて思うのは上記の作品たちと違って、やっぱりこれは男の視点で書かれている気がどうしてもしてしまうのだ。女性に聞いてみたいけど。

しかし、文春からこんな内容の本が上梓され、直木賞候補になったら、いやあ困ってしまうなあ。逆に受賞してたら、どう言われたんだろうか?(直木賞の選評では、予想通り女性作家からぼろくそ、ですねえ)

 

●6507 守護者 キーパー (ミステリ) グレッグ・ルッカ(講談文)☆☆☆☆

 

守護者 (講談社文庫)

守護者 (講談社文庫)

 

 

ずっと宿題であったグレッグ・ルッカの初期の作品を、図書館でまとめて見つけてしまい、一気に読み出した。いやあ、これは噂にたがわぬ傑作だ。(北上次郎はコナリーのボッシュシリーズを東の横綱ルッカのアティカス・コディアックシリーズを西の横綱に例えた。しかも、両者とも翻訳は古沢嘉通だ)

なぜ、ルッカは年末ベストで無視され続けているのだろうか。同じ文庫のパトリシア・コーンウェルと混同されてる?ルッカは本書を26歳で書き上げ、ヴァクスやルヘインが絶賛したというが、それに相応しい出来である。

また確かに人間描写の深さと物語の真摯さはルヘインに(パトリック&アンジーと雰囲気が似ている)チームを描く、という意味ではヴァクスと共通するものを持っている。

アティカスはボディーガードである。そして、本書で彼が守るのは、中絶反対運動に巻き込まれれた女性医師とその娘である。正直、ミステリとしてもう少し捻りがあっていいとも思う。

ただし、処女作からこんな米国最大のタブーに挑み、きちんと描きあげる才能は賞賛するしかない。何度か訪れる悲劇は痛く、とてもシリーズ一作とは思えないほど、感情移入してしまった。特にブリジッドの存在は、まるでミレニアムシリーズのリスベット・サランデルを思わせる出色の出来。

 

●6508 奪回者  (ミステリ) グレッグ・ルッカ (講談文) ☆☆☆★

 

奪回者 (講談社文庫)

奪回者 (講談社文庫)

 

 

二作目にして、著者の強みと弱みが更にはっきりしてきた。北上おやじは本書を読んで感激して、守護者を読んだようだが、何の情報も無しにいきなり本書を読んだら、果たして僕は評価できただろうか。

というのは、本書の設定があまりにもリアリティーが無いのだ。アティカスが少女を守るにおいて、敵がSASと聞かされ、その理由を聞かずに引き受けるという冒頭が?だし、その答えもおいおい、という感じ。

○○のために○○を雇うなんて、あり得ないだろう。そして本書も前作と同じく、ラストのカタストロフィーに向けて突っ走るが、そこにミステリ的な意外性はほとんどない。このあたりが、ベストに選ばれない理由なのかもしれないが。

では駄作かというと、そうではない。本書の魅力はひとえにその人物造型と人間模様にある。ミステリ的な事件より、人間関係の方が魅力的なのだ。(そういう意味では、ハーラン・コーベンに似ているかもしれない)

また、前作の中絶に続いて、今回もまたSASとアイルランドという、大きなタブーに果敢に挑んでいる点も評価すべきかもしれない。というわけで、前作以上にブリジッドの存在感を感じてしまった。

 

 ●6509 文学賞の光と影 (エッセイ) 小谷野敦 (青土社) ☆☆☆☆

 

文学賞の光と影

文学賞の光と影

 

 

小谷野の芸風は解っているつもりだが、読み終えてどっと疲れた。その圧倒的な情報量と、畳み掛けるようなスピードと、いったいどこでどう話が変わったのか解らない勝手な語り口、そして時々混じる皮肉で真摯な自虐ユーモア。

内容としては、ちょっと純文学よりだが、まあ文壇ゴシップものとしては、川口則弘のWEBサイト「直木賞のすべて」と双璧だろう。そうか、なんで辻原登が、あんなに賞を獲るのか?と思っていたら丸谷才一の大番頭だったんだ・・・

 

●6510 はじめての宗教論 左巻 (社会学) 佐藤 優 (NHK) ???
 
