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2012年 5月に読んだ本

●6441 遺 品  (ホラー) 若竹七海 (光文文) ☆☆☆★

 本書の解説は何と大森。で、絶賛しています。「海神」との大きな違いは文体。今回は
 冒頭から一気にヒロインに感情移入。わたしの一人称のスタイルも最後までぶれない。
 (いまごろになって、ヒロインに名前がなかったことに気づいた)最初は、曽根繭子と
 いう伝説の女優兼作家(鈴木いずみがモデルかな?)の遺品の整理をまかされたヒロイ
 ンのややコミカルなお仕事物語で読ますのだが、後半は少しずつホラーモードに転換。
 残念ながら、ここがイマイチの出来。もっとシンプルかつ短くして、二段構えのオチに
 フォーカスすれば良かったのに。色々欲張ったのか、収拾がつかなくなったのか、うま
 くクロージングが出来ず、ダラダラと長い印象を与えてしまう。残念。

●6442 依頼人は死んだ (ミステリ) 若竹七海 (光文文) ☆☆☆★

 三冊続けて著者の文庫本を読んだが、つかみどころがないというか、微妙な感じ。三冊
 とも表紙は杉田比呂美のイラストで統一されているように(ひょっとしたら全作?)共
 通したものがありそうなのに、良く考えると内容も文体もかなり違う。本書は女探偵・
 葉村晶の短編集だが、葉村のキャラは僕には村野ミロと思いっきり被ってしまう。それ
 ぞれの作品は、悪意のある一発どんでん返しで統一されているが、惜しむらくは文体が
 スムーズでなく、ごつごつ引っかかる感じ。著者は器用なのか、不器用なのか悩ましい。
 最後の一編だけが書下ろしで、ここでメタレベルの謎解きにチャレンジするのはある意
 味連作ミステリのお約束だが、うううんちょっとこれは無茶なんじゃないだろうか。い
 きなり不条理なダーク・ファンタジーになってしまってもねえ。

●6443 スクランブル (ミステリ) 若竹七海 (光文文) ☆☆☆☆

 四作目はかなり初期(97年)の作品で、女子高が舞台。で、今のところ本書がベスト。
 まず、女子高の文芸部5人が主人公とくると、今はやりのラノベ風だが、やはり時代が
 違っていて、リーダビリティーは圧倒的に高い。ラノベのように主人公たちのすぐ解る
 はっきりとした特徴・個性を描かないので、最初は会話の主体が誰かすら解らないこと
 も多々あったが、それでも(時代のせいか)リアルで読ませる。(たぶん著者は理屈っ
 ぽい:男っぽい?性格なのだろう)そうやって読み進むうち、だんだん五人の個性も解
 ってくる。ここがラノベと違うんだよね。しかも、プロットが凝っている。冒頭はその
 五人のうち誰かの結婚式。そこで招待された五人のうちの誰かが、15年前の殺人事件
 の犯人が今結婚式の金屏風の前でスポットを浴びている人物だと気づくシーンから、い
 きなり物語は15年前の学生時代にフラッシュバックする。(最近、西澤か誰かのミス
 テリで似たような作品があったが、やはり素晴らしい導入部である)そして「スクラン
 ブル」「ボイルド」とそれぞれ卵料理の名のついた6つの短編が語られ、解決されない
 殺人事件とそれぞれの日常の謎の解明が描かれる。さらに各短編の幕間に、冒頭の結婚
 式のシーンが再び挿入され、5人がそれぞれ誰かが序々に解ってくる。(そのために最
 初はわざと人物をきちんと描き分けなかったのか、とすら邪推してしまう)そして、ラ
 スト。そのころは本文でも結婚式でも5人のキャラは明確になっていて、最後にお約束
 のどんでん返し。派手さはないが、凝りに凝ったミステリと瑞々しい青春小説がここで
 は見事に両立している。

