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2016年ジャンル別ベスト ミステリ(国内・海外)

2016年は226冊でした。相変わらず硬い本が読めていませんが、読みたい本が、あまりないのも事実です。

◆国内ミステリ

「真実」がベストかな、と思っていたら、12月に西澤の「悪魔」が上梓され、そのレベルの高さにうなってしまった。続いて古典部「いまさら」もレベルが高く、やはりこの二人は本物と確信した。

1、悪魔を憐れむ         西澤保彦 (幻冬舎) ☆☆☆☆★

 

悪魔を憐れむ

悪魔を憐れむ

 


  帰ってきた腕貫探偵      西澤保彦 (実業日) ☆☆☆☆

 

帰ってきた腕貫探偵

帰ってきた腕貫探偵

 

 

 


2、真実の10メートル手前    米澤穂信 (創元社) ☆☆☆☆★

 

真実の10メートル手前

真実の10メートル手前

 

 


  いまさら翼といわれても    米澤穂信 (角川書) ☆☆☆☆★

 

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

 

 


3、ミステリー・アリーナ     深水黎一郎(原書房) ☆☆☆☆★

 

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

 

 


4、800年後に会いに行く    河合莞爾 (幻冬舎) ☆☆☆☆★

 

800年後に会いにいく

800年後に会いにいく

 

 


5、虹を待つ彼女         逸木 裕 (角川書) ☆☆☆☆★

 

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

 

 

6、ブラック・ドッグ       葉真中顕 (講談社) ☆☆☆☆★

 

ブラック・ドッグ

ブラック・ドッグ

 

 

 

7、ラスト・ナイト        薬丸 岳 (実業日) ☆☆☆☆

 

ラストナイト

ラストナイト

 

 


8、○○○○○○○○殺人事件   早坂 吝 (講談N) ☆☆☆☆

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社ノベルス)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社ノベルス)

 

 

次、沈黙法廷           佐々木譲 (新潮社) ☆☆☆☆

 

沈黙法廷

沈黙法廷

 

 

沈黙法廷

沈黙法廷

 

 


次、たまらなくグッドバイ     大津光央 (宝島社) ☆☆☆☆

 

 


次、図書館の殺人         青崎有吾 (東京創) ☆☆☆☆

 

図書館の殺人

図書館の殺人

 

 

 

次、瞑る花嫁           五代ゆう (双葉社) ☆☆☆☆

 

柚木春臣の推理 瞑る花嫁 (双葉文庫)

柚木春臣の推理 瞑る花嫁 (双葉文庫)

 

 

 

次、スパイは楽園に戯れる     五條 瑛 (双葉社) ☆☆☆☆

 

スパイは楽園に戯れる

スパイは楽園に戯れる

 

 


次、5人のジュンコ        真梨幸子 (徳間書) ☆☆☆☆

 

5人のジュンコ (徳間文庫)

5人のジュンコ (徳間文庫)

 

 


次、メイン・ディッシュ      北森 鴻 (集英文) ☆☆☆☆

 

メイン・ディッシュ (集英社文庫)

メイン・ディッシュ (集英社文庫)

 

 


★古典再読
 ・明智小五郎事件簿Ⅰ      江戸川乱歩(集英文) ☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

◆海外ミステリ

世の中のベスト10と全く合わない。今年はフェラーズの「カクテルパーティー」だろう?マクロイも良いが、フェラーズの方が上だった。あと、クェンティンのダルース夫妻シリーズのレベルの高さにも驚いた。(特に俳優パズル)今頃読んで申し訳ないが。


1、カクテルパーティー   エリザベス・フェラーズ  (論創社) ☆☆☆☆★

 

カクテルパーティ (論創海外ミステリ)

カクテルパーティ (論創海外ミステリ)

 

 


  さまよえる未亡人たち  エリザベス・フェラーズ  (創元文) ☆☆☆☆

 

さまよえる未亡人たち (創元推理文庫)

さまよえる未亡人たち (創元推理文庫)

 

 


  灯火が消える前に   エリザベス・フェラーズ  (論創社) ☆☆☆☆

 

灯火が消える前に (論創海外ミステリ)

灯火が消える前に (論創海外ミステリ)

 

 


2、ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 ダヴィド・ラーゲルクランツ ☆☆☆☆★

 

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)

 
ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 上 (早川書房)

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 上 (早川書房)

 

 

 


3、二人のウェリング  ヘレン・マクロイ     (ちく文) ☆☆☆☆

 

二人のウィリング (ちくま文庫)

二人のウィリング (ちくま文庫)

 

 


  ささやく真実    ヘレン・マクロイ     (創元文) ☆☆☆☆

 

ささやく真実 (創元推理文庫)

ささやく真実 (創元推理文庫)

 

 


  小鬼の市      ヘレン・マクロイ     (創元文) ☆☆☆☆

 

小鬼の市 (創元推理文庫)

小鬼の市 (創元推理文庫)

 

 


4、リモート・コントロール  ハリー・カーマイケル   (論創社) ☆☆☆☆

 

リモート・コントロール (論創海外ミステリ)

リモート・コントロール (論創海外ミステリ)

 

 


5、彼女のいない飛行機  ミシェル・ビュッシ  (集英文) ☆☆☆☆

 

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

 

 


6、証言拒否  マイクル・コナリー   (講談文) ☆☆☆☆ 

 

 

 

 


  転落の街     マイクル・コナリー  (講談文) ☆☆☆☆

 

 

 


★古典再読
 ●ママシリーズ
 ・ママ、手紙を書く   ジェームズ・ヤッフェ   (創元文) ☆☆☆☆

 

ママ、手紙を書く (創元推理文庫)

ママ、手紙を書く (創元推理文庫)

 

 


 ・ママは眠りを殺す   ジェームズ・ヤッフェ   (創元文) ☆☆☆☆

 

ママは眠りを殺す (創元推理文庫)

ママは眠りを殺す (創元推理文庫)

 

 


 ・ママ、嘘を見抜く   ジェームズ・ヤッフェ   (創元文) ☆☆☆☆

 

 

ママ、嘘を見抜く

ママ、嘘を見抜く

 

 

 

 

 ●ダルース夫妻シリーズ+α


 ・二人の妻を持つ男   パトリック・クェンティン (創元文) ☆☆☆☆★

 

二人の妻をもつ男 (創元推理文庫)

二人の妻をもつ男 (創元推理文庫)

 

 


 ・俳優パズル      パトリック・クェンティン (創元文) ☆☆☆☆★

 

俳優パズル (創元推理文庫)

俳優パズル (創元推理文庫)

 

 


 ・人形パズル      パトリック・クェンティン (創元文) ☆☆☆☆

 

 


 ・悪女パズル      パトリック・クェンティン (扶桑文) ☆☆☆☆

 

悪女パズル (扶桑社ミステリー)

悪女パズル (扶桑社ミステリー)

 

 


 ・悪魔パズル      パトリック・クェンティン (論創社) ☆☆☆☆

  

 

悪魔パズル (論創海外ミステリ)

悪魔パズル (論創海外ミステリ)

 

 


 ・巡礼者パズル     パトリック・クェンティン (論創社) ☆☆☆☆

 

巡礼者パズル (論創海外ミステリ)

巡礼者パズル (論創海外ミステリ)

 

 


 ・女郎蜘蛛       パトリック・クェンティン (創元文) ☆☆☆☆

 

 

 

 ●クリスティー完全制覇挫折
 ・白昼の悪魔       アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

白昼の悪魔 (クリスティー文庫)
 

 


 ・五匹の子豚       アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 


 ・杉の柩         アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

杉の柩 (クリスティー文庫)

杉の柩 (クリスティー文庫)

 

 


 ・ポアロのクリスマス   アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 


 ・ゼロ時間へ       アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

ゼロ時間へ (クリスティー文庫)

ゼロ時間へ (クリスティー文庫)

 

 


 ・ポケットにライ麦を   アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

 


 ・親指のうずき      アガサ・クリスティー   (早川文) ☆☆☆☆

 

 

 

 

 ●怪盗紳士ルパン   モーリス・ルブラン    (早川文) ☆☆☆☆

 

怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)

怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)

 

 

 

 

2016年ジャンル別ベスト (SF・歴史・小説・NF)

◆SF、ホラー、ファンタジー

これまた「夢見る葦笛」が圧倒的トップと思っていたら、12月に飛の新作が上梓れ、やはり飛は別格と再確認。上田には申し訳ないが。ここも、海外SFが全然読めなくなった。

1、自生の夢            飛 浩隆     (河出新) ☆☆☆☆★

 

自生の夢

自生の夢

 

 
2、夢見る葦笛           上田早夕里    (光文社) ☆☆☆☆★

 

夢みる葦笛

夢みる葦笛

 

 
3、代 体             山田宗樹     (角川書) ☆☆☆☆★

 

代体

代体

 

 
4、アンダーグラウンド・マーケット 藤井太陽     (朝日新) ☆☆☆☆

 

アンダーグラウンド・マーケット (朝日文庫)

アンダーグラウンド・マーケット (朝日文庫)

 

 
5、天冥の標Ⅸ           小川一水     (早川文) ☆☆☆☆

 


6、モナドの領域          筒井康隆     (新潮社) ☆☆☆☆

 

モナドの領域

モナドの領域

 

 
7、ロック・イン          ジョン・スコルジー(HSF) ☆☆☆☆

 

ロックイン-統合捜査- (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ロックイン-統合捜査- (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 
8、僕が愛したすべての君へ     乙野四万字    (早川文) ☆☆☆☆
  君を愛したひとりの僕へ     乙野四万字    (早川文) ☆☆☆☆

 

 

次、君の名は。Another Side     加納新太     (角ス文) ☆☆☆☆

 

君の名は。 Another Side:Earthbound (角川スニーカー文庫)
 

 


★古典再読
 ・スキャナーに生きがいはない コードウェイナー・スミス(早川文) ☆☆☆☆★
 ・アルファ・ラルファ大通り  コードウェイナー・スミス(早川文) ☆☆☆☆

 

スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

 
アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

 

 
 ・ブロントメク!     マイクル・コーニイ   (河出文) ☆☆☆☆

 

ブロントメク! (河出文庫)

ブロントメク! (河出文庫)

 

 

 

◆時代・歴史小説

数は少ないが、レベルは高い。塩野は別格として、馳が不比等を描くだけでも驚きだが
その斬新さに驚愕。垣根も今度は凄い。まあ、直木賞はとれないと思うけれど。

1、ギリシア人の物語Ⅰ       塩野七生 (新潮社) ☆☆☆☆☆

 

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

 

 
2、比ぶ者なき           馳 星周 (中公社) ☆☆☆☆☆

 

比ぶ者なき

比ぶ者なき

 

 
3、室町無頼            垣根涼介 (新潮社) ☆☆☆☆★

 

室町無頼

室町無頼

 

 

次、ハンニバル戦争         佐藤賢一 (中公社) ☆☆☆☆

 

ハンニバル戦争

ハンニバル戦争

 

 
次、曽呂利!秀吉を手玉に取った男  谷津矢車 (実業日) ☆☆☆☆

 

 

曽呂利!

曽呂利!