はじめての宗教論 左巻―ナショナリズムと神学 (NHK出版新書 336)

はじめての宗教論 左巻―ナショナリズムと神学 (NHK出版新書 336)

 

 

上巻ならぬ右巻は何とか振り落とされないように喰いついたのだが、左はギブアップ。完全に置いていかれてしまった。右が基礎(と言ってもかなり難解)で、左で宗教とナショナリズム、人間と宗教の本質を語る、ということで、本来はこっちに期待していたんだけれど、全くついていけなかった。

基本的にはシュライエルマッハーとカール・バルトロラン・バルトではない!)という、聞いたこともない二人の学者について本書は語られる。

啓蒙主義の時代を経て、人々はもはや天上におわす神の存在は信じられなくなった。そこにシュライエルマッハーは「宗教の本質は直感と感情である」とし、神の居場所を天上から人々の内面に移すことで、啓蒙時代におけるプロテスタントのあり方を作り上げた。

しかし、それはまたキリストの存在を弱め、個人の解釈や投影を神に許しかねないという、本質的な弱点を含んでいた。バルトがそれを批判し、それ以降は「天にいる神」が復活したが、その天はもはや物理学的な意味ではなく、超越性という意味で使われている。

ふうう、このくらいが僕の理解です。しかし、神学というものがこんな複雑で巧緻なものであるとは全く知らなかった。

 

●6511 暗殺者 キラー (ミステリ) グレッグ・ルッカ (講談文)☆☆☆☆

 

暗殺者 (講談社文庫)

暗殺者 (講談社文庫)

 

 

第三作を読みながら、ルッカは面白いんだけど、やっぱり物足りない部分が良く解ってきた。今回の巨悪は煙草産業。ストーリーも引き締まり、何より今までで一番ミステリ的な仕掛けが決まっている。

最初読み出して感じたのは、アティカスの不毛?の三角関係のやるせなさは、まさにルヘインのパトリック&アンジーの関係につながるなあ、と言うこと。

しかし、本書は今までと違い、世界でベスト10に入るという謎の暗殺者ジョン・ドウというスーパー悪役をフューチャーした。ここをどう評価するか。その結果先に書いたようにミステリ的な趣向のレベルは上がったのだが、これはもうやっぱりディーヴァーの世界なんだよねえ。

というわけで、ルッカの弱点は結局ルヘインやディーヴァー等々の影響のせいか、どうにも何か既視感がつきまとうんだよね。まあ、若いんだから、たぶん色々勉強しているんだろうし、贅沢な文句なんだけど。

というわけで、一気に読ませる筆力は認めながらも、後半で内通者の正体がわかるシーンなんて、プロとしてはどうかなあ?と思ってしまうし、お約束のラストのカタストロフィーも、今回はもう少し説明して欲しい気もした。(結局○○は死ななかったんだよね?)でも、ラストのラストはうまい!!次作が楽しみ・・・

 

 ●6512 耽溺者 ジャンキー (ミステリ) グレッグ・ルッカ(講談文)☆☆☆☆

 

耽溺者 (講談社文庫)

耽溺者 (講談社文庫)

 

 

北上おやじが解説で書いた第一声「ようやく、ブリジットに会えた!」というコピーが帯に使われていたようだが、こうやって第一作から順番に読むと、正に同感できる。そして、大方の評価もそうであるように、本書はシリーズの番外編でありながらも、今のところ最高傑作である。

本書の主人公はアティカスではなく、ブリジットである。そして、彼女の隠されていた過去が明かされ、その過去を乗り越えるため、彼女はあまりにも無謀な闘いに一人で立ち向かう。なぜ、そこまでやるのか。なぜ、そこまでできるのか。

正直言って、少々ご都合主義な面もある。孤独な闘いの割には、結局回りを巻き込みすぎじゃないか、と思う部分も多々ある。(特に過去の恋人を巻き込むところはねえ)