●6444 悪いうさぎ  (ミステリ) 若竹七海 (光文文) ☆☆☆★

 良い部分と悪い部分が明確な作品。良い部分はまずは文体と人物造型。まあ、冒頭(少
 女の失踪)からして、ハードボイルドの定石ではあるが、なかなか読ませる。葉村は前
 回は村野ミロと書いたが、今回はウォーショースキーでも良いかもしれない。ただし、
 フロストばりにモジュラー的に次から次に事件が起きるのは、ちょっとやりすぎ。一体
 葉村は何人から狙われているのか。葉村の体力が凄すぎる。良くない部分は、長すぎる
 のと、ラストの驚愕?の真相。これ、途中でモロ解ってしまうし、悪趣味すぎる。この
 世界は海外では時々あり、最近では「特捜部Q」の第2作がたぶん同じテーマと途中で
 気づいて、読むのをやめてしまったほど、僕は嫌いである。(「クリムゾンの迷宮」の
 ようにSF設定にしてもらうか、ライアルの名作のようなパターンならOKなのだが)
 ロス・マクの王道にヴァクスのテーストをふりかける、という戦略は解らないでもない
 が、とにかくこのラストは僕は嫌いである。

●6445 ルームメイト (ミステリ) 今邑 彩 (中公文) ☆☆☆★

 BS時代劇「陽だまりの樹」にはまってしまい、ひさびさにBOOKOFFをはしごし
 たら、おまけに本書を100円コーナーで見つけてしまった。リアルタイムでは知らな
 いが、たぶん本書の書店員によるリバイバル・プッシュで、今邑は再び脚光を浴びたの
 だろう。06年が文庫の初版で本書は11年で16版だから、ベストセラーとまではい
 かないが、なかなかの実績である。(でも今図書館をチェックしたら、あれだけあった
 予約も4人になっていて愕然)さて、作品的には題名と表紙を見ただけで、多重人格を
 扱っていることが解ってしまう。手の内をさらしておいて、どこまでだませるか?とい
 うと、ちょっとつらい。登場人物が少ないため、全体の構造は見えてしまった。まあ9
 7年刊行時に、何の予備知識もなしで読んだら少しは驚いたかもしれないが。ただ特筆
 すべきは、リーダービリティーの高さ。あっという間に読み終えたが、凡百のラノベ
 は明らかに違う読み易さである。ただモノローグ4は蛇足、というより、第三部の後半
 自体を大幅に削って、一気に幕を下ろすべきだろう。マクロイやニーリイのような先輩
 にならって。このテーマにだらだらした説明は不要。しかし、著者は読売新聞でエッセ
 イなどを書いているのに、08年の「鬼」以降、新刊は途絶えている。いったいどうし
 たのだろうか。

●6446 製造迷夢  (ミステリ) 若竹七海 (徳間文) ☆☆☆★

 WEBの書評に「若竹七海今邑彩の区別がつかない」というのがあって、そうかなあ
 と考えていたら、何と本書は今邑の「鋏の記憶」と同じくサイコメトラーの女性が主人
 公の警察小説。しかも連作の第一作のトリックが「多重人格」。シンクロニシティーは
 大げさだけど、いろいろつながるもんだなあ、と感心。しかし「鋏の記憶」が見事なま
 での失敗作であったように、このテーマは難しい。本書も前半はそれなりに健闘してい
 たんだけれど(必ずモノローグから始まり、調書、週刊誌記事、そして本文:一条刑事
 のところに女性が訪れる、というワンパターンが効果を上げている)第三話あたりから
 グダグダになってくる。結局サイコメトラーは諸刃の剣で、最初っから犯人当てろよ、
 という疑問が振り払えない。で、触っただけで全てを読み取ってしまう女性と(例えそ
 の力をコントロールできても)結婚することは不可能でしょう。