 

 

◆フィクション

こうやってみると、結構レベルが高い。1、2、4、と今熱い小説が望まれているのだ
ろうか。村上春樹復活。17年の新作に期待。

1、陸 王             池井戸潤 (集英社) ☆☆☆☆★

 

陸王 (集英社文芸単行本)

陸王 (集英社文芸単行本)

 

 
2、小説王             早見和真 (小学館) ☆☆☆☆★

 

小説王

小説王

 

 
3、女のいない男たち        村上春樹 (文春社) ☆☆☆☆★

 

女のいない男たち

女のいない男たち

 

 


4、ミッドナイト・ジャーナル    本城雅人 (講談社) ☆☆☆☆★
  トリダシ            本城雅人 (文春社) ☆☆☆☆

 

ミッドナイト・ジャーナル

ミッドナイト・ジャーナル

 

 

トリダシ (文春e-book)

トリダシ (文春e-book)

 

 
5、革命前夜            須賀しのぶ(文春社) ☆☆☆☆★

 

革命前夜

革命前夜

 

 
6、あしたの君へ          柚月裕子 (文春社) ☆☆☆☆★

 

あしたの君へ

あしたの君へ

 

 


7、暗幕のゲルニカ         原田マハ (新潮社) ☆☆☆☆
  デトロイト美術館の奇跡     原田マハ (新潮社) ☆☆☆☆
  リーチ先生           原田マハ (集英社) ☆☆☆☆
  モネのあしあと         原田マハ (幻冬新) ☆☆☆☆

 

暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ

 

 

デトロイト美術館の奇跡

デトロイト美術館の奇跡

 

 

リーチ先生

リーチ先生

 

 

 

次、象は忘れない          柳 広司 (文春社) ☆☆☆☆

 

象は忘れない

象は忘れない

 

 
次、千日のマリア          小池真理子講談社) ☆☆☆☆

 

千日のマリア

千日のマリア

 

 
次、猿の見る夢           桐野夏生 (講談社) ☆☆☆☆

 

猿の見る夢

猿の見る夢

 

 

 

◆ノンフィクション

1のテンションと密度の高さに圧倒された。全く知らない役者だけれど。で、2も熱い。レニとディートリッヒだから当然だけれど。

 

1、つかこうへい正伝        長谷川康夫(新潮社) ☆☆☆☆☆

 

つかこうへい正伝 1968-1982

つかこうへい正伝 1968-1982

 

 

 
2、オリンピア嘆きの天使     中川右介 (毎日新) ☆☆☆☆★

 
3、ロケット・ササキ        大西康之 (新潮社) ☆☆☆☆

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正

 

 
4、レジェンド 伝説の男 白洲次郎 北 康利 (朝日新) ☆☆☆☆
  叛骨の宰相 岸信介       北 康利 (中経出) ☆☆☆☆

 

レジェンド 伝説の男 白洲次郎

レジェンド 伝説の男 白洲次郎

 

 

叛骨の宰相 岸信介

叛骨の宰相 岸信介

 

 

次、桜色の魂            長田渚左 (集英社) ☆☆☆☆

桜色の魂~チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか

桜色の魂~チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか

 


次、小林カツ代栗原はるみ     阿古真理 (新潮新) ☆☆☆

小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)

小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)

 

 

 

2016年ジャンル別ベスト (その他)

◆エッセイ、書評、評論、企画

1は、僕自身の人生とクロスしてしまい、目頭が熱くなった。2、3には圧倒された。

1、ぼくのミステリ・クロニクル   戸川安宣     (国書刊) ☆☆☆☆☆

 

ぼくのミステリ・クロニクル

ぼくのミステリ・クロニクル

 

 


2、エラリー・クイーン 推理の芸術 F・M・ネヴィンズ(国書刊) ☆☆☆☆☆

 

エラリー・クイーン 推理の芸術

エラリー・クイーン 推理の芸術

 

 


2、アガサ・クリスティー完全攻略   霜月 蒼  (講談社) ☆☆☆☆★

 

アガサ・クリスティー完全攻略

アガサ・クリスティー完全攻略

 

 
3、本格力         喜国政彦&国樹由香 (講談社) ☆☆☆☆★
  メフィストの漫画    喜国政彦&国樹由香 (講談社) ☆☆☆☆★

 

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

 

 

 

メフィストの漫画 (講談社文庫)
 

 


4、新・冒険スパイ小説ハンドブック   早川書房編集部   ☆☆☆☆★

 

 


5、現代SF観光局       大森 望   (河出新) ☆☆☆☆★

 

現代SF観光局

現代SF観光局

 

 


6、本の窓から             小森 収     (論創社) ☆☆☆☆

 

本の窓から―小森収ミステリ評論集

本の窓から―小森収ミステリ評論集

 

 


7、泡坂妻夫              文芸別冊     (角川書) ☆☆☆☆

次、羊頭狗肉             坪内祐三・福田哲也 (扶桑社) ☆☆☆☆

 

 


次、朝日のような夕日をつれて21世紀版     鴻上尚史 (論創社) ☆☆☆☆

 

朝日のような夕日をつれて 21世紀版

朝日のような夕日をつれて 21世紀版

 

 


次、ワタクシ、直木賞のオタクです。       川口則弘 (バジリ) ☆☆☆☆

 

ワタクシ、直木賞のオタクです。

ワタクシ、直木賞のオタクです。

 

 


次、日本SF・幼年期の終り       早川書房編集部  (早川書) ☆☆☆☆

 

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

 

 


次、ハードボイルド徹底考証読本     小鷹信光逢坂剛 (七つ森) ☆☆☆☆

 

ハードボイルド徹底考証読本
 

 

特、横溝正史読本      小林信彦編 (角川書) ☆☆☆☆☆

 

横溝正史読本 (1976年)

横溝正史読本 (1976年)

 

 

 

◆政治、経済、歴史

1、新・地政学         山内昌之佐藤優 (中公新) ☆☆☆☆★

 

 


2,新・リーダー論        池上彰佐藤優 (文春新) ☆☆☆☆★

 

 


  大世界史           池上彰佐藤優 (文春新) ☆☆☆☆

 

 


2、学校では教えてくれない戦国史の授業 井沢元彦 (PHP) ☆☆☆☆★

 

学校では教えてくれない戦国史の授業

学校では教えてくれない戦国史の授業

 

 


  逆説の世界史2           井沢元彦 (小学館) ☆☆☆☆

 

逆説の世界史 2 一神教のタブーと民族差別
 

 

次、司馬遼太郎 東北をゆく       赤坂憲雄 (人文書) ☆☆☆☆

 

司馬遼太郎 東北をゆく

司馬遼太郎 東北をゆく

 

 


次、ローマ帝国人物列伝         本村俊二 (祥伝社) ☆☆☆☆

 

 

ローマ帝国 人物列伝(祥伝社新書463)

ローマ帝国 人物列伝(祥伝社新書463)

 

 

◆思想・哲学・社会学

次、セカイからもっと近くに       東 浩紀 (東京創) ☆☆☆☆

 

 


◆科学  なし
 
◆ビジネス

1、仕事の作法             田坂広志 (講談現) ☆☆☆☆
  人間を磨く             田坂広志 (光文新) ☆☆☆☆

 

 

 

人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」 (光文社新書)

人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」 (光文社新書)

 

 


2、生産性               伊賀泰代 (ダイヤ) ☆☆☆☆

 

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

 

次、シャープ崩壊            日本経済新聞社編   ☆☆☆☆

 

シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か

シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か

 

 

2016年 12月に読んだ本

●7567 池上彰の戦争を考える (企画) (角川書) ☆☆☆★

 

池上彰の戦争を考える

池上彰の戦争を考える

 

 

写真を豊富に使ったムック本。そういえば、ボスニア等々内容のいくつかは、テレビ東京の特集で観ていて、池上の硬派の部分が感じられる良い企画だった。ただ、こうやって本にした場合、本書のテーマである太平洋戦争に関しては、だいたい90%は知っている内容なので、面白かったとはさすがに言えない。

しかし、知識の整理=復習にはなったし、何よりたぶん池上がターゲットとしている若者へのメッセージとしては、偏向が少なく、ビジュアルをうまく使った良書だと思う。

 ●7568 女のいない男たち (フィクション) 村上春樹 (文春社) ☆☆☆☆★

 

女のいない男たち

女のいない男たち

 

 

前作「多崎つくる」が、イマイチの内容だったうえに、文芸春秋連載時のタバコ事件でミソをつけてしまった?ので、ずっと読まずにいたんだけれど、文庫本になったので買おうと思ったら、ブックオフで380円で見つけてしまった。

で、冒頭の「ドライブ・マイ・カー」を読んで、良いではないか!とうなってしまった。文体が引き締まっていて、一気に引き込まれた。そして「イエスタディ」と「独立器官」。この三作には、奇妙なしかし存在感のある三人の女性と、三人の男性(主人公)が登場し、それぞれ人物造形もシチュエーションも全く違うのだが、間違いなく地下の奥深いところでつながっている。「ノルウェイ」の「アフターダーク」バージョンというか。喪失というより、欠落の方がしっくりくる物語たちだ。

そして、次の「シェラザード」は、掲載紙もモンキーに変わり、ファンタジー要素が強くなる。さらに、問題の「木野」。これが本作品集における「かえる君」にあたる、奇妙なオカルティック小説だが、今回は特に怖い。そして、最後に短い書下ろしの表題作。まるで、あとがきのような。

というわけで、読み終えて思うのは、本書は村上が明確に、サージェントペパーのように、コンセプトアルバムとして、短編作品を書き、意図的に並べた短編集だと感じる。そして、それは見事に成功し、ひとつひとつは特別つながりがないのに(時々登場人物がかぶる)喪失と欠落をかかえて生きていかなければならない、村上ワールドが見事に描き出されてる。

 

 ●7569 オールド・テロリスト (フィクション) 村上龍 (文春社) ☆☆☆★

 

オールド・テロリスト

オールド・テロリスト

 

 

両村上を狙ったわけではないのだが、ひょんな拍子で、本書を読んでいないことに気づき、ネットの評価も高く、図書館ですぐ手に入ったので読みだした。というのも、本書の主人公が、あの「希望の国エクソダス」のルポライターだ、というのが気になったからだ。村上龍も春樹ほどではないが(「限りなく」を読んでないのだが)ある時期までは、リアルタイムタイムでかなり追っかけてきた。

(今、勘定したら、小説=長編・短編集53冊中24冊を読んでいた。70年代の「コインロッカー」80年代の「愛と幻想」、90年代の「イビサ」と時代を象徴する傑作を書いてきた、と20世紀は思っていた)

物語はあの「昭和歌謡大全集」&「半島を出でよ」のテロリストたち?がシリアスかつ老人として甦り、それを「トパーズ」的キャラ&文体で描いた、という確かに龍にしか書けない、不気味な傑作である。

ただし、四年も連載したせいか、中盤が必要以上に長くなってしまい、テロより「トパーズ」的な人々の物語が悪目立ちして、疲れてしまった。たぶん、この半分の長さで十分だったと思う。惜しい。残念な作品。

 

●7570 本格力 (企画) 喜国政彦&国樹由香 (講談社) ☆☆☆☆★

 

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド

 

 

マンネリ気味だったとはいえ、本棚探偵シリーズが終了したのは、残念だった。と思っていたら、こんな分厚い夫婦合作?が届いた。

内容は雑誌メフィストの連載で、マンガも含めていくつかのパターンがあるのだが、メインはH1グランプリと名打った書評で、マニアの坂東善博士(喜国?)と素人高校生りこ(国樹?)の二人が本格古典ミステリを、毎回テーマに沿って数冊本音で書評するというもので、27回も続く。で、本格古典(しかも海外)というのがミソで、正直◎はめったにでない。

褒めるか無視するしかない、現在の書評状況で、きちんと欠点を書く、ということがいかに重要か再確認した。最近古典を見直している僕も、やはり幻の名作に傑作なし、という地点にもう一度戻るのか?と思ったのだが、これは海外本格古典としたのが悪い。これだけの辛気臭い古典を読み通した二人に拍手。

ただ、このパターンはまったときは、最高に面白く、クイーンやカーの回は楽しく読んだ。素人のりこの評価が結構鋭い。「三つの棺」など全く同感。残念なのは、やはりこれだけ長くやるならば、国内本格(正史や鮎川哲也土屋隆夫などぜひ今からでもやってほしい)や、海外の本格以外や、最近の本格もやってほしかった。で、最高なのは、あいだみつおならぬ、みすおの、だってほんかくだもの。これはもう、脱力して笑うしかない。

 

●7571 知られざる出版「裏面」史 (インタビュー)元木昌彦(出版人)☆☆☆☆
 

 

ネットでよく見かける、こわもての元週刊現代編集長の、雑誌メディアを作ってき13人へのロングインタビューだが、僕は花田紀凱末井昭、井家上隆幸、の三人しか知らなかった。全員が団塊の世代以上で、ちょっと僕には古くて解らないことが多々あった。(一番驚いたのが、末井と坪内の元妻との不倫事件。どう考えても坪内の方が若くていい男なのに・・・・)

で、内容は古き良き時代の雑誌梁山泊物語と、やっぱり出てくる左翼・ゲバルト&人事抗争物語で、後者は光文社のノンフィクションの時もそだったけど、疲れてしまう。本当に面倒くさい。もちろん、雑誌の裏側は面白いのだけど、もはやこんな時代はこないでしょう。

しかし、団塊の世代の引退が日刊紙を壊滅状態に追いやり、キオスクもまた次々姿を消す。これは、まさにリアルな出来事であり、これが次は雑誌、書籍まで行くのだろうか?