でも、本書では今まで押さえに押さえてきた、ブリジットの存在・魅力が全編爆発であり、ラストの処理も今までと違って、二度のどんでん返しがあり、ミステリ的にも満足できるできだ。

そう、そしてジャンキーとマットスカダー=アル中が重なって見えるのである。たぶん、これでシリーズの第一幕は終了した。残りは少し間を空けてから読んでみようと思う。

 

●6513 文学賞メッタ斬り!ファイナル(企画)大森望豊崎由美(パルコ)☆☆☆☆★

 

文学賞メッタ斬り! ファイナル

文学賞メッタ斬り! ファイナル

 

 

四年ぶり、五冊目の本書で一応紙媒体でのシリーズは終了、ということで慙愧に耐えないが、内容としてはひさびさということもあって、十分楽しんだ。満腹。今回は殆ど芥川・直木賞に対象を絞って、その分内容がバラエティーに富んだものになっている。

しかし、それだけでなくこの数年、芥川賞の話題たっぷり(西村賢太や田中慎哉)に加えて、あれほどひどかった直木賞の受賞作が劇的に改善されていて、読んでいて非常に面白かった。ただし、下読み段階は相変らずひどい。何で恩田陸が「夢違」で、貴志祐介が「悪の教典」なんだ?

正直言って、所感は何を書けば良いのかわからない。何を書いても超マニアックな話になってしまう。ただこういう本は、過去数年のおさらいになるので、当時は出遅れてしまって予約を諦めた本が、今はもう結構予約数が減っているのだ。

というわけで、「こちらあみ子」「光媒の花」(「月と蟹」はまだ無理)「小さいおうち」「リアル・シンデレラ」を図書館に予約した。桜木紫乃辻村深月はもう少し寝かさないとダメみたい。

 

●6514 白銀ジャック (ミステリ) 東野圭吾 (実業文) ☆☆☆

 

白銀ジャック

白銀ジャック

 

 

話題?の、最初から文庫第一弾が遂に手に入った。さいたま市図書館は本書を約10 冊も購入しているんだ。とはいっても、前評判は散々なのでなかなか触手が動かない。

推理作家協会会長の東野が、新規参入文庫のため作品を提供した、というところだろうか。しかし、読み出したら止まらなかった。さすがである。一気に一時間半ほどで読了。途中で犯行の動機は見えた、と思ったのだが、これは1/3くらい。

本当の謎解きはもっとスケールが大きかったのだが、悪く言えば強引で大雑把。あっと言う間に読める割には、なかなかキャラの感情移入しないのは、視点が次から次に変わって、結局誰が主人公なのか最後までわからないせいか。まあ、TVのドラマを真似したのかもしれないけど。

というわけで、期待値がかなり低かったので最初はそのリーダビリティーに感心してしまったが、こうやって所感を書いていると、やっぱたいした評価はあげることができないなあ。「相棒」の原作ならいいだろうけど、こっちは「99%の誘拐」や「ホワイトアウト」を読んでるからなあ。

 

●6515 カラマーゾフの妹 (ミステリ)  高野史緒  (講談社) ☆☆☆★

 

カラマーゾフの妹

カラマーゾフの妹

 

 

話題の乱歩賞作品。毀誉褒貶というか、原作の信者からは総スカンを喰っているようだが、確かに評価に苦しむ。選評では、何と東野圭吾だけが原作を読んでいない、とカミングアウトしているのがご愛嬌。

で内容が続編に値するか?ということと、そもそも原典に多くを依拠した作品を、新人賞に応募してよいものか(ここに、今野敏は拘っている)という2つの問題がある上に、作者は既にSF界では中堅どころのプロである、ということが更に問題を複雑にしてしまう。

しかも、妹の存在がスチームパンク的に作品から浮いているのは間違いない。もちろん、僕は原作を読んでいない。というか、分厚いドストエフスキーを読みたいとは今のところ思ったことがない。(子供の頃はいつか読まなければ、と思っていたけど)