●6447 村上春樹 12の長編小説 (評論) 福田和也 (廣済堂) ☆☆☆☆

 あるようでなかった、村上春樹の全長編に対する評論をあの福田が上梓した。福田は僕
 とほぼ同じ年齢だから、村上春樹受容クロニクルも似ていて共感できる。それは最近語
 られることのなくなった「風の歌」「ピンボール」の初期2作(村上はこの2冊の翻訳
 を許していない)をきちんと評価している点でも明らかである。あれっと思ったのは、
 福田が「ダンス・ダンス・ダンス」を春樹版「長いお別れ」としているところ。何と五
 反田くんがテリー・レノックスだと言うのだ。うううん。(普通は「羊をめぐる冒険
 が「長いお別れ」で、鼠がテリー・レノックスだと思うのだが)たぶん、福田は本音の
 半分くらいしか書いていないと思うが、それでも楽しく読み終えることができた。驚い
 たのは引用された部分の文体で、今の自分に一番フィットした作品が「スプートニク
 恋人」だったこと。福田に言わせると、僕が唯一感情移入できなかった作品である「国
 境の南、太陽の西」は、村上春樹がギミックを使わずに書いた、唯一の大人のための中
 年小説、ということなので、中年を最早卒業してしまった今の僕が再読すれば、その良
 さが解るのかもしれない。(まあ、あと「ダンス」もあまり好きじゃないのだけれど、
 これは文体の問題だった気がする)

●6448 完盗オンサイト (ミステリ) 玖村まゆみ (講談社)  ☆☆☆

 毀誉褒貶喧しい昨年の乱歩賞作品。(今年は何と高野史緒が受賞したようだが、乱歩賞
 は新人賞じゃなかったの?高野はSFではもはや中堅でしょう)まあ、新刊をたまたま
 図書館で見つけただけで、別に読みたかったわけじゃないが、やっぱりかなり微妙な出
 来。一応、文章は新人離れしてうまくて、一気に読むことはできる。ただ、ストーリー
 は確かに突飛だが、リアリティーは全くない上に意外性もない。国生兄弟の存在は、下
 手糞な(初期)村上春樹みたいで嫌になるし、瀬尾のパーツも必然性に乏しい。更に意
 外だったのは、ロッククライミングのシーンがほんの少ししかなかったこと。まあ、皇
 居が舞台では深く描きようがなかったのだろうが、これは大きなマイナスでは?文章は
 うまいので、もっと地に足のついたストーリーを語れば、そこそこはいけると思うが。

 ●6449 サンタクロースのせいにしよう (ミステリ) 若竹七海 (集英文)☆☆☆

 何と本書も解説が大森。(どうやら、創元社つながりらしい)今回はリーダビリティー
 抜群で、やっぱり若竹七海はうまい作家なんだ、と思ってくいくい読み進んだが、途中
 で少々、いやかなり違和感が生じてきた。いわゆる日常の謎連作ミステリだから、当然
 と言えば当然だけれど、ミステリとしての謎とその解明が小粒なのにどうにも無理があ
 ってしっくりこない。幽霊の正体も、うううん大森が言うほど感心しなかった。何か全
 体に空回りしている感じが強かった。ご近所ミステリというには、登場人物が変な奴す
 ぎるんだよねえ。(彦坂夏見というキャラは「僕のミステリ」や「スクランブル」にも
 出てくる、初期の重要キャラの割には魅力がない)

 ●6450 船上にて (ミステリ) 若竹七海 (講談文) ☆☆☆★

 本書は著者の最初の短編集で、何と表紙が杉田比呂美ではない!?収録作品は基本的に
 著者の作品の中ではミステリ度がかなり高いと思う。ただし、残念ながらあまりにも若
 書きで、せっかくのアイディアをうまく生かせていない。(まあ、あとがきを読めば当
 然著者もそのことには気づいているのだが)ちょうど今邑彩における「時鐘館の殺人」
 を彷彿させる。「時鐘館」は結局最後まで読み通せなかったので、若竹の方がまだマシ
 だけれど。「時間」「タッチアウト」「手紙嫌い」といった作品は、今のスタイルで書
 き直せば結構いける気がするが、著者が自信作という「黒い水滴」は僕にはあざとさば
 かり目だって、どこが良いのか解らなかった。

 ●6451 天冥の標6 宿怨 PART1 (SF) 小川一水 (早川文)  ☆☆☆☆

 冒頭は高貴な(おてんば)お嬢様の大冒険という、ありがちな展開で嫌になっってしま
 った。このシリーズ、各巻毎にストーリー展開が全く変わるので油断が出来ない。4巻
 は全くダメで、5巻は最高だったので、今回も嫌な予感。まあ、お嬢様は「救世群」の
 ヤヒロ一族の姫であり、少年はリエゾンドクターのセアキ一族なので、シリーズを読ん
 できたものにとっては、配役は良いのだが、ストーリー展開がねえ。と思っていたら最
 終章でひっくり返った。何??、そうか著者はこれがやりたかったんだ。いやはや何と
 言う急展開。第一巻の最大の謎のひとつが解けそうだ。そうか、本書がPART1というのは
 そういう意味か。困った、これは早くつづきが読みたい!!

 ●6452 君の館で惨劇を (ミステリ) 獅子宮敏彦  (南雲堂) ☆☆☆

 歴史ミステリばかり書いてきた著者が、こんなコテコテのマニアックな作品を書くとは。
 解説にもあるように歌野晶午の「密室殺人」シリーズ?と良く似たテーストだが、横溝
 や乱歩に淫しているところは二階堂的だし、ダークな探偵の造型は清涼院っぽい。とい
 うわけで、何とか最後まで読んだけど個人的には好みではない。意外な犯人?も予想は
 ついてしまう。

●6453 未来の見える階段 (ビジネス) 田坂広志 (サンマ) ☆☆☆★

 田坂さんの新刊ですが、あのサンマーク出版ということでなかなか手が出なかったのだ
 が、何とか読んでみた。しかも、算数綴じで絵本形式で英語も併記という変わったスタ
 イル。絵本なのでスカスカで10分で読めたので、インチキ臭いのだけれど、今月も冊
 数が少ないのと、ちょっと書きたいことがあるので所感をつけてみた。内容は兄妹が森
 の賢人から未来を知る方法を教わるというもの。その方法が、何とまたもや弁証法なの
 ですよ。そしていつものように螺旋階段的発展によって、メール=手紙、等々の古い価
 値が新しい価値を伴って復活してくるとする。経済ではボランタリー経済、政治におい
 ては、直接民主主義等々。何と絵本にまで使いまわすか?と最初は引いたんですが、そ
 の後がちょっとびっくり。ひょっとしたら、田坂さんはこれが書きたくて、わざわざ絵
 本という形をとったのでは?とさえ思ってしまった。(普通の形で書くにはかなりあぶ
 ない?)それは何と「宗教」の螺旋的発展。一神教から多神教が復活するというのだ。
 もちろんそれは「新たな多神教」なのだが、それが「自然崇拝(アニミズム)」とあっ
 て、なんだそりゃあ?と一瞬こけかけた。しかし、未開社会のアニミズムがそのまま復
 活するわけではない。それはむしろ科学の最先端において、地球観の転換、さらには宇
 宙観の転換という形で始まるだろう。この地球そのものが巨大な生命体である(ラブロ
 ック!グローバルブレイン!)という地球観。さらには、この宇宙そのものが壮大な生
 命的プロセスである(小松左京「神への長い道」!)という宇宙観だ。ああ、こうきた
 か。ニューエイジアン田坂節炸裂である。いやあ、この内容だとサンマークの絵本とい
 うのは、優れて戦略的かつ無難なのかもしれないなあ。

 ●6454  死んでも治らない  (ミステリ) 若竹七海 (光文文) ☆☆☆★

 本書もまた連作ミステリで、ラストの短編がスライスされて各短編の間に挿入される、
 という凝った構成だが、手放しで褒めることはちょっと難しい。(そう言えば「アルバ
 トロスは羽ばたかない」が良く似た構成なのだが、残念ながらそこまでの効果はあげら
 れていない)というのも、各短編の論理展開がどうにもすっきりしないのである。一応
 良く考えられているとは思うのだが、リアリティーにおいてイマイチ納得できないのが
 多いのだ。そうか、そのあたりは西澤に似ているんだ。さて、いろいろ読みたい本もた
 まってきたので、若竹祭は中途半端だがこのあたりで一旦休止。(そういえば、本書に
 も彦坂夏見が重要な役割で登場するのだが、相変らずキャラが立っていない)

●6455 ぼくらが惚れた時代小説
          (対談) 山本一力縄田一男児玉清 (朝日文) ☆☆☆★

 何回か書いたように、あまりにも膨大な歴史・時代小説をきちんと解説してくれる本を
 探し続けているのだが、書下ろし時代劇ブームによって更に巨大化するジャンルに呆然
 とするしかないのが現状。そこで見つけた本書は、山本は良く解らないが(「あかね空」
 くらいはそろそろ読もうか)縄田と故児玉清には興味があって、手に取った。しかし、
 残念ながら、古典的作品の話が多く、僕が期待した直近の女流作家の話が全然物足りな
 い。縄田と児玉ならこのあたりに期待したのだけれど。(個人的には何度も言うが、松
 井、諸田、宇江佐、の三人がトップ)で、いきなり中里介山の「大菩薩峠」と白井喬二
 の「富士に立つ影」という大物。で、読んでもいないのに、何でこのあたりの知識が一
 応あるのか、よくよく考えたら、ほとんどのネタは小林信彦なことに気づいた。吉川英
 治や柴田連三郎もそうだ。しかし、小林が司馬遼太郎池波正太郎について書いたこと
 は記憶にない。このあたり、なかなか面白そうなのだけれど、誰か書いてくれないかな
 あ。(うすうすは想像できるけど)

●6456 船に乗れ!Ⅰ 合奏と協奏 (小説) 藤谷 治 (ジャイ) ☆☆☆☆

 「王様のブランチ」等々で大きく取り上げられた作品を今更読むのは、情けない気もす
 るのだが、本書三巻がそれぞれ3冊づつ図書館の棚にあるのを見て(ベストセラーはあ
 る時間が過ぎると往々にそんな状況になる)つい手にとって斜め読みのつもりが、序章
 4ページで一気に引き込まれた。これは村上春樹ではないか?と思ったら、最後に「マ
 ドレーヌを紅茶に浸したわけでもなければ、ボーイング747に乗っていたら「ノルウ
 ェイの森」が流れてきたわけでもない」。くそ!確信犯だったか。それでも、僕は本書
 を一気に読んでしまった。自己嫌悪だとか自己顕示だとか、かつてはあれほど僕の自由
 を奪っていた青臭いものを思い出しながら。いったい、あれらの感情はどこへ行ってし
 まったのだろうか。建設的に乗り越えたとはとても言えない。妥協の連続の間に擦り切
 れてしまったのか、見ないふりをしている間に、本当に存在を忘れてしまったのか。そ
 れが大人になると言うことなら、この年になってこんな青酸っぱい物語を読むのも、た
 まにはいいのかもしれない。

 ●6457 トネイロ会の非殺人事件 (ミステリ) 小川一水 (光文社) ☆☆☆★

 著者のミステリ系の中篇を3篇収録した本。しかし、3篇ともひねっていて普通のミス
 テリとはかなり違う。冒頭の「星風よ、淀みに吹け」は、三雲岳斗の「M.G.H」のよ
 うな、SF設定の本格パズラー。ただし、本格的な宇宙ではなく、月面基地のための閉
 鎖系実験施設が舞台。どうやら評価はあちこちで高いようだが、残念ながら僕には設定
 以外はひねり不足に感じた。次の「くばり神の紀」はある奇妙なオカルト現象が、論理
 的に解明される話だが、ミステリとは言えないだろう。山本弘ほしおさなえでも書き
 そうな、生物学的ファンタジー。個人的には本書のベストだが、謎の解明が論理的すぎ
 て長くなってしまったのが残念。論理的な瑕疵がなくなるほど、小説としての衝撃は減
 退していく。最後が表題作。「トネイロ」をローマ字にして逆読みすると現れる、クリ
 スティの超有名作品。それを正に逆転させたのが本書のプロットだが、正直設定が必要
 以上に複雑なのに登場人物が多すぎて、せっかくのアイディアをうまく消化できなかっ
 たように感じる。というわけで、努力は解るんだけど素直に楽しめたとは言いがたい微
 妙な出来の作品集。

 ●6458 船に乗れ!Ⅱ 独奏 (小説) 藤谷 治 (ジャイ) ☆☆☆★

 キラキラと輝いていた一巻が、二巻ではいきなり深い暗闇に突入してしまう。主人公の
 失恋=ヒロインの悲劇は、構造こそ「ノルウェイの森」と同じだが、その原因の生々し
 さが村上春樹とは決定的に違い、残念ながら僕はイマイチ共鳴できなかった。そう考え
 ると本書は「ノルウェイ」より幼いのに生々しく、ゆがんでいてグロテスクに感じてし
 まう。一巻とは全く逆の印象だ。喪失の物語であることは、一巻から解っていた(主人
 公の回想から物語りは始まる)はずなのに、このざらりとした違和感は何なんだろうか。
 そうか、本書には緑さんがいないんだ・・・三巻をすぐ読むのはちょっと辛い。

●6459 新島八重 愛と闘いの生涯 (NF) 吉海直人 (角川選) ☆☆☆

 来年の大河ドラマは、母校創設者新島襄の妻であった八重がヒロインと決まったことは
 知っていたので、図書館に予約して読んでみた。綾瀬はるかが八重を演じるようだが、
 本人の写真とのギャップは、篤姫並に凄い・・・そういえば、篤姫のときも小松帯刀
 ついて学者が書いた本を読んだことを思い出した。残念ながら、本書はそれに比べると
 つまらない。著者は同志社女子大の教授であるが、内容はそれほど同志社を描いていな
 いし、そうは言っても同志社に関係のない人にとっては面白いとは思えない内容になっ
 てしまっている気がする。

 ●6460 綾辻行人有栖川有栖のミステリ・ジョッキー3 (講談社) ☆☆☆☆★

 残念ながら、本書でこのシリーズはひとまず完結、ということらしいが、前回も書いた
 が、あるテーマに関して二人が選んだ短編をまず掲載し、それに関して語る、という本
 書の形式は、ミステリの評論や解説が必然的にぶち当たってきたタブー、ネタを割って
 作者の騙しのテクニックを語る、を可能にした画期的なものと思う。まして、それを語
 るのが稀代の騙り者二人なのだから、何を言わんかな。また、この二人が選ぶのだから
 当然僕にも思いいれのある作家、作品が多く、所感が書ききれない。冒頭の栗本薫の「
 袋小路の死体」を読むと、学生時代中島梓名義で颯爽と文壇に登場した彼女が、返す刀
 で(「ぼくらの時代」)乱歩賞を受賞してしまったときの、僕も含めたマニアの嫉妬。
 たしか大学のSF研のポスターに「山尾悠子は生きろ!栗本薫は死ね!」というのが、
 あったように記憶している。次の山村美紗に関して有栖川有栖が語る、NHK「若い広
 場」で彼女と学生がミステリに関して語った話は、当然僕も一緒に出演し、何と素人な
 のにTV欄に名前が載って、田舎の友人から電話がかかってきた。(出演料は確か一万
 円だったような)その後の学校新聞の企画というのはうろ覚えなんだけど・・・次がチ
 ェスタトンと山風、倉阪(田舎の事件)と島田荘司、そして最後はノックスの十戒、ヴ
 ァン・ダインの二十則と鮎川哲也、等々。センスの良さが光る。当事者はパワーがいる
 と思うけど、近いうちに是非復活してほしい。

 ●6461 盤上の夜 (SF) 宮内雄介 (創元社) ☆☆☆☆

 囲碁で始まり、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋、そして物語は再び囲碁に戻って
 くる。ゲームを描いたSFというよりファンタジーというべきかもしれないが、新人と
 は思えない完成されたスタイルに驚かされる。冒頭の両手両足を切断した天才女流棋士
 という設定は、乱歩か寺山的にあまりにグロテスクと感じたのだが、そこで描かれる内
 容はまるで瀬名のロボットモノのテースト。これはやはり山田正紀賞に相応しい作品だ。
 次のチェッカーは小川洋子風、古代チェスは獅子宮敏彦か。そして、全作読み終えて本
 書に欠けているのは、若島正の詳細な解説ではないか!と強く感じる。文庫化時には是
 非期待したい。