 

●7572 生産性 (ビジネス) 伊賀泰代 (ダイヤ) ☆☆☆☆

 

 

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

 

「採用基準」は、リーダーシップの本であり、その続編?は「生産性」とは、さすがに著者は目の付け所がいい。日本の誇る生産性は、工場=現場における生産性であり、その結果、生産性=アウトプット/インプットの分母=コスト削減になってしまっていることへの警鐘は、鋭いと感じる。

確かに工場の段階で、クリエイティブなアウトプット向上などは不可能であり、自然に生産性をあげるためには、無駄なコスト削減が歩留りの向上に向かう。しかし、それでは本当の生産性向上にはならないのだ。

生産性をあげると効率を追い、クリエイティビティーがなくなる、のではなく、リスクをとって、圧倒的なアウトプットを実現できたとき、生産性がマックスになるのである。しかしマッキンゼーはPPTのプレゼンは禁止で、会議メンバーはPPTを読むだけで、発表者の説明なしで、いきなり議論に入る、というのには驚いた。

 

●7573 悪魔を憐れむ (ミステリ) 西澤保彦 (幻冬舎) ☆☆☆☆★ 
 
悪魔を憐れむ (幻冬舎単行本)

悪魔を憐れむ (幻冬舎単行本)

 

 

 年末ぎりぎりに、なんとあのタック&タカチシリーズの新刊(短編集)が届いた。世の中では、2012年の「身代わり」以来の新作と騒がれているが、個人的には再読も含めて12年に「西澤祭り」をやったので、ある程度この長いシリーズのストーリーは頭に入っていて、西澤の凄さを堪能した。というか、最近では腕貫探偵の方が目立っているが、やはり西澤の原点はこのシリーズだな、と再確認した。中編、短編がそれぞれ二編、合計四編が収められているが、特に中編が両方とも素晴らしいでき。


もうベスト10は終わってしまったが、個人的には「真実の10メートル手前」を抜いて、本書が国内ミステリの今年のベスト。今のところは。冒頭の「無間呪縛」は、オカルティックな事件の、機械トリックをレッドヘリングとしながら、恐ろしい結末へと読者を導く。これこそ、究極のプロバビリティーの犯罪であり、本作のベストの出来。素晴らしい。

もちろん、ある人物の狂気のような執着や、結末のある人物のもうひとつの貌、などはまさに黒西澤全開で、良く考えるとありえないだろう、となるのだが、ここは西澤ワールドだから、仕方がない。素晴らしくキャラが立っていて、素晴らしく論理的で(論理のアクロバット)素晴らしくダークなのは、四作品とも共通しているが、本編はやはりベスト。

とは言っても、次の表題作も冒頭のショッキングな事件から、こんな無茶苦茶な事件が最終的に見事に論理的に解かれるカタルシスも、遜色なく素晴らしい。ここでも先の3つの特徴は健在だが、この中編二作は、こ のところのシリーズのテーマ(それはタック&タカチの親子関係に顕著)抑圧・束縛・操作からの解放・暴発が、通奏低音として流れていて、かなりいたい。続く短編「意匠の切断」は奇抜な動機は、ある程度予想がついたし、偶然の連続がやや気になるが、これまた素晴らしくダークなのに論理的だ。

そして、やっとボアン先輩が登場する最後の「死は天秤にかけられて」は、お得意の「九マイル」パターンの掛け合いで、これまたダーク&ロジカルで感心してしまう。以上、四編で下手な長編数冊分のミステリ要素がてんこ盛りで詰め込まれていて、個人的には満点でいいのだが、まあ西澤ワールド内でしか許されないだろう点も、正直かなりあるので、この採点とした。でも本書は傑作だ。西澤、恐るべし。

 

●7574 いまさら翼といわれても (ミステリ) 米澤穂信 (角川書)☆☆☆☆★
 

 

で、その「真実」に続く米澤の新刊は、これまた2010年の「ふたりの距離の概算」に続く古典部シリーズの短編集だった。その間に米澤は「満願」(これは僕は評価しないが)「王とサーカス」「真実の10メートル」と三年連続ホームランをかっとばし、まさに日本ミステリの名実ともにナンバーワンに躍り出てしまった。

だのに、まだラノベシリーズを続けるのか、とも感じたのだが、冒頭こそその大人の文体に戸惑ったが、内容はやはり西澤と同じく素晴らしかった。キャラが立ち、論理的で、西澤ほどではないが、作品によっては子供なりにかなりダークで面倒くさい。

結論から言うと「鏡には映らない」がミステリとしてベスト。過去の事件が、あるきっかけでネガとポジが見事に反転し、恐ろしい真実が浮かび上がる。それが、奉太郎の性格と結びついているところがミソ。ここで描かれるダークさは、西澤と違ってリアルでありえるのが怖い。

冒頭の「箱の中の欠落」と「連邦は晴れているか」は、ともに日常の謎。前者は論理はなかなかだが、ホワイ?が描かれていないのが弱い。(まあ、潔いとも言えるが)後者も悪くないのだが、最後の説明が解りにくい。もっとスパッとやれないか。

しかし、それでも米澤が初期に古典部や小市民シリーズで繰り返した、かなりへたくそな日常の謎(あ「さよなら妖精」もそうだった)よりは、格段にレベルが上がっている。成長したのは、文体だけではないのだ。

あと「わたしたちの伝説の一冊」は、伊原の漫画にかける情熱を描いて、読ませるが、正直ここでのダークな部活の覇権争いは、大人の目からは読むに堪えない。面倒くさい。

個人的には、ミステリとは言えないが、奉太郎の省エネスタイルを形作った、過去の事件を描いた「長い休日」と、それと絶妙につながる、千反田えるを描いた表題作の、ラスト二連発が素晴らしかった。もちろん著者はそこを狙っているのだろうが。

しかも、後者のラストは、リドルストーリーになっていて、千反田の将来については、判断を保留のまま、本書は閉じられてしまう。ネットでは、批判が多いが、ここはいきなり結論はダメだと思う。作者の計算勝ち。

というわけで、どうやら古典部はまだまだ続きそうだが、もう一方の小市民シリーズは、ついに冬が「ミステリーズ」に連載ということだが、どうも冬ではなく、番外編のよう。(雑誌が本屋で全然見つからない)ということは、米澤先生らしく、トップになっても、初心忘れるべからず、とふたつのシリーズは続けるようだ。こうなったら、あとは東川の烏賊川市シリーズの新刊が読みたいぞ!

 

●7575 沈黙法廷 (ミステリ) 佐々木譲 (新潮社) ☆☆☆☆

 

沈黙法廷

沈黙法廷

 

 

表紙は、宮部の「ソロモンの偽証」を思わせる重厚さだが、内容はある不幸な女性を描いて、作者名を隠せば、薬丸か葉真中の新刊、と言った方がぴったりくる。まあ、これは書いてもいいだろうが、最後まで内面をきちんと描写されないヒロインは、木嶋某がモデルのように見えるが、それが微妙にずれてくるのがミソ。

被疑者の元恋人、警察、検察、弁護士、マスコミ、さまざまな視点から彼女が描かれることで、彼女の存在が矛盾だらけに見えてくるのに、人間の弱さと本能的な正義感を勘案すると、この矛盾こそが真実に見えてくるのが、素晴らしい。どこまで、作者が計算したのかわからないが、はっきりせず、整合性がないこと自体が、リアルであり、その結果ワーキングプアやマスコミのひどい実態、何よりも老齢の小金持ちの独身男性の、情けなさと気持ち悪さ、が見事に炙り出されている。

惜しいのは、新聞連載ということもあったのか、裁判小説の限界か、中盤(法廷シーン)に繰り返しが多く、必要以上に長くなってしまった点。そして、それに反してラスト数ページでバタバタと片がついてしまう真犯人、ある人物の中途半端な描き方、さらに主人公とヒロインの愛の成就(まあこれはエンタメだから許せるけど)。

というわけで、冷静に考えると、かなり欠点の多い作品だが、舞台が何と赤羽と浦和ということもあり、臨場感溢れて一気に読まされたこともあり、このちょっと甘い採点となった。あと、検察の見込み捜査の怖さも、痛感させられた。

 

●7576 小松左京さんと日本沈没 秘書物語(エッセイ)乙部順子(産経新)☆☆☆

 

小松左京さんと日本沈没 秘書物語

小松左京さんと日本沈没 秘書物語

 

 

小松左京の数々の追悼本において、何度も言及、登場したのが左京の秘書?の著者であり、ずっと記憶に残っていたので、本書が発売されすぐに手に取ったが、正直内容は全然ピンとこなかった。

まあ、推測だが著者はSFの人ではないのだよね、たぶん。まあ、そこが左京の大きさであり、結局腰が定まらなかった理由だろうが。さて、年末年始、ついに「日本沈没」を読んでみようかと図書館で借りてきた。やはり、普通の人にとって、小松左京は沈没の人なんだろうか?

 

●7577 セイレーンの懺悔 (ミステリ) 中山七里 (小学館) ☆☆☆

 

セイレーンの懺悔

セイレーンの懺悔

 

 

このミス大賞出身の作家のツートップとして、著者と柚月を追いかけてきたが、二人とも量産しすぎて難しいところまできてしまった。で、何とか柚月は乗り越えられそうだが(本の雑誌の17年ベストが「慈雨」というのには驚いた。柚月を選ぶなら「あしたの君へ」の方でしょう。まあ、ミステリではないが。本の雑誌編集部には、ミステリが解っている人がいないなあ)中山は、もうあきらめました。

そうは言っても、量産で鍛えられたのか、中山の筆は冴えて、偽装誘拐事件のニュースショーの大誤報を、TVクルーの立場からグイグイ読ませる。ここだけなら、本城のブンヤものと並ぶリアリティーと迫力だ。ただし、そのマスコミ=大衆批判はリアルではあるが底が浅く、結局、主人公もヒロインも、何をも解決できないのだが。

で、どんでん返しの王様としては、やはり最後でひっくり返すのだが、まあこれが安易というか、偶然と言うか。意外性のための意外性であり、学生やヤンキーたち、被害者の家族や近所の人々、そしてマスコミ、弁護士、さらに何より事件を消費尽くす大衆たち。この小説に出てくる人々の汚さに、いやになってしまう。愚か者には、神々自身も勝てない、はアシモフだったっけ。

 

 ●7578 ぼくのミステリ・クロニクル(エッセイ)戸川安宣(国書刊)☆☆☆☆☆

 

ぼくのミステリ・クロニクル

ぼくのミステリ・クロニクル

 

 

読んでいて、胸が締め付けられた。これは、希代の名編集者の語りおろしクロニクルであると同時に、ほとんど同じ時代を生きた、ひとりのミステリマニアとしての、僕の歴史と見事に重なってしまうのだ。

宇山、戸川が新本格というか、日本ミステリのツートップであったことは間違いなく、たぶん早川ではなく、創元推理文庫からスタートした僕にとって、一番影響が大きかったのは、戸川(とかつては厚木淳)であったのだ、と再確認した。

無名の北村薫の企画の、日本探偵小説全集。鮎川哲也と13の謎と有栖川有栖のデビュー。SRの会で会った時から目立っていた、天才松浦正人。そして、鎌倉でお会いした、鮎川先生と戸川氏(北村薫山口雅也我孫子武丸麻耶雄嵩、等々)何もかもがなつかしい。

こんな本を読んでしまうと、あったかもしれないもうひとつの人生を、どうしても夢想してしまう。(個人的には、有栖川有栖と岩崎正吾の軋轢が興味深く、また鮎川哲也の奇妙な結婚生活と、ある意味悲惨な晩年には驚かされた。さらに都筑の挿話ときたら・・・こんなの書いていいの?)

 

●7579 重要事件で振り返る戦後日本史 (歴史)佐々淳行(SB新)☆☆☆★
 

 

じつは「私を通り過ぎた政治家たち」「マンドンナたち」を先に読みだしたのだが、両方とも途中で投げ出してしまった。よく考えれば、○○は素晴らしい。●●はとんでもない野郎、のレベルの(内容の薄い)話を延々聞かされても、全然面白くない。ただ、本書は戦後史のおさらいにはなった。まあ、相変らず最近の佐々は自慢話が多すぎるのだが。最後のオオム事件での、日野原と江川紹子の勇気には感心したが。

 

●7580 メフィストの漫画 (企画) 喜国政彦&国樹由香講談社)☆☆☆☆★
 
メフィストの漫画 (講談社文庫)
 

 

いやあ、こういう作品まで文庫化されてしまった。内容の7割は漫画です。しかし、内容はマニアにはたまらない。(大森も書いているが、有栖川有栖をはじめ、実在の登場人物が、ちょっとかわいすぎるが)とにかく、対談で山口が書いているように、喜国のネタは濃すぎる。数ページの漫画にネタを詰め込みすぎ。クラクラきてしまう。

で、解説で大森が言うように、これってSFファンにおける「不条理日記」だったのか。あまりにも画風が違うので、気が付かなかったけれど、そういわれればそうかもしれない。あと、吾妻には古本ネタはなかったような・・・あ、決定的な違いは、吾妻は説明しないところか。まあ、これはSFとミステリの本質の違いかもしれないけど。

 

●7581 天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2 (SF) 小川一水 (早川文)☆☆☆☆

 

 

ついに全10巻の9巻まできた。しかし、最終巻「青葉よ、豊かなれ」の刊行は何と18年とのこと。来年はなし。というわけで(今回もかなり遅れて、内容を思いだすのに手間取ったが)来年末は、今までの再読にあてて、最終巻(そうはいっても、たぶん数冊になるんだろうが)に備えたいと思う。

既に刊行7年目を迎えた本シリーズは、個人的には間違いなく、国内SFオールタイムベストである。この先、どんな結末がまっていても、それは変わらない。Ⅷ新世界ハーブCで明かされた、この世界の正体=Ⅰメニーメニーシープのラストのとんでもない謎の完璧な解明、だけでおなか一杯である。

ただ、本書だけを評価すると、セアキとイサリの思いは分かるし、そこに作者のメッセージがあることも解るのだが、人間?はそんなに簡単に恐怖と怨念を超えることができるのだろうか、と感じてしまう。そして、ラストの新展開、いまさら必要だろうか?(ひょっとしたら、カルミアンの正体?)ここは、ミスチフで十分ではないだろうか。

 

●7582 自生の夢 (SF) 飛 浩隆 (河出新) ☆☆☆☆★

 

自生の夢

自生の夢

 

 

ひさびさというか、待望の飛の新作は、残念がら廃園の天使ではなく、NOVA等々に書いた短編を集めたものだった。

が、冒頭の「海の指」で頭を張り飛ばされた。何だ!これは?やはり、ものが違う。何という、異形で壊れたイメージだ。それでいて、リアルに恐ろしく、かつまたなぜか懐かしい。ハムカツに参ってしまった。何だ、このイメージの氾濫は。諸星大二郎つげ義春山本直樹、そして電脳コイル。ゴルディアスの結び目。ソラリス。いや、もう凄いとしか言いようがない。

そして、表題作を中心とした<忌字禍>の連作は、正直良く解らない部分も多いのだが、モチーフは虐殺器官であり、ストーリー展開は「あなたの人生の物語」「ゴルディアス」等々を思わせた。その他「星窓」や「はるかな響き」など、小松左京が書きそうな、ハードなアイディアSFなのだが、飛の表現は圧倒的に新しいのだ。まあ、だから量産が効かないのだろうが。

今年のSFは、「夢見る葦笛」がダントツのベストと思っていたのだが、上田には申し訳ないが、相手が悪かった。作品の平均値や解り易さ(葦笛も決して解り易い、単純な話ではないが)は葦笛の方がはるかに上だが、もうとにかく本書は存在自体が屹立しているのだ。その稀有の世界感は、あの「ラギッドガール」につながっている。

満点にするには、たぶん僕の理解が追い付いてないことがひっかかるだけ。次も何年でも待ちます。自由に書いてください。満足のいく作品を。そういう作家がいるだけで、素晴らしい。

 

●7583 ヤマンタカ 大菩薩峠血風録 (伝奇小説) 夢枕獏 (角川書)☆☆☆★

 

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

 

 

いまさら「大菩薩峠=机竜之助」かよ、という感じであんまり触手が動かなかったのだが、読みだしたら竜之助より、新撰組土方歳三の物語、という感じで、原作がどうなのか知らないが、時代設定は合っていて、そうくるか!と驚いた。(読了後、あとがきで確認する限り、獏が勝手に土方を登場させたみたい)

そうは言っても、ここで描かれる血に飢えた?土方は、司馬の描いた冷徹なオーガナイザーとは真逆のキャラクターで、かなり違和感があるのだが。(まあ、沖田の描き方はもっとひどくて、こりゃファンからかなり文句がでるのでは)

で、内容は武闘大会の剣豪バージョンで、さすが格闘シーンを描かせたら第一人者の獏は読ませるのだが、一方でこのパターン(「餓狼伝」も「獅子の門」も)は、いつの間にかどんどん強さがインフレーションし、「リンかけ」「聖闘士星矢」状態に突入し、いやもう誰が勝とうとどうでもいいよ、と今回もなってしまった。まあ竜之助と土方が生き残るのは、解っているのだし。


もちろん、獏も色々工夫はしているのだが、途中で面倒くさくなってきた。内容的に一番近いのは「妖星伝」かもしれないが、SF要素はないし、新聞連載のせいか描写にも縛り?があって、駄作ではないし、珍しく一巻で終るのだが、やっぱりちょっと冗長に感じる。はやく、キマイラを完結させてください。

 

●7584 英国一家、日本を食べる (NF) マイケル・ブース (亜紀書)☆☆☆

 

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 

 

大ヒットして、続編やアニメなどが続々作られたと記憶しているが、13年の作品で簡単に図書館の棚で見つけた。しかし、内容はそれほどでもない、というか日本食に関しても、日本文化に関しても、かなり底が浅くて、読んでいて退屈だった。

また、ここで、アイヌ差別について語るか?という感じで、かなり自分勝手な印象。一番問題なのは、日本食の描写がちっともおいしそうに感じないこと。まあ、だから英国は、とは言わないでおくが、キャチャーなタイトルと、藍色をフィーチャーしたこれまたキャッチャーな表紙、以外に感心するところはなかった。

 

●7585 松本城、起つ (SF) 六冬和生 (早川J) ☆☆☆

 

松本城、起つ

松本城、起つ

 

 

大森絶賛の歴史改変SFだが、どうにものれなかった。もちろん、あの「みずは無限」
を書いた著者だから、「異星人の郷」のような格調高い作品は望まないが、やっぱり
このラノベ的な文体が合わない。で、今回は作品のキモである、歴史改変のロジック
が正直よく分からない。マーカー(主人公)の意味がよく分からないのだ。

 

●7586 刑罰0号 (SF) 西條奈加 (徳間書) ☆☆☆

 

刑罰0号 (文芸書)

刑罰0号 (文芸書)

 

 

著者は今はなきファンタジー大賞出身だと思うが、どうにも書いてる小説のジャンルがイメージできずに、ずっと読まずに来た。しかし、しぶとく生き残り、本書は本格SF?と評判が高い。

が、読み出してすぐ「ジャッジメント」を思い出した。世間では「代体」と比べられることが多いが、それは技術的なことにすぎず、小説としてのレベルは、遙かに及ばない。正直、冒頭なぜ被爆者の話がでるのか、よく分からなかったが、一応とんでもないラストへの伏線ではあった。

ただ、次の「疑似脳0号」の陳腐さは如何ともしがたく、その後もパターンが繰り返され、飽きてくる。確かに物語は「ジャジメント」的復讐法の物語から、どんどん予想外にエスカレーションするが、いかにも無茶ぶりが多くて、美しくない。

そして、何よりSF的部分、0号の科学的論拠が下手すぎる。たぶん、大森をはじめとしたSFプロパーには受けないだろうし、本書はそうあるべきだと思う。ネットの評価は結構高いが。

 

●7587 モネのあしあと (芸術) 原田マハ (幻冬新) ☆☆☆☆

 

 

副題:私の印象派鑑賞術。題名からわかるように、「ジヴェルニーの食卓」の裏話のような内容で、小説と重なる部分も多いし、一方ではある程度の知識がないと読みこなせない。正直、「ジヴェルニーの食卓」を呼んでいない人には、どうかと思う。

ただ、短い新書なのに、ふんだんに写真(絵画&風景)を使っているので、いちいちネ
ットで確認せずにすむ。まあ、個人的には結構楽しんでしまったので、この評価。できれば、残りの三篇も補足して一冊にしてもらいたかったけれど。

 

●7588 新・リーダー論 (政治経済) 池上彰佐藤優 (文春新)☆☆☆☆★

 

 

副題:大格差時代のインテリジェンス。この対談も三冊目だが、調子が出てきた、というか、大統領選に関しては池上も詳しく、内容がかみ合ってきた。たぶん、収録自体はトランプ勝利が確定する前だろうから、内容はかなり修正がかかっていると思う。


それでも、佐藤はトランプの勝利をかなりの確率で見込んでいたのではないか、と思わざるを得ない内容だ。佐藤の博覧強記には驚くしかないのだが、一方では相変わらず胡散臭さも抜けず、なんでこんなに自信を持って言い切れるんだろう、と鼻白んでしまうことも多かった。しかし、今回は脱帽である。

「トランプが大統領になった場合注目すべきなのは、新政権がどういう諮問会議を作るかです。大統領に直結して、議会での手続きが不要で、いわばまったく無責任な立場で参加できるのが諮問会議。この会議のメンバーに誰がなるか」

「少々乱暴に米国をWASPが支配する国と考えた場合、WASPが共和党に自分たちの利益を代表させようとしても、ラティーノや黒人の支持が得られないから、選挙では絶対に勝てない。かといって、民主党の政策も受け入れがたい。するとWASPにとって、誰が大統領になっても自分たちの利益を確保する方法、民主的な手続きを得ない迂回路をつくっておくことが重要になります」

「その意味で、トランプは非常に便利な存在です」こんな説得力のある陰謀論?を初めて読んだ。怖い。

 

●7589 エラリー・クイーン 推理の芸術 (評論) フランシス・M・ネヴィンズ (国書刊) ☆☆☆☆☆

 

エラリー・クイーン 推理の芸術

エラリー・クイーン 推理の芸術

 

 

かつて、本書の原型である「エラリー・クイーンの世界」を読んだ時は(当時はジュニアがついていた)今の米国にも、クイーン=本格パズラーの研究者がいるんだ、とうれしかったが、内容は驚くものではなかったのか、あまり覚えていない。(あのバールストン・ギャンビットも後で気づいた)まあ、当時の僕は、後期の作品の本質が理解できていなかったのが問題だったのだろうが。

そして、本書はその新訳かと思っていたのだが、良い意味で完膚なまでに裏切られた。クイーン信者にとっては、何と熱く、痛く、衝撃的な本だろうか。それは、「世界」ではまだ生存していたダネイに気を使ったのと、著者のつきあいの度合から、リーの記述が非常に少なかったのだが、前者はダネイもなくなり、後者はリーとバウチャーの大量の書簡がオープンになったことで、劇的に変わってしまった。

そして、クイーン信者にとっての最大の試練、汚点であった、代作問題=大量のペーパーバックオリジナルの真相が、ついに明かされたのである。それは、単純な金儲けではなく、その本質は痛切であった。基本的に後期において、リーとダネイのコンビは、実質的に既に解消されていたのだ。その文学観の違いにおいて。

繰り返される口論。争い。そして、各自(特にリー。ダネイにはEQMMがあった)が色んな試み=従来のエラリー・クイーン・コンビ以外の試みを、勝手に繰り返した。これが、代作問題の本質だったのだ。エラリー・クイーンは既に崩壊していた。信者にとってはつらいが、残念ながらそれが真実なのだ。

しかし、晩年「顔」「最後の女」「心地よく秘密めいた場所」において、コンビは復活した。のだがリーには、すでに時間は残されておらず、「間違いの悲劇」はダネイのシノプシスのまま残され、誰の代作の原案ともならなかった。(ということは、代作はスランプに落ち込んだリーが主導したのだ)ああ、何と真摯かつ痛切な福音書だろう。本書は。

 

●7590 花の下にて春死なむ (ミステリ) 北森 鴻 (講談文) ☆☆☆☆

 

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

 

 

年末、「突変」の続編や、宮部の短編集、大阪城を描いた歴史小説集、等々全部投げ出してしまい、結局北森の「香菜里屋」シリーズを読み始めた。かつて、書いたように僕は本書を米国行きの飛行機の中で読んで感心した。しかし、本屋で「香菜里屋を知っていますか」という短編集を見つけてしまい、本書とごっちゃになっていた。

それがきちんと調べれば、本書、「桜宵」「蛍坂」「香菜里屋」の四冊が、同じお店と
主人公=工藤のシリーズであることに気づき、さらに驚くべきことに、予約なしで四冊とも図書館で入手できたのだ。そして、著者の急逝によって、シリーズはこれ以上書かれることはない。

本書は上記のように「香菜里屋」を舞台に、マスターの工藤が常連客たちの不思議な物語を、安楽椅子探偵として解決する、という「黒後家蜘蛛の会」のパターンを踏襲しているのだが、お客が常に同じでも別でもなく、ゆるやかにつながっている点と、ストーリー展開がワンパターンを避けるようにかなり工夫されている点と、何より謎の複雑さ、解決のひねりが本家を凌駕している。

もうひとつの魅力である料理のレシピと描写に関しては、本家はどうだったのか、あんまり記憶がない。

で、第一作が表題作(協会賞受賞)であり、これが本書のラストの「魚の交わり」とリンクしてザ・ウォール的展開となるが、個人的には後者の方が、悲惨ではあるが気に入った。正史のある作品を彷彿させるラスト。ともに評価はAー。

次の「家族写真」は、題材はいいがちょっと論理の展開が弱いというか隙がある。基本このシリーズは駄作が少ないのだが、驚くべきトリックもなく、論理のアクロバットが勝負なのだが、結構そこに隙がある作品も多い。B+。

そして、本書の最高傑作「終の棲み家」。シンプルだからこそ、美しい。A。「殺人者の赤い手」は、子供の都市伝説を使っているが、少しひねりすぎ。ラスト、いまいちぴんとこない。B+。

「七皿は多すぎる」は、題名はケメルマンなので、西澤テイストの強いこのシリーズだから、頑張ってはいるんだけれど、ちょっと複雑すぎる、まさに西澤的作品。B+。

 

●7591 桜 宵 (ミステリ) 北森 鴻 (講談社) ☆☆☆★

 

桜宵 (講談社文庫)

桜宵 (講談社文庫)

 

 

冒頭の「十五周年」が、前作と同じく最終話の「約束」とつながる構成を今回もとっているのだが、それほど成功していない。前者は、面白いがちょっと無茶ぶりだし、後者は北森にしては、ダークすぎて好みではない。評価は両方B+。

次の表題作は、ある植物の特殊性に目をつけた刑事の妻の行動が恐ろしい、はずなのに、西澤と違って北森は暖かい物語にしてしまい、それがいいのか悪いのか微妙。途中、民俗学の先生とやらの話がでてくるのが、ご愛敬。B+。

「犬のお告げ」題名はチェスタトンだが、内容は何とリストラがらみで、これまたかなり無茶なストーリー。B+。「旅人の真実」これも必要以上にひねりすぎて、わかりにくくなっている。工藤の親友兼ライバルの香月登場。

というわけで、このシリーズ特徴である、適度に論理的で、キャラが立っていて、読ませるが、駄作もない代わりに、突出した傑作もない、という典型的な作品集。また、論理、キャラ、料理(酒)とくると、まさに西澤テーストなのだが、北森の場合、そこまでダークにはなれないのが、特徴を弱めているのかもしれないなあ。

 

 ●7592 蛍 坂 (ミステリ) 北森 鴻 (講談社) ☆☆☆★

 

螢坂 (講談社文庫)

螢坂 (講談社文庫)

 

 

シリーズものの宿命というか、やはり三冊目となると、ミステリとしては弱くなる。冒頭の表題作の仕掛けも、残念ながら陳腐としか言い様がない。B。「猫に恩返し」は、前半のネコの物語が面白いが、後半はちょっと無理筋。B+。「雪待ち人」は、珍しくダークだけれど、偶然すぎる。B。

「双貌」は、何と記述トリックを使っていて、きれいに決まったとは言いがたいが、ミステリ的には一番。Aー。「狐拳」は妙に複雑にねじれていて、好みではない。B。

ということで、一冊ごとにミステリとしての評価は下がるのだが、一方ではキャラになじみが出てきて、読むのに苦痛はないので、せっかくだから四作制覇しよう。評価はミステリとしては、ワンランク落ちることを容赦ください。

 

●7593 香奈里屋を知っていますか (ミステリ) 北森 鴻 (講談社)☆☆☆

 

香菜里屋を知っていますか (講談社文庫)
 

 

「ラストマティーニ」老バーテンダーの失敗の理由は、意外ではなく、可もなく不可もない出来。B。「プレジール」ミステリとしてはとりえはないが、ある主要キャラクタ
ー三人の結婚の話であって、読んでしまうしかない。B。

「背表紙の友」古本にまつわる犯罪?に関しては、まあ面白いが、その後の展開はちょっと偶然すぎる。B+。「終幕の風景」これはちょっと解決がないので評価できない。で、ラスト書き下ろしの表題作。

個人的には、必ず「メインディッシュ」のネコがでてくる(工藤はイヌといつも描写されるし)と思ったのだが、何と蓮丈那智と冬狐堂がでてくるとは驚きだが、それが全然落ちてないのには、逆にあきれて驚いてしまった。残念なラスト。

 

●7594 800年後に会いに行く (SF) 河合莞爾 (幻冬舎) ☆☆☆☆★

 

800年後に会いにいく

800年後に会いにいく

 

 

期待していた香菜里屋四部作が、残念ながら盛り下がってしまったのだが、16年の最後の最後に、期待以上の大傑作にあたり、少し幸せな気分。著者は横溝賞出身のミステリ作家だが、確か二冊くらい読んで、あまりのミステリ音痴に嫌気がさして、読まなったのだが、不思議と毎回印象的なシーンがあり、そうか本書のようにSF仕立てにすれば、著者の長所が生きるんだ、と納得した。

本書の魅力は3つある。ひとつはタイムトラベル(のように見せかけた?)800年未来のパンデミックで滅びかけている地球(のメイという少女)と主人公旅人との、地球を救うためのやりとり。(少しインチキ臭いが)

そして、次が科学的蘊蓄であって、進化論に関する色んな説や、自由意志=人間には意志や感情はなく、反応に脳=心が後付けで理由を与える、という有名なリベットの実験。さらには、それをAIの心の発生と結びつける豪腕。等々、僕好みの蘊蓄が相次ぐのだ。

そして、最後にあまりにも平凡かつ素直な主人公と天才ヒロイン=マリアのベタな恋愛小説。

読み終えて、満足のため息をついたのだが、ネット時代の悪いところで、本を読む前と後で、ついネットを確認して反省会を実施してしまう。そうすると、もちろん肯定的意見が多いのだが、なるほど、と思う欠点も多々見えてきて、最初は満点だったのだが、この評価となった。

まず、壮大なストーリーのわりには、やたら登場人物が少なく(セカイ系のバリエーション?)物語世界に緻密なリアリティーが感じられない。また、登場人物も旅人こそ意図的だが、その他の人物造形もラノベ的に底が浅い。

「セブン・トランペッツ」というテロにある人物がかかわるのも、説得力がない。最後に、これは長所かもしれないが、キーとなる伏線がわかりやすいのだ。マリアがあることを事前に知っていたり、PCの電源を抜くと、ウィンドウズがストップしたり。(するわけがない)

いや、それでも本書を読んでいる間、僕は幸せだった。ただ、冷静に考えると、本書を飛や上田の上位に置くことはありえない。またSF的な考証は、正直心許ない。ということで、ミステリ扱いし、「虹を待つ彼女」の上に置くと、とてもしっくりきた。

2016年は以上、226冊でした。

 

 

 

 

 

 

 

2016年 11月に読んだ本

 ●7548 転落の街 (ミステリ) マイクル・コナリー (講談文) ☆☆☆☆

 

 

シリーズ前作「ナインドラゴン」は衝撃的だった。ネオ・ハードボイルド最後の戦士、といった感じの、あの重たかったボッシュシリーズが、ここまでハリウッド映画的に堕落?するか、と初期からのファンは驚いた。

そして、リンカーンシリーズばかりが訳され、コナリーもボッシュを描けなくなったのかと危惧してしまい、正直本書を読むべきか迷ったのだが、こういう時はすぐに手に入る。で、今回は大方の評価と同じく、かなりもとに戻った。

事件は現在の政治がらみと、過去の事件の二本立てのモジュラー。で、どちらもコナリーらしく考えられてはいる。ただ、結論から言うと何か足りない。ネタは明かせないが、どちらも消化不良なわりには、引っ張りすぎ。途中でネタが割れてからが、長すぎる。

そして、それ以上に、やはり最近のボッシュシリーズには、過去の重さ=陰影がない。のっぺりしている。イクメンボッシュなど見たくはない。というわけで、かなり甘い評価かもしれない。(欠点はそれほどないので、消去法でこうなった)

 

 ●7549 壁の男 (ミステリ) 貫井徳郎 (文春社) ☆☆☆★

 

壁の男

壁の男

 

 

ある人物(村の建物に稚拙な絵を描き続ける男)の過去をどんどん洗っていく、というプロットは、有栖川有栖の「鍵の掛かった男」と相似。そして、その過去の悲惨さは、貫井の「我が心の底の光」に通じるものがある。

というわけで、この物語を泣ける話として評価する人がいてもかまわないが、僕はもうこの手の悲惨な物語は読みたくない。特に子供と動物は、勘弁してほしい。

 

 ●7550 リーチ先生 (フィクション) 原田マハ (集英社) ☆☆☆☆

 

リーチ先生

リーチ先生

 

 

今回は分厚い作品。題名から、おいおい、原田が麻雀小説?阿佐田哲也伊集院静か?と驚いた(あきれた?)のだが、リーチの意味は陶芸家のバーナード・リーチということで(早とちりしてすまん)原田の芸術シリーズは必読と手に取った。

とは言っても、内容はNFに近いもので(主人公は架空のようだが)MOMAシリー
ズより「太陽の棘」のテーストか。

リーチをめぐる白樺派柳宗悦高村光太郎濱田庄司といった面々が、非常に魅力的に描かれており、僕は白樺派=おぼっちゃまの道楽?的な印象を勝手に持っていたので、その欧米をも上回る先鋭さと守備範囲の広さに、驚いてしまった。(リーチ=英国人が知らない、ゴッホセザンヌをいち早く絶賛。その熱い芸術論に引き込まれる)申し訳ないが、白樺派の印象が180度変わってしまった。

しかし、厳しく言うと、物語としての面白さはそれほどなく、新聞連載ということもあり分厚いのだが、その魅力は実在のキャラクターに頼っている。しかも、本来は名もなき地上の星として、ヒーローにならなければならない、架空の主人公亀之介が、イマイチ輝かないんだよねえ。

でも、今回もネットの力は素晴らしく、登場する人物や何より陶器をビジュアルで確認しながら読み、日本の庶民の美というものに、ほんわり暖かくなってしまった。というわけで、これまた少し甘い採点。

 

 ●7551 慈 雨 (ミステリ) 柚月 裕子 (集英社) ☆☆☆★

 

慈雨

慈雨

 

 

「孤狼の血」の大胆な作風の変化で驚かせた著者の新作は、かなり地味目の警察小説だった。とは言っても、主人公は引退と同時に、過去を償うため妻と四国お遍路の旅に出た元刑事なのだが。

ところが、お遍路中に、現実に事件が起きてしまい、それが主人公神場の過去の冤罪事件と絡む、というのは、やはりいくらなんでもご都合主義。娘やその婿である刑事という設定も、ここ三冊くらいかぶっていて、いいかげんにしろと言いたくなる。

さらに、マニア的に言うと、ここで使われるトリックは、古典的短編やハードリーチェイスの「世界を俺のポケットに」等々で、既に使い古されたもの。(たぶん、アニメ・ルパン三世でも何度も使われたのでは?)これに、警察含めた登場人物が全員驚いては、しらけてしまう。

と、かなり貶したが、もちろん著者の筆力は確かで、それでも一気に読ませる。ただ、薬丸の「ラスト・ナイト」と比べると、どちらもオリジナリティーはないが、その語り口に薬丸に一日の長を感じてしまう。また、やっぱりこのおやじ、自分勝手な気がするなあ。

 

 ●7552 ゴジラエヴァンゲリオン (評論) 長山靖生 (新潮新) ☆☆☆★

 

ゴジラとエヴァンゲリオン (新潮新書)

ゴジラとエヴァンゲリオン (新潮新書)

 

 

たぶん「シン・ゴジラ」公開に合わせて上梓された、「戦後SF事件史」のスピンアウト本。ゴジラに関しては、僕は生れたタイミングが良くなく、子供だましのイメージが強い。まだ、ガメラの方が良い印象がある。

で、本書を読み、こんなに多くのゴジラ映画があるんだ、と驚いてしまった。そして。エヴァ。ひさしぶりに、そのストーリーをたどって、楽しい時間をすごした。しかし、厳しく言うと、新しい情報は皆無。(当初のエヴァの映画化案が、「進撃の巨人」に似ていた、というのは面白かったが)

まあ、楽しめたからそれでいいのだけれど。そして、著者の言う僕らの世代への、特撮かアニメか、の究極の二者択一は、僕はアニメと感じる。特撮で、一番影響を受けたのは、「マグマ大使」かもしれないなあ。青血病が本当に怖かった・・・

 

 ●7553 脇坂副署長の長い一日 (ミステリ) 真保裕一 (集英社) ☆☆☆

 

脇坂副署長の長い一日

脇坂副署長の長い一日

 

 

やや復調とは言いながらも、相変らず模索が続く真保の新作は、題名と表紙からわかるように、ジェットコースター・モジュラー警察小説、らしい。

冒頭から主人公脇坂の家族(妻と息子)の謎の失踪?部下の仮病&バイク事故&やっぱり失踪、地元出身のアイドルの一日署長の日に、次々と起きる何だか間の抜けた事件の数々。

そして、そのアイドルがとんでもない行動をとり、さらにはとんでもない、等々ととんでもない事件が続く。最初のうちは、こういう偶然が偶然を呼ぶミステリが嫌いな僕も、さすが真保、定型の中で見事に定型を破っている、と喜んだのだが、だんだん、それらの事件がひとつに収斂してきてしまい、いくらなんでもご都合主義と今度もまた叫んでしまった。

そして、何より問題なのは、このいくつもの事件が絡む複雑な犯罪の本質が、じつにつまらないことである。この犯罪は、ちっとも美しくないのである。で、今回もまた、主人公の娘の婿が刑事で、事件に絡むところが、いいかげんにしろ、となってしまった。このパターン禁止。

 

 ●7554 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは 歌野晶午(角川書)☆☆☆★

 

Dの殺人事件、まことに恐ろしきは

Dの殺人事件、まことに恐ろしきは

 

 

題名から、密室ゲームシリーズだと、ちょっと苦手、という意識が合ったのだが、そうではなく、本書は乱歩のパロディー?集で、「椅子? 人間!」「スマホと旅する男」表題作「お勢登場を読んだ男」「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」「陰獣幻戯」「人でなしの恋からはじまる物語」 の八編が収録されている。

この中では「お勢登場」と「人でなしの恋」は、読んだ記憶がないのだが、その他チョイスはGOOD。僕の乱歩の短編のベストは「押し絵と旅する男」であり、次点が「赤い部屋」だ。

で、冒頭の「椅子? 人間!」が結構面白く(一気に引き込まれ、人間椅子を忘れたのが正解)期待したのだが、残りは駄作とは言わないが、やや物足りなかった。全ての作品で、ハイテク?が使われるのだが、これがそれほど効果をあげていないのだ。

 

 ●7554 小説、君の名は。   (SF) 新海 誠 (角川文) ☆☆☆★

 

 
 ●7555 君の名は。Another Side(SF) 加納新太 (角ス文) ☆☆☆☆

 

君の名は。 Another Side:Earthbound (角川スニーカー文庫)
 

 

TVで古館と新海の対談?を観て少し興味を持ち、何となく嫁さんと浦和パルコで映画「君の名は。」を観て、はまった・・・。

新海の作品は、「秒速5センチメートル」をTVで観たことがある。そして、その精密画のような絵と光のマジックに感動し、痛いまでの喪失のせつなさは感じたが、正直ストーリー展開がかなり勝手で解りにくく、モノローグの多用も好みでなく、さらに見ようとは思わずそのままだった。

で、今回はとにかく、まったく情報なしで観たのが大正解だった。正直いまさら「転校生」かい?と僕らの世代ならみんな思ったように僕も当然思い、全く興味を持たず見事に情報を遮断していたら、後半の展開に底が抜けてしまった。そうくるのか?

だから、もし幸い僕のように「君の名は。」の内容を全く知らない人は、この後の文章を読まずに、すぐに映画館に直行してほしい。この映画は、やはり大スクリーンで見るべきと思うので。

で、そうは言っても後半の展開には、一回見ただけでは納得できない?が結構浮かぶ。そこで、これまた評判のいい小説&アナザーストーリーを買ってきて一気に読んでみた。

小説の方は、新海自身が映画が完成する前に書いたようだが、読み易いが、内容的には映画とほぼイコールで、敢えて読む必要性は感じなかった。まあ、僕は映画を観て、読んだので、すべてのシーンがよみがえり、それはそれで復習を兼ねて面白かったのだが、映画を見ずに読むのはやめたほうがいいと思う。

そしてアナザーサイド。ここでは、三葉ではなく、1、瀧、2、テッシー、3、四葉、4、三葉の父(と母)、の四つの視点から、同じストーリーを語り直していく。とは言っても、それほど大したものではなく、これまたこの作品だけ読んでも、何も理解
できないだろう。

本書の特徴は(以下・映画ネタバレ)映画を観た人が誰でも感じるテッシー、何でそんな大それたことを簡単にやるんだ!と、結局ラスト何で助かったの?父親は何で、急に三葉を信じたの?という巨大な謎への回答が書かれていることである。

そうは言っても、前者はまだ説得力が足りない。ネットでも大絶賛なのは、三葉の父親の物語で、民俗学者として三葉の母親の二葉と出あい、宮水家に婿入りし、二葉の死によって、宮水家を出て、市長選に打って出る父親の思いと行動が、映画のやや拍子抜けのラストの裏の物語として、見事に補完機能を果たしている。

正直、この物語は後付かもしれないし、映画に盛り込むと理屈っぽくなり、ストーリーの流れが崩れるかもしれない。でも、映画に感動した人は、ネットでもいいからこのサイドストーリーを読むべきだと感じた。(何か、碇ゲンドウ・小市民バージョンのような感じがした)

というわけで、冷静に考えると、新海、ちょっと川村元気に毒されすぎだぞ、作家性の危機、という気も少しするが、いやいやこれこそが、ポスト・ジブリのシン・アニメの王道だ、という気もする。というか、これほどアニメに興奮したのは、社会人一年目、富山の映画館で木村と「ナウシカ」を観たとき以来かもしれない。

 

●7556 また、桜の国で (フィクション) 須賀しのぶ (祥伝社) ☆☆☆★

 

また、桜の国で

また、桜の国で

 

 

「革命前夜」が予想以上の傑作だったので、須賀の分厚い新作にも大いに期待した。今回もまた第二次大戦下の欧州が舞台だが、ポーランドというところがミソか。しかし、残念ながら期待はかなわなかった。

もちろん、駄作というわけではないのだが、主人公の棚倉、そしてヤンとイエジという三人がメインなのだが、イマイチ人物造形が単純で、感情移入しづらい。そして、何よりストーリーが単調なのだ。

もちろん、ポーランドの悲劇を語る作者の筆には力がこもるのだが、エンタメとして観た場合、ちょっと力みすぎで、空回りを感じてしまう。正直、長すぎて、まじめすぎるのだ。

 

 ●7557 横溝正史読本 (企画) 小林信彦編 (角川書) ☆☆☆☆☆

 

横溝正史読本 (1976年)

横溝正史読本 (1976年)

 

 

偶然、いやシンクロニシティーはあるものだ。NHKで「獄門島」のリメイクをやるということで、その前に横溝の角川映画を毎日放映していて「手毬唄」「犬神家」を観た後、図書館で本書を見つけた。

小林が編集した「横溝正史読本」というのは、高校時代に幻影城から上梓されたのを買って読んだ記憶があるので、その本と思ってパラパラめくったら、どうも内容が違う。横溝と小林の対談が全体の半分を占めるボリュームがあるのだ。

詳細はまだ分からないが、本書は別物で角川からでていて、時期は76年で、「犬神家」によってブームが大爆発する前夜、とでもいうべきタイミングだ。そして、その対談のレベルの高さに驚いてしまった。

もちろん、小林の博学は当然で、それがまた事前勉強をしているのだから(対談前夜に二時半まで「獄門島」を読んで、寝不足状態)すごいにきまってるし、冒頭で横溝も小林の姿勢に大いに感謝している。たぶん、小林は当時40歳前後で、いまやこんな評論家は絶滅だろうなあと思う。

しかし、今回驚いたのは、横溝正史の博学、というかミステリ力の凄さにある。(「Yの悲劇」の評価など完璧で、だからこそ「きちがいじゃが」が生まれたのだ)そして、そうか横溝もまた、小林と同じく作家であると同時に、雑誌編集長(新青年、他)だったことを、思い出すのだ。この二人の本質は、相似なのだ。だからこそ、こんなレベルの高い対談が実現したのだ。

戦後日本のミステリ文壇は、評論の乱歩と実作の正史が引っ張ったとずっと思っていたし、もちろんその通りである。しかし、正史にもこんなレベルの高いミステリ論があり、それは乱歩との交流によって常に互いに刺激を与えてきたのだ。しかし、今時原書でミステリをここまで勉強する作家が、どこにいるだろうか。

戦後、「本陣」「蝶々」「獄門島」が続いて上梓された時が、日本ミステリのひとつのスタートであり、ひょっとしたらピークだったかもしれない。歴史的意義の「本陣」、完璧な様式美の「獄門島」、そして実は中学時代一番面白く感じたのは「蝶々」だったのだが、この三冊の比較が面白い。

ああ、「幻影城」といい、本書といい、日本ミステリは二人の巨人によって、戦後すぐにここまでのレベルに到達し、未だにそこからのがれられていないのかもしれない(どうやら、僕が読んだのは「横溝正史の世界」という幻影城の別冊ムック本で、小林は関係していないようだ。このあたり、小林の乱歩本と混乱しているかもしれない)

 

●7558 セカイからもっと近くに (評論) 東 浩紀 (東京創) ☆☆☆☆

 

 

副題:現実から切り離された文学の諸問題。東が、新井素子法月綸太郎押井守、そして小松左京の作品をもとに、現代における想像力と現実の折り合いの悪さ、自己と社会の結びつきの不毛さを、セカイ系の限界として描いた作品。東はラカン分析の「想像界」「現実界」「象徴界」を援用し、セカイ系の小説群を「想像界現実界が短絡し、象徴界の描写を欠く」と定義するが、これはわかりやすい。

そして、それは「象徴界」=社会、政治を描いてきた(たとえば「日本沈没」)小松の諸作とセカイ系の作品の対比によってより明らかになる。僕らはもはや、特に震災後は、社会を堂々と描くことは難しい。そして、日本沈没のリメイク映画は、見事に社会を描かない。(そういう意味では、「君の名は。」はセカイ系であり、「シン・ゴジラ」はその確信犯的反動といえるのかもしれない)

しかし、小松の作品だけでなく、日本SF最高傑作とされる「果てしなき流れの果てに」は、そのスケールの大きさから社会を描くことは不可能で、その物語は見事にセカイ系と言える。小松は、逆説的にセカイ系ともつながってしまったのだ。

そして、小松の作品における、あまりにも古くさい女性像とマザコン的感性。しかし、東はSFという存在をピュアに受け止め、小松へのリスペクトも強く感じる。何より取り上げる作品が「神への長い道」「ゴルディアス」「虚無回廊」と非常に僕好みである。まあ「虚無回廊」は未完であり、小松の弱点をさらけ出してしまった作品でもあるが。

しかし、本書を読み終えて、いや最初からずっと、本書には東のあきらめと疲れが充満している。だからこそ、最後の文芸評論と冒頭に宣言したのだろう。東の疲れは、時代の疲れであり、少し先輩の僕も共有するものだ。

新井や法月の分析も面白いのだが(押井はまたか、という感じ。新井の「絶句」を読みたくなった)ここは、小松を中心に語ってみた。

 

 ●7559 僕が愛したすべての君へ (SF) 乙野四万字 (早川文) ☆☆☆☆
 ●7560 君を愛したひとりの僕へ (SF) 乙野四万字 (早川文) ☆☆☆☆

 

 

平行宇宙というものが、科学的に立証された未来、人は腕に巻いたIP端末で、今自分がどの世界にいるかを確認できる。元の世界が000であり、人は自然に001の世界や003の世界と短時間入れ替わり、時にはかなり離れた世界(登場人物がかなり変わっていたりする)に長時間滞在することもある。(新井素子に似た設定の作品があったな)

そういう世界で、平行世界を研究する科学者の息子と娘が主人公の、もちろん別の平行世界の物語、いやラブストーリー。「僕」の主人公は高崎暦(れき)であり、「君」の主人公は日高暦(こよみ)。そして、双方のヒロインが、別人であるところが、ミソ。

ネットでは読む順番が論争になっており、「君」→「僕」が優勢だが、僕は逆に読んでしまった。確かに、「君」→「僕」だと伏線がうまく回収される気がするが、小説としては「僕」の方がよくできている。

和音に比べて栞にちょっと魅力が足りないこともある。(まあ、おばかすぎるのだが)しかし、読み方は逆だったかもしれないが、もう一度「僕」のラストを読み返すと、ある意味定番のラストが、非常に丁寧に書き込まれていて、うれしくなってしまう。

このラストは「時をかける少女」から「君の名は。」まで続く、時間SFの王道だが、ここまで書いてくれると満足するしかない。「名のるほどの者ではありません。」には苦笑。

著者は全く知らないラノベ系の人らしいが、野崎の「Know」と同じく話題になり、またもSF界には期待の新人の登場だ。実際、作風や文体も野崎に似ている。まあ、こっちは白野崎、という感じだが。(実はそうは言っても、両作ともにかなりきついストーリーがまっているのだが)次作に期待したい。

 

●7561 紙の城  (フィクション) 本城雅人 (講談社) ☆☆☆★

 

紙の城

紙の城

 

 

「ミッドナイトジャーナル」に続く、新聞社を舞台にした新作。ただし、今回はITの時代における、衰退する新聞業界というビジネスモデルがテーマとなっており、旧態依然たるプロ野球の新しいビジネスモデルを描いた、著者の最高傑作「球界消滅」のテーストも強くあり、期待は膨らむ。

ホリエモンをモデルにしたIT企業の風雲児轟木はTV会社を買収しようとしたが、方針を急遽変えてその子会社の全国紙東洋新聞の株を譲り受け、子会社化しようとする。その裏には、孫正義を思わせるIT業界の巨人、米津がいた。

というストーリーだが、主人公の安芸やヒロイン霧島、そしてダークヒーロー権藤、等々キャラクターは相変らず立っているし、得意の新聞社内部のディティール描写もうまい。

しかし、肝心のビジネスモデル、轟木がなぜ新聞社を買収しようとするのかが、最後までよく解らなかった。米津と権藤の意志は一応わかるが、それもまた弱いし、何より新しいIT時代の新聞の姿が、あいまいというか魅力がない。

ここが「球界消滅」と決定的に違う。「球界消滅」の新しいプロ野球のモデルは、非常に魅力的だった。そして、最後のオチも、こうくるか、という感じで、竜頭蛇尾に感じてしまった。読んでる間は面白いが、残念ながら小説としての出来は、やや物足りない残念な作品。

 

●7562 メイン・ディッシュ (ミステリ) 北森 鴻 (集英文) ☆☆☆☆

 

メイン・ディッシュ (集英社文庫)

メイン・ディッシュ (集英社文庫)

 

 

著者のデビュー作「狂乱廿四孝」は、期待が大きすぎたせいかあまり良い記憶がない。しかし、著者の「花の下にて春死なむ」という連作ミステリには、感心した。(ちょ
うど米国に向かう飛行機の中で読んだ)しかし、蓮丈那智シリーズが読みにくくなり、大作「蜻蛉始末」がイマイチで、すっかりご無沙汰していたら、何と著者が亡くなってしまった。

しかし、ネットの評価で読んでみた本書もまた、「花の下」と同じテーストの丁寧な連作集だった。読み終えて思うのは、北森と西澤の共通点である。(あくまで、ダークじゃない方の西澤)丁寧なロジック展開、キャラ立ち、そして何よりB級グルメ描写の冴え。

ひょっとしたら、北森にとって蓮丈シリーズは、鬼門だったのかもしれない。そうは言っても、本書は人間関係にすこし無理が多くて、傑作とは言いずらいが、このパターンならもっと読んでみたくなった。やや、甘目の採点。

 

 ●7563 あなたのいない記憶 (ミステリ) 辻堂ゆめ (宝島社) ☆☆☆★

 

あなたのいない記憶

あなたのいない記憶

 

 

このミス大賞受賞の作家の第三作。帯では、有栖川有栖大森望も絶賛、虚偽記憶というテーマも、結構好みなので(筒井の「鍵」や高橋の「赫い記憶」は大好物)早速手に取った。

まず、文章のうまさに驚いた。高知弁がちょっとうっとおしいが、流れるようにスムーズな文体は、とても24歳とは思えない。また、これまた予想通り、幼馴染が大学で再会し、タケシという人物のそれぞれの記憶が、全く食い違う、という発端も素晴らしい。

ただ、この謎解きが結構時間がかかり、中盤ややだるくなる。そして、ラスト。正直、こんな面倒なことしないでしょう、の感が強く、努力は分かるが、物足りなさが残る。このネタは中短編でないと、アラが目立つでしょう。タケシはともかく、両親の行動は納得できない。

で、実は本書はミステリと書いたが、殺人があるわけでもなく、ラストを読めば恋愛小説と言うべきかもしれない。そう、これはもっとシンプルに、中編でまとめれば、余韻の残る恋愛小説の傑作になったかもしれない。ただ、この作者は書ける。「完全なる首長竜」を思い起こした。次に期待。

 

●7564 比ぶ者なき (歴史小説) 馳 星周 (中公社) ☆☆☆☆☆

 

比ぶ者なき

比ぶ者なき

 

 

読み始めてすぐ思った。そう、こんな歴史小説を待ってたんだ、と。馳の新作が歴史小説というのは、過去の多くのミステリ作家の例を見ても驚きはなかった。陳舜臣のように歴史小説が本業になった作家もいれば、最近では垣根の「室町無頼」の成功が記憶に新しい。

しかし、馳の場合はやはり北方の影響を感じる。北方の「三国志」がそうであったように、本書において馳は説明的な地の文章を全く使わず、流れるような会話の中で、奈良時代という普通の人にはなじみの薄い時代背景を、見事に描くというはなれわざをなしとげた。

これほど、ストレスの少ない歴史小説はなく、よく考えれば合戦シーンも全くない。本書は、題名からわかるように、日本のグランドデザインを作り上げた天才政治家、藤原不比等とその妻の橘三千代を描いた、日本初と言ってもいい、躍動感あふれる歴史小説だ。

しかも、馳が描いたのは「政」の心理的駆け引きのみ。しかし、その裏には日本の歴史をねつ造し、天皇制=藤原時代を確立するプロジェクト、という不比等の圧倒的なスケールが描かれていて、感嘆するしかない。聖徳太子架空説の使い方も素晴らしい。(巻末の参考資料に大山誠一の著作が並ぶ)

正直、本書の文体から、あのエルロイ大好き馳のハードボイルドをイメージすることは不可能だ。しかし、三千代から持統、元明、元正、という三代の女性天皇の描き方は凄いとしか言い様がない。(大海人皇子鎌足の描写が少し物足りないが。中大兄皇子は、登場しないのに信長並みの存在感がある)

さて、本書の続編があるとするならば、長屋王の変、すなわち長屋王VS藤原四兄弟の戦いとなる。(しかも、天然痘つき)それは是非読みたいし、奈良時代となれば、道鏡まで描くのだろうか?

この時代を描いた作家は、黒岩重吾しか思いつかないが、僕は過去から結構興味があって勉強してきた。そして、やっとこんな素晴らしい小説に出会った。ぜひ、直木賞をとって、奈良時代の第一人者となってほしい。

 

●7565 村上春樹と私 (エッセイ) ジェイ・ルービン (東洋経) ☆☆☆★

 

村上春樹と私

村上春樹と私

 

 

村上春樹の翻訳者にして、傑作「ハルキ・ムラカミと言葉の音楽」の作者、ジェイ・ルービンの、村上春樹との具体的な付き合いを描いたエッセイ。なのに、ここには村上春樹の姿は、なぜかあまり感じ取れない。

冒頭の著者が編纂した芥川の短編集への村上の解説、などは非常に面白かったのだが、それも繰り返し語られるのはイマイチ。翻訳裏話としての、村上とのやりとりも、もっと面白く書けるんではないか、と感じる。

たぶん、著者はファンとして、必要以上に村上をリスペクトしてしまっているのだろう。途中とても面白かった、ニューヨカーに村上の短編が載った時の話や、村上の短編の朗読会の話が、ともに「ハルキ・ムラカミ」からの再録だったのには、ちょっとがっかり。しかし、東洋経済がこんな本を出すんだ?

 

●7566 伝える力 (ビジネス) 池上 彰 (PHP) ☆☆☆

 

伝える力 (PHPビジネス新書)

伝える力 (PHPビジネス新書)

 

 

07年の本で、14年度で何と124刷。ブーム前夜か、始まったばかりの頃か。NHKの週刊こどもニュースのことがよく出てくることからも、そう感じる。

ただ、内容は正直物足りない。個別に書いていることは、間違ってはいないけれど、驚きもない。そして、なにより全体の構成に、論理的な体系化を感じないのだ。

まあ、これは最近の池上の新書にも、良く感じる欠点だが。そのあたりは、やはり本職の斎藤孝あたりに、一日の長がある。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年 10月に読んだ本


 ●7534 黒面の狐 (ミステリ) 三津田信三 (文春社) ☆☆☆★

 

黒面の狐

黒面の狐

 

 

なかなか刀城言耶シリーズの新刊がでない著者だが、本書はかなり分厚くて力が入っている感じで、期待して読みだした。まあ、題名と表紙はイマイチだが。

「幽女の如き怨むもの」においては、今までの作品とは趣が違い、戦前の遊女たちを綿密に描きこんだが、今回もまた戦後すぐの炭鉱と朝鮮人差別について重厚に描く。もちろん、それは悪いことではないのだが、やはり著者に求めるのはパズラー(とホラーの融合)であり、本書の場合はそのバランスが崩れてしまっている。

パズラーとしても、終盤何度もひっくり返すのだが、なぜかあまり熱意がこもってなく、驚きが感じられないのだ。まあ、パズラーとホラーの融合=「火刑法廷」黄金パターンと思っていたら、いつの間にかホラー部分がどこかに行ってしまったのには、拍子抜けしたが。

これはもう、刀城言耶シリーズをリハビリのためにも、早急に書くべきではないだろうか。

 

 ●7535 リボルバー・リリー (ミステリ) 長浦 京 (講談社) ☆☆☆★

 

リボルバー・リリー

リボルバー・リリー

 

 

確か北上が褒めていたので、予約したと思うのだが、全く知らない作家。どうやら難病を患っているらしく、量産はできないとか。戦前の日本を舞台にした壮大な物語で、ヒロイン小曽根百合は、国家が人工的に創り上げた殺人兵器、というかなりぶっとんだ設定で、前半は血なまぐさい事件もあり、一気に引き込まれた。

ただし、読みながら、この小説のジャンルは何なのか、首をひねった。冒険小説、スパイ陰謀小説、そして伝奇小説の趣もある。ヒロインの造型はやや理解しにくいが、そのアクションシーンは良く出来ている。そう、著者には月村了衛と似たテーストを感じるのだ。

ただ、残念なことに物語は後半話が広がり過ぎて、冗漫・冗長になってしまった。惜しい作品。ただ、月村だって「暗黒市場」でピークに達するまで、数冊かかった。体力的に厳しいかもしれないが、次作に期待したい。

 

 ●7536 彼女がエスパーだったころ (SF) 宮内悠介 (講談社)☆☆☆★

 

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ

 

 

衝撃のデビュー作「盤上の夜」を思わせる、ドキュメンタリータッチの短編集で、著者が描くのは、超能力&超常現象。ただし、その内容は「盤上」のシリアスさよりも、ユーモア?不条理感がかなり前面に出ていて、正直どう消化していいのか難しい作品が多かった。

冒頭の「百匹目の火神」こそ、ライアル・ワトソンの「百匹目の猿」の、テリー・ビッスン風変奏曲?(「熊が火を発見する」)として、楽しんだが(これ、ギャグですよね)表題作は微妙に笑えず、「ムイシュキンの脳髄」も、「しあわせの理由」あたりと比べると消化不良。

後半は益々もやもや感がつのり、ラストの「沸点」では、表題作の美しすぎるエスパーが再登場するのだが、やっぱりなんだかなあ、消化不良。

 

●7537 魂の沃野  (歴史小説) 北方健三 (中央公) ☆☆☆

 

魂の沃野 上

魂の沃野 上

 
魂の沃野 下

魂の沃野 下

 

 

まあ、僕はそれほど評価しないのだが、あの水滸伝=北方が、加賀一向一揆を描くとなると、革命の物語としてわくわくした。冒頭で富樫なにがしがでてくると、おお!こいつが富樫か、と思ったのだが、主人公は風谷小十郎という若者らしい。

しかし、読み進めるにつれて、期待は萎んでしまう。とにかく、描かれる事件・合戦が小さく(当然、歴史的には無名)やたら登場人物が多く、感情移入がしずらいのだ。

北方の文体は、もちろんハードボイルドなので、内面描写はほとんどないのだが、水滸伝ですら群像劇にこの文体は相性が悪く、誰が誰か良く解らなくなってしまうのだ。期待が大きかったせいもあるが、残念な出来だった。

 

 ●7538 ささやく真実 (ミステリ) ヘレン・マクロイ (創元文) ☆☆☆☆

 

ささやく真実 (創元推理文庫)

ささやく真実 (創元推理文庫)

 

 

マクロイの未訳の作品が次々上梓されるのは素晴らしいのだが、そのレベルの高さに驚いてしまう。正直、過去に訳された作品より、最近の作品のほうが良い気がしてしまう。まあ、新訳のせいも大きいだろうが。今回も駒月雅子の訳は素晴らしくコンパクトで一気に読んでしまう。

ただし、本書はあの傑作「逃げる幻」と同じく創元が強調する、パズラー、フーダニットに魅力の本質があるわけではない。「幻」よりはましだが、そこに大きな期待をしてしまうと、今回もはずしてしまう。

本書の素晴らしさは、「自白剤」というギミックと、クローディアという悪女の魅力にある。これらが、素晴らしくオフビートな魅力を醸し出す。冒頭からのスピーディーな怒涛の展開は、「二人のウェリング」以上で一気読み。

マクロイの本質は、パズラーを描いても、かならずどこかでオフビートになるところ、なのかもしれない。だからこそ、優等生探偵、ウェリング博士がバランスをとっているのかも。まあ、今回は博士がニーチェを語りだしたりするのだが。マクロイに脱帽。

 

 ●7539 デトロイト美術館の奇跡(フィクション)原田マハ(新潮社)☆☆☆☆

 

デトロイト美術館の奇跡

デトロイト美術館の奇跡

 

 

僕にとっての米国美術館は、MOMA(クリスティーンの世界)とシカゴ美術館(夜ふかしする人々)なので、デトロイト美術館は全く知らなかった。

で、原田が実話を基に書いた、四編の連作小説。①フレッド・ウィル(妻の思い出)2013年 ②ロバート・タナヒル(マダム・セザンヌ)1969年 ③ジェクリー・マクノイド(予期せぬ訪問者)2013年 ④デトロイト美術館(奇跡)2013-15年。の四編が、見事な起承転結を形作っており、完成度は高い。

ただ、惜しむらくは全体に短く、長編と言うより中編の分量しかない。かと言って、この内容を膨らませてもしょうがないと感じる。

そう、本書はあと2編くらいの中短編とともに上梓されれば「ジヴェルニー」を超える傑作になったかもしれない。もちろん、現実のデトロイト美術館作品の上野での公開、というしがらみがあったせいで、こうなったのだろうが。そして、そういう作品としては、本書はベストに近い傑作だと思う。

 

 ●7540 虹を待つ彼女 (ミステリ) 逸木 裕 (角川書) ☆☆☆☆★

 

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

 

 

圧倒的な評価を集めた、第36回横溝正史ミステリ大賞大賞受賞作!!ということで、今回もまた有栖川有栖が絶賛。(彼は、鮎川哲也に恩返ししているのだろうか?)で、今回は僕も全く同感。確かに色々突っ込みどころはあるが、本書は新人賞の作品としては、近来稀にみる完成度だと思う。

まず、文章が素晴らしい。舞台は近未来で、AIがテーマなのに、説明文をほとんど使わず、工藤、晴、紀子、といった主役だけでなく、西野や田島といった、オタク・ニート系の脇役も、リアルかつ魅力的に描かれていて感心した。本筋とは違うのだが、将棋の目黒五段もいい味だしています。

そして、ストーリー。いきなり、ドローンとVR、という最先端グッズを出しながら、最後は懐かしい純愛?小説となる。このあたりの喪失感は、エヴァやあの傑作「愛の徴」を思わせる。

で、本書は賞の性質からミステリとしたが、近未来SFであり、AI、ゲーム、をテーマとしながら、恋愛小説であり、成長小説である。(しかも、途中にはミステリ的な驚きも、何度も仕掛けられている)

正直、紀子の行動に、やや納得できない部分があるのだが、いやこれだけ書いてもらえば十分だ。恐るべき新人が現れた。次作に期待

 

●7541 夢見る葦笛 (SF) 上田早夕里 (光文社) ☆☆☆☆★

 

夢みる葦笛

夢みる葦笛

 

 

驚いた。「華竜の宮」「深紅の碑文」の二巨編によって、小松左京の後継者として
トップランナーとなった著者は、その裏側で恐るべきレベルの短編集を紡いでいたのだ。ここ何年か、こんなレベルの高い短編集を読んだことはなかった。

何というバラエティーに富んだ多様な物語たち。何という濃密な作品たち。それぞれが、長編小説のクライマックスと呼んでも良い、そのくらいの密度だ。しかし、その一方で、ここには明確な統一テーマ=ポスト・ヒューマン、人間を超えるもの、があり物語も女性視点から、最後は性別を超え、AIまで行ってしまう。

冒頭の表題作から、一気に引き込まれる。街中、いや世界中に静かに跋扈する異形のイソアの強烈なイメージ。そう、本書のすべての作品が、恐るべきイメージ喚起力を持っているのだ。

次の「眼神」の憑き物の描写も、論理ではなくイメージ=絵である。凄いとしか言いようがない。「完全なる脳髄」の情け容赦ない描写と抒情の奇跡の融合。閑話休題というべき、ショートショートの「石繭」ですら、圧倒的なイメージ喚起力があり、ちょっと忘れられない。

そして、珍しく大森と意見が合った、ポスト・ヒューマン三部作とでも言うべき「氷波」「滑車の地」「プロテス」。遥かなる異星、異世界を描きながら、見事にAIと人類の交流とその先を描いている。特に「滑車の地」は、救いのない圧倒的な悲劇でありながら、なぜか爽快感すら覚える。

まさに、きれいはきたないであり、そのグロテスクな描写が、美にすら昇華されているのには、感嘆するしかない。そして、最後の「楽園」「上海フランス租界320号」「アステロイド・ツリーの彼方へ」は、リアルな物語となり、ここでも圧倒的な絵、それはひよこであったり、灯篭であったり、猫であったりするのだが、凄い、素晴らしい、としか言いようがない。上田早夕里、恐るべき充実度である。

実は本書を興奮しながら読んでいたのだが、時間切れになり、最後の2編を残したまま、ルヴァンカップ決勝戦が始まってしまった。そして、その後の濃密な1日を過ごした後、残りを読み切ったので、正直当初の興奮が少し醒めてしまった。もし、そのまま最後まで読み切ったなら、採点は満点になったような気がする。

 

 ●7542 蜃気楼の犬 (ミステリ) 呉 勝浩 (講談社) ☆☆☆★

 

蜃気楼の犬

蜃気楼の犬

 

 

「道徳の時間」に、予想外の可能性を感じて、本書(連作長編)を読みだした。正直言って、もっとけれんがあるのかと思っていたら、案外普通の警察小説でやや拍子抜け。主人公に二回りも年下の妻があいる、というのが唯一のけれんだが、何だかなあ、という感じ。

しかも、最初の数編はミステリとしての説明がイマイチで、やや解りにくい。で、連作ミステリお約束のラストだが、いやあこの手で来たか。まあ、それほど意外ではないのだが、この手の作品は思い浮かばない。

でも、やっぱり処理が雑。もう少しうまくやれば、もっと効果が出たと思う。そういえば、「道徳の時間」も同じだ。で、結局主人公の妻の謎はどうなった?これは続編があるのだろうか。まあ、別に読みたいとは思わないが。

 

●7543 池上彰の「ニュース、そこからですか!?」(社会経済)(文春新)☆☆☆★

 

人質の経済学 (文春e-book)

人質の経済学 (文春e-book)

 

 

題名からわかるように、池上の週刊文春の連載をまとめたもの。2012年の本とちょっと古いのだが、冒頭のテーマがEU危機で、そもそもなぜEUが生まれたのか?戦争抑止のため、EUの弱点=金融政策と財政政策の分離、というのは、さすが池上、解っている!という感じだったので、読みだした。

が、やっぱり文春の連載が内容の突っ込みがたらず、面白くないように、本書も物足りない。また、こういう時事ニュースは、たった3-4年で腐ってしまう。今回も、アラブの春にISが登場しないのだから、ピントはずれの感が強い。

もちろん池上のせいではなく、こういう本の宿命。まさか、この時点で英国がEUを離脱することは、誰も予想しなかったでしょう。

 

●7544 現代SF観光局 (エッセイ) 大森 望 (河出新) ☆☆☆☆★

 

現代SF観光局

現代SF観光局

 

 

 

SFマガジンに(不定期?)連載していた大森のエッセイが、河出からまとまった。ひさびさだな、と思っていたら、冒頭が伊藤計画と宇山さんの死の記事から。ああ、時は無慈悲な夜の女王か!

僕=マニアには、時代を一緒に駆け抜けた(寝た?)評論家がいる。80年代、それは北上次郎だった。(それ以前は、同時体験ではないが、江戸川乱歩幻影城だった)そして、90年代は個人ではなく「このミス」だった気がする。

そして、21世紀はずっと大森だ。間違いない。大森の薦める本の半分以上は、実は理解できない。それでも彼の書いたエッセイは、同時代体験を越えて、リアルに心と頭に染み込んでくるのだ。特に前半は、素晴らしい時を過ごすことができた。

ただ、後半は本人がアンソロジー・マシンになってしまったこともあり、内外のアンソロジーの話が多くなり(僕はメリルより、ウォルハイム&カーの方が好き)ここちょっと書誌学的になってしまい、読むのがしんどかった。

そして、小松左京の死。浅倉久志柴野拓美平井和正殊能将之、ああ、時は流れぬ。筒井と小林が亡くなったとき、僕はどれだけの激震に襲われるのだろうか。

 

 ●7545 旅のラゴス (SF) 筒井康隆 (新潮文) ☆☆☆★

 

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

 

 

そして、80年代を一緒に駆け抜けた(寝た)作家の筆頭は、間違いなく筒井である。本書が、なぜか文庫でブームになっているとは聞いていた。そのせいか、図書館でも本書だけは、凄い数の予約が入っていたのだが、簡単にブックオフで100円でGETして、読みだした。そもそも、こんな薄い本だっけ。

読みだして、かなり違和感。初読時には、もっと重厚に感じたのだが、個々のエピソードはまるで髪を梳いたように、スカスカな感じ。その行間に深みを感じる人もいるだろうが、僕はちょっと物足りない。

記憶では後半急にヒートアップした気がしたのだが、それはラゴス図書館にこもって、勉強に集中するあたりであり、これまた初読時の驚きはない。というわけで、記憶の中では大傑作だったはずなのに、こうやって読み返すと、正直物足りない。

特に主人公が最後までモテマクリ、というのはわざとだと思うが、やっぱり鼻白んでしまう。ネットでもブームとはいえ、毀誉褒貶相半ば。まあそうだろうなあ、と思う。

 

 ●7546 遠い唇 (ミステリ) 北村 薫 (角川書) ☆☆☆

 

遠い唇

遠い唇

 

 

一方で、凄い影響を受けている気がしていても、実は!というのが北村薫。(本人と会ったことがあるのに)結局、初対面の「空飛ぶ馬」のインパクトが強すぎるのだが、読んだ小説18冊のうち、間違いなく傑作と言えるのは、「空飛ぶ馬」「盤上の敵」「ニッポン硬貨の謎 」の三冊のみで、どれもクイーン流の本格パズラーとは言いにくい。

で、本書も読んでいて哀しくなった。「太宰治の辞書」もそうだったが、これはもうミステリ、小説ではなく、エッセイ、クイズの類である。こんなものを時間をかけて、読みたくはない。まあ、重厚な短編の間に、「続・二銭銅貨」のような小品が挟まれていたら、キラリと光るだろうが。

 

●7547 明智小五郎事件簿Ⅰ (ミステリ) 江戸川乱歩 (集英文) ☆☆☆☆

 

 

僕は乱歩に関しては、戦後の評論と初期の幻想というか奇妙な味の短編(「押し絵と旅する男」「赤い部屋」等々)を偏愛するが、他にはあまり興味がなく、正直良い読者とは言えない。

というわけで、初期の短篇集は何度も読んでるはずなのに、明智小五郎のイメージはイマイチはっきりせず(初期は金田一のイメージだが、いつ少年探偵団を引き連れたダンディー?なイメージに変わったのか、定かでない、というよりたぶん後者をほとんど読んでいない)

というわけで、復習を兼ねて本書を読みだしたのだが、冒頭の「D坂の殺人事件」からして、格子戸のトリックがメインと勘違いしていたのだから、しょうがない。

本書の五篇を読み終えて思うのは日本ミステリの生みの親である乱歩が、最初からすでにジャンルに行き詰まりを感じ、全体にマニアっぽい展開が見受けられること。これでは、早晩行き詰るのもしょうがない。乱歩は最初から、日本一のジャンルの目利きだったのだ。

さらに、著作権なんてものがなかったこの時代、作品に露骨?な本歌取りが見られて、微笑ましい。「幽霊」は、チェスタトンの「見えない人」の乱歩バージョン。「黒手組」はポーやドイルの暗号小説の、これまたトリッキーな変奏曲。で、「心理試験」の冒頭は、「罪と罰」そのもの。

というわけで、で、面白かったのか?と言われるとさすがに時代の経過で腐ってしまった作品もあるが、「心理試験」はやはり非常に良く出来た古典的傑作と感じた。また、「D坂」(の動機)と「屋根裏の散歩者」は、好き嫌いは分かれても、やはり乱歩オリジナルでこんな小説書く人はいないと感じる。

そして、最後に本書は生前の乱歩が最後に文章に手を入れた版を使ってるとのことだが、いくつかの作品の文章に、ちょうどそのころ乱歩に見いだされ、活躍し始めた筒井康隆の文章と重なったのだが、うがちすぎだろうか。