ただ、ここでどうしても考えざるを得ないのは、井沢元彦の乱歩賞作品「猿丸幻視行」の存在だ。ご存知の方も多いだろうが、この作品の多くは梅原猛の「水底の歌」に負っている。(まあ、現実のパートにおけるチャチな殺人が描かれているところが、時代の制約だろうが)

これまたご存知?のように、僕はかつて梅原猛にはまっていた。中でも「隠された十字架」と「水底の歌」はバイブルだった。で「猿丸」も面白く読み、評価したように記憶している。従って、まあエンタメなんだから、何をやっても面白ければOKなのかもしれない。

問題は今回は僕がどのくらい面白いのか良く解らない点だ。少なくとも今までの著者の作品の中では文章は良いと感じたし、多重人格や名前は出てこないがフロイトの扱いなども面白く読めた。

弱点はミステリとしてはパンチが足りないこと。当然登場人物が少ないので、意外性に限界があり、そこを原典を活用してどうカバーしているのかが、僕には解らないのだから、まあ本当は評価のしようがないのだが。

 

 ●6516 信長死すべし  (歴史小説)  山本兼一  (角川書)  ☆☆☆★

 

信長死すべし

信長死すべし

 

 

傑作「利休にたずねよ」が直木賞を獲った後、あまりぱっとしなかった著者だが、今回は遂に「利休」と同じく、章ごとに語り手が変わっていく手法をとった。

しかし、残念ながら時系列は通常と同じで(「利休」と同じなら、本能寺から始まって、時間は逆流していく)せっかくの趣向が生かされているとは言い難い。

また、本能寺の黒幕が正親町天皇近衛前久というのも、もはや使い古された手であり、いまさらの感が強い。読んでいていつのまにかキャラクターが「へうげもの」と重なってしまい、光秀の最期には「昭和ブルース」が聞こえてきた・・・

 

 ●6517 天冥の標6 宿怨 PART2 (SF) 小川一水 (早川文) ☆☆☆☆
 
天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

冒頭のカルミアンの登場は、面白いけどちょっと漫画的で古臭く感じた。まるで「火の鳥」にでも出てきそうだ。しかし、本書の白眉は第二章から展開する宇宙大規模艦隊戦である。ひさびさの大迫力。

しかも、しいたげられてきた「救世群」の怒りの爆発は、「月は無慈悲な夜の女王」ら、あまたの先行作品と同じく革命の夢=カタルシスを与えてくれた。しかしこれが暴走し始めるやカタルシスは一気にしぼみ、嫌悪感が横溢してしまう。

やはり日本スペオペの伝統はここでも生きており、米国ミリタリーSFの善悪単純二元論では通用しない。そして一方、ロイズ側が遂に持ち出してきた最終兵器の正体とは!(ここでP3へ続く!!こんなのありか)

今までの数々の伏線がどんどん回収され、後半は次から次へと急展開が起きる。著者が6になってから、巻末に年表と用語集を添付しはじめた理由が良く解る。また半年待たされるのはつらい。しかし、6がまさかこんなに長くなるとはねえ。これではいつ完結するんだろうか。

 

 ●6518 竹田教授の哲学講義21講 (思想哲学) 竹田青嗣 (みやび)☆☆☆★

 

竹田教授の哲学講義21講―21世紀を読み解く

竹田教授の哲学講義21講―21世紀を読み解く

 

 

今の僕の思想に一番影響を与えたのが、二十代に読んだ毎日新聞社から出た「知の冒険シリーズ」であったことは何度か書いた。今から考えるとその中でも一番影響が強かったのが著者と池田清彦だったと思う。(まあ、真面目と不真面目?両極端のイメージだが)

その著者の本をつい図書館で見つけて読み始めたのだが、如何せん21講というのは多すぎて、それぞれの哲学者の記述がちょっと短くて消化不良。

ただおさいらいにはちょうどよくて、ソクラテスプラトンアリストテレス、及びニーチェフッサールハイデッガーの関係あたりが、一応再整理できた。講義は会話方式で進むが、学生役がちょっと優秀すぎる・